行政法U 第19回「当事者訴訟」
正木宏長
※指定のない条文の引用は行政事件訴訟法から
1 総説(大橋p269〜273)
 

「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの」(行政事件訴訟法4条前段)
 → 形式的当事者訴訟
「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」(行政事件訴訟法4条後段)
 → 実質的当事者訴訟

 
・公法に係る事件を行政事件として、処分その他「公権力の行使に関する不服の訴訟」は抗告訴訟となるので、「公法上の法律関係に関する訴訟」が、公法上の当事者訴訟となる
 
・ 公法・私法二分論を前提として、公権を訴訟物とするものが立法時想定されていた(4条後段)
ex. 公務員の俸給請求訴訟、公務員の懲戒免職処分の無効を前提とする身分確認の訴え、国立学校の学生の退学処分の無効を前提とする在学関係確認の訴え、憲法29条3項に基づく損失補償請求
 
・平成16年改正で、「公法上の法律関係に関する確認の訴え」が追加された
 

◎公法上の当事者訴訟の種類
 
@処分ではない活動に対する行政訴訟
a)処分ではない行為の無効を前提に公法上の権利・義務を争う訴訟
(b)処分ではない行為に対する訴訟
 
A公法上の権利・義務を争う訴訟
 
B処分の無効を前提に公法上の権利・義務を争う訴訟
 
C形式的当事者訴訟

 
 
→ @〜Bが実質的当事者訴訟と呼ばれる
 
2 処分ではない活動に対する公法上の当事者訴訟(大橋p274〜282、p317〜318)
2.1 確認の利益 
 
・かつての裁判例では、政令・省令、行政計画、通達、行政契約、行政指導、条例については、処分性が否定され、取消訴訟で争うことは困難であった
 
・行政事件訴訟法平成16年改正において、4条に「公法上の法律関係に関する確認の訴え」という文言が追加された。この修正は公法上の当事者訴訟のうち確認訴訟の活用を促すためだとされる
 → 確認の利益が認められれば、処分に該当しない行為についても公法上の確認訴訟により、権利救済を得ることができる
 
 内閣総理大臣答弁書によると、「行政立法、行政計画、行政指導等のそれ自体としては抗告訴訟の対象とはならない行政の行為を契機として争いが生じた公法上の法律関係に関し確認の利益が認められる場合」を想定している(橋本博之、改正行政事件訴訟法、p83)
 

◎確認の利益の審査
 
@方法選択の適否 : 確認訴訟によることが適切かどうか
 → 行政訴訟であれば抗告訴訟が利用できるなら確認訴訟は不適切である
 
A即時確定の利益 : 原告の権利ないし法律関係に対して危険なり不安が現実的に存在しているか
 
B対象選択の適否 : 有効で適切な紛争解決に資する対象が選択されているか
 → 地位を有することの確認、権利・義務を有することの確認、というように適切な確認訴訟の対象が選択されているか

 
 
◎行政指導や行政計画への訴訟

判例@ 東京地裁平成6年9月9日判決(行集45巻8・9号1760頁)
 
 Y(青梅市)の一般廃棄物処理計画は、区域ごとに金属製のダストボックスを設置したうえで、そこからゴミの収集を行うという方法をとっていた。
 市街地開発等指導要綱による行政指導の対象となる建物建設の事業主であるXは、市長にダストボックスの交付を受けたい旨申し出たが、市長は指導要綱に基づく協議が成立していないとして(Xは公共施設整備分担金の納付などに応じていなかった)、申し出を拒絶し、ダストボックスを設置しなかった。Xは、Yがダストボックスを交付し、本件置き場からごみを収集義務を負うことの確認を求めて訴訟を提起した。
 
 「XのYに対する本件収集義務の存在確認の訴えは、ごみの収集義務という公法上の義務の存否に関する当事者訴訟と解され、本件建物の占有者であるXとYとの間に右義務の存否を巡って紛争が存在しており、その確認を求める以外に紛争解決のための適切な手段がない以上、Xは、右義務の存在確認を求める法律上の利益を有すると解するのが相当である。」
 (本案請求は棄却された)

 
 → 判例@で、先決問題として一般廃棄物処理計画や要綱や行政指導が争われていることに注目
 
2.2 確認訴訟の活用例 
 
・理論上、次のようなものを考えることができる
  ex. 通達・行政指導に服する義務がないことの確認を求める訴え
  ex. 行政計画や行政立法に変更があった時の、営業しうる地位の確認の訴え
 
 最高裁平成25年1月11日第2小法廷判決(医薬品ネット販売訴訟、民集67巻1号1頁、行政判例百選50事件)は、一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について郵便等販売を規制していた薬事法施行規則が争われたものである。薬事法施行規則は違法無効なものであるとして郵便販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認を求める訴えを、最高裁は適法なものとしている(本案請求も認容
 
・処分以外の不利益措置を当事者訴訟で争うことができる
 

判例A 最高裁平成24年2月9日第1小法廷判決(民集66巻2号183頁、行政判例百選207事件)
 
 卒業式における起立・斉唱義務に従う意思のない教員が、昇級面での不利益や再雇用の不承認のような懲戒処分以外の処遇上の不利益措置を予防しようとする場合に、当事者訴訟を用いることができるか?
 
「本件通達を踏まえ,毎年度2回以上,都立学校の卒業式や入学式等の式典に際し,多数の教職員に対し本件職務命令が繰り返し発せられており,これに基づく公的義務の存在は,その違反及びその累積が懲戒処分の処分事由及び加重事由との評価を受けることに伴い,勤務成績の評価を通じた昇給等に係る不利益という行政処分以外の処遇上の不利益が発生し拡大する危険の観点からも,都立学校の教職員として在職中の上記上告人らの法的地位に現実の危険を及ぼすものということができる。このように本件通達を踏まえて処遇上の不利益が反復継続的かつ累積加重的に発生し拡大する危険が現に存在する状況の下では,毎年度2回以上の各式典を契機として上記のように処遇上の不利益が反復継続的かつ累積加重的に発生し拡大していくと事後的な損害の回復が著しく困難になることを考慮すると,本件職務命令に基づく公的義務の不存在の確認を求める本件確認の訴えは,行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとしては,その目的に即した有効適切な争訟方法であるということができ,確認の利益を肯定することができるものというべきである。」

 
 → 処分を差し止める場合には差止訴訟、処分以外の処遇上の不利益措置を予防する場合には公法上の当事者訴訟という利用区分を示した(差止訴訟部分については差止訴訟の講義で紹介する)
 
 1の紛争について差止訴訟と公法上の当事者訴訟の両方の提起が考えられる場合があるが、大橋は、こうした場合、訴訟類型の選択は原告の自由に委ねられるという立場である(大橋p282)
 
※地位の確認訴訟という形ではなく、端的に行政計画や行政立法の違法確認訴訟を求めることが出来るかどうかには学説上、争いがある。大橋は行為確認訴訟も提起できるという立場
 
2.3 当事者訴訟の訴訟手続 
 
・行政庁の参加(23条)、職権証拠調べ(24条)、判決の拘束力(33条1項)、訴訟費用の裁判の効力の規定(35条)は当事者訴訟にも準用される
 
・仮の救済について、当事者訴訟に執行停止の規定は準用されていないが、執行停止を認めることや、民事の仮処分を認めることが、主張されている
 
3 公法上の権利・義務を争う当事者訴訟(大橋p283〜286) 
 
・ 国籍の確認訴訟、社会保障給付訴訟、公務員・議員の俸給請求訴訟については、平成16年改正以前より公法上の当事者訴訟が認められていた。
・法律や条令に基づいて、直接、支払い請求権のような公法上の法律関係が成立する場合、公法上の当事者訴訟によって争うことができる
 
 最高裁平成23年10月25日第3小法廷判決(民集65巻7号2923頁)では、保険診療と自由診療を併用する混合診療を受けた場合につき、保険診療については健康保険法63条1項の「療養の給付」を受ける権利を有することの確認の訴えについて厚生労働省の解釈を支持する本案判決を下している。この事例では、確認の訴えを通じて厚生労働省の法律解釈が争われている
 

判例B 最高裁平成17年9月14日大法廷判決(民集59巻7号2087頁、行政判例百選208事件)
 
 Xらが在外邦人に選挙権を与えない公職選挙法を争った
 
 「選挙権は,これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず,侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから,その権利の重要性にかんがみると,具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては,それが有効適切な手段であると認められる限り,確認の利益を肯定すべきものである。そして,本件の予備的確認請求に係る訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして,上記の内容に照らし,確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである。なお,この訴えが法律上の争訟に当たることは論をまたない。」
 (次回の衆議院議員の総選挙において投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えが認められた。改正前の公職選挙法の違法確認の訴え、改正後の公職選挙法の違法確認の訴えは、訴えの成熟性を欠き不適法とされている)

 
 最高裁昭和41年7月20日大法廷判決(民集20巻6号1217頁)では、薬局開設を許可制にする薬事法第5条は憲法に反する無効なものであるとして、原告が薬局を開設するについて、都道府県知事に対し薬局開設の許可またはその更新を求める義務は存在しないことの確認を求める訴え(薬局開設許可又は許可更新に関する義務不存在確認請求)が認められている(本案の憲法違反の主張は棄却)
 最高裁平成20年6月4日大法廷判決(国籍法違憲判決、民集62巻6号1367頁)は、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子からの、日本国籍を有することの確認を求めた訴えを認めた
 
4 処分の無効を前提とする当事者訴訟(大橋p286〜287)
 
・取消訴訟の出訴期間経過後に、公務員の懲戒免職処分の無効を主張するような場合、行訴法36条により、当事者訴訟で争うべきものとされる
 
5 形式的当事者訴訟(大橋p287〜291、p318〜319)
 
・実質は抗告訴訟であるが、当事者訴訟の形式で争われるものを形式的当事者訴訟と呼ぶ
・行政事件訴訟法の4条前段は形式的当事者訴訟を定めている
 

土地収用法の権利取得裁決
 
・収用委員会の権利取得裁決のうち、補償額についての争いは当事者間で争う。本質的には収用委員会の権利取得裁決を訴えるべきなのだが、土地収用法は損失補償額について当事者間の争いに任せている(土地収用法133条3項)
・他に著作権法72条では、著作物の放送(著作権法68条)等について文化庁長官の定める補償金の額についての争いを、形式的当事者訴訟に委ねている

 
・形式的当事者訴訟が提起された場合、裁判所は行政庁に通知する(39条)
・被告を誤った場合の救済規定である15条は法令に出訴期間の定めがある当事者訴訟(形式的当事者訴訟)にも適用される(40条2項)
・釈明処分の特則の規定(23条の2)は、当事者訴訟における処分又は裁決の理由を明らかにする資料の提出について準用する(41条1項、処分を前提としない場合適用されない)
 
次回の講義は「不作為の違法確認訴訟、義務付け訴訟」「差止訴訟」大橋p225〜268、308〜317