行政法U 第4回「国の行政機関」
正木宏長
1 国家行政組織法(宇賀Vp169〜248)
1.1 総説 
 
・内閣府以外の、内閣の統括の下に置かれる行政組織については国家行政組織法が組織基準を定めている
・「国家行政組織は、内閣の統轄の下に、内閣府の組織とともに、任務及びこれを達成するため必要となる明確な範囲の所掌事務を有する行政機関の全体によつて、系統的に構成されなければならない。」(国家行政組織法2条1項)
 → 系統性
 
・「国の行政機関は、内閣の統轄の下に、その政策について、自ら評価し、企画及び立案を行い、並びに国の行政機関相互の調整を図るとともに、その相互の連絡を図り、すべて、一体として、行政機能を発揮するようにしなければならない。内閣府との政策についての調整及び連絡についても、同様とする。」(国家行政組織法2条2項)
 →政策評価と一体性
 
・「行政組織のため置かれる国の行政機関は、省、委員会及び庁とし、その設置及び廃止は、別に法律の定めるところによる。」(国家行政組織法3条2項)
 
1.2 省 
 
・「各省の長は、それぞれ各省大臣とし、内閣法にいう主任の大臣として、それぞれ行政事務を分担管理する。」(国家行政組織法5条1項)
 → 分担管理原則
・省庁については、国家行政組織法別表第一に列挙されている。
 → 総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
 
※中央省庁再編に際し、中央省庁改革基本法は、任務を基軸とした目的別編成原則、総合性・包括性原則、政策目的・価値体系別編成原則、均衡原則を定めていた
 
・所掌事務等は各省設置法で規定される。官房、部、局の内部部局については、政令で定められる
 →官房及び局の数について国家行政組織法23条で97以内とされている
 
・各省大臣は、法律案の提出、省令の制定、告示・訓令・通達の発出の権限を有する(国家行政組織法11条〜14条)
・各省には、副大臣、大臣政務官、大臣補佐官、事務次官が置かれる(国家行政組織法16条〜18条)
  → 副大臣、大臣政務官は政治任用職である。政治主導の実現を意図して導入された。2014年に大臣補佐官が新設された
 
1.3 外局 
 
・省の外局として、庁と委員会が置かれる(国家行政組織法3条3項)
・中央省庁等改革基本法では、政策の企画立案機能は省の内部部局が、実施機能は外局が担うべきことが定められた
・外局には法律案・政令案の提出権がなく(国家行政組織法11条。規則を制定することはできる。国家行政組織法13条)、財務大臣に直接、予算請求書を送付できない(財政法20条2項)
 
(1)委員会
 
・通常の行政機関は独任制だが、委員会は合議制
ex. 公害等調整委員会、原子力規制委員会、運輸安全委員会
 
・委員会には事務局、事務総局を置くことができる(国家行政組織法7条7項、8項)
 
 委員会には、行政機関と位置づけられる国家行政組織法3条の委員会(ex.原子力規制委員会)と、附属機関たる審議会等と位置づけられる国家行政組織法8条の委員会(ex.司法試験委員会)とがあるのに注意。省の外局としての委員会は3条の委員会である。8条の委員会は審議会等になる。
 原則として3条機関は自らの名で外部に対して国家意思を表示する行政庁であるのに対して、8条機関は諮問機関に止まるという違いが主張されることがある。しかし、8条機関だが行政庁である機関(ex. 社会保険審査会)もあるため、その差異は不明確である
 
※ 内閣府の外局である公正取引委員会のように、独立行政委員会の性質を持つものは、主任の大臣や内閣から独立して職務を行う。
 → 「公正取引委員会の委員長及び委員は独立してその職務を行う」(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律[独禁法]28条。職権行使の独立性を定めている)
 → 人事の面で内閣総理大臣の統制が及ぶので、完全に独立ではない(独占禁止法29、30、32条)
 
※ 内閣府の外局である国家公安委員会は、委員長が国務大臣である大臣委員会である(警察法6条1項)。
 
(2)庁
 
・専門的な事務を本省から独立して、独自の名と責任で所掌事務を遂行する
ex. 消防庁、公安調査庁、国税庁、スポーツ庁、観光庁、気象庁、出入国在留管理庁
・国務大臣を長とする庁は現在では廃止された(かつては防衛庁や環境庁があった)
・政策庁と実施庁がある。国家行政組織法別表第二の庁が実施庁である、それ以外の庁が政策庁である
・庁の長は長官である
 
1.4 附属機関 
 
・サービスの提供や研究組織としては、内部部局は適合的ではないことから、国家行政組織法は内部部局とは別の附属機関について定めを置いている。
・いかなる業務を内部部局で処理するか、あるいは附属機関を設置して行わせるかについて、特別のルールはない
 
@審議会等(国家行政組織法8条)
 → 「重要事項に関する調査審議、不服審査その他学識経験を有する者等の合議により処理することが適当な事務をつかさどらせるための合議制の機関」
 ex. 社会保障審議会、情報公開・個人情報保護審査会、電波監理審議会、統計委員会
 
・政策提言型審議会、不服審査型審議会、あっせん・調停・仲裁などを行う事案処理型審議会の3つに分類される
 
 審議会の答申の尊重について、最高裁昭和50年5月29日第1小法廷判決(群馬中央バス事件、民集25巻7号1037頁、行政百選118事件)は、一般乗合旅客自動車運送事業免許の申請拒否処分の際の運輸審議会の答申について、「行政処分が諮問を経ないでなされた場合はもちろん、これを経た場合においても、当該諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、その決定(答申)自体に法が右諮問機関に対する諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、これを経てなされた処分も違法として取消をまぬがれないこととなるものと解するのが相当である。」としている。
 
A施設等機関(国家行政組織法8条の2)
 → 「試験研究機関、検査検定機関、文教研修施設、医療更生施設、矯正収容施設及び作業施設」
 ex. 法務省に置かれる刑務所、農水省に置かれる動物検疫所
 
B特別の機関(国家行政組織法8条の3)
 → 内部部局、審議会等、施設等機関にあてはまらないものは、特別の機関として設置される
 ex. 国家公安委員会に置かれる警察庁、法務省に置かれる検察庁、防衛省に置かれる自衛隊
 
1.5 地方支分部局 
 
・「国の行政機関には、その所掌事務を分掌させる必要がある場合においては、法律の定めるところにより、地方支分部局を置くことができる。」(国家行政組織法9条)
 ex. 近畿財務局、大阪国税局、岸和田税務署
 
2 内閣府(宇賀Vp150〜169)
 
・内閣に、内閣府が置かれる(内閣府設置法2条)
→ 内閣府には原則的に国家行政組織法が適用されない
・内閣府の長は、内閣総理大臣とする(内閣府設置法6条)
 
・「内閣府は、内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることを任務とする。」(内閣府設置法3条1項)
・「内閣府は、第1項の任務を遂行するに当たり、内閣官房を助けるものとする。」(内閣府設置法3条3項)
 
→ 内閣府は内閣補助事務を行うとともに、分担管理事務(ex. 栄典制度)を行うという二面的性格を有する(内閣府設置法3条2項)
 
・内閣総理大臣は、内閣府に、内閣総理大臣を助け、事務を執行するために特命担当大臣を置くことができる(内閣府設置法9条)
 → 特命担当大臣には、関係行政機関の長に対する資料提出・説明請求権、勧告権、報告要求権、内閣総理大臣に対する意見具申権が付与されている(内閣府設置法12条)
 
・内閣府に置かれる重要政策に関する会議として、経済財政諮問会議、総合科学技術・イノベーション会議、国家戦略特別区域諮問会議、中央防災会議、男女共同参画会議が法定されている(内閣府設置法18条)
 → 審議会は分担管理事務にかかる事項を審議するのに対して、重要政策事項に関する会議は、内閣補助事務にかかる事項を審議する点で異なる。これらの会議は、諮問機関であるが内閣機能の強化の一環としての性格を持っている
 
・内閣府に、副大臣、大臣政務官がそれぞれ3人置かれる(内閣府設置法13条、14条)・内閣府に、特に必要がある場合においては、大臣補佐官6人以内を置くことができる(内閣府設置法14条の2)
 
◎内閣府の分担管理事務
 
・内閣府は様々な事務を分担管理している ex. 栄典の授与
 
・法律で定めるところにより、内閣府に審議会等が置かれる(内閣府設置法37条)
 → 原子力委員会、再就職等監視委員会、食品安全委員会など
 
・内閣府の施設等機関(内閣府設置法39条)
 → 迎賓館などが施設等機関として内閣府に設置されている
 
・内閣府に置かれる特別の機関(内閣府設置法40条)
 → 地方創生推進事務局、知的財産戦略推進事務局、宇宙開発戦略推進事務局、北方対策本部、子ども・子育て本部、総合海洋政策推進事務局、金融危機対応会議(内閣府設置法40条1項)
 → 民間資金等活用事業推進会議、子ども・若者育成支援推進本部、少子化社会対策会議、高齢社会対策会議、中央交通安全対策会議、犯罪被害者等施策推進会議、子どもの貧困対策会議、消費者政策会議 、国際平和協力本部、日本学術会議、官民人材交流センター(内閣府設置法40条3項)
 
・宮内庁が「内閣総理大臣の管理に属する機関」(宮内庁法1条1項)として、内閣府に置かれる(内閣府設置法48条1項)
 
・内閣府に外局として委員会および庁を置くことができる(内閣府設置法49条1項)
 → 公正取引員会、国家公安委員会、個人情報保護委員会、金融庁、消費者庁、カジノ管理委員会(2019年設置予定)
・内閣府の地方支分部局として沖縄総合事務局が法定されている(内閣府設置法43条、沖縄に所在している)
 
3 人事院(宇賀V141〜149)
 
・「内閣の所轄の下に人事院を置く。人事院は、この法律に定める基準に従つて、内閣に報告しなければならない。」(国家公務員法3条1項)
・ 人事院 : 形式的には内閣の下にあるが、職権行使について内閣から独立性を有する機関
 
・人事院は常勤の3人の人事官からなる。うち1人が内閣により総裁として命じられる(国家公務員法4条、11条)
・人事院に事務総局及び法律顧問を置く(国家公務員法13条1項)
 
◎人事院の主な所掌事務(国家公務員法3条2項)
 ・国家公務員の給与その他の勤務条件の改善及び人事行政の改善に関する勧告
 ・国家公務員の採用試験、任免、給与、研修の計画の樹立及び実施
 
※内閣主導の国家公務員人事を実現するために、人事院廃止論があった。2014年の国家公務員法改正は、人事院の存続を前提としたうえで、人事院から級別定数、確保すべき人材、研修の総合調整にかかる権限を新設の内閣人事局に移管するものだった
 
次回は「地方自治」「特別行政主体、会計検査院」宇賀Vp86〜92、249〜343と地方自治法