行政法U第12回  「客観的訴訟要件」
正木宏長
※指定のない条文の引用は行政事件訴訟法から
1 訴訟要件(大橋p41〜54)  
1.1 総説(宇賀Up137)
 
・訴訟要件:訴訟を利用するための条件
・裁判は、当事者の訴えの提起(訴状の提出)によって開始されるが、訴えが訴訟要件を満たしていなければ、裁判所は、訴えを却下する。訴えが訴訟要件を満たすものであれば、裁判所は適法な訴訟として本案審理を行い、本案判決(認容判決or棄却判決)を下す
 
・訴訟要件のうち、一般的形式的に決められているものを客観的訴訟要件、本案である請求内容との関係で個別具体的な判断に服するものを主観的訴訟要件ということがある
・取消訴訟の客観的訴訟要件として、裁判管轄、出訴期間、審査請求前置(個別法に定めがある場合)、被告適格などがある。取消訴訟の主観的訴訟要件としては、処分性、原告適格、狭義の訴えの利益がある。
 
1.2 管轄 
 
(1)事物管轄 ―どの裁判所に訴えるか
 
・取消訴訟の第一審裁判所は地方裁判所である。
 → 簡易裁判所は行政訴訟への管轄を有しない(裁判所法33条1項1号)
 → 地方裁判所の支部は取消訴訟を含めて行政事件訴訟の事物管轄を有しない(地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則1条2項)
 
・個別法により高等裁判所が第一審裁判所とされていることがある
 ex. 特許法178条1項
 
(2)土地管轄 ―どこの裁判所に訴えるか
 
・「取消訴訟は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又は処分若しくは裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。」(12条1項)
 → 「被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所」は、法務大臣が国を代表することから、民事訴訟法4条6項により国については東京地方裁判所となる。
 
※12条1項は普通裁判籍に関する定めである、12条2項2〜4項は特別裁判籍に関する定めである。裁判籍については民事訴訟法4条も参照
 
・「土地の収用、鉱業権の設定その他不動産又は特定の場所に係る処分又は裁決についての取消訴訟は、その不動産又は場所の所在地の裁判所にも、提起することができる。」(12条2項)
 
・「取消訴訟は、当該処分又は裁決に関し事案の処理に当たつた下級行政機関の所在地の裁判所にも、提起することができる。」(12条3項)
 
 「事案の処理に当たつた下級行政機関」とは、当該処分又は裁決に関し事案の処理そのものに実質的に関与した下級行政機関をいう(最高裁平成13年2月27日第3小法廷判決、民集55巻1号149頁)。総務省恩給局長に対する知事のように、下級行政機関とは指揮監督関係にある行政機関に限られない(最高裁平成15年3月14日第2小法廷判決、判例時報1821号16頁)。
 
・国又は独立行政法人を被告とする取消訴訟は、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所(特定管轄裁判所)にも、提起することができる。(12条4項)
 → 平成16年改正によって導入された。原告の普通裁判籍の近隣の特定管轄裁判所に出訴することができる
 →特定管轄裁判所とは要するに、東京地方裁判所、大阪地方裁判所、名古屋地方裁判所、広島地方裁判所、福岡地方裁判所、仙台地方裁判所、札幌地方裁判所、高松地方裁判所、のこと(高裁所在地の地方裁判所に行政訴訟に詳しい裁判官を集中することで専門性を確保する趣旨)
 
※訴訟の遅延・判断の不統一を避けるため、特定管轄裁判所からの移送制度がある(12条5項)。申立て又は職権により行われる
 
※合意管轄(民事訴訟法11条)や応訴管轄(民事訴訟法12条、原告の管轄違いの訴えに被告が異議を唱えることなく応訴した場合、管轄が認められる制度)も認められる
 
1.3 出訴期間 
 
・「1項 取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」  2項 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」(14条)
 
・出訴期間を設けることは憲法32条に違反しない(最高裁昭和24年5月18日大法廷判決、民集3巻6号199頁)
 
◎「処分又は裁決があつたことを知つた日」
 
 最高裁昭和27年11月20日第1小法廷判決(民集6巻10号1038頁)は、「『処分のあつたことを知つた日』とは、当事者が書類の交付、口頭の告知その他の方法により処分の存在を現実に知つた日を指すものであつて、抽象的な知り得べかりし日を意味するものでないと解するを相当とする。尤も処分を記載した書類が当事者の住所に送達される等のことがあつて、社会通念上処分のあつたことを当事者の知り得べき状態に置かれたときは、反証のない限り、その処分のあつたことを知つたものと推定することはできる。」とした
 
・「都市計画法における都市計画事業の認可のように,処分が個別の通知ではなく告示をもって多数の関係権利者等に画一的に告知される場合には,そのような告知方法が採られている趣旨にかんがみて,上記の『処分があったことを知った日』というのは、告示があった日をいうと解するのが相当である」(最高裁平成14年10月24日第1小法廷判決、民集56巻8号1903頁、行政判例百選131事件)
 
・訴えの変更があった際は、訴えの変更は新たな訴えの提起にほかならないから、特段の事情がない限り、出訴期間は訴え変更の時が基準となる(最高裁昭和61年2月24日第2小法廷判決、民集40巻1号69頁、行政判例百選183事件)
 
※「処分の日」 → 行政処分の効力発生日
 
・処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合、審査請求継続中は、処分又は裁決についての取消訴訟の出訴期間は走らない(14条3項)
 
 → 「審査請求」とは不服申立ての実態を備えていればよい。行政不服審査法に基づかない市人事委員会規則による「再審の請求」も「審査請求」にあたる(最高裁昭和56年2月24日第3小法廷判決、民集35巻1号98頁)
 
 土地収用法133条1項は損失補償裁決(名前は裁決だが原処分にあたる)について3ヶ月の短期の出訴期間を定めているが、損失補償裁決について国土交通大臣に審査請求をした場合、「収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間については,土地収用法の特例規定(133条1項)が適用されるものではなく,他に同法に別段の特例規定が存しない以上,原則どおり行政事件訴訟法14条3項の一般規定が適用され,その審査請求に対する裁決があったことを知った日から6か月以内かつ当該裁決の日から1年以内となると解するのが相当である。」(最高裁平成24年11月20日第3小法廷判決、民集66巻11号3521頁、行政判例百選182事件)
 
◎「正当な理由」
 → 災害、病気、けが、海外出張など、一般人の視点から見て期間遵守を求めることが期待できない場合には、正当な理由があるものと認めるべき
 
 
1.4 被告適格 
 
・行政庁の所属する国又は公共団体
 
 平成16年改正前は行政庁を被告としていたが、改正により国又は公共団体へと被告適格が変更された。つまり、改正前はタクシー免許不許可処分は地方運輸局長を訴えていたが、改正により国を訴えることになったのである。
 
・「処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属しない場合には、取消訴訟は、当該行政庁を被告として提起しなければならない。」(11条2項)
ex. 弁護士の懲戒処分の取消訴訟では行政庁(弁護士会)を相手に訴える
 
・処分庁が存在しなくなった場合の特例(11条3項)
 
・請求の趣旨を明確にするために処分をした行政庁も訴状に記載しなければならない(11条4項)
 → 原告が行政庁を特定できずに訴状に記載できなかったり、誤った行政庁を記載してもそれにより原告が不利益を受けるわけではない。
 → 国又は公共団体には裁判所に処分庁を示す責任が課されている(11条5項)
 
・「処分又は裁決をした行政庁は、当該処分又は裁決に係る第1項の規定による国又は公共団体を被告とする訴訟について、裁判上の一切の行為をする権限を有する。」(11条6項)
 → 処分をした行政庁が民事訴訟法54条1項にいう、法令により裁判上の行為をすることができる代理人に該当する。
 
 11条6項は、たとえば国が当事者の場合、国の利害に関係のある訴訟については法務大臣が国の代表者になるが(法務大臣の権限等に関する法律1条)、処分庁も裁判上の行為をする権限を持つことを明確にした規定である。11条6項により、内部的にはともかく対外的には、処分庁は、国を代表する法務大臣と同様に、裁判上の一切の行為をする権限を有することになる。なお、行政庁は、法務大臣の指揮を受ける。(法務大臣の権限等に関する法律6条1項)
 
・「原告が故意又は重大な過失によらないで被告とすべき者を誤つたときは、裁判所は、原告の申立てにより、決定をもつて、被告を変更することを許すことができる。」(15条1項)
 
※民事訴訟法133条2項に定める事項(当事者、法定代理人、請求の趣旨および原因)が訴状に記載されていない場合、裁判長は、相当の期間を定め、その期間内に不備を補正すべきことを命じなければならない(民事訴訟法137条1項)
 
※行政訴訟は本人訴訟も可能。
 
2 教示(大橋p54)
 
・平成16年改正により行政訴訟においても教示制度が設けられた
・行政庁は、処分の際に、取消訴訟の被告とすべき者、出訴期間、審査請求前置が取られているか否かについて書面で教示しなければならない(46条1項)
 → 第三者には教示されない
 → 口頭による処分は教示義務の対象外(46条1項但し書き。口頭で重要な処分をすることは想定されていないから
 
・後述の裁決主義がとられている場合(原処分と審査請求への裁決について、裁決にしか取消訴訟を提起できない場合)、教示が必要とされる(46条2項)
・形式的当事者訴訟についても同様の教示規定がある(46条3項)。
 
※行政不服審査法の場合と異なり誤った教示への救済規定は設けられていない
 → 被告の教示を誤っていた、なされなかった場合は15条1項により被告の変更を認めるべき、また、出訴期間の教示を誤っていた、なされなかった場合は、出訴期間を徒過しても14条1〜3項の「正当な理由」ありと認めるべき
 
3 審査請求を経た場合の取消訴訟の利用方法(大橋p390〜393)
 
・原処分と審査請求に対する裁決の二つがあるときは、処分の取消訴訟と裁決の取消訴訟の双方が提起できる。二つの処分に対して、取消訴訟をどのように使うかという問題が生じる
 
・違法性の主張に関する原処分主義(10条2項、原則)
 →原処分の違法は処分の取消訴訟でしか主張できない
 
・原処分主義の下では、裁決の取消訴訟では裁決固有の瑕疵のみを主張することができる  ex. 理由付記の不備
 
・処分の取消訴訟と裁決の取消訴訟について、訴訟の移送、請求の客観的併合、請求の追加的併合ができる(13条、16条、19条)
・原処分の取消しの訴えが認容されれば、裁決の取消しの訴えの利益はなくなる
 
 原処分の取消しの訴えが棄却された場合の、裁決の取消しの訴えの利益について、最高裁昭和37年12月26日第2小法廷判決(民集16巻12号2577頁、行政判例百選139事件)は、「本件の場合は、Xは芝税務署長がした原処分の取消をも訴求しており、その理由がないことは、原判示のとおりであ...る。審査請求も、結局は、Xに対する青色申告書提出承認の取消処分の取消を求める趣旨である以上、上述のような理由附記の不備を理由に、本件審査決定を取り消すことは全く意味がないことというべきであろう。」として、原処分の取消訴訟が棄却された場合に、附記理由の不備を理由とする裁決の取消訴訟の訴えの利益を認めなかった
 
※ただし電波法96の2のように個別法で裁決の取消訴訟しか提起することができないと
定めている例がある。これを裁決主義という
 → 裁決主義がとられている場合、裁決の取消訴訟で原処分の違法を主張することになる