行政法U第13回  「主観的訴訟要件(1) − 処分性 −」
正木宏長
※指定のない条文の引用は行政事件訴訟法から
1 処分性の判断方法(大橋p56〜61)
 
・取消訴訟の対象となるのは「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(3条2項)である。そこで訴訟要件として、行政処分に該当するかという処分性の問題が生じる
 
・大橋教科書によれば、処分性判断は、紛争の成熟性(行政計画、立法行為、準備行為、内部行為、行政指導にはこれが無い)と、訴訟類型選択問題(行政契約であれば当事者訴訟や民事訴訟)からなる
・命令・許可のような行政行為は処分性が認められる典型例である
 

判例@ 最高裁昭和39年10月29日第1小法廷判決(民集18巻8号1809頁、行政判例百選148事件)
 
 Y(東京都)はゴミ焼却場を設置しようとしたところ、設置予定場所の近隣住民Xが一連のゴミ焼却場設置行為の無効確認を求める訴訟を提起した。
 
 「行政庁の処分とは、...公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものである」
 ゴミ焼却場設置計画案の作成・議会提出や工事実施は「『行政庁の処分』にあたらない」

 
2 外部性(大橋p61〜66)
 
.・行政内部における行政機関相互の行為は処分にあたらない
通達に処分性は認められない(最高裁昭和43年12月24日第3小法廷判決、民集22巻13号3147頁、行政判例百選55事件)
 

判例A 最高裁昭和34年1月29日第1小法廷判決(民集13巻1号32頁、行政判例百選20事件)
 
 建築許可を与えるには消防長の同意が必要である(消防法7条)。Xは工場を建設しようとして、A(県知事)に建築許可を求めた。Y(消防長)は一旦は同意をしたのだが、その後、同意を取り消した。そこでXはYの同意取消処分の取消しを求めて出訴した
 
 「本件消防長の同意は、知事に対する行政機関相互間の行為であつて、これにより対国民との直接の関係においてその権利義務を形成し又はその範囲を確定する行為とは認められないから、...これを訴訟の対象となる行政処分ということはできない。」

 
・都市計画法の開発行為の許可の際に求められる公共施設管理者の「同意」(都市計画法32条)には、処分性が認められなかった(最高裁平成7年3月23日第1小法廷判決、民集49巻3号1006頁、行政判例百選156事件)
 
3 直接性(大橋p66〜77)
3.1 一般的行為 
 
・直接の名宛人のない決定(ex. 条例、告示)も実質的に見て処分であれば処分となりうる
 ex. 保安林指定解除は処分である(長沼ナイキ訴訟、最高裁昭和57年9月9日第1小法廷判決、民集36巻9号1679頁、行政判例百選177事件)
 

判例B 最高裁平成21年11月26日第1小法廷判決(民集63巻9号2124頁、行政判例百選204事件)
 
 保育所の廃止を定めた横浜市保育所条例の改正条例の処分性は認められるか?
 
「条例の制定は、普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから,一般的には,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでないことはいうまでもないが,本件改正条例は,本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって,他に行政庁の処分を待つことなく,その施行により各保育所廃止の効果を発生させ,当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して,直接,当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから,その制定行為は,行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる。」

 
 最高裁平成18年7月14日第2小法廷判決(民集60巻6号2369頁、行政判例百選155事件)は、簡易水道事業給水条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないから、本件条例は、抗告訴訟の対象となる行政処分にはあたらないとした
 

判例C 最高裁平成14年1月17日第1小法廷判決、民集56巻1号1頁、行政判例百選154事件)
 
 Y(県知事)は県告示によって幅4m未満1.8m以上の道を建築基準法42条2項の「道路」に一括指定した。Xはこの指定処分の不存在確認訴訟を提起した。
 
「特定行政庁による2項道路の指定は,それが一括指定の方法でされた場合であっても,個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限を発生させるものであり,個人の権利義務に対して直接影響を与えるものということができる。」
 告示での一括指定の方法による2項道路の指定も,行政処分にあたる

 
3.2 行政計画 
 
・行政計画については、プロジェクト型計画(非完結型計画、計画策定後も行政活動が続く)と、ゾーニング型計画(完結型計画、計画策定は終了)に分けて考える必要がある
 
◎プロジェクト型計画(非完結型計画)
 
土地区画整理事業計画の事業計画決定については、処分性を否定した最高裁昭和41年2月23日大法廷判決(青写真判決、民集20巻2号271頁)が有名であったが、最高裁は判例変更し、処分性を認めた
 

判例D 最高裁平成20年9月10日大法廷判決(民集62巻8号2029頁、行政判例百選152事件)
 
Y(浜松市)の土地区画整理事業の事業計画決定の処分性が争われた事例
 
「土地区画整理事業の事業計画については,いったんその決定がされると,特段の事情のない限り,その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ,その後の手続として,施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることになる。前記の建築行為等の制限は,このような事業計画の決定に基づく具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐために法的強制力を伴って設けられているのであり,しかも,施行地区内の宅地所有者等は,換地処分の公告がある日まで,その制限を継続的に課され続けるのである。
 そうすると,施行地区内の宅地所有者等は,事業計画の決定がされることによって,前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ,その意味で,その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり,事業計画の決定に伴う法的効果が一般的,抽象的なものにすぎないということはできない。」
(抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するとして、土地区画整理事業の事業計画決定の処分性が認められた)

 
第2種市街地再開発事業計画の決定について、最高裁平成4年11月26日第1小法廷判決(民集46巻8号2658頁)は処分性を認めた
農地買収計画について、最高裁昭和42年9月26日第3小法廷判決(民集21巻7号1887頁、行政判例百選70事件)は買収計画の取消しを認めている
 → 農地買収計画への不服申立てが認められていたので、処分性が認められた
 
◎ゾーニング型計画(完結型計画)
 
都市計画法の用途地域指定決定について、最高裁昭和57年4月22日第1小法廷判決(民集36巻4号705頁、行政判例百選153事件)は処分性を否定している
 
4 法的効果(大橋p77~85、90)
 
・法的効果を持たない事実行為には処分性が認めれない(ex. 行政指導、勧告、公表)。ただし行政指導である「勧告」に処分性が認められた判例Eには注意
 
処分性が認められなかった事例
 
海難審判法の原因解明裁決に処分性は認められなかった(最高裁昭和36年3月15日大法廷判決、民集15巻3号467頁、行政判例百選158事件)
交通反則金の納付の通告に処分性は認められなかった(最高裁昭和57年7月15日第1小法廷判決、民集36巻6号1169頁、行政判例百選151事件)
 → 刑事訴訟で争うことが制度上予定されている
公務員の内定通知は採用発令の手続を支障なく行うための準備手続としてされる事実上の行為にすぎないとして、処分性が認められていない(最高裁昭和57年5月27日第1小法廷判決、民集36巻5号777頁)
 
※事実行為でも、身体や財産に直接実力行使をするような「公権力の行使にあたる事実上の行為」(権力的事実行為)は、取消訴訟の対象となる
  ex. 人の収容、物の留置
 
公共施設の稼働
 
・厚木基地訴訟(最高裁平28年12月8日第1小法廷判決、民集70巻8号1833頁、行政判例百選150事件)では、自衛隊機の離着陸に関する運行は防衛大臣の権限行使と捉えられ、処分性が肯定されている(詳しくは差止訴訟の回で)
 
通知に処分性が認められた事例
 
・@通知に続いて相当な確実性をもって強制執行活動がなされること、A強制執行活動は多くの場合に短期で完了してしまうことに着目して、通知の取消訴訟を認めた判例がある
 
・税関長のする輸入禁制品該当の通知は、「通関手続の実際において、...実質的な拒否処分(不許可処分)として機能している」として処分性が認められた(最高裁昭和59年12月12日大法廷判決、民集38巻12号1308頁、行政判例百選159事件)
行政代執行の戒告、税務署長の納税の告知に処分性が認められた(納税告知について、最高裁昭和45年12月24日第1小法廷判決、民集24巻13号2243頁、行政判例百選61事件)
・登録免許税還付通知拒絶通知には処分性が認められた(最高裁平成17年4月14日第1小法廷判決、民集59巻3号491頁、行政判例百選161事件)
 
◎行政指導である勧告に例外的に処分性を認めた判例

判例E 最高裁平成17年7月15日第2小法廷判決(民集59巻6号1661頁、行政判例百選160事件)
 
 XはY(県知事)に、病院開設許可申請を行ったが、Yは、高岡医療圏の病院の病床数は、富山県地域医療計画に定める必要病床数に達しているという理由で、開設を中止するよう勧告した。Xは勧告の違法性を取消訴訟で争った。
 
 「(旧)医療法30条の7の規定に基づく病院開設中止の勧告は,医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められているけれども,当該勧告を受けた者に対し,これに従わない場合には,相当程度の確実さをもって,病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができる。...保険医療機関の指定を受けることができない場合には,実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになる。このような医療法30条の7の規定に基づく病院開設中止の勧告の保険医療機関の指定に及ぼす効果及び病院経営における保険医療機関の指定の持つ意義を併せ考えると,この勧告は,行政事件訴訟法3条2項にいう『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』に当たる」。

 
5 法律に基づく行為(大橋p85〜89)
 
・契約は契約当事者の意思の合致に基づき効力が認められることから、法律に基づき法的効力が認められる処分に該当しない
 ex. 普通財産の売払いに処分性を認めなかった最高裁昭和35年7月12日第3小法廷判決(民集14巻9号1744頁、行政判例百選146事件)
 
・契約と行政行為の区別は絶対的ではない。例えば補助金交付は贈与契約だと理解できるが、法律に基づく「交付決定」の部分に着目すれば行政行為である
 → 補助金交付に処分性が認められる余地がある
 
 「労働基準監督署長が行う労働者災害補償保険法の就学援護費の支給又は不支給の決定は、...被災労働者又はその遺族の(支給請求権)に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたる(最高裁平成15年9月4日第1小法廷判決、判例時報1841号89頁、行政判例百選157事件)
 
・食品衛生法16条の検疫所長の届出に対する食品が法違反であるという「通知」に処分性が認められた(最高裁判所平成16年4月26日第1小法廷判決、民集58巻4号989頁)
 
※行政上の不服申立てが認められていることは「処分性」認定の一要素となる
 
 供託について、「実定法は、...供託官の却下処分に対しては特別の不服審査手続をもうけているのである。」供託官が供託物取戻請求を理由がないと認めて却下した行為は行政処分である(最高裁昭和45年7月15日大法廷判決、民集24巻7号771頁、行政判例百選147事件)
 
       次回は「原告適格」「訴えの利益、取消訴訟の審理(1)」大橋p91~149