行政法U第20回「不作為の違法確認訴訟、義務付け訴訟(1)」
  正木宏長
※条文の指定なき引用は行政事件訴訟法からです
1 不作為の違法確認訴訟(大橋p241〜242)
 
・行政事件訴訟法は、申請に対する応答がなかった場合の、不作為の違法確認訴訟法を定ている(3条5項、37条)
 ex. 事業の許可申請をした者は、申請に対して許可なり不許可なりの応答がいつまで経ってももらえないとき、不作為の違法確認訴訟を提起することが出来る
 
・違法確認ということであるから訴訟の性質としては、「確認訴訟」
・訴訟を提起するには法文解釈上、申請権にもとづく申請であることが必要(ただし、申請が手続上適法なものである必要はない。行政庁には不適法な申請を却下する義務があるから)

判例@ 最高裁昭和47年11月16日第1小法廷判決(民集26巻9号1573頁、行政判例百選122事件)
 
 Xは、取引相手のAが、独占禁止法違反の不当な取引制限をしたとして、Y(公正取引委員会)に対し、独占禁止法45条1項にもとづき、措置要求をしたが、YはAに何の処分もしなかった。そこでXはYに対して不作為の違法確認訴訟を提起した。
 
 独占禁止法「45条1項は、Yの審査手続開始の職権発動を促す端緒に関する規定であるにとどまり、報告者に対して、公正取引委員会に適当な措置をとることを要求する具体的請求権を付与したものであるとは解されない。」
 「Yは、独占禁止法45条1項に基づく報告、措置要求に対して応答義務を負うものではなく、また、これを不問に付したからといつて、被害者の具体的権利・利益を侵害するものとはいえないのである。したがつて、Xがした報告、措置要求についての不問に付する決定は取消訴訟の対象となる行政処分に該当」しない
(申請が法令に基づくものではないとして却下判決を下した原審を支持)

 
・裁判所が、行政庁は、「相当の期間」を経過してもなお、なんら応答をしていないと認定したなら、原告は勝訴する
 → 行政手続法の標準処理期間を経過したなら直ちに違法となるものではない
 
・違法性判断の基準時は判決時である。判決までに行政庁が応答をすれば訴えの利益は消滅する
・請求認容判決により、行政庁は、原告に対して、なんらかの処分(認容処分、拒否処分)をしなければならない。判決に拘束力は認められている(33条、38条)
 
※不作為の違法確認訴訟で勝訴しても、申請に対して不許可処分がなされたのなら、原告は救済されない。そこで、平成16年改正により、あらたに申請に対して自己に有利な処分(申請認容処分)を求める義務づけ訴訟が法定された(37条の3)
 
2 義務付け訴訟(大橋p225〜251)
 
・平成16年改正により、抗告訴訟の一類型として義務付け訴訟が法定された
申請満足型義務付け訴訟(3条6項2号、37条の3)と直接型義務付け訴訟(3条6項1号、37条の2) の2種類がある
※義務付け訴訟は給付訴訟としての性質を持つと解される
 
2.1 申請満足型義務付け訴訟(申請型義務付け訴訟)
 
・申請について自己に有利な何らかの処分を義務付けるタイプの義務付け訴訟
 → 不作為の違法確認訴訟は、申請に対して何らかの応答を促すのみなので、勝訴しても申請拒否処分がされる可能性がある。申請満足型義務付け訴訟で勝訴すれば申請者は自己の望む処分を得ることができる
 → 申請拒否処分に対して取消訴訟を提起して勝訴した場合でも、異なる理由で再度拒否処分をすることができる。申請満足型義務付け訴訟で勝訴すれば申請者は直ちに給付を得られる
 
(1)訴訟要件
 
・要件としては、37条の3第1項によると、二つの場合を想定している
→ 申請又は審査請求に対して行政庁の応答がない(不作為)の場合(1号)
→ 申請又は審査請求に対して行政庁が当事者に棄却や却下の処分を下したが、その処分が違法で、認容の処分を下すべき場合(2号)
 
・申請満足型義務付け訴訟の提起には、「法令に基づく申請や審査請求」をすることが必要(37条の3第2項)
 → 申請権が必要
 
「一定の処分」を求めるものであることが必要(対象となる処分の特定性が必要)
 
 在留特別許可をすべきことを命ずることを求める義務付け訴訟なら、裁判所はいかなる種類での在留資格を認めるのか、在留期間をどの程度にするのかが、「一定の処分」を求めるものなのかどうかとして問題となる。東京地裁平成20年2月29日判決(判例時報2013号61頁)は在留特別許可の「内容が一義的に定まるものではない」としたが、申請満足型義務付け訴訟の提起を認め、在留特別許可に「附すべき条件を指定する部分を除いて」認容する判決を下している
 
・申請をした者に限り原告適格が認められる(37条の3第2項)
 
申請満足型義務付け訴訟は単独では提起することが出来ない。申請に応答がない場合なら不作為の違法確認訴訟と、申請が却下・棄却された場合であれば取消訴訟又は無効確認訴訟と訴えを併合して提起することが必要(37条の3第3項)。分離は禁止されている(37条の3第4項)
 → 合理的な紛争解決の観点からの規定。義務付けに至らなくても、取消相当であれば、取消訴訟で救済することができる
 → 取消訴訟との併合提起が必要な場合で、出訴期間遵守や審査請求前置に反した場合、申請満足型義務付け訴訟も不適法となり却下される
 
(2)本案勝訴要件(37条の3第5項)
 
・認容判決をえるためには、第一に@「請求に理由があると認められ」ることが必要
・さらに次のABの要件のいずれかを満たすことが必要
A「その義務付けの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきであることがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ」る
B「行政庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる」
 
・申請満足型義務付け訴訟については違法性判断の基準時が判決時になる。取消訴訟と併合提起した場合、取消訴訟のみ違法性判断の基準時が処分時になる
 
・訴訟の迅速な解決のために、訴訟中に、申請満足型義務付け訴訟との併合が37条の3第3項で義務付けられている訴訟(取消訴訟等)だけに、終局判決を下すことも可能(37条の3第6項)
 →4項は訴訟の分離は出来ないと定めているのでその例外
 
 ex. 申請者が1級の障害年金支給処分を期待して申請したところ、3級と認定する障害厚生年金支給処分が出された場合、申請者は3級処分の取消訴訟と1級処分の申請満足型義務付け訴訟を提起できるが、裁判所が3級処分は違法だが、1級か2級かの認定になお相当の証拠調べを必要とする場合、37条の3第6項に従い、3級処分の取消判決を下して、1級処分の義務付け訴訟の審理を中止することができる。この場合、処分庁による新たな処分が行われる
 
・処分への審査請求の裁決を争う場合、処分そのものを争ったほうが直截的な問題解決に資するので、処分を争える場合は審査請求の裁決の義務付け訴訟を提起することはできない。裁決主義が取られ、処分を争うことができないときには審査請求の裁決の義務付け訴訟を提起することが出来る(37条3項第7項)
 
※申請満足型義務付け訴訟では、行政庁が処分理由を差し替え可能な場合がある
 
(3)判決
 
・義務付け判決が下されると行政庁は判決主文で命ぜられた処分を行わなければならない。義務付け判決は給付判決に該当する
 
(4)申請満足型義務付け訴訟が認容された事例
 
・情報公開訴訟で、不開示処分は違法として、開示を義務づけた事例(さいたま地裁平成18年4月26日判決、判例地方自治303号46頁)
・身体障害を理由に公立保育園への入園を拒否された児童につき、入園不承諾処分は裁量の範囲を超え、又はその裁量権を濫用したものだとして、入園の承諾を義務づけた事例(東京地裁平成18年10月25日判決、判例時報1956号62頁)
 
2.2 直接型義務付け訴訟(非申請型義務付け訴訟)
 
・申請を前提としない義務付け訴訟には37条の2が適用される
・「行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」に提起される(3条6項1号)
 ex. 県知事が違法建築物に対して建築基準法に基づく是正命令を発しないため、近隣住民が県を相手に直接型義務付け訴訟を提起する
 
(1)訴訟要件(37条の2第1項〜4項)
 
@「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり」
A「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」
B「行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者」
の要件を満たすことが必要
 
「一定の処分」の「処分」は具体的一義的に確定される必要はない
 ex. 違法建築に対する除却命令というような具体的なものでなくてもよく、違法建築に対する一定の処分といった形でもよい
 
・直接型義務付け訴訟は「行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。」(37条の2第3項)
「前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第9条第2項の規定を準用する。」(37条の2第5項)
 → 義務付け訴訟を起こすにも、原告適格訴えの利益(法律上の利益)が必要である37条の2第3項)。判断基準は取消訴訟の場合と同じ(37条の2第4項)。事実上の利益では訴えの提起は出来ない
 
・義務付け訴訟の提起には「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれ」が必要
 → 37条の2第2項で「重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする」という解釈の指針が示されている
 
 福岡高裁平成23年2月7日判決(判例時報2122号45頁)は、産業廃棄物処理基準に適合しない産業廃棄物の処理が行われ、生活環境の保全上支障が生じるとして、周辺住民が、県知事が産業廃棄物処分場を経営する事業者に対して措置命令を発することの義務付けの訴えをした事案について、「本件処分場において産業廃棄物処理基準に適合しない産業廃棄物の処分が行われたことにより,鉛で汚染された地下水が...本件処分場の周辺住民の生命,健康に損害を生ずるおそれがある」として重大な損害のおそれの存在を認めた。また、本案についても、知事が「規制権限を行使せず,本件措置命令をしないことは,上記規制権限を定めた法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものであって,その裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる。」として原告の請求を認めた
 
・直接型義務付け訴訟は「その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる」
 ex. 国税については更正の請求制度があるので、減額更正の義務付け訴訟は認められない(広島地裁平成19年10月26日判決、訟務月報55巻7号2642頁)
→ 私人間で民事訴訟が可能であることが当然に「その損害を避けるため他に適当な方法」があるとは言えない
 
(2)本案勝訴要件(37条の2第5項)
 
次の@Aいずれかの場合原告は勝訴(義務付けが認容される)
@「行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ」るとき
A「行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき」
 
(3)勝訴判決
 
・勝訴判決の形としては、一定の処分をすることを義務付けるという形(抽象的義務付け判決)と、具体的な処分(ex.建築物除却命令)をすることを義務付けるという形が考えられる
・学説上、処分の際に、諮問機関への諮問が法律上義務付けられているような場合には、具体的な処分の義務付けはできないのではないかという指摘がある
・義務付け訴訟には、取消訴訟の第三者効の規定が準用されていない
 → 3面関係における紛争を解決するためには、直接型義務付け訴訟において第三者の訴訟参加(38条1項、22条)を図ることや、訴訟当事者が第三者に訴訟告知(民事訴訟法53条)をすることが有用
 
(4)直接型義務付け訴訟が認容された事例
 
・非嫡出子の記載を回避するために「父母との続柄」欄が空欄であったため、出生届が不受理とされた子について、住民票の作成が義務づけられた事例(東京地裁19年5月31日判決、判例時報1981号9頁)
 → 高裁は「重大な損害を生ずるおそれ」がないとして請求を却下(東京高裁平成19年11月5日判決、判例タイムス1277号67頁)