行政法U 第5回「地方自治」
正木宏長
1 地方公共団体(宇賀地方自治法p2〜p3、p15〜p100)
1.1 地方自治の本旨 
 
住民自治:地方の事務処理は、当該地域の住民の意思と責任の下に実施する
団体自治:国から独立した地域団体を設け、この団体がその事務を自己の意思と責任において処理する
 
・「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」(日本国憲法92条)
 →法律として地方自治法が定められている
 
・地方公共団体の構成要素:「区域」「住民」「法人格」
・「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」(地方自治法1条の2第1項)
 
1.2 地方公共団体の種類 
 
普通地方公共団体:都道府県、市町村(地方自治法1条の3第2項)
特別地方公共団体:特別区、地方公共団体の組合、財産区、合併特例区(地方自治法1条の3第3項、市町村合併特例法27条)
 
・市町村は基礎的自治体であり、都道府県は広域的自治体である
 
・「都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、第2項の事務で、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理するものとする。」(地方自治法2条5項)
 → 「広域事務」、「連絡調整事務」、「補完事務」
 
・都道府県と市町村は、対等・協力の関係にある
 → 都道府県の条例に反した市町村の行為は無効となる(地方自治法2条16、17項)
 → 都道府県の市町村への関与制度はある(地方自治法245条〜250条の6)
 
2 地方公共団体の事務(宇賀地方自治法p119〜p146) 
 
 かつての事務区分において機関委任事務が存在した。機関委任事務については、地方公共団体の長も、国の機関委任事務を行う限りにおいて、国の機関とされ、主務大臣の下級行政機関として位置づけられていた。機関委任事務については地方公共団体の長も、国の指揮監督に従わなければならないので、地方公共団体の代表としての立場を貫徹することができないと批判されていた。
 1999年の地方分権一括法によって、機関委任事務は廃止された。
 
◎現在の事務区分
 
自治事務:「この法律において『自治事務』とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものをいう。」(地方自治法2条8項)
法定受託事務
1号法定受託事務:国が本来果たすべき役割に係る事務を、都道府県や市町村が事務処理する(地方自治法2条9項1号)
2号法定受託事務:都道府県が本来果たすべき役割に係る事務を、市町村が事務処理する(地方自治法2条9項2号)
 
・地方公共団体が法律上処理する事務のうち、地方公共団体の自主的判断に委ねるものが自治事務とされ、特に国(都道府県)の関心が強いものが法定受託事務だと解される
 ex. 自治事務として、印鑑登録、都市計画決定
 ex. 法定受託事務として、戸籍事務、旅券事務の一部
・自治事務と法定受託事務では国(都道府県)の関与の方式が異なる(後述)
 
3 地方公共団体の機関(宇賀地方自治法p254〜p308) 
3.1 議会と長の関係 
 
・地方公共団体の議事機関 :議会
・地方公共団体の執行機関 :長(都道府県知事、市町村長)
→ 長の他にも地方自治法は執行機関を定めている(地方自治法138条の4。教育委員会など)。これを執行機関の多元主義という
 
・執行機関というのは行政官庁理論で言うところの「行政庁」の意味
※町村は、条例で議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる(地方自治法94条)
 
・地方公共団体の政治・行政組織については二元主義が採用されている
 → 議会と長のそれぞれが、住民の直接選挙によって選ばれ、ともに住民に対して直接の責任を負う
 
3.2 議会と長の権限 
 
(1)議会の権限
 
◎議会の議決事項は地方自治法96条1項に列挙されている。主要なものを挙げると
@条例を設け又は改廃すること、A予算を定めること、B決算を認定すること、C法律又はこれに基づく政令に規定するものを除くほか、地方税の賦課徴収又は分担金、使用料、加入金若しくは手数料の徴収に関すること、Dその種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約を締結すること、E条例で定める重要な公の施設につき条例で定める長期かつ独占的な利用をさせること、F法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか、権利を放棄すること
 
・条例で議会の議決すべき事項を定めることができる(地方自治法96条2項)
・「議会は、予算について、増額してこれを議決することを妨げない。但し、普通地方公共団体の長の予算の提出の権限を侵すことはできない。」(地方自治法97条2項)
 
・議会は地方公共団体の書類及び計算書を検査・検閲することができる(地方自治法98条1項)
・議会は、監査委員に対し、当該地方公共団体の事務に関して監査を求めることができる(地方自治法98条2項)
※検査権、監査請求権は法定受託事務に対して制限がある
 
・地方公共団体の議会は、当該地方公共団体の事務に関する調査を行い、当該調査を行うため特に必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。(地方自治法100条、いわゆる100条調査権)
 
・議会は、長について、議員の3分の2が出席し4分の3の同意で、不信任を議決することができる。不信任に対して長は議会を解散することができる。議会を解散しなかったときや解散後の議会で、議員の3分の2が出席し過半数の同意で、不信任が議決されたとき長は職を失う(不信任決議、地方自治法178条)
・議会は、副知事、副市町村長などの人事についての同意権を持つ(地方自治法162条)
 
(2)長の権限
 
・地方公共団体の長として、市町村には市町村長が、都道府県には都道府県知事が置かれる(地方自治法139条) 
 → 任期4年(地方自治法140条)
 
・「普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を統轄し、これを代表する。」(地方自治法147条)
 → 統括とは地方公共団体の事務を全体として総合統一することをいい、代表とは、長の行った行為が法律上直ちに当該地方公共団体の行為となることを意味する
・「普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体の事務を管理し及びこれを執行する。」(地方自治法148条)
 
◎地方公共団体の長の権限として地方自治法が149条で列挙している事務
@普通地方公共団体の議会の議決を経べき事件につきその議案を提出すること、A予算を調製し、及びこれを執行すること、B地方税を賦課徴収し、分担金、使用料、加入金又は手数料を徴収し、及び過料を科すること、C決算を普通地方公共団体の議会の認定に付すること、D会計を監督すること、E財産を取得し、管理し、及び処分すること、F公の施設を設置し、管理し、及び廃止すること、G証書及び公文書類を保管すること。
 
・長は議会への議案の提出権を有する(地方自治法149条1号)
 
・長は規則を制定することができる。規則で過料を定めることもできる(地方自治法15条)
・長は内部組織の設置・編成権を有する(地方自治法158条)
・長は職員の任免権と、職員に対する指揮監督権を有する(地方自治法154条、172条)
・長はその管理に属する行政庁の違法な処分の取消停止権を持つ(地方自治法154条の2)
 
・長は議会の議決について拒否権を持つ、長が異議を唱えた場合、議会の再議に付され、条例・予算にかかる議決については3分の2の議決で、それ以外については過半数の議決によって確定する。そうでない場合は議案が成立しない(地方自治法176条1項〜3項、一般的拒否権
・@議会による越権・違法な議決があった場合、A義務的経費について議会がこれに反する議決をした場合、B非常災害のための経費について議会がこれに反する議決をした場合について、長の特別拒否権の制度がある(地方自治法176条4項〜7項、177条)
 
・長は議会から要求があった場合は議会に出席する義務を負う(地方自治法121条)
 → 求めがないと出席できないので、出席権を持つ国の国務大臣とは異なる
 
3.3 地方公共団体の組織 
 
・長に対する補助機関(地方自治法161条〜172条)
 → 副知事(副市町村長)、会計管理者、職員
 
・長は、都道府県には支庁、地方事務所、市町村には支所、出張所を設けることができる(地方自治法155条)
・長は、法律に定めにより保健所、警察署その他の行政機関を設ける(地方自治法156条)
 
4 国の地方公共団体に対する関与の仕組み(宇賀地方自治法p391〜p449) 
 
・国と地方公共団体は対等・協力の関係にあることから、地方自治法は国の地方公共団体の関与の法定主義を掲げている(地方自治法245条の2)
 
・「国は、普通地方公共団体が、その事務の処理に関し、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとする場合には、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない。」(地方自治法245条の3第1項)
 
自治事務: 助言・勧告、資料の提出の要求、是正の要求(さらに、都道府県の執行機関から市町村に対し是正の勧告)が基本的関与類型(地方自治法245条の4〜6)
 → 代執行、協議、同意、許可・認可・承認、指示は例外的にのみ認められると位置づけられている(地方自治法245条、245条の3第2項〜6項)
 
法定受託事務: 助言・勧告、資料の提出の要求、同意、許可・認可・承認、是正の指示、代執行、協議が基本的関与類型(地方自治法245条、245条の4、7〜8)
 
 (協議制の例外としての)地方債の起債の許可申請のように、地方公共団体が「固有の資格」で国に許可申請をするような場合について、国の審査基準の設定義務、標準処理期間設定の努力義務、申請等の到達主義、不許可処分をする際の理由付記義務が定められている(地方自治法250条の2〜4。行政手続法が適用除外になるため。届出の到達主義は地方自治法250条の5)
 
・国の権力的関与について不満のある地方公共団体の長は、国地方係争処理委員会に審査の申出をすることができる(地方自治法250条の13)
・国地方係争処理委員会は審査の申出があった場合、審査を経て勧告を行う。相当と認める場合、調停を行う手続も定められている(地方自治法250条の14、19)
・審査の結果に不満のある地方公共団体の長は、審査の申出の相手方となった国の行政庁に対して、関与の取消しの訴え等を高等裁判所に提起することができる(地方自治法251条の5)
 
5 国・地方公共団体間、地方公共団体相互間の訴訟(宇賀Vp86〜92)
 
・国または地方公共団体が、国または地方公共団体を相手に、「固有の資格」(行政手続法4条1項)で提起する訴訟は法律上の争訟とはいえないとされる
 
 「国又は地方公共団体が提起した訴訟であって,財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には,法律上の争訟に当たるというべきであるが,国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は,法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって,自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから,法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく,法律に特別の規定がある場合に限り,提起することが許されるものと解される。」(最高裁平成14年7月9日第3小法廷判決、民集56巻6号1134頁、行政判例百選109事件)
 国民健康保険の保険者であるX(大阪市)がAに行った処分に関し、Y(大阪府国民健康保険審査会)がしたAの審査請求に対する裁決について、「審査会と保険者とは、一般的な上級行政庁とその指揮監督に服する下級行政庁の場合と同様の関係に立ち、右処分の適否については審査会の裁決に優越的効力が認められ、保険者はこれによつて拘束されるべきことが制度上予定されているものとみるべきであつて」、Xはその取消訴訟を提起する適格を有しない(最高裁昭和49年5月30日第1小法廷判決、民集28巻4号594頁、行政判例百選1事件)