行政法U 第1回「導入講義」
正木宏長
1  行政法の体系と本講義の対象範囲 
 
教科書(宇賀)の体系    立命館での科目名
・行政法概説I(行政法総論) → 行政法I
・行政法概説U(行政救済法) → 行政法U
・行政法概説V(行政組織法) → 行政法U
 
※かつての行政法総論と行政法各論の区別
行政法総論 →行政法全体にわたる一般論(現在の体系での「行政法総論」・行政救済法)
行政法各論 →行政組織や警察や公企業(公益事業)や社会保障といった個別行政分野
 
 → かつての行政法各論のうち、行政組織法と公物法は本講義でとりあげるが、
警察法等はとりあげないことになる 
 → 公共の秩序を維持するための消極目的規制に関する国家の権限の行使が警察法で扱われる。公法で警察法という分野が言及される場合、刑事法(刑法、刑事訴訟法など)のことを指すわけではない。ex. 風俗営業法、道路交通法
 
2  講義計画 
 
第1回  導入講義
第2回  行政組織編成権、行政官庁法理
第3回  行政機関相互の関係、内閣
第4回  国の行政機関
第5回  地方自治
第6回  特別行政主体、会計検査院
第7回  公物(1)
第8回  公物(2)、行政争訟総説
第9回  行政上の不服申立て(1) 
第10回  行政上の不服申立て(2) 
第11回  行政審判、行政訴訟総説  
第12回  客観的訴訟要件
第13回  主観的訴訟要件(1) - 処分性 - 
第14回  主観的訴訟要件(2) - 原告適格 -
第15回  主観的訴訟要件(3) - 訴えの利益 -、取消訴訟の審理(1)
第16回  取消訴訟の審理(2)
第17回  訴訟の終了、仮の救済
第18回  無効確認訴訟
第19回  当事者訴訟
第20回  不作為の違法確認訴訟、義務付け訴訟(1)
第21回  義務付け訴訟(2)、差止訴訟
第22回  民衆訴訟、機関訴訟
第23回  国家補償法総説、国家賠償法1条(1)
第24回  国家賠償法1条(2)
第25回  国家賠償法1条(3) 
第26回  国家賠償法2条
第27回  損失補償(1)
第28回  損失補償(2)、国家補償の谷間
第29回  公務員法(1) 
第30回  公務員法(2) 
 
・まず行政組織法の講義を進めて、その後に行政救済法、最後に公務員法という順番で講義する
 
3 行政法Tで扱った分野の復習と行政法Uで扱う分野の概観 
 
・行政法Tでは、行政法の基本原理、行為形式論(行政行為、行政契約、行政指導、行政計画、行政立法)、行政活動に共通する法制度(行政手続法、情報公開法など)が扱われた
 
・行政法Uは、行政救済法が中心になる
・行政救済法は行政争訟と国家補償を扱う
 
・行政争訟は行政訴訟と行政上の不服申立ての二つからなる
 

 ◎設例
 
 ex. 違反をした事業者Xに対して6ヶ月の営業停止命令がA県知事から下された。Xはいかなる手段でこれを争うことができるか?

 
・上の設例のような場合、まずXは6ヶ月の営業停止命令の取消しを求めるわけだが、誰を相手にどのようにして争えばいいのか?こういった問題を扱うのが行政救済法という分野である
 
 → 行政機関に対して営業停止命令の取消を求める: 行政上の不服申立て(第9回〜第10回)
 
 → 裁判所においてA県に対し営業停止命令の取消を求めて裁判を起こす: 行政訴訟(第11回〜第22回)
 
※行政行為の公定力により、営業停止命令の効力を通常の民事訴訟で争うことはできない。行政訴訟の制度を用いなければならない
 
・さらにXは違法な6ヶ月の営業停止命令によって被った損害に対して、裁判所において損害賠償請求を行うことができる
 
 → 金銭的な補償を扱うのが国家補償法である(第23回〜第28回)。公務員による違法な行政活動による損害を扱う国家賠償と適法な行政活動による損失を扱う損失補償という2つの分野がある
 ex. 設例のような場合は民法の不法行為の特別法として国家賠償法が適用される。土地収用の際の補償は損失補償
 
・設例の場合、6ヶ月の営業停止命令は、行政法Tで扱った行政行為(行政処分)である。行政行為の公定力により、訴訟で争う場合通常の民事訴訟で争うことはできない
 
・設例の場合、A県知事が処分を行っている。このような処分を行う権限を与えられた機関のことを行政庁と呼ぶ。これに対しA県のような行政権の帰属単位となる法人を行政主体と呼ぶ
 → 行政組織に対してどのような法的位置づけを与えるかは一つの法的考察対象になる。これを扱うのが行政組織法である(第2回〜第6回)
 
※行政活動を遂行するうえで行政主体は人的手段と物的手段を用いている。人的手段が公務員であり、物的手段が公物である。それぞれ公務員法、公物法として行政組織の一分野として講義される(公務員法第29回〜第30回、公物法第7回〜第8回)
 
4 テキストと「行政救済法」「行政組織法」分野での文献
 
・本講義は行政救済法については大橋洋一『行政法U』(有斐閣、第3版、2018)、行政組織法については宇賀克也『行政法概説V』(有斐閣、第5版、2019)をテキストにする
・地方自治法については、宇賀克也『地方自治法概説』(有斐閣、第8版、2019)を参考書として示しておく
・分厚い教科書での予習が難しいと感じたなら、図書館で借りるなりして、初級・中級のテキストを使い、全体像をつかむとよい
 
・六法必携
 
◎一冊もの教科書
 
・宇賀克也『行政法』(有斐閣、第2版、2018)
・櫻井敬子=橋本博之『行政法』(弘文堂、第5版、2016)
・芝池義一『行政法読本』(有斐閣、第4版、2016)
・高橋滋『行政法』(弘文堂、第2版、2018)
 
◎行政救済法についての教科書
 
・宇賀克也『行政法概説U』(有斐閣、第6版、2018)
・大橋洋一『行政法U』(有斐閣、第3版、2018)
・塩野宏『行政法U』(有斐閣、第5版補正版、2013):行政不服審査法改正未対応
 
◎行政組織法についての教科書
 
・宇賀克也『行政法概説V』(有斐閣、第5版、2019)
・宇賀克也『地方自治法概説』(有斐閣、第8版、2019)
・塩野宏『行政法V』(有斐閣、第4版、2012)
・藤田宙靖『行政組織法』(有斐閣、2005)
 
◎特徴的な教科書
 
・高木光『行政法』(有斐閣、2015)
・藤田宙靖『行政法総論』(青林書院、2013):行政不服審査法改正未対応
 
※教科書の難易度の目安
 
初級 : 藤田(入門)、宇賀編(ブリッジブック)
中級 : 橋本=櫻井 、芝池(読本)、宇賀(行政法)、大橋
上級 : 塩野、宇賀(概説)、高橋、藤田(総論)
最上級 : 高木
 
・上級以上の教科書での予習が難しいと感じたなら、図書館で、初級・中級のテキストを借りて全体像をつかむとよい
 
 
◎六法
 
中六法
・模範六法(三省堂) → 判例付き、行政法総論の項無し
・判例六法professional(有斐閣)  → 判例付き、行政法総論の項有り、二分冊
 
判例付き小六法
・判例六法(有斐閣) → 行政法総論の項有り
・模範小六法(三省堂) → 行政法総論の項無し
 
5 成績評価 
 
・期末試験によって行う。出題範囲は試験の時期に指定
・出席はとらない
 
6 その他 
 
・授業のレジュメは私のHPにアップロードする(manabaではないので注意)
      http://www.ops.dti.ne.jp/~andm/