行政法U 第6回「特別行政主体、会計検査院」
正木宏長
1 特別行政主体(宇賀Vp270〜305)
1.1 特別行政主体の意義(塩野Vp91〜92)
 
特別行政主体 : 憲法上行政主体たる地位を有している法人以外で、制定法上、行政を担当するものとして、位置づけられているもの
 → 国、地方公共団体のような普通の行政主体としての地位とは異なり、制定法上、特に行政主体としての地位を与えられ、特別の規律に服している。
 
・制定法上、特別行政主体性を有するもの: 独立行政法人、国立大学法人、政府関係特殊法人、公共組合、地方独立行政法人
 
1.2 独立行政法人 
 
独立行政法人: 独立行政法人通則法に基づき設立された法人及び個別法により独立行政法人として設立された法人(ex. 独立行政法人国民生活センター法の中期目標管理法人である独立行政法人国民生活センター)
・独立行政法人通則法は、1999年、行政の減量、企画と実施の分離という政策課題の手段として定められた
 
・「この法律において『独立行政法人』とは、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるもの(以下この条において『公共上の事務等』という。)を効果的かつ効率的に行わせるため、中期目標管理法人、国立研究開発法人又は行政執行法人として、この法律及び個別法の定めるところにより設立される法人をいう。」(独立行政法人通則法2条1項)
 
・2014年改正で、中期目標管理法人、国立研究開発法人、行政執行法人の3類型が設けられた。
・行政執行法人の役員及び職員は、国家公務員とする(独立行政法人通則法51条)
  → 中期目標管理法人、国立研究開発法人は非公務員型
・独立行政法人通則法で、独立行政法人に対する国の、組織、人事、財務、業務について関与が定められている
・国は独立行政法人の業務運営の自主性に配慮しなければならない(独立行政法人通則法3条3項)
 → 関与制度として2014年改正により、主務大臣による命令の制度が設けられた。(独立行政法人通則法35条の3、35条の8、35条の12)
 
※独立行政法人の情報公開・個人情報保護について、独立行政法人情報公開法、独立行政法人個人情報保護法が定められている
 
1.3 国立大学法人 
 
・従来、わが国の国立大学は国家行政組織法上の行政機関(施設等機関)として位置づけられていたが、2003年に制定された国立大学法人法により、国立大学法人とされた。
 →「国立大学法人等は、法人とする。」(国立大学法人法6条)
 
・国立大学法人法と独立行政法人通則法は一般法と特別法の関係に立つのではない
・国は、「国立大学及び大学共同利用機関における教育研究の特性に常に配慮しなければならない」(国立大学法人法3条)
 
・国立大学の職員は非公務員であり、通常の雇用契約法関係に立つ
 
・国立大学法人と学生との関係は、在学契約関係とする見方が有力である(東京高裁平成19年3月29日判決、判例時報1979号70頁。公法関係ないし特別権力関係の否定。もっとも判例では特殊な部分社会であるとされる)
 
 民事訴訟法の文書提出命令につき、平成25年12月19日第1小法廷決定(民集67巻9号1938頁、行政判例百選3事件)は「国立大学法人は,...その業務運営,役員の任命等及び財政面において国が一定の関与をし(同条5項,同法7条,12条1項,8項等),その役員及び職員は罰則の適用につき法令により公務に従事する職員とみなされる(同法19条)ほか,その保有する情報については,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律が適用され(同法2条1項,別表第1),行政機関の保有する情報の公開に関する法律の適用を受ける国の行政機関の場合とほぼ同様に開示すべきものとされている。これらを考慮すれば、国立大学法人は,民訴法220条4号ニの『国又は地方公共団体』に準ずるものと解される。」とした。
 
・国立大学法人の教育作用に起因する損害賠償請求に国家賠償法1条が適用されるか、民法の不法行為請求によって行うかについて裁判例は分かれている
 
※大学の基本的組織については学校教育法が定めている
 
1.4 特殊法人 
 
・特殊法人 :「法律により直接に設立される法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立すべきものとされる法人」から独立行政法人を除いたもの(総務省設置法4条15号)
ex. 日本中央競馬会、日本放送協会、日本私立学校振興・共済事業団
 
 → 法律により直接に設立される法人 : 旧公社(ex.(旧)電電公社。現在は存在しない)
 → 特別の法律により特別の設立行為をもって設立すべきものとされる法人 : 特別の法律に基づき、政府が設立委員を任命して設立させるもの(ex. NTT各社)
 
・特殊法人も行政主体性を持っている
・特殊法人については、2001年、特殊法人等改革基本法が制定され、事業の廃止・整理縮小・統廃合や、民営化、独立行政法人への移行が進められ、現在ではわずかになっている
 
1.5 認可法人、公共組合 
 
(1)認可法人
 
・認可法人:「業務の公共性等のゆえに、特別の法律により設立され、かつ、その設立に関して主務大臣の認可が必要とされているもの」
ex. 日本赤十字社、預金保険機構
 
→ 認可法人の中には特殊法人の設立が制限されていることから、その制約から免れるために設立されているものもある。政府の関与が法定されているものは、実質的には特殊法人と同じなので問題視され、整理が進められた
 
・認可法人については、単に設立に認可が必要だというだけでは、行政主体とは言えないが、独立行政法人情報公開法が適用されるような認可法人については行政主体性が認められたと見ることができる
 
(2)公共組合
 
公共組合:行政事務を行うことを存立目的として設立された公の社団法人
ex. 土地区画整理組合、土地改良区、市街地再開発組合
 → 行政事務であっても、直接の受益者が限定されていることから、国・公共団体とは独立の法人を設立させ、利害関係者に一定の費用負担を求め、他方で自主的な管理を行わせるもの
 
・公共組合の特徴としては、@加入強制、A設立・解散についての国又は地方公共団体の関与、B国又は地方公共団体による監督、C公権力の付与が挙げられる
 
2 委任行政と指定法人(宇賀Vp306〜318) 
 
・行政機関が行政主体以外の私人に対して権限の委任を行うことが認められている場合があり、これを委任行政という
ex. 日本弁護士連合会の弁護士登録
ex. 企業が納税義務者の支払うべき租税を源泉徴収して国に納付する。国家試験を民間の公益法人が行う
 
 私人への公権力の行使の委任がそもそも許されるのか、許されるとしていかなる場合に許されるのかについては議論がある。
  → 法律・条例で公権力を私人に委任することは、日本国憲法により明示的には禁じられていない
  → 委任される公権力の内容による限界が存在すると見る見解もある
 
・公権力の行使の委任には権限が移動するので法律の根拠が必要であるとされる。この場合、委任は法律で直接、又は、行政庁の「指定」によりなされる
 
・委任の結果、権限は受任者に移り、受任者は自己の名において権限を行使する
 → 公権力の行使が委ねられた場合(ex. 建築基準法の建築確認が指定確認検査機関に委任される)は受任者は行政庁としての地位を得る
 
※委任と委託の違い
・ 国や地方公共団体が清掃のような行政事務を契約により私人に委託することがある
 → 委託は請負契約などの民事的手法によるものだが権限自体を移動させるものではない
 
◎指定法人
 
指定法人:「特別の法律に基づき、特定の業務を行うものとして主務大臣等の行政庁より指定された法人」(指定から自然人が排除されるわけではない)
ex. 建築確認を行う指定確認検査機関、民間活動の助成を行う放送番組センター
 
※指定法人の全てが委任行政を行うわけではないが、指定確認検査機関のような行政事務代行型法人は委任行政の主体だということになる
 (公権力の行使が委任された場合について上の「委任行政」の記述も参照)
 
・行政庁の「指定」により、民法上の法人に公権力の行使が授権されたり、助成活動が委ねられる
 
3 地方公共団体の特別行政主体と委任行政(宇賀Vp319〜340)
 
・独立行政法人の地方版として地方独立行政法人がある
 → 国の独立行政法人と異なり、地方独立行政法人が行える業務の範囲は地方独立行政法人法により法定されている(地方独立行政法人法21条)
・公立大学法人については地方独立行政法人法が適用される
 
・個別法に基づく土地開発公社、地方道路公社、地方住宅供給公社を地方3公社という。地方3公社を設立できるのは地方公共団体のみであり、出資も地方公共団体以外の者は行うことができない
 → 国の政府関係特殊法人に対応するもので、特別法人と呼ばれることもある
・地方公共団体が共同出資して設立される法人で、特別地方公共団体ではないものとして、地方共同法人がある
・2003年に地方公共団体の公の施設について指定管理者制度が導入され、指定管理者に公の施設の管理を行わせることができるようになった(地方自治法244条の2第3項)
 ex. 市営野球場の管理を民間の指定管理者に行わせる
 
4 国・地方公共団体と特別行政主体の関係(宇賀Vp341〜343)
 
・国・地方公共団体と特別行政主体の間の紛争を訴訟で解決しうるかは、国・地方公共団体と特別行政主体との関係を行政機関間の関係とみるか独立の法主体の関係とみるかにより左右される
 

判例@ 最高裁昭和53年12月8日第2小法廷判決(民集32巻9号1617頁、行政判例百選2事件)
 
 運輸大臣は成田新幹線建設のための基本計画を新幹線鉄道整備法に基づき決定告示し、日本鉄道建設公団に建設を指示した。日本鉄道建設公団は運輸大臣に工事実施計画の認可を申請し、認可された。新幹線の線路予定地に土地を所有する住民は、この認可の取消しを求めて争った。
 
「本件認可は、いわば上級行政機関としての運輸大臣が下級行政機関としての日本鉄道建設公団に対しその作成した本件工事実施計画の整備計画との整合性等を審査してなす監督手段としての承認の性質を有するもので、行政機関相互の行為と同視すべきものであり、行政行為として外部に対する効力を有するものではなく、また、これによつて直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらない」

 
5 会計検査院(宇賀Vp249〜269)
 
・国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院が検査する(日本国憲法90条)
・「会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する。」(会計検査院法1条)
・「会計検査院は、3人の検査官を以て構成する検査官会議と事務総局を以てこれを組織する。」(会計検査院法2条)
・「会計検査院の長は、検査官のうちから互選した者について、内閣においてこれを命ずる。」(会計検査院法3条)
・会計検査院には事務総局が置かれる(会計検査院法12条)
 
・「会計検査院は、常時会計検査を行い、会計経理を監督し、その適正を期し、且つ、是正を図る。」(会見検査院法20条2項)
・「会計検査院は、正確性、合規性、経済性、効率性及び有効性の観点その他会計検査上必要な観点から検査を行うものとする。」(会見検査院法20条3項)
・会計検査院は規則制定権を有する(会計検査院法38条)
 
次回は「公物」「行政争訟総説」宇賀Vp540~614、大橋U2~7