平和問題ゼミナール(98.3.13

「旧ユーゴ紛争と国連」

                              報告者 千知岩 正継

T. PKOの誕生とその発展

  (1)東西冷戦下の米ソ冷戦が本格化

・安保理の機能不全

195011月に総会で「平和のための結集決議」が可決される

195610月のスエズ動乱に関して、同年11月に「平和のための結集決議」に基づき、

 緊急特別総会が開かれる

→国連緊急軍(UNEF)の派遣

  (2)PKOの性格と基本原則

 ・UNEF終了後の当時のハマーショルド事務総長の報告と,以後の経験から、PKOの基本原則は、

・停戦合意の存在

・紛争当事者のPKO受け入れ同意

・指揮権の国際的性格

・大国排除の原則

・自衛の場合のみの武器使用

→これらの基本原則は、PKOの「中立・非強制的」性格を維持するうえで重要となる

PKOの根拠

国連憲章には明文の規定がない

PKOは「憲章第6章半」の活動と解するのが一般的

  (3)PKOの世代交代

  ・冷戦期

  ・第一世代のPKO(伝統的PKO

 紛争の再発防止・拡大防止のための停戦監視・兵力引き離しなどの任務が基本原則に沿うかたちで遂行される。紛争の政治的解決に積極的に関与することは無く、紛争の一時的な敵対行為の停止(停戦)の監視という限定的な活動を行う

・ポスト冷戦期

・第二世代のPKO

 第一世代のPKOの任務に加えて、人権状況の監視、選挙監視、さらには国造りと呼ぶにふさわしい、行政監視、選挙管理、人権監視、復興援助を含む包括的なPKO。このPKOでは、基本原則に沿ったかたちで任務が遂行され、紛争の政治的解決が積極的に志向されている

例:国連ナミビア独立支援グループ(UNTAG

国連カンボジア暫定機構(UNTAC

・第三世代のPKO(拡大PKO

武装解除の実施、安全な環境の確保等のために、自衛のための武器使用の範囲を越えて、

   国連憲章第7章の下で武力行使をなす権限を安保理から付与されたPKO

例:第二次国連ソマリア活動(UNOSOM「)

国連保護軍(UNPROFOR)の活動の一部

 

「.国連による旧ユーゴ紛争解決の試み

 1.国連保護軍(UNPROFOR)の活動 

 (1)クロアチア

a.92221日、UNPROFORを設立安保理決議743(以下SCRと略す)

  任務:クロアチアからの連邦軍撤退の監視;国連保護区(UNPAs)の非軍事化の監視

;国連保護区(UNPAs)の警察の監視

b.UNPROFORの任務にピンクゾーンの監視を追加(SCR76292.6.30

c.UNPROFORの任期延長(SCR80793.2.19

   →憲章第7章に言及しているが、要員の安全および移動の自由を確保することを目的 としている

d.SCR87193.10.4)により、UNPROFORの任期延長と、任務の遂行にあたり、安全と行動の自由の確保を目的として武力行使を含む必要な措置を自衛上とることが認め

られる

e.SCR908(94.3.31)により、UNPROFORを支援するための空軍力行使を容認

f.SCR98195.3.31)に基づき、国連クロアチア信頼回復活動(UNCRO)が設立され

(2)ボスニア

a.サラエヴォ空港の安全確保の目的で、同空港およびその周辺地域にUNPROFOR

展開(SCR75892.6.8)

任務:空港の安全確保、空港活動の監視、人道援助物資および要員の空港から市内へ

の通行の安全確保

b.SCR77692.9.14)によるUNPROFORの任務拡大

追加された任務:ボスニアにおける国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の人道援

助を支援し、特に要請されれば輸送を警護する

UNHCRの承認の下で他の人道援助機関にも保護を与える ;国連の施設を保護する

c.SCR81993.4.16)により、スレブレニッツアとその周辺を安全地帯に指定(safe area

d.SCR82493.5.6)により、サラエヴォ、ツヅラ、ジェパ、ゴラジュデおよびビハチ

も安全地帯に指定

  e.SCR836(93.6.4)による、UNPROFORの任務の拡大強化

    追加された任務:安全地帯に対する攻撃の抑止

         ;安全地帯の停戦の監視

            ;セルビア人勢力の安全地帯からの撤退の促進

            ;重要拠点の確保

            ;安全地帯の住民への人道援助活動

   →安全地帯に対する砲撃、武力侵入、行動の自由に対する妨害に対しては、UNPROFOR

    が自衛のための行動として武力の行使を含む必要な措置をとることが認められる

 →加盟国が安全地帯およびその周辺で空軍力の行使を含む必要なあらゆる措置をとるこ

    とを認める

   f.SCR99895.6.16)に基づき、UNPROFORの一部として緊急対応部隊を追加

   g.SCR103595.12.15)により、UNPROFOR終了

 

(3)マケドニア

 a.マケドニア大統領の要請に応じて800人程度の要員を派遣(SCR79592. 12.11

    →マケドニアにおけるUNPROFORの設立

     →武力紛争が起こる前のPKOによる予防展開

       任務:マケドニアの安定を害し領土保全に脅威となるような国境周辺の事態を監

         視

   ;マケドニア西部アルバニア国境沿いと、北部新ユーゴ連邦コソヴォ自治州

          との国境沿いに展開される 

   b.国連予防展開隊(UNPREDEP)に名称変更(SCR98395.3.31

 

  ※安全地帯の問題点

・なし崩し的な武力行使容認

   ・実効性の問題

   ・そもそも戦闘を目的として設立された訳ではない軽武装のUNPROFOR要員に、装備

の強化なしに、その能力をはるかに越える任務を付与することの問題

  ・中途半端な要員の増援

    UNPROFOR司令官モリヨンの見積もり;75,000

  ガリ事務総長の安保理への要求 34,000

    安保理による承認 7,600

    ・抑止力の限界としての空軍力

    →近接航空支援と空爆に対する報復として、地上のUNPROFOR要員が攻撃にさらさ

れる

    UNPROFOR要員を人質として差し出すのに等しい

    ・ムスリム人勢力による安全地帯の軍事的利用

    →安全地帯を軍事活動の拠点として利用:攻撃の準備を行い安全地帯から出撃

    ・安全地帯の境界線の不明確さ

   

※緊急対応部隊の問題

  ・派遣・展開の承認が事後的に行われた

  ・安保理の決議上では、「現行の平和維持活動の一環となり、UNPROFORの立場とその

中立性は維持されるであろう」と記述されている。だが、他方で、その任務や指揮系統

などの事項については詳細に規定されていなかった。そして実際には、PKOの象徴とも

言えるブルーヘルメットは着用せず、重火器を装備し、NATOによるセルビア人勢力へ

の懲罰的な空爆の際には地上からの空爆支援攻撃などを行っていた。明らかにそうした

軍事行動は、UNPROFORの活動の一環としては捉えることのできないものであり、一

部の加盟国集団(イギリス、フランス、オランダ)によるなし崩し的な平和強制活動と

いえるものであった

  

 ※人道的危機と平和維持活動

  ・憲章第7章に基づく武力行使の問題

   戦闘が継続している中で人道援助機関を支援するためには、国連要員の移動の自由、安

全の確保が必要となり、そのための安全な環境を整えるために武力行使が認められた

→平和維持から平和強制へのなし崩し的な拡大

  ・自衛原則の放棄

  →専らセルビア人勢力に対抗するために容認された武力行使

  ・中立的性格からの逸脱

  ・紛争当事者による明確な同意の不在

   人道的危機に迅速に対処するためには、紛争当事者の同意を取り付けている猶予はない

   特に、内戦の場合には紛争当事者が複数となることが多いために、当事者の認定が困難

となる

  →平和維持活動と人道的介入の結合

 ⇒同意原則の緩和ないし無視

  →紛争当事者の紛争解決の意志がはっきりしない

 

 2.国連によるその他の活動

(1)武器禁輸措置と経済制裁

・安保理決議71391.9.25)に基づき、ユーゴ全域への武器禁輸措置を発動

・逆に武器禁輸措置の解除が一部の国から強く主張された

    ・実際には、4年間で20億円から40億円に相当する大量の武器が密輸されていた  

  ・新ユーゴへの経済制裁発動(SCR75792.5.30

・新ユーゴに対してのみ発動された不公平な措置

・「制裁委員会」の許可制の問題

 3.旧ユーゴ国際刑事裁判所の設立

(1)設立方法

・安保理決議82793.5.25)を根拠として「急いで」設立された

 

   旧ユーゴの状況を「国際の平和及び安全に対する脅威」を構成していると決定し、国連憲

章第7章のもとに行動するものとして、旧ユーゴの領域内で行われた国際人道法に対す

る重大な違反について責任を有する者を訴追するのを目的として設立された

・「急いで」設立された理由

 ・特にボスニアにおいて民族紛争が継続し、重大な人道違反行為が行われていること

   ・「事後法」の批判を受けないため

   ・「勝者の裁き」の非難を受けないようにするため

  ・旧ユーゴ領域内の責任者のみの追訴を目的とし(領域限定)、平和回復後安保理の決定

する日付までという時間的限定もつけられたアド・ホックなもの

 (2)裁判序の構成

   ・二つの第一審判裁判部と一つの上訴裁判部

11人の裁判官

・検察官

(3)事項的管轄権

1949年ジュネーヴ諸条約の重大な違反行為

・戦争の法規慣例違反

   ・ジェノサイド

・人道に対する罪(拘禁、拷問、レイプなど)

※「平和に対する罪」が上げられていない

(4)人的管轄権

   ・自然人についてのみ管轄権をもつ 

団体の犯罪追求は論外

  ・公務員の地位の上下は問われず、国の最高責任者でもその犯罪行為のために訴追され得

るし、責任を免れ得ない

・上官の指揮・命令責任は免除されない

・部下による上官命令の抗弁は認められない

  (5)抑止的効果と処罰的効果

・戦争犯罪がさらに犯されるのを抑止する効果

・既に犯された戦争犯罪の責任者を放置せず処罰するという効果

  (6)問題点

・戦争犯罪人を追訴し処罰する公平な司法機関を個々の紛争とは切り離して常設すべき

・公平さに欠けている

 

」.国連と地域的国際機構の協調と対立

  (1)NATO(北大西洋条約機構)とWEU(西欧同盟)の協力

   ・国連によるユーゴへの武器禁輸および新ユーゴに対する経済制裁に協力するため、アド

   リア海で監視活動を始める(92.7

  (2)NATOによる近接航空支援(close air support,クロス・エア・サポート)

 

・国連の要請によりゴラジュュデで初めて行われる(94..10,11

   ・NATOによる空爆(air strike

  →サラエヴォ空爆(94.9.22

   ・空爆を巡る対立

    →政治的解決を重視する国連と軍事的解決を優先するNATOとの対立

→空爆手続き、いわゆる「二重のカギ」方式の簡素化

(3)国連からNATOへのバトンタッチ

・平和実施軍(IFOR)の展開

NATOにとって初の地上作戦であり、初の域外派遣でもあり、さらにPFP(平和の

ためのパートナーシップ)参加国およびその他の諸国との初めての共同作戦となる

    ・デイトン和平協定の軍事部門を担当

・停戦確保、分離境界線からの軍隊の撤退の確保、兵力引き離し、武装解除、動員解除

等を任務とする

     →ジョイント・エンデヴァー作戦

   ・和平安定化軍(SFOR)の展開(96.12.20

    ジョイント・ガード作戦

   ・デイトン和平協定の文民(民生)部門を担当する国連の活動

    ・UNMIBH(国連ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・ミッション)

警察の訓練、難民・避難民の帰還支援

 

、.【感想・疑問】

 ・国連と地域的国際機構との今後の協力関係と役割分担

  地域的国際機構は、あくまで国連の紛争処理・平和維持能力を補強するにとどまるのか、そ

れとも地域的国際機構は国連に取って代わってしまうのか

 ・伝統的平和維持活動だけで今後の危機に対処し得るのか

  複雑な人道的危機にいかに対処していくか

 ・安全保障、平和にかんする加盟国間のコンセサスは確立され得るか

グローバル・セキュリティーへの視点

  →「人間の安全保障」や、「地球の安全保障」

・グローバル・ガバナンスの要求

国連は世界機構としての能力を発揮出来るか

・加盟国の政治的意思

加盟国の側に国連に貢献する準備が出来ているか

 

 

 

・加盟国の政治的意思

加盟国の側に国連に貢献する準備が出来ているか