行政法U 第9回 「行政上の不服申立て(1)」
※言及のない条文の引用は行政不服審査法
1 行政上の不服申立て総説(大橋p346〜p349)
 
・1962年に、訴願法が廃止され、行政不服審査法が制定された
・2014年に、行政不服審査法の改正がなされた
・目的(1条):簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図る
  :行政の適正な運営を確保する
 
◎不服申立制度のメリット
 
→ @審理手続の簡易迅速性、A審理対象の広範性(違法性に加え、不当性の審査も可能)、B不服申立てを通じて行政に自己制御の機会が与えられる、C大量で専門的な内容の紛争が直接裁判所に押し寄せることを回避して、裁判所の負担軽減を図る
 
◎不服申立制度の概観
 
・行政庁の処分に不服のある者は審査請求をすることができる(2条)、不服申立ては法律に特別の規定がなくても可能である(概括主義)。審査請求がなされると、審理員が審査請求人や処分庁又は不作為庁の主張を公平に審理したうえで、裁決案(審理員意見書)を作成し、審査庁に提出する。審査庁は裁決を下す前に、原則として有識者等から構成される行政不服審査会に諮問をしなければならない
 →行政不服審査法は概括主義を取る。
 
・概括主義 : どんな処分でも争うことができる
・列記主義 : 定められた事項にしか争訟を許さない(訴願法時代)
 
・行政不服審査法は、法律に基づく処分のみならず条例に基づく処分にも適用される
 
2 不服申立ての種類(大橋p351〜p354、p365〜p367)
 
(1)審査請求(4条)
 
・2014年改正によって処分庁に対する「異議申立て」が廃止され、手続が審査請求に一元化された
・審査請求は原則として処分庁の最上級行政庁に対してする(4条4号)
 → 上級行政庁がなければ処分庁(4条1号)。個別法に定めがあればそれに従う
ex. タクシー事業許可申請に対する近畿運輸局長の申請拒否処分に対し、国土交通大臣に審査請求を求める(4条4号の場合)
・法律で個別に審査庁を定めることもできる
・法律で個別に規定がある場合に限り、再調査の請求再審査請求ができる
 
(2) 再調査の請求(5条)  
 
・大量に行われる処分に対する不服申立ての場合に、簡易な手続で処分庁に見直しを求めるもの。個別法により認められる例外的不服申立手続
 → 旧法の異議申立てと審査請求が審査請求に一元化されたが、簡略な手続としての異議申立てに意義が認められたため、処分庁に対する簡易な不服申立てとして再調査の請求の制度が設けられた
 
・法律に定めがある場合は再調査の請求ができる。法律に再調査の請求の定めがある場合、審査請求をするか再調査の請求をするかは国民の自由選択(5条1項、異議申立前置主義の廃止) ex. 国税通則法75条1項1号イ
 
・再調査の請求を選択した場合、当該請求に対する決定が出るまでは審査請求をすることはできない(5条2項)
・再調査の請求について決定があった場合、決定を知った日の翌日から1ヶ月、決定の日の翌日から1年以内であれば、審査請求ができる(18条)
 
※再調査の請求がされた場合、処分庁は再調査の請求がされた日の翌日から3ヶ月を経過しても当該再調査の請求が継続しているときは、処分について審査請求をすることができる旨を書面で再調査の請求人に教示しなければならない(57条)
 
・審査請求と比較し、簡易な手続。審理員による審理はされず、行政不服審査会への諮問の手続もない
 
(3) 再審査請求(6条) 
 
・再審査請求 : 審査請求の結果に対して、さらに審査請求を求める
 
・法律に定めがある場合にのみ、再審査請求ができる
ex. 「保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる。」(労働者災害補償保険法38条1項)
 労働者災害補償保険審査官(大阪労働局)→ 労働保険審査会(厚生労働省の審議会)
 
・再審査請求についても、審査請求後、訴訟の前に再審査請求を行うことは自由選択とされている(二重前置の廃止
 → 再審査請求ができる場合であっても、審査請求に対する裁決が出された段階で、直ちに取消訴訟を提起することもできる
 
・原裁決を知った日の翌日から1ヶ月、原裁決の日の翌日から1年以内であれば、再審査請求ができる(62条)
・手続は審査請求と同様。審理員による審理がされる。なお行政不服審査会等の規定は適用されていない
 → 審査請求の審理段階で行政不服審査会等への諮問手続が実践されているから
 
(4)不作為についての審査請求(3条)
 
・「当該申請から相当の期間が経過したにもかかわらず」、「法令に基づく申請に対して何らの処分をもしない」ことに対して審査請求をする(3条)
 → 握りつぶし状態の解消が目的。不作為についての審査請求は申請に対する処分にしかできないことには注意。規制権限の行使を求める場合は、行政手続法36条の3の「処分等の求め」によることになる
 
3 審査請求の要件(大橋p362〜p369)
 
・審査請求については申立要件がある。申立要件を満たしていない審査請求は却下される
・審査請求、再審査請求、再調査の請求は代理人によって行うことができる(12条、66条、61条)
 
(1)手続の開始
 
・審査請求は、他の法律に口頭ですることができる旨の定めがある場合を除き、審査請求書を提出してしなければならない(19条1項)。
・審査請求書の記載事項については19条2項に定めがある。
 →氏名及び年齢又は名称並びに住所、処分の内容、処分を知った日、審査請求の趣旨、教示の有無など
 
・不服申立ての内容が、単なる陳情であるか、不服申立てであるかが、不明瞭なことがあるが、これは当事者の意思解釈の問題に帰する(最高裁昭和32年12月25日第2小法廷判決、民集11巻14号2466頁)
・不服申立ての要件を満たしていない場合には補正制度がある(23条)
 → 補正を命じることなく却下した裁決・決定は違法である。
 
(2)処分
 
・審査請求をするには、「処分」(行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為、行政不服審査法1条1項)であることが必要
 ex. 申請拒否処分、免許の取消し、営業停止命令
 → 旧行政不服審査法2条1項は、「処分」に公権力の行使に当たる事実上の行為で、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するものが含まれるとしていた。この解釈は新法下でも妥当する ex. 外国人の収容、検査のための食品の収去
 
※ただし、行政不服審査法による適用除外(ex. 国会、裁判所、学校、刑務所における処分など。7条)や個別法による適用除外がある(ex. 行政手続法27条の適用除外)
 
(3)審査請求期間
 
・処分についての審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3月を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない(18条1項)。
・処分についての審査請求は、処分があった日の翌日から起算して1年を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない(18条2項)
 
※誤った教示がなされた場合は、「正当な理由があるとき」に該当するとして、例外を認める余地がある
 
※再調査の請求の場合について18条、54条。再審査請求の場合については62条も参照。不作為についての審査請求には期間制限がないと解されている
 
 「『処分があったことを知った日』というのは,処分がその名あて人に個別に通知される場合には、その者が処分のあったことを現実に知った日のことをいい、処分があったことを知り得たというだけでは足りない」「しかし、都市計画法における都市計画事業の認可のように、処分が個別の通知ではなく告示をもって多数の関係権利者等に画一的に告知される場合には、...そのような告知方法が採られている趣旨にかんがみて、上記の「処分があったことを知った日」というのは,告示があった日をいうと解するのが相当である」(最高裁平成14年10月24日第1小法廷判決、民集56巻8号1903頁、行政判例百選131事件)
 
(4)申立適格
 
・「行政庁の処分に不服がある者」(2条)が審査請求をすることができる
・外国人、法人、法人でない社団も、審査請求をすることができる
 
◎地方公共団体は行政不服審査法の利用主体となりうるか?
 
・行政不服審査法7条2項は、地方公共団体が固有の資格で処分の相手方となるときは、行政不服審査法を適用しないとしている。
 → 固有の資格とは一般人が立ちえないような立場にある状態のこと
 ex. 地方公共団体の地方債発行への許可(地方財政法5条の4第1項、通常は協議制だが、財政状態により許可が必要となる)など
 
・私人と同じ立場で、処分を受けたり、申請をするなら、地方公共団体も行政不服審査法の適用を受ける。
 ex. 地方公共団体が、道路運送法4条1項により国土交通大臣(地方運輸局長)の許可を受けて、市バス事業を営むとき
 
・行政訴訟の場合と同様に、法律上の利益を有しない者が審査請求をすることは出来ない。 → 不服申立適格の問題
 
・判例は行政不服審査法の不服申立適格と行政事件訴訟法の原告適格を同一に解しているようである
 

判例@(主婦連ジュース訴訟) 最高裁昭和53年3月14日、(民集32巻2号211頁行政判例百選132事件)
 
 Y(公正取引委員会)は社団法人日本果汁協会ほかの申請に基づき、果実飲料等の表示に関する公正競争規約を、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)10条1項の公正競争規約として認定した。認定された規約の内容に不満を持ったXら(主婦連合会と主婦連合会会長)は、Yに不服申立てをしたが、YはXらに不服申立適格がないとして、Xらの申立てを却下した。XらはYの申立て却下は違法だと裁判所に訴えた。
 
 「『Yの処分について不服があるもの』とは、一般の行政処分についての不服申立ての場合と同様に、当該処分について不服申立てをする法律上の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう、と解すべきである。」
 「景表法の規定により一般消費者が受ける利益は、Yによる同法の適正な運用によつて実現されるべき公益の保護を通じ国民一般が共通してもつにいたる抽象的、平均的、一般的な利益、換言すれば、同法の規定の目的である公益の保護の結果として生ずる反射的な利益ないし事実上の利益であつて、本来私人等権利主体の個人的な利益を保護することを目的とする法規により保障される法律上保護された利益とはいえないものである。」
 「そこで、単に一般消費者であるというだけでは、...不服申立てをする法律上の利益をもつ者であるということはできない」
 
 違法な兼職の疑いがあったA議員が市議会議員資格を有するという市議会の決定に対して、同じ市議会の議員であるXが地方自治法127条4項、118条5項により不服申立てをすることは出来ない(最高裁昭和56年5月14日第1小法廷判決、民集35巻4号717頁、行政判例百選134事件)
 租税の滞納者から財産の無償譲渡を受けた者等の二次納税義務に関し、最高裁平成18年1月19日第1小法廷判決(民集60巻1号65頁、行政判例百選133事件)は、「主たる課税処分の全部又は一部がその違法を理由に取り消されれば,本来の納税義務者からの徴収不足額が消滅し又は減少することになり,第二次納税義務は消滅するか又はその額が減少し得る関係にあるのであるから,第二次納税義務者は,主たる課税処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり,その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有するというべきである。」とした

 
次回は、「行政上の不服申立て(2)」「行政審判、行政訴訟総説」大橋p13~41、358~360、370~390