内科リウマチ科 福間クリニック

全身性エリテマトーデス(SLE)

  1. 全身性エリテマトーデスとは
  2. 全身性エリテマトーデスの原因
  3. 全身性エリテマトーデスと疫学
  4. 全身性エリテマトーデスの症状
  5. 全身性エリテマトーデスの診断
  6. 全身性エリテマトーデスの治療
  7. 全身性エリテマトーデスの日常生活
  8. 全身性エリテマトーデスの妊娠と分娩

全身性エリテマトーデスとは

身性エリテマトーデス(SLE)は、膠原病の代表的な病気のひとつです。
1845年ヘブラによって蝶形紅斑(両頬に発赤)が報告されて以来、約100年間の間に全身性エリテマトーデスの概念が出来上がってきました。
特徴的な皮疹、腎障害(蛋白尿等)、漿膜炎(胸や心臓の周りに水が貯まる)、神経症状(けいれん等)などの一連の共通した症状を呈する全身病と理解されています。
血液検査で、抗核抗体(細胞の核に反応する免疫グロブリン)や抗DNA抗体(遺伝子のDNAに反応する免疫グロブリン)などが出現し、自己免疫疾患(異物に対する身体の防御機構が異常を起こして自分の身体を壊すようになった状態)のひとつと考えられています。
全身性エリテマトーデスは昔に比べ検査法や治療法が格段に改善されたことから、致死的な病ではなく、コントロールのできる慢性の病気と理解されています。
治療により、健康な人と変わらない日常生活を送っている方が大勢います。
病気についての正しい知識を持ち、治療や日常生活を注意をよく理解して、積極的な医療を受け、日常生活を送るようにしてください。

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全身性エリテマトーデスの原因

原因はまだよく解っていません。
遺伝的な素質に、何からの誘因(ウィルス感染、ストレス、妊娠)が加わり、免疫調節異常が起こって発症するといわれています(表)
遺伝はありますが、それほど強いものではありません。
ちなみに、一卵性双生児(遺伝的に全く同一)で、片方がSLEである場合、他方もSLEに罹る確立は50−60%といわれています。
しかし、二卵性双生児(遺伝的に一部共通)の場合、この確立は10%以下になります。遺伝因子だけではなく、環境因子も発病に重要であることを示していると思います。親が全身性エリテマトーデスに罹患した場合、子供さんも病気になる確立は恐らく10%以下と思われます。

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全身性エリテマトーデスの疫学

人口10万人あたり約50人の患者さんがいると言われています。
浜松市の人口が約56万人ですので、浜松市には280人の患者さんがいると計算されます。
女性が多く、9割は女性ですが、若年又は高齢での発症の患者さんの場合、性差は少ないと言われています。
発症は妊娠可能な年齢層の人に多く、女性ホルモンの影響が示唆されています。

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全身性エリテマトーデスの症状

全身性エリテマトーデスの症状は多彩で、複数の臓器が障害される全身の病気です。
よく見られる症状はにしました。注意が必要なのは1人の患者さんに必ずしもこれらの症状のすべてが現れるわけではないということです。を見てわかるように、神経症状は20%以下の人しか発症しません。
この様に、全身性エリテマトーデスに罹っても、人によって全ての症状を起こすわけではなく、またその程度も様々であることから、それぞれの患者さんの症状に応じた治療、日常生活の注意が必要です。
例えば、45%の患者さんは日光過敏症を伴い、日光(紫外線)により皮疹がでたり、病気が悪くなることがあります。
このため日常、直射日光に当たらない注意が必要です。しかし、日光過敏症のない人は直接日光を極端に避ける必要はありません(図)

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全身性エリテマトーデスの診断

全身性エリテマトーデスの診断に用いられる検査はに示してあります。
抗DNA抗体や抗Sm抗体は全身性エリテマトーデスに特異的な検査所見で、診断に有用です。
しかし、これだけでは、全身性エリテマトーデスの診断はできません。
に示した診断基準項目のうち4項目以上が陽性の時、全身性エリテマトーデスであろうと判断されます。
病気の活動性を判断するためには補体価が重視されます。
全身性エリテマトーデス免疫複合病といわれ、病気の活動性が高いと血液中に免疫複合体(抗体と抗原の結合したもの)という物質ができます。
この免疫複合体が腎臓や血管などに沈着して炎症反応や組織障害を起こすとされています。
免疫複合体が血中にあると、やはり血液中にあり免疫複合体の材料である補体が消費されるため補体価が下がり、病気の活動性を知る指標となります。

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全身性エリテマトーデスの治療

全身性エリテマトーデスの治療はに示したように、薬物治療、血漿交換療法、日常生活指導などからなりますが、主体は薬物療法です(表)
特に、副腎皮質ホルモン剤がその中心であり、1940年代より全身性エリテマトーデスの予後は著しく改善されました。
副腎皮質ホルモン剤(プレドニン)の副作用がしばしば問題となりますが、病気をコントロールする上で、現在ある治療法の中で最も有用であることも知っておいてください。
副腎皮質ホルモンの副作用を最小限にするには、中途半端な量をいつまでもだらだらと続けるのではなく、始めに十分な量を使って病気を鎮静化し、その後、速やかに減量して必要最小限の量を維持量とすることが大切です。
副腎皮質ホルモン剤で十分な効果がでないとき、大量の副腎皮質ホルモン剤を用いるステロイドパルス療法、免疫抑制剤、血漿交換療法などが行われます。
特に、最近のNIHの調査から、”ステロイドが効きにくい難治性のループス腎炎”に対してはエンドキサンパルス療法が行われ、腎不全に進行するのを阻止する力が最も高いとされています。

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全身性エリテマトーデスの日常

に東京都衛生局が作成したSLEの生活指導指標を少し変更して示してあります。
その時どきの病気の活動性(寛解期、軽症、中等症、重症)に応じて生活パターンを変える必要があります。
日常生活の注意は2つあります。ひとつは、全身性エリテマトーデスの誘因を避けること、もうひとつは副腎皮質ホルモンの副作用を最小限にする努力です。
に示したように、病気の誘因には、紫外線、妊娠・分娩、寒冷、手術などのストレスがあります。
日常生活において、これらに対する特別な配慮が必要です。
副腎皮質ホルモン剤の副作用には、糖尿病、肥満、感染しやすくなる、胃潰瘍、骨がもろくなる(骨粗鬆症)等があります。
肥り過ぎに注意し、刺激物・消化の悪いものは避け、カルシウムの多い食べ物(牛乳、小魚等)を摂るとよいと考えられます。
また、胃潰瘍や骨粗鬆症の予防に抗潰瘍薬やビタミンDを飲んでおくのも良いかと思います。
これら副腎皮質ホルモン剤の副作用のうち、骨粗しょう症以外の副作用は薬の減量によって治っていきます。

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全身性エリテマトーデスの妊娠と分娩

全身性エリテマトーデスは妊娠可能な女性に多いことから、しばしば妊娠と分娩の可否が問題となってきます。
原則として、全身性エリテマトーデスの妊娠は禁忌ではありません。
しかし、いくつかの点に注意しなくてはいけません。全身性エリテマトーデスでは、妊娠しにくいことが多く、また、副腎皮質ホルモン剤自体によって生理が乱れる事もあります。
また、妊娠中、流産や死産する確立も健康人よりやや高くなっています(図)
そして、分娩後6ヶ月以内に病気が急に悪くなることもあります。
そのため、次の点を守るようにしてください。
第1に、妊娠前1年間は病気が落ち着いていること、第2に、著しい臓器障害(腎不全や心不全)がないこと、第3に、分娩後もしばらくはきちんと受診して、病気の増悪がないかを観察することです。
分娩後の急性増悪の危険性は人工流産の場合も同じです。
原則として、重い臓器障害の等で母体に危険がある時など妊娠継続が困難である場合以外は、人工中絶の必要はありません。
また、副腎皮質ホルモンのなかでも、プレドニンやメドロールならば胎児への影響はほとんどないとされています。しかし、デカドロンやリンデロンは胎盤を通過するため、胎児に影響する可能性があります。
勝手に薬を減量、休薬することは止めてください(表)

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更新日 :2002/10/1