第4回合同学会に参加して

出典：九州考古学第75号：福岡・九州考古学会，201-203頁（2001）

第2回合同学会に続いて，学会報告を担当した。弥生時代が主題ということもあり，ほかの研究者に依頼してはどうかと提案したが，都合がつかなかったようである。別の場ででも，弥生研究者の論評が聞きたいところである。

それはともかく，本稿は第2回合同学会の報告とはかなり様子が変わっている。前稿で新たな交流の場の創出と，問題意識・方法論の共有を積極的に評価したのに対し，本稿では交流の場を再生産する難しさ，研究の背景をも伝達することの必要性に論点が移っている。

旧石器捏造発覚直後の時期に短期間で執筆したため，当時の気分がところどころに反映されている。（20/Apr/2002）

2000年7月19・20日，釜山市の東亜大学校で九州考古学会・嶺南考古学会第4回合同考古学大会が開催され，「考古学から見た弁・辰韓と倭」のテーマで4本の研究報告，6本の遺跡報告が行なわれた。また，7月21日には泗川勒島遺跡・固城松鶴洞古墳群などの見学会が催された。関係者のご尽力に敬意を表したい。

以下，限られた紙数ではあるが，今回の報告内容を中心に，所感を記すこととする。

まず，初日は九州考古学会側2本，嶺南考古学会側2本の研究報告であった。

辛勇旻氏の「弁・辰韓地域の外来系遺物」は，史料解釈を通じて外来系遺物流入の背景，特にそれらが墳墓出土品であることから副葬の背景を論じた。その結果外来系遺物を「階級者の身分的な象徴物」とみなし，さらに北方系遺物の出土様相などから「北方民族伝播論」に異を唱えた。辛氏は中国留学経験もあり，この学会の後に著書『漢代木槨墓研究』も刊行するなど，中国考古学の知識に裏打ちされた立論ではあるが，それだけに，考古資料の対比と解釈をもっと聞きたかった気もする。

高久健二氏の「楽浪郡と弁・辰韓の墓制－副葬品の組成と配置の分析を中心に－」では，まず高久氏がこれまで提示してきた楽浪や弁・辰韓の編年を対比しつつ提示し，さらに各時期における両地域の関係を，墳墓の形式，副葬品の種類・量・配置などから論じた。一括遺物による信頼性の高い編年案に支えられつつ，楽浪－韓の漢式・非漢式遺物の伝播に関するこれまでの議論を総合的に展開しており，きわめて有用である。

宋桂鉉氏の「辰・弁韓文化の形成と変遷」では，まず，鉄器文化の本格的拡散などから三韓の上限を紀元前1世紀後半に，墓制と副葬品の変化から下限を3世紀後葉に求めており，近年台頭してきた細形銅剣文化の登場まで三韓時代を遡らせる意見に異を唱えた。その上で辰・弁韓の墓制・土器・鉄器を論じたが，興味深かったのは，木棺墓と木槨墓の比較である。宋氏は木棺墓に多様性を認める一方，木槨墓には斉一性があるとする。また，木棺墓のみの墳墓群，木槨墓のみの墳墓群があり，双方存在する墳墓群でも時期的な断絶が認められるとして，木棺墓から木槨墓への変化は連続的ではなく断続しているとみなした。さらに，これを外部の衝撃による急進的な変化とし，背景に新たな集団の出現と社会秩序の再編を読み取っている。また，三韓の土器編年においては地域性を重視すべきとの指摘は，従来の研究に再考を迫るものである。

岩永省三氏の「青銅武器儀器化の比較研究－韓と倭－」では，まず，最近の研究成果を整理して細形・中細形の青銅武器を「弥生人側の好みがしだいに固まって明瞭になっていく過程」と捉え，さらに朝鮮半島の初期金属器文化編年と対比した上で，朝鮮半島での青銅武器の儀器化は「武器の主役の座を鉄器に譲った」ことと関係するのに対し，日本列島では鉄器の普及に先だって青銅武器が祭器化したと指摘した。さらに朝鮮半島で儀器化した青銅武器は日本列島と違って集団祭祀の祭器化を果たさなかったと考え，社会組織の変化の速さが異なっていたためと見通しを示した。岩永氏は韓と倭を対比的に扱っているが，この時期の対馬は，壱岐や北部九州の弥生文化とはやや異なる印象があるものの，その墳墓に倭の青銅製武器形祭器が副葬されている。また，最近は朝鮮半島でも青銅器埋納遺構が続々認識されているようなので，こうした事例がいかに解釈されるのか，興味を引かれる。

以上，初日の4本は全体として，「弁・辰韓と倭」というよりも，弁・辰韓とその対外関係というべき内容であるが，報告者の最近の研究が生かされ，それぞれに個性的であった。

2日目は遺跡報告であったが，九州側が奴国・伊都国・一支国と魏志倭人伝の「国」ごとに報告者を立てたのに対し，嶺南側は個別の発掘調査報告2本と，木棺墓の資料集成という構成であった。報告の方針が不統一であるのはやや戸惑ったが，両地域の発掘調査の規模や手法の違いに起因する部分もある。以下，当日の報告順とは異なるが，九州側と嶺南側をそれぞれまとめて評する。

久住猛雄氏の「奴国の遺跡－比恵・那珂遺跡群と須玖・岡本遺跡群－」は，両遺跡が「拠点集落」の認識を超えた「都市」である可能性を論じ，それぞれ奴国の「交易センター」と「政治・祭祀センター」と捉えた。久住氏が1999年に本誌で発表した道路遺構の認識も議論に生かされているが，一部参加者の注意は喚起したものの，韓国の研究者にその意図を伝えるには，道路遺構の認識法や，道路の集落論上の意義について，丁寧な解説が欲しかった。また，今回は集落の動態と変遷の析出に重きを置いていたが，今後，両遺跡間に構築されていた集団関係，あるいは，両遺跡群と水田経営との関わりなどの解明が求められよう。さらに，前日の岩永氏が青銅器から想定した弥生社会の発展程度と，久住氏が想定するそれとの隔たりが，いかに埋められていくかも興味深い。

角浩行氏の「伊都国の遺跡と遺物－糸島地区出土朝鮮半島系遺物について－」は，福岡県糸島地域の朝鮮系遺物を出土する遺跡を紹介し，それぞれの朝鮮系遺物を概観した。糸島地域は，楽浪土器が集落遺跡から多量に出土するという，朝鮮南部・日本列島を通じて稀有な様相を示すが，そうした出土事例が集成されたことは有益である。また，加布里湾岸の御床松原・深江井牟田を重要な港とみなし，三雲・井原遺跡群を「王都」と位置づけた上で，交通路上の重要地点に所在する支登遺跡群での今後の朝鮮系遺物の出土を予想するなど，遺物の分布と遺跡の性格とを絡めた興味深い報告となっていた。

安楽勉氏の「一支国における南北市糴－原の辻遺跡の調査成果から－」は，1993年以降の膨大な調査成果から，特に対外交易に関する証拠を挙げた。重要遺跡として知られる原の辻ではあるが，スライド上映とともに成果を列挙されたことで，さらにその意義が了解された。

以上の九州側3本は，数多い小規模調査の成果が一定の視点でまとめられており，意義深い。日本では，吉野ケ里遺跡や妻木晩田遺跡のような稀有な例は別として，大規模遺跡でも小規模な調査の蓄積としてしか認識できないことが多いからであるが，そうした意義は，日本で考古学を学ぶものには容易に理解されるものの，韓国の研究者に対しても同様であるか，やや心許ない。地政的なまとまりに倭人伝の「国」名を比定したものが考古学的にどれだけ有意なまとまりといえるかを伝えられなければ，「一つの領域に」「二つの巨大集落が存在する」（久住氏）といった問題意識自体も伝達しにくいのではなかろうか。

金賢植氏の「陜川盈倉里遺跡概報」は，「環濠」を持つ円形粘土帯土器段階の集落の報告であり，竪穴遺構から細形銅剣が出土したことでも注目される。しかし，溝状遺構に与えられた「環濠」の名に違和感を覚えた参加者もいたようである。報告された「環濠」はその名に反して集落を囲んでおらず，B・C・D環濠は尾根を切断しており，E環濠は柵列を設置するためのものであるなど，この集落跡はまるで中世の山城であるかのようである。遺跡の立地は河川に近い比高30m程度の丘陵上であり，環濠集落というよりは高地性集落と呼ぶべきかもしれない。日韓の用語法の違いに起因する違和感であろうが，共同研究などの際，障害となりかねない相違である。さて，金氏はこの遺跡を防御集落と捉えた上で，立地の特異性から，特殊機能を持つ集落と考えている。事例の蓄積と分析に期待したい。

李東注氏の「泗川勒島遺跡の調査成果」は，現在も東亜大学校博物館・釜山大学校博物館・慶南考古学研究所によって調査中の同遺跡のうち，東亜大学校博物館の担当区域について報告したものである。集落と貝塚からなり，貝塚では製鉄関連遺構・土壙墓・オンドル付住居跡が確認され，人骨・半両銭・弥生土器などが出土した。特にイヌの埋葬事例や多数の卜骨が興味を引いたが，イヌの埋葬が人骨への副葬と言い切れるのか，上映されたスライドのみでは納得しがたかった。さらなる調査の進展が大いに期待される。

朴升圭氏の「大邱・慶北地方の木棺墓資料紹介」では，近年調査された弁・辰韓の木棺墓について整理した上で，大邱八達洞遺跡などの積石木棺墓の構造・副葬品などを論じ中西部や湖南地方に系譜を求めた。さらに積石木棺墓の様相も含めて後期無文土器段階と古式瓦質土器段階の木棺墓の様相を整理した。三韓・三国時代の木槨墓の意義は日本にも知られていたが，最近の三韓研究で木棺墓が重視されていることは，あまり伝えられていなかったように感ずる。そうした学史的な状況が強調されれば，この報告の意義が九州側にもより伝わったであろう。

以上の嶺南側3本は，特定の調査地点での成果に偏しがちな点が九州側とは対照的であるが，最新の調査成果を示したものであり，それぞれに興味深いものであった。

以上10本の報告が出揃ったところで，武末純一氏・申敬澈氏の司会のもと，総合討論が行われた。

こうして第4回の合同学会を終えてみると，国際学会の難しさを実感する場面がいくつかあったことに気づく。特に，第3回以降は統一テーマでの報告と討論という形になっただけに，運営の苦労も倍加したと察せられる。報告自体は自国語で行ない，通訳の代わりに資料集の訳文で理解するという形式では，論旨の要点をつかむのに骨が折れるし，通訳を挟んでの質疑・討論も意図の通じにくい場面があった。国際学会をいかに運営し参加するか，特に，論旨とその背景をいかに先方に伝えるか，実行委員会・報告者・司会・通訳さらに一般会員ら参加者の意識改革が求められる。研究交流の場は，事務局や会員・参加者自身が絶えず再生産していくものであると，改めて認識した次第である。

しかし，それはもはや杞憂かもしれない。休憩時間には東亜大学校博物館で開催中の「韓国南海岸地域発掘遺物特別展」を観覧できたが，会場は双方の研究者であふれ，展示された数々の重要遺物をめぐって熱い議論の場となった。また，見学会でも活発な意見交換が行われたばかりでなく，勒島遺跡では朝鮮半島南部地域で初の楽浪土器出土，松鶴洞古墳群では前方後円墳説の否定という，学史に残る重要発見に立ち会うことができた。さらに，これまでの交流を通じて多くの参加者はすでに旧知の仲であり，懇親会なども再会を祝して大いに盛り上がった。こうした状況からみて，討論などで気づいたささやかな瑕疵など早晩克服されることと期待したい。