★ 市民の「参加と合意」の手法 − コンセンサス会議  今回から、市民参加の手法について述べます。この分野も最近は少しづつ注 目され、参考文献なども出てきています。それを見るとたくさんの手法があり ます。しかし、そのすべてを知る必要はまったくありません。コンサルタント の数だけ手法があるとのジョークもあるくらいです。円卓会議を基本にして、 そこで解決できないものを解決するためにどういう手法を使うか? という視点があればいいのです。  さて、円卓会議での解決が難しい場合、どういう解決の方法が考えられるで しょうか? 大きく2つの方向があるでしょう。解決できないのは利害関係者 がその利害を調整できないからです。その解決のため、利害関係者をはずして 公平な議論をするという方向と、利害関係をあえて浮き彫りにしてその解決を 図ることが考えられます。前者の代表選手が今日ご紹介する「コンセンサス会 議」で、後者の代表選手が次回紹介するフューチャーサーチです。  コンセンサス会議とは、一般市民十数名(市民パネル)が、社会的な合意が 必要なことがらについて、さまざまな専門家の説明などを聞いた上で、市民だ けで討論を行なって合意(コンセンサス)を得るよう努力し、日常生活という 文脈から意見や提案をまとめる会議方式です。このコンセンサス会議は、19 80年代後半にデンマークでテクノロジー・アセスメントの一環として生み出 されました。 90年代に入ると、オランダ、イギリス、ニュージーランドなどでも行われる ようになり、日本でも、二回の実験的開催を経て2000年に農水省が初めて パブリックセクターとして開催したのです。ちなみに、デンマークでは以下の ようなテーマが取り上げられました。  ・1987:産業と農業での遺伝子操作技術  ・1989:放射線食品照射  ・1989:ヒトゲノム計画  ・1990:大気汚染  ・1991:教育技術  ・1992:動物の遺伝子操作  ・1993:民生用交通の未来、不妊  ・1994:電子身分証明書、交通における情報技術、農業での統合生産  ・1995:環境と食料への化学汚染、遺伝子治療  ・1996:農業の将来、消費と環境  ・1997:テレワーク  ・1999:遺伝子組換食品  議論するのは「市民パネル」と呼ばれる方々で、その課題に「関心のある」 市民の中から、年齢・性別・教育レベル・職業・地域がうまく配分されるよう に選定されます。なるべく多様な「市民の」視点が欲しいからです。課題に関 して特別の関心を持つ専門家や利害関係者は除外されます。    市民は、初日に、課題について専門家からのプレゼンテーションを受け、議 論に必要な基礎的知識を得ます。2日目には 課題をより深く理解するために 「鍵となる質問」を作ります。その質問にどのような専門家たちに答えて欲し いかもあわせて決めます。  3日目は10〜15人の専門家がそれぞれ2、30分で市民パネルの出した 質問に答え、多彩な見方・知識を提示します。最後の4日目には市民パネルだ けで議論し、コンセンサスを作ります。  コンセンサスができたら、公開でシンポジウムを開催します。それだけでな くコンセンサスは専門家の説明文書などとあわせて出版され、議員、官庁、企 業役員等に送付され、政策決定の参考としていただきます。つまり、この手法 は意思決定そのものをするのではなく、よき意思決定のために市民によるコン センサスを意思決定者に提示するものなのです。  鏑木はこの手法をはじめとする市民参加の手法を日本に定着させることに取 り組んでいます。同志の集まりに、「科学技術への市民参加を考える会」があ ります、ホームページは以下にあります。来訪歓迎です。 http://www.i.dendai.ac.jp/~wakamats/top_frame.html  この手法は、分り難いかもしれません。解説+実践マニュアルも用意してあ りますので、ご興味のある方は鏑木(kabu@ops.dti.ne.jp)まで連絡ください。  最後にもう一度ポイントだけ述べると、 ・一般市民十数名(市民パネル)が、 ・社会的な合意が必要なことがらについて、 ・さまざまな専門家の説明などを聞いた上で、 ・市民だけで討論を行なって合意を得るよう努力し、意見や提案をまとめるの がコンセンサス会議です。  講座についてのご希望・ご意見・ご感想・ご質問はいつでも歓迎です。