行政法U 第10回「行政上の不服申立て(2)」
正木宏長
      ※指定のない条文の引用は行政不服審査法
1 審査請求手続の開始(大橋p370)
 
・審査請求人が審査請求書を提出することにより、審査請求の手続が開始される
・審査庁には標準処理期間の設定をする努力義務が課せられている。設定した場合公にしておかなければならない(16条)
・審理員の審査、行政不服審査会への諮問という二段階を経て、審査庁が裁決をするという仕組みになっている
 
※利害関係人は、審理員の許可を得れば、参加人として審査請求に参加することができる(13条1項)
 
2 審理員による審理手続(大橋p370〜374) 
 
(1)審理員
 
・職能分離の観点から審理員による審査手続が導入されている
 → 審理員が主張・証拠の整理などを含む審理を行って、審理員意見書を作成し、これを審査庁に提出する(42条)
 
・審査庁は処分に関与していない職員の中から審理員を指名する(9条)
 → 審査庁は審理員名簿を作成する努力義務を負う(17条)。審理員名簿が作成された場合、公にしておかなければならない
 
※独立行政委員会が審査庁になる場合についての適用除外規定がある(9条1項ただし書き)。情報公開法、行政機関個人情報保護法は、審理員による審理手続が適用除外とされている
 
(2)審査手続
 
・審理員は弁明書の提出を処分庁に求めなければならない(29条2項)
 → 旧法では「できる」という裁量的規定だったが、新法では「求めるものとする」と義務化された
 
・弁明書に対して、審査請求人は反論書を、参加人は意見書を審理員に提出することができる(30条)
 → 書面主義による審理の進行
 
・審理関係人(審査請求人、参加人など)は、相互協力し、審理手続の計画的な進行を図らなければならない(28条)
・審理員による争点・証拠の事前整理手続が可能とされている(37条)
 
・審理員は職権で様々な調査を行うことができる(物件の提出要求、参考人の陳述及び鑑定の要求、検証、審理関係人への質問。33〜36条)
・審理員は、審査請求人が主張していない事実まで職権で調べて裁決の基礎とする、職権探知ができる(職権主義。訴願法時代の判例として、最高裁昭和29年10月14日第1小法廷判決、民集8巻10号1858頁、行政判例百選135事件)
 
・審理員は、審理の結果をまとめて審理員意見書を作成し、事実記録と共に審査庁に提出する(42条)
 
(3)審査請求人及び参加人の手続的権利
 
※2014年改正の際に、参加人の手続的権利の拡張がなされた
 
・総代・代理人の選任(11〜12条)
 →代理人は審査請求に関する一切の行為ができる。ただし、審査請求の取下げには特別の委任が必要(12条)
 
・弁明書の送付を受ける権利(29条)
・弁明書に対する反論書の提出(30条2項)
 
・審理手続において、口頭で意見を述べる権利(31条): 審査請求人や参加人から申立てがあれば、口頭意見陳述における質問の機会を与えなければならない
・証拠書類や証拠物の提出(32条)
 
・審理員に対して、物件の提出要求、参考人の陳述及び鑑定の要求、検証、審理関係人への質問を申し立て、権限行使を求めることができる(33〜36条)
 
・処分庁や処分庁以外の所持人から提出された書類等の閲覧、および書類等の写しの交付請求権(38条1項)
 →「審理員は、第三者の利益を害するおそれがあると認めるとき、その他正当な理由があるときでなければ、その閲覧又は交付を拒むことができない。」
 
・審理員意見書の送付を受ける権利(43条)
 
3 行政不服審査会(大橋p374〜377) 
 
・審査庁は、審理員意見書の提出を受けたときは、国の行政機関である場合は、行政不服審査会に諮問しなければならない(43条1項)
 → 審査請求人が諮問を希望しない場合、審査請求が不適法であって却下する場合、全部取消などに係る認容裁決をする場合は除くとされている(43条1項各号)
 → つまり、審査請求人に不利な棄却裁決をする場合に、行政不服審査会への諮問が想定されている
 
・総務省に行政不服審査会が置かれる(67条)。9人の委員で構成される(68条)
 
・行政不服審査会は、3名で構成される合議体(部会)、又は全員の合議体で調査審議をする(72条)
・行政不服審査会は審査庁に資料の提出を求めるなどの調査権限を持つ(74条)
・審査関係人(審査請求人、参加人など)から申立てがあった場合、行政不服審査会は口頭で意見を述べる機会を与えなければならない。ただし行政不服審査会がその必要がないと認める場合はこの限りではない(75条)
・審査関係人は行政不服審査会に主張書面・資料を提出することができる(76条)
・行政不服審査会は審査庁の諮問に対して答申をする。答申の内容は公表される(79条)
 
4 裁決(大橋p377〜382) 
 
・審査庁は、審理員意見書や行政不服審査会の答申に基づいて、遅滞なく裁決を行う(44条
・裁決書には、主文、事案の概要、審理関係人の主張の要旨、理由が記載される(50条)
 
 理由の程度としては最高裁昭和37年12月26日第2小法廷判決(民集16巻12号2557頁、行政判例百選139事件)が、「法人税法...が、審査決定の書面に理由を付記すべきものとしているのは、訴願法や行政不服審査法による裁決の理由付記と同様に、決定機関の判断を慎重ならしめるとともに、審査決定が審査機関の恣意に流れることのないように、その公正を保障するためと解されるから、その理由としては請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにしなければならない」と判示している
 
・裁決の主文が審理員意見書又は行政不服審査会の答申書と異なる内容である場合には、異なることとなった理由も記載される(50条1項4号)
 → 審理員の意見や行政不服審査会の答申は法的に審査庁を拘束するものではない
 
※当事者の審査請求の取下げでも審査請求は終了する
 
・裁決には却下棄却認容の三種がある(45条、46条)
 
・「処分についての審査請求が法定の期間経過後にされたものである場合その他不適法である場合には、審査庁は、裁決で、当該審査請求を却下する。」(45条1項)
・「処分についての審査請求が理由がない場合には、審査庁は、裁決で、当該審査請求を棄却する。」(45条2項)
・「処分(事実上の行為を除く。...)についての審査請求が理由がある場合(...)には、審査庁は、裁決で、当該処分の全部若しくは一部を取り消し、又はこれを変更する。ただし、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない場合には、当該処分を変更することはできない。」(46条1項)
 
・処分が違法又は不当な場合は基本的に認容裁決が下される。だが、処分が違法又は不当であることを宣言するが請求は棄却するという、事情裁決の制度がある(45条3項)
 
※再調査の請求については、却下決定、棄却決定、認容決定が定められている(58条、59条)。簡易手続であることから事情決定の規定は設けられていない
 

認容裁決の諸類型
 
@取消裁決 :審査庁が処分を取り消す(46条1項)
A変更裁決 :審査庁が処分を変更する。審査庁が上級行政庁又は処分庁ではない場合には認められない(46条1項)。処分の不利益的変更は許されない(48条)
B義務付け裁決 :法令に基づく申請を却下又は棄却した処分について、上級庁である審査庁が処分庁に一定の処分をすべきこと,つまり申請を認容すべきことを命じる(46条2項1号)
 →審査庁が処分庁である場合は、取消しに加えて当該処分を行う(46条2項2号)
 
※処分を行う際に審議会への諮問が義務づけられている場合、諮問手続を経たうえで義務付け裁決を行う(46条3項)
 
C事実行為の違法又は不当の宣言: 事実行為に対する審査請求の認容裁決の場合、当該事実行為の違法又は不当が宣言される。そのうえで、審査庁が上級庁である場合は処分の撤廃・変更を処分庁に命じ、審査庁が処分庁である場合は処分の撤廃・変更を行う(47条)
D不作為についての違法又は不当の宣言:不作為にかかる審査請求の場合、認容裁決において違法又は不当が宣言される。そのうえで、審査庁が上級庁である場合は処分をすべきことを処分庁に命じ(義務付け裁決)、審査庁が処分庁である場合は当該処分を行う(49条)

 
 
修正裁決の効力

判例A 最高裁昭和62年4月22日第3小法廷判決(民集41巻3号309頁、行政判例百選143事件)
 
 国家公務員Xは、Y(中国郵政局長)に停職6ヶ月の懲戒処分をうけたので、人事院に審査請求をしたところ6ヶ月間の減給処分に修正する旨の裁決を受けた。なおも不服のXは、行政訴訟で懲戒処分の取消しと、審査請求の裁決の取消しの双方を求めた
 
 懲戒処分につき人事院の修正裁決があつた場合、「修正裁決は、原処分を行つた懲戒権者の懲戒権の発動に関する意思決定を承認し、これに基づく原処分の存在を前提としたうえで、原処分の法律効果の内容を一定の限度のものに変更する効果を生ぜしめるにすぎないものであり、これにより、原処分は、当初から修正裁決による修正どおりの法律効果を伴う懲戒処分として存在していたものとみなされることになるものと解すべきである。」 

 
・「裁決は、関係行政庁を拘束する。」(52条1項)
※審査請求の裁決には不可変効力が認められる
 
5 執行停止制度(大橋p382〜384) 
 
・審査請求がなされても処分の効力、処分の執行又は手続の続行は妨げられない(25条1項)
 ex. 食品が収去され、収去に審査請求をしても、収去手続は進行するのであって、審査請求をしただけでは食品は帰ってはこない。
 
・上級庁、処分庁への審査請求の場合、申立て又は職権により執行停止その他の措置ができる(25条2項)
・上級庁、処分庁ではない機関への審査請求では、申立てがあった場合、処分庁の意見を聴取したうえで、執行停止ができる(申立てが必要で、かつ、停止以外の「その他の措置」はとれない。25条3項)
※審査請求人からの執行停止の申立てがあった場合には、重大な損害を避けるため緊急の必要があると認める場合には審査庁は執行停止をしなければならない(25条4項)
 
6 教示(大橋p384〜387) 
 
・行政庁は不服申立てをすることができる処分をする場合には、処分の相手方に対し、当該処分につき不服申立てをすることができる旨並びに不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない(82条1項)
→ 名宛人のない処分については、職権による教示義務は生じない(最高裁昭和61年6月19日第1小法廷判決、判例時報1206号21頁、行政判例百選140事件)
 
・教示の対象は処分の相手方だが、利害関係人も教示を請求することが出来る(82条2項)。利害関係人への教示は口頭でも出来るが、相手方が書面で行うことを求めたときは書面でしなくてはならない(82条3項)
・教示で誤った行政庁を審査庁だとして教示し、当該行政庁に審査請求がされたときは、不服申立てを受けた行政庁は審査請求書を審査庁に送付し、審査請求人に通知しなければならない(22条1項)
・行政庁がなすべき教示をしなかったときは、処分庁に不服申立書を提出することができる(83条1項)