エスニック

すまき

 先週の土曜日に、小児専門歯科でゆうたの歯にフッ素塗布をしてもらってきた。

 小児専門歯科というものがあることを初めて知ったが、そうした専門医が成り立つのは都会の良い点ではないかと思う。
 もともと田舎回帰志向の強い私だが、患者になり得る人間そのものが少ない田舎では確かにそうした点では不利だということは認めざるを得ない。

 のっけから話が逸れたが、フッ素塗布については賛否両論様々だが、リスクとその確率などを考慮するとやる価値は高いとの判断から、我が家では諸々の予防接種も含め率先して予防対策を施していこうという方針である。

 その日もイソイソと家族3人して出かけたのだが、うちから徒歩数分の雑居ビルの片隅にあるその医院は初老の女医さんが開業しており、子どもの歯の生育状況やフッ素塗布の有効性と処置方法、さらにはブラッシングの仕方まで、実に細かなことまで丁寧に説明して下さった。

 昨今叫ばれている「インフォームドコンセプト」の最たるモデルとなりそうな丁寧さである。

 本来なら初日は説明だけのようだが、せっかく時間を取ってきたのだからとお願いすると、いきなりゆうたは大きなバスタオルです巻きにされ、その上からネットで診療台に括り付けられてしまった。
 ブラッシングや塗布で合計10分くらいは動かれてはならないので、やむを得ずこうした方法を採らざるを得ないようだが、なんとも気の毒なゆうたである。

 顔を真っ赤にして泣き叫び必至でもがいてはみるものの、首から下はピクリとも動かない。傍らでその様子を見ながら、私はもしゆうたが話せたら一体どんなことを訴えるかな、などと考えていた。

 私が子どもの頃、病気かなにかでおしりに注射を打たれることになり、必死で抵抗しながら傍らにいる母親に「お母さん助けて!殺されるー!」と絶叫していたのを憶えている。
 もちろん助けてくれるわけはない。
 おしりに針が刺さった時「あぁっ・・」と声が漏れたがどうかは忘れたが、涙で滲む目には「そんな大げさな・・」と暢気に笑う母の顔がひどく冷たく映り、しばらくは恨みに思っていたものである。

 泣き叫ぶゆうたを見ていた時の私も恐らく母と似たような気持ちだっただろう。昔の自分を思い出し、うすら笑いすら浮かべていた私の顔を、ゆうたが覚えていないことをただただ祈るばかりである。


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