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史跡 御塚・権現塚古墳に関連する新羅土器

出典:『史跡 御塚・権現塚古墳』(久留米市教育委員会.1995)

史跡整備の報告書に載った,土器の事実記載。6世紀中葉の新羅土器が特殊な分布を見せることに興味を持ったはじめであり,また,土器の同工品論の可能性を意識させた1篇である。この報告が出たころ,さまざまな遺物に関する工人論的研究を集め,ノートをとっていたが,結実しなかった。

また,この一連の土器を題材とした論文も準備したが,発表の機会がないまま自分の意見が変わってしまい,お蔵入りとなった。(18/Apr/2002)

目次


1) 御塚付近・蓋

古新羅土器蓋である。完形だが口縁端の一部を補修している。口径137mm,器高61mm。薄手で軽い。白色粒子・黒色粒子を含み,小礫を若干混ずる胎土で硬質に焼成している。自然釉により外面がやや荒れているように見えるが,外面黒褐色,内面灰白色を呈す。

宝珠形つまみを持ち,稜で最大径をなすが,稜の突出は弱い。たちあがりは短く,ほぼ直立する。

天井部外面をすべて施紋域とし,紋様はつまみ基部側から順に沈線帯i,コンパス弧点紋ii,4周の沈線帯iii,コンパス弧点紋iv,15周の沈線帯vに分かれる。沈線帯i・iii・vはいずれも時計回りに下降するラセン状沈線であり,沈線帯i・iiiとvの上半11周は密に,沈線帯v下半の器壁の傾斜が強い部分4周は疎に施されている。コンパス弧点紋ii・ivは中心の点と円弧とからなり,いずれも両先端の尖った双歯具を反時計回りにひねって描いている。工具の開き(半径)は現状で約4.5mmを測る。切り合いから,[沈線帯i→コンパス弧点紋ii],[沈線帯iii→コンパス弧点紋iv]は確実である。沈線帯自体が下降ラセン状沈線からなること,紋様間の間隔の取り方,また,遠心的な施紋順序が通例であることからみて,[沈線帯i→コンパス弧点紋ii→沈線帯iii→コンパス弧点紋iv→沈線帯v]の順であろう。

内面は全体に回転ナデ調整されている。

宝珠形つまみは別に部品をつくって接合したものであるが,天井部の中心とはズレがあり,傾斜している。また,つまみが沈線帯iに被さっており,紋様施紋後につまみを接合したことがわかる。つまみ基部は先の丸い工具で回転を利用して押さえている。

6世紀前半の新羅土器と思われる。

権現塚古墳外濠出土の蓋とは,計測値のみが異なり,他は一致する。同工品の可能性がある。


2) 御塚付近・杯

完形だが,やや歪みがある。口径120〜125mm,器高40mm。黒色粒子を含む胎土で硬質に焼成している。外面は灰青色であるが底部外面は黄灰色,内面茶褐色を呈す。

受部が突出し,受部上面に溝を持つ。口縁部は内傾する。

外面は回転ナデ調整され,底部外面は不整方向のナデが観察されるが,器面の荒れのためか明瞭でない。

内面も回転ナデ調整されているが,中央部は凹凸を残す。また,中央部と傾斜部の変換点近くに粘土の継目も観察される。


3) 権現塚外濠・印花紋土器蓋

完形の印花紋土器蓋である。口径166mm,器高72mm。黒色粒子を多く含むが精良な胎土で硬質に焼成し,焼け膨れがみられる。外面に自然釉によるテリがあり,外面黄灰色,内面暗灰色を呈す。

つまみとかえりを有する蓋である。

天井部外面は回転ナデの後,つまみの周囲に浅く細い沈線が巡り,その下に2重円弧9単位からなる縦長連続紋を反時計回りの順にA手法で押捺するが,原体の右半分が強く押されている。また,縦長連続紋は沈線を切る。印花紋押捺後の器面の塑性変形がある。

内面は中央近くに渦巻状の隆起があり,巻上痕とみられる。傾斜部は回転ナデ,中央部はこの回転ナデを切る不整方向のナデが行われている。かえりは粘土紐を貼りつけ,外側を強く回転ナデしている。

つまみは接合時に基部を先の丸い工具で押さえている。

宮川禎一による印花紋土器2式に当たり,7世紀後半に位置づけられる。


4) 権現塚外濠・蓋

古新羅土器蓋である。ほぼ完形だが,口縁端部6分の1周程度を欠く。口径140mm,器高69mm。薄手で軽い。白色粒子・黒色粒子を含む胎土で硬質に焼成している。自然釉により,外面がやや荒れているように見える。表面に土が薄く付着しているが,外面黒褐色,内面暗茶褐色を呈す。

宝珠形つまみを持ち,稜で最大径をなす。たちあがりは短く,やや内傾する。

天井部外面をすべて施紋域とし,紋様はつまみ基部側から順に3周の沈線帯i,コンパス弧点紋ii,6周の沈線帯iii,コンパス弧点紋iv,13周の沈線帯vに分かれる。沈線帯i・iii・vはいずれも時計回りに下降するラセン状沈線であり,沈線帯i・iiiとvの上半7周は密に,沈線帯v下半の器壁の傾斜が強い部分6周は疎に施されている。コンパス弧点紋ii・ivは中心の点と円弧とからなり,いずれも両先端の尖った双歯具を反時計回りにひねって描いている。工具の開き(半径)は現状で約4mmを測る。切り合いから,[沈線帯i→コンパス弧点紋ii],[沈線帯iii→コンパス弧点紋iv]は確実である。沈線帯自体が下降ラセン状沈線からなること,紋様間の間隔の取り方,また,遠心的な施紋順序が通例であることからみて,[沈線帯i→コンパス弧点紋ii→沈線帯iii→コンパス弧点紋iv→沈線帯v]の順であろう。

内面は全体に回転ナデ調整されている。

宝珠形つまみは別に部品をつくって接合したものであるが,天井部の中心とはズレがあり,傾斜している。つまみ基部は先の丸い工具で回転を利用して押さえている。

6世紀前半の新羅土器と思われる。


5) 権現塚第2提出土・蓋

2・3と同形と思われる蓋の口縁部付近小片である。黒色粒子を含む精良な胎土で硬質に焼成しており,外面に茶褐色自然釉がかかっている。内外面青灰色,断口暗青色を呈す。

口縁部は短く内傾する。

内外面は回転ナデ調整され,外面には回転を利用した平行沈線がみられる。


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