行政法U 第17回 「訴訟の終了、仮の救済」
正木宏長
※引用なき条文の指定は行政事件訴訟法から
1 訴訟参加(大橋p183〜p187)
 
・訴訟参加 : 第三者が新たに当事者またはこれに準じる主体として訴訟行為を行うために継続中の訴訟に加入する行為を訴訟参加という(伊藤眞『民事訴訟法』)
 → 民事訴訟法では、補助参加、独立当事者参加、共同訴訟参加がある(民事訴訟法42条、47条、52条)
 行政訴訟でも民事訴訟法42条の補助参加をすることができる(最高裁平成15年1月24日第3小法廷判決、集民209号59頁、行政判例百選187事件)
 
・行政事件訴訟法独自の、権利を侵害される第三者の参加制度(22条1項、2項)
→二重効果的処分での第三者の参加を想定している。民訴訴訟法の参加とは別の参加制度  ex. 建築確認取消訴訟に建築主が訴訟参加する
 
・第三者の訴訟参加の申立を却下する決定が下されたとき、第三者は即時抗告することが出来る(23条3項)
 
・参加した第三者の地位は、必要的共同訴訟の共同訴訟人に準じる(22条4項)。だが、第三者は独自の訴訟法上の請求を持たず、共同訴訟人としての資格はないので、補助参加よりも独立性の高い共同訴訟的補助参加に類する地位に立つとされている(最高裁昭和40年6月24日第1小法廷判決、民集19巻4号1001頁)
 
 共同訴訟的補助参加 : 特徴としては、主たる当事者の訴訟行為に抵触する場合であっても、補助参加人の行為が主たる当事者に有利なものであるときは、その効力が認められることが挙げられている。主たる当事者が上訴権を放棄しても、共同訴訟的補助参加人は上訴できるなど。また、上記最高裁昭和40年6月24日第1小法廷判決によると、被参加人だけで控訴を取り下げたとしても、参加人の控訴が効力を失うわけではない。
 
・他の行政庁も裁判所の職権又は申立てで訴訟参加できる(23条1項、2項)
 → 監督権を持っている上級行政庁や関係行政庁の参加が想定されている。参加した行政庁の地位は補助参加人に準じる(23条3項、民事訴訟法45条1項)
 
2 取消訴訟の終了(大橋p190〜p193)
 
・当事者の意思による終了として原告による訴えの取下げ、和解がある
・実務では和解は、原告の訴えの取下げと、行政庁の処分の職権取消しとによる
・取消訴訟は、訴えの取下げ等がなければ、判決によって終了する

 却下 :訴訟要件を欠いているとき。本案の違法性判断はされない。
 棄却 :違法事由がない場合
 認容 :請求を認め、処分を取消す

 
・一部取消判決も可能であると解されている(固定資産の評価決定につき、最高裁平成17年7月11日第2小法廷判決、民集59巻6号1197頁、行政判例百選203事件)
 
3 取消判決の効力(大橋p193〜p210)
 
(1) 形成力
 
・取消判決の性質について形成訴訟説に立てば、取消判決は形成力を持つ
 
(2) 第三者効
 
・「処分又は裁決を取消す判決は、第三者に対しても効力を有する(32条1項)。」
・原告と対立関係に関係にある第三者に判決の効力が及ぶことには異論がない
ex. 土地収用裁決の取消判決について起業者、農地買収処分の取消判決について農地買受人、建築確認の取消判決について建築主
 
※問題となるのは公共料金の値上認可の取消訴訟のような場合、値上げが取消された場合は原告と利益を共通する第三者にも判決の効力が及ぶかである

 相対的効力説 :第三者には効力が及ばないとする説
 絶対的効力説 :第三者にも効力が及ぶとする説

 
(3) 既判力
 
・終局判決が確定した場合、両当事者が終局判決中の訴訟物に関する判断を争うことは許されず、他の裁判所もその判断に拘束されるということ
 
(4) 拘束力
 
・取消判決は行政庁の判断を拘束する(33条1項)
・行政庁が判決の趣旨に従って行動する実体法上の義務を課すもの
・行政庁を拘束するという点で、裁判所を拘束している既判力とは異なる
・申請に対する不許可処分の取消しの場合(33条2項)と、手続に違法があることを理由とする申請に基づく処分等の取消しの場合の規定(33条3項)
・先行処分が取消訴訟で取消されれば、後行処分を取消す義務が行政庁に生じる
 
(5) 反復禁止効
 
・取消判決がなされたとき、行政庁は同一事情の下では同一理由に基づく同一処分をすることが出来なくなる(伝統的行政法学はこれを拘束力による効果だとする)
 ex. ある外国人に対して、他の外国人の不法入国を助けたとして(入国管理法24条4号ル)、退去強制令書が発せられた場合(入国管理法47条5項)、これが取消訴訟で取消された場合には、同じ理由で同一の処分をすることは出来ない
 
・反復禁止効により同一事情の下で同一理由に基づいて処分をすることはできなくなるが、では別の理由でなら同一処分は出来るか?
 ex. ある外国人が不法入国を助けたとして退去強制令状が発せられたが取消訴訟で取消された場合に、売春の周旋(入国管理法24条4号ヌ)を理由に再び退去強制令状を発することが出来るか?
 → 別理由の場合、反復禁止効は及ばない。行政庁は再び処分が出来る。取消訴訟の訴訟物は違法性一般だが、反復禁止効は、判決で確定された具体的違法事由のみにかかるから
 
(6) 請求棄却判決の効力
 
・棄却判決が確定すると既判力により、原告はもう一度処分の取消しを求めて訴訟を提起することができない。提起しても裁判所は却下する
・判決では行政処分が違法ではないということが確定するだけなので、行政庁が職権取消しをすることは可能
・取消訴訟の棄却判決の既判力は国家賠償には及ぶという考えと、国家賠償のほうが違法性の範囲が広いから及ばないという考えがある
 
4 事情判決(大橋p207〜p210)
 
・事情判決制度(31条1項)
 → 裁判所は、ある程度既成事実が完成していて、取消判決を下すことが公共の福祉に適合しないときは、事情判決により、処分の違法を宣言したうえで、請求を棄却することができる。
・事情判決は損害賠償の見通しがあるような場合になされるが、損害賠償の訴訟においては、故意・過失を別に要件としていると解される
 
 事情判決が下された事例としては最高裁昭和33年7月25日第2小法廷判決(民集12巻12号1847頁、行政判例百選202事件)がある。この事例では区画整理事業の実施が終わっていたという事情があり、「認可を取消すことにより、多数の農地、多数の人について生じた各種法律関係及び事実状態を一挙に覆滅し去ることは、著しく公共に反する」として事情判決が下された
 
・原状回復が不能であるために、狭義の訴えの利益を否定する判例もあるが、事情判決制度を活用するべきであろう。最高裁平成4年1月24日第2小法廷判決(民集46巻1号54頁、行政判例百選178事件)もこのことを確認している
・議員定数不均衡判決でも事情判決の法理が「一般的な法の基本原則」であるとして、利用されている。例えば、最高裁昭和51年4月14日大法廷判決(民集30巻3号223頁、行政判例百選212事件)
※終局判決以前に中間違法宣言判決として事情判決を下すことも出来る(31条2項)。損害賠償等での和解勧告機能を果たしうる
 
5 仮の救済(大橋p292〜p308)
5.1 執行停止
 
・行政事件訴訟法では執行不停止原則を採用している(25条1項)
・公権力の行使に対して民事保全法の仮処分はできない(44条)
 

・執行停止が司法上の権限か行政上の権限かは学説に争いがある。
行政権説 :裁判所に仮の救済の権限を与えるかどうかは立法政策の問題
司法権説 :仮の救済制度の設置は憲法上の要請であり司法権の一部

 
・25条〜29条で仮の救済として、執行停止制度を定めている
・執行停止をするには訴訟が係属していなければならない
・執行停止は当事者の申立てによって行われる
 
・執行停止の管轄裁判所は本案の係属する裁判所である(28条)
・執行停止の種類としては、効力の停止、執行の停止、手続の続行の停止がある

 効力の停止    :処分の効力そのものの存続を暫定的に差し止める
 執行の停止    :処分の執行力を奪い、実現を差し止める
 手続の続行の停止 :後行処分を行うことを差し止める    

 
・平成16年改正で執行停止の要件が「回復困難な損害」から「重大な損害」になった。
・平成16年改正で25条3項により、「裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする」とされた。
 →重大な損害の主張・疎明責任は申立人が負う
 
 最高裁平成19年12月18日第3小法廷決定(判例時報1994号21頁、行政判例百選199事件)では、弁護士に対する業務停止三月の懲戒処分によって生ずる社会的信用の低下、業務上の信頼関係の毀損等の損害が「重大な損害」にあたるとして、執行停止が認められている
 

判例@ 最高裁昭和52年3月10日第3小法廷決定(判例時報852号53頁、行政判例百選201事件)
 
 (平成16年改正以前の事例)外国人Xは退去強制令状の発布を受けていたので、取消訴訟で取消しを求めていた。Xは退去強制の執行停止を求めたところ、一審決定では、送還部分に限り本件令状を一審判決言い渡しまで執行停止するとの決定を下した。Xは、これでは、上訴して裁判を受ける権利が侵害されると、最高裁まで抗告していた
 
 かりにXが一審で敗訴して「本国に強制送還されたとしても、Xはそれによつて直ちにわが国において本案について上訴して裁判を受ける権利を失うわけではない。もっとも、Xが本国に強制送還され、我が国に在留しなくなれば、自ら訴訟を追行することは困難となる...が、訴訟代理人によって訴訟を追行すること可能」である。

 
 → 外国人の退去強制については、送還部分については執行停止が認められるが、収容部分については執行停止の必要性が否定される傾向にあるとされるが、近時は収容部分の執行停止も認める裁判例が現れている
 
「執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない。」(25条4項)
 →この条項の適用についての主張・疎明責任は、行政側にある。
※25条4項は集団示威行進や集会、土地収用関係の地裁決定で適用例有り
 
・執行停止の効力は将来にわたってのみ効力を有する
 
 農地買収計画が執行停止されても、既になされた買収の効力が否定されるわけではない(最高裁昭和29年6月22日第3小法廷判決、民集8巻6号1162頁、行政判例百選200事件)
 執行停止は将来に向かって効力を有するので、回復すべき現状がないときには認められない。例えば、営業免許申請不許可処分についての執行停止は認められてはいない。
 
・執行停止は第三者効を持つ(32条2項)、一定の拘束力も持つ(33条4項)
・執行停止後、事情変更があったとき、相手方は裁判所に執行停止決定の取消しを求めることができる(26条)
 
5.2 内閣総理大臣の異議制度
 
・執行停止に対して内閣総理大臣は異議を述べることができる(27条1項)
・異議には、理由を附さなければならない。(27条2項、3項)
・執行停止の申立てがあった場合、内閣総理大臣が異議を申し立てると、裁判所は執行停止ができなくなる。既に執行停止決定をしていた場合、裁判所はこれを取消さなければならない(27条4項、5項)
・内閣総理大臣が異議を申し立てた場合、次の常会において国会に報告をしなければならない(27条6項)
・集団示威行進の不許可処分の執行停止に対して内閣総理大臣の異議の適用事例がある(東京地裁昭和42年6月9日決定、行集18巻5号・6号737頁)
・裁判所は内閣総理大臣の異議について審査権を有しないと解されている
→ 伝統的行政法学はこれを執行停止の権限は本来行政作用であるからと説明していた。執行停止を司法作用と考える現在の学説からは批判されている
 
  次回は「無効確認訴訟」「当事者訴訟」大橋p211〜224、269〜291 、317〜319