行政法U 第11回「行政審判、行政訴訟総説」
正木宏長
※指定のない条文の引用は行政事件訴訟法から
 
1 行政審判(大橋p358〜360)
 
・不服申立てに際して行政審判手続が定められている場合がある 
ex. 拒絶査定不服審判(特許法121条1項)
 
行政審判 : 行政委員会などのように独立性・中立性を保障された機関が、審判手続に現れた証拠に基づく厳格な事実認定の仕組み、公開の口頭審理手続、処分庁と申立人の対審構造を含む準司法手続を用いて、審理を行うもの
  ex 海難審判(海難審判法)、特許審判(特許法)
 
→ 行政審判は不服申立てのような事後手続だけでなく、処分の事前手続としても用いられることがある
 
・職権行使の独立性と準司法手続が特徴 
 
審判の効力
@審級の省略がされることがある (電波法97条)。
A行政訴訟の対象が裁決となることがある(電波法96条の2、裁決主義と呼ぶ。通常は原処分主義である)
B審判への行政訴訟で実質的証拠法則が採用されることがある (電波法99条1項)
C実質的証拠法則の採用によって、裁判段階での新証拠の提出が制限される。
(百選の判旨では省略されているが参考、最高裁昭和43年12月24日第3小法廷判決、民集22巻13号3254頁、行政判例百選173事件)
 
 
2 行政訴訟総説(大橋p13〜41) 
2.1 沿革 
 
・行政訴訟の制度を定めているのが行政事件訴訟法である
・行政事件訴訟法は行政訴訟に関する一般法である(1条、民事訴訟法の単なる特例法ではない)が、規定のない事項については民事訴訟の例によるとされている(7条)
・行政事件と民事事件との対比を前提としている
 
・1948年、平野事件を受けて、行政事件訴訟特例法が制定された
・1962年、行政事件訴訟特例法に代わる行政訴訟法として行政事件訴訟法が制定された
・2004年(平成16年)、行政事件訴訟法の改正がなされた
 
※裁判を受ける権利の保障(日本国憲法32条)
  → 基本的な視点 :包括的権利救済、裁判所へのアクセスに対する障害の除去、武器対等の原則、司法の説明責任、実効的権利救済、構造的公正性・中立性の確保、権利利益の侵害状況を視野に収めた法解釈
 
2.2 行政訴訟の類型 
 
◎行政事件訴訟法の定める訴訟類型(2条、3条)
 
客観訴訟と主観訴訟
主観訴訟 :個人の権利利益の保護を目的とする。抗告訴訟と当事者訴訟は主観訴訟
客観訴訟 :法規の客観的適法性、一般公共の利益の保護を目的とする。民衆訴訟と機関訴訟は客観訴訟
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
抗告訴訟 : 公権力の行使に関する不服の訴訟(3条)
 → 公権力の行使であれば、抗告訴訟を利用する
 → 公権力の行使ではなければ、公法上の当事者訴訟、又は民事訴訟を利用する
 
※ 民衆訴訟・機関訴訟は法律の定めがあるときに認められる
 
ex. ごみ焼却場建設の、建設計画案の決定、建築請負契約の締結、工事の実施、いずれも「公権力の行使」にはあたらないので取消訴訟(抗告訴訟)で争うことはできない
 
2.3 5つの抗告訴訟類型 
 
◎抗告訴訟の種類(3条)
 
@取消訴訟
A処分無効等確認訴訟 
B不作為の違法確認訴訟
C義務付け訴訟
D差止訴訟
 
※行政事件訴訟法に列挙されていない、法定外抗告訴訟も認められる余地があると解されている
 ex.権力的妨害排除訴訟、義務確認訴訟
 

※取消訴訟の種類(3条2項、3項)
 @処分の取消しの訴え → 行政庁の処分のほか公権力の行使にあたる行為の取り消しを求める
 A裁決の取消しの訴え → 不服申立てに対する裁決・決定の取消しを求める
・取消訴訟と言う場合、通常は処分の取消しの訴えを指す

 
・抗告訴訟のうち、どれを選択すべきか?
 
・不利益処分に対する訴訟 : 取消訴訟
・申請拒否処分に対する訴訟 : 取消訴訟、申請満足型義務付け訴訟
・申請認容処分に対する訴訟 : 取消訴訟
 
・取消訴訟の出訴期間が経過している場合 : 無効等確認訴訟
・申請に対して、何ら応答がなされていない場合 :不作為の違法確認訴訟
 
・将来下されるであろう処分を下さないよう求める : 差止訴訟
・第三者に対して不利益処分を行うべきであるにもかかわらず、行政庁が権限行使を怠っている場合: 直接型義務付け訴訟(非申請型義務付け訴訟)
 
3 取消訴訟の基本構造(大橋p31〜41)
 
◎取消訴訟の流れ
 
訴訟要件の審理 : 訴訟の利用条件の審査
 ↓
本案審理 : 処分の適法性審査
 ↓
判決
 
◎訴訟要件の種類
 
@処分性、A出訴期間、B原告適格、C被告適格
 
◎判決の種類
 
 訴訟要件を未充足 : 却下判決
 訴訟要件を充足 → 処分=適法 : 請求棄却判決
 → 処分=違法 : 請求認容判決(例外として事情判決がある)
 
・取消訴訟における審理の対象(訴訟物)は処分の違法性一般であるとされ、請求が認容された場合、「〜の処分を取り消す」という判決主文を持つ取消判決が下される
・取消訴訟は形成訴訟としての性質を持つ
 
※訴訟中に、仮の権利救済を得るために執行停止(25条)を申し立てることができる
 
4 司法審査の対象(宇賀Up103〜110)
 
・司法審査の対象 → 「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)
・最高裁は、「『法律上の争訟』とは法令を適用することによつて解決し得べき権利義務に関する当事者間の紛争をいう」として、村議会の予算議決の無効確認を求める訴えを不適法とした(最高裁昭和29年2月11日第1小法廷判決、民集8巻2号419頁)
 
・警察予備隊令への抽象的違憲審査訴訟は認められなかった(最高裁昭和27年10月8日大法廷判決、民集6巻9号783頁、行政判例百選141事件)
 → 抽象的違憲審査訴訟には事件性がない
 
・日米安全保障条約の違憲審査は司法裁判所の審査には原則としてなじまない(最高裁昭和34年12月16日大法廷判決、刑集13巻13号3225頁、行政判例百選148事件)
 → 政治問題ないし統治行為
 
・政治的または経済的問題や技術上又は学術上に関する争は、裁判所の裁判を受けうべき事柄でない(最高裁昭和41年2月8日第3小法廷判決、民集20巻2号196頁、行政判例百選143事件)
 → 技術上、学術上の争いは法令の適用によって解決できない
 
・最高裁は、地方議会議員への3日の出席停止の懲罰について、「自律的な法規範をもつ社会ないしは団体に在つては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判にまつを適当としないものがある...。本件における出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当するものと解する」とした(最高裁昭和35年10月19日大法廷判決、民集14巻12号2633頁、行政判例百選144事件。除名は司法裁判権の対象となるとしていることに注意)
・国立大学の単位授与のような特殊な部分社会の内部行為は司法審査の対象とならない(最高裁昭和52年3月15日第3小法廷判決、民集32巻2号234頁、行政判例百選145事件)
 → 部分社会論
 
・国又は地方公共団体がもっぱら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は、法律上の争訟にあたらない(最高裁平成14年7月9日第3小法廷判決、民集56巻6号1134頁、行政判例百選109事件)
 → 行政上の義務の履行確保に民事上の強制執行制度は利用できない
 
5 審査請求と行政訴訟の選択(大橋p387〜p390)
 
・「処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。」 (8条1項)
 
 → 行政事件訴訟法8条1項によると、行政処分に不服を持つ私人が、ただち裁判所に訴えるか、それとも行政不服審査を選択するかは自由である(自由選択主義、原則)
 
・ただし、個別法で審査請求前置(不服申立前置)がとられていることがある。この場合、審査請求への裁決を得なければ取消訴訟を提起することができない(8条1項)
 ex. 国家公務員に対する懲戒免職は、人事院に審査請求をして、裁決を経た後でなければ、取消訴訟を提起することができない
 
 
・審査請求前置は憲法32条に違反しない(最高裁昭和26年8月1日大法廷判決、民集5巻9号489頁
 
・審査請求が不適法として却下されたのなら審査請求前置の要件を満たしたとは言えない(最高裁昭和30年1月28日第2小法廷判決、民集9巻1号60頁)
 
・適法な審査請求であったにもかかわらず、審査庁が不適法なものと却下したなら、審査請求前置の要件を満たしたものとされる(最高裁昭和36年7月21日第2小法廷判決、民集15巻7号1966頁、行政判例百選184事件)
 
・審査請求前置がとられているときも、「審査請求があつた日から3箇月を経過しても裁決がないとき」、「処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」、「その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」 には裁決を経ないで取消訴訟を求めることができる(8条2項)
 
次回は「客観的訴訟要件」「主観的訴訟要件(1)―処分性―」大橋p41〜90、p390〜393