行政法U 第3回「行政機関相互の関係、内閣」
正木宏長
1 行政機関相互の関係(宇賀Vp41〜85)
1.1 権限の委任、代理と専決 
 
◎権限の委任
 
権限の委任 : 権限は、委任機関から受任機関に移る。委任機関は当該権限を失う。法律の根拠が必要
ex. 道路運送法の一般旅客自動車運送事業(バス・タクシー事業)の許可権限(道路運送法4条1項)を、国土交通大臣から地方運輸局長(ex. 近畿運輸局長)に、委任する(道路運送法施行令1条1号)
 
 最高裁昭和54年7月20日第2小法廷判決(判例時報943号46頁)は、「行政庁相互の間においていわゆる権限の委任がされ、委任を受けた行政庁が委任された権限に基づいて行政処分を行う場合には,委任を受けた行政庁はその処分を自己の行為としてする」として、旧行政事件訴訟法の下で、権限の委任に基づいてなされた処分について委任庁に被告適格を認めなかった。もっとも行政事件訴訟法の改正により、抗告訴訟の被告は行政主体となったため、被告適格の問題は従前ほどは大きな問題ではなくなった
 
※委任が行われた旨の公示が必要か否かについては、不要とする判例もあるが(大阪地裁昭和50年12月25日判決(判例時報808号99頁)、学説上は必要説もある。
 
・委任がなされても上級機関の下級機関への指揮監督権は残る
 
※民法上の委任と異なり、行政法上の委任は権限自体が移譲される
 
◎権限の代理
 
権限の代理 : 代理者の行為が被代理機関の行為としての法効果を持つ。法定代理と任意代理があり、実務では、任意代理は法律の根拠不要と扱われている
ex. 法定代理として、内閣総理大臣の事故の際の国務大臣による臨時代理(内閣法9条)
 
 民法の代理では顕名主義がとられているが、行政法上の代理の場合にも、「財務大臣代理としての理財局長」のように、代理機関は被代理機関の代理として権限を行使することを明らかにする必要があるとするのが通説である(ただし、最高裁平成7年2月24日第2小法廷判決(民集49巻2号517頁)は、被代理機関の名称を示さずに行われた行為を代理としている)
 
※民法においては表見代理の制度があるが、行政処分権限については、法律による行政の原理に照らして、表見代理は認められないと解されている。
・一身専属的権限は代理させることができないと解されている(異説もある)
 ex. 内閣総理大臣が外遊中の場合の、大臣の罷免など
 
◎専決・代決
 
専決 : 委任や、代理権の授与をすることなく、行政庁の行為を補助機関が当該行政庁の名前で行う。内部委任とも言われる
ex. 補助機関である市役所の課長が、処分庁である市長に代わってハンコを押す。形式的には市長が処分したと見なされる
 
代決 : 決裁権者不在の場合に、あらかじめ指定された者が決裁する。常時代決というように、決裁権者不在でない場合にも代決が行われる場合もある。内部代理ともいう
・ 専決・代決の場合、対外的には処分庁が自ら処分をしていると見なされる。専決・代決に法律の根拠は不要である
 
1.2 行政組織における意思統一 
 
(1)上級機関の指揮監督権
 
・大臣→局長→課長→係長という風に意思統一が図られる
 → 上級機関の下級機関に対する指揮監督権
 
@監視権 : 上級機関の下級機関の事務処理についての調査権
ex. 上級機関が下級機関に報告を求める。書類を閲覧する
 
A同意権 : 法令上、下級機関の事務処理に対して、上級機関が同意を行う権限が認められることがある。不同意への取消しを求めたりすることは、機関訴訟が法定されていないかぎりできない
 
B指揮(訓令)権 : 各省大臣は、所管の諸機関及び職員に対して、訓令又は通達を発することができる(国家行政組織法14条2項)
→ 局長、課長なども指揮権に基づいて訓令・通達を発することができる
 
・ 訓令・通達は私人に対しては拘束力を持たない
・訓令は行政機関を名宛人として出されるものであるが、行政機関の職員に対する職務命令としての性格も有する
※違法な訓令の行政機関への拘束力について、学説は分かれている。宇賀は明白説を支持している
 
C取消し、停止権 : 上級機関が下級機関の行った処分を取消し・停止する権限。法律の明文がない場合の下級機関の行った違法な処分の上級機関による職権取消権については肯定説が有力だが、否定説もある(宇賀Vp62によれば現在では否定説が多数。明文の規定の例としては、内閣法8条)
 
D代行権 : 下級機関が処分を行わない場合、上級機関が代行すること。法律の明文の規定が必要
 ex. 法定受託事務の代行制度について、地方自治法245条の8
 
E裁定権 : 権限争議について内閣法7条は、内閣総理大臣が閣議にかけて、裁定することを定めている
 
(2)調整
 
調整 : 行政組織における意思の統一作用
・各省大臣は当該省で、各局局長は当該局で重要な調整機能を果たす
・広義の調整には、上級機関の指揮監督権も含まれるが、狭義の調整では指揮監督権は除かれる
 
◎統合的調整
 
・行政組織には、上位の立場から調整を行うことを主要な任務とするものがある
→ 内閣官房、内閣府
※我が国では各府省による分担管理を強調する伝統が強固であり、統合的調整を困難にしている
 
◎分立的調整
 
・行政組織間の分立的調整にも近時は大きな関心が寄せられている
ex. 省庁間の権限争議
・「国の行政機関は、内閣の統轄の下に、その政策について、自ら評価し、企画及び立案を行い、並びに国の行政機関相互の調整を図るとともに、その相互の連絡を図り、すべて、一体として、行政機能を発揮するようにしなければならない。内閣府との政策についての調整及び連絡についても、同様とする。」(国家行政組織法2条2項)
 
・2015年の法改正で、各省大臣も「行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務を掌理する。」(国家行政組織法5条2項)とされた
 → 国家行政組織法15条の2によって、関係行政機関の長に対する資料の提出及び説明の要求や、関係行政機関の長に対する勧告などを行う権限が、各省大臣に与えられている
 
※権限行使にあたって行政機関の間での協議を義務づけている法律は多い
※「同意」も分立的調整の仕組みとなりうる
 
◎行政機関における協力の仕組み
 
@共管 : 事務の所管機関を一つに限定せず、複数の行政機関が共同で意思決定をし、対外的にも複数の機関の名で表示する
 ex. 石油パイプライン事業法41条1項2号は、石油パイプライン事業の許可について経済産業大臣及び国土交通大臣を主務大臣としている
 
A共助 : 対等又は独立の行政機関間の協力の意味で共助の語が用いられることがある
→ 「消防及び警察は、国民の生命、身体及び財産の保護のために相互に協力をしなければならない。」(消防組織法42条1項)。
 
※ 情報の共有について、行政機関個人情報保護法8条1項、2項により、個人情報の目的外利用・提供は例外事由に該当しない限り禁止されている。
 
2 内閣(宇賀Vp93〜135)
2.1 内閣の組織 
 
・「行政権は、内閣に属する。」(日本国憲法65条)
・「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。」(日本国憲法66条3項)
 → 議院内閣制:内閣は国会の信任の下に成立し、その職務を遂行する
 
・「内閣は、国会の指名に基づいて任命された首長たる内閣総理大臣及び内閣総理大臣により任命された国務大臣をもつて、これを組織する。」(内閣法2条1項)
・「前項の国務大臣の数は、14人以内とする。ただし、特別に必要がある場合においては、3人を限度にその数を増加し、17人以内とすることができる。」 (内閣法2条2項)
・内閣の権限は、法律の執行、国務の総理、外交の処理、条約の締結、官吏に関する事務の掌理、予算の提出、政令の制定、恩赦(日本国憲法73条)
 
 内閣の権能は行政各部の指揮監督に限定されるという内閣の所掌事務についての狭義説があるが、内閣が分担管理の対象となる行政事務を行うこともできるという広義説が通説である
 
2.2 内閣総理大臣の権限 
 
@日本国憲法
 
・国務大臣の任命(68条)
・内閣を代表して、議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係については国会に報告し、行政各部を指揮監督する(72条)
・法律及び政令への国務大臣の署名、内閣総理大臣の連署(74条)
・国務大臣の訴追への同意(75条)
 
A内閣法
 
・閣議を主宰する(4条)
・内閣の法律案や予算案を内閣を代表して国会に提出する(5条)
・閣議で決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督する(6条)
・主任の大臣間の権限についての疑義の裁定(7条)
・行政各部の命令や処分を中止することができる(8条)
 
・内閣の意思は閣議を通じて全員一致で決定することが慣習
・内閣法4条2項で「内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議することができる。」ことが規定されるなど、内閣総理大臣の指導力の強化が進んでいる
 
2.3 国務大臣 
 
・内閣総理大臣とともに合議体としての内閣を構成する(内閣法2条1項)
 → 財務大臣のような「主任の大臣」以外の構成員として、内閣官房長官、国家公安委員会委員長、特命担当大臣
 → 沖縄及び北方対策担当大臣と金融担当大臣のような内閣府設置法10条〜11条の2で法定で必置の特命担当大臣と、その他の特命担当大臣(ex. 特命担当大臣(防災担当))がある
 
※行政事務を分担管理しない「無任所大臣」を国務大臣としておくことができる(内閣法3条2項)
 
2.4 内閣補助部局 
 
・内閣を補助する部局として、内閣官房、内閣府、内閣法制局、国家安全保障会議などが置かれる
 
・内閣官房は、閣議事項の整理その他内閣の庶務、内閣の重要政策に関する基本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務、閣議に係る重要事項に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務、行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務、国家公務員に関する制度の企画及び立案に関する事務などを行う(内閣法12条)
 → 内閣官房には内閣官房長官が置かれる(内閣法13条)
 → 内閣官房に内閣人事局が置かれる(内閣法21条)
 
・復興庁設置法により内閣に復興庁が置かれている。復興庁に内閣府設置法、国家行政組織法は適用されない
 → 復興庁の長は、内閣総理大臣(復興庁設置法6条1項)
 
※他に、総合調整のために、法律や閣議決定で内閣に「本部」が置かれている