行政法U第15回「取消訴訟の訴訟要件(3)− 訴えの利益 −、取消訴訟の審理(1)」
正木宏長
※指定のない条文の引用は行政事件訴訟法から
1 狭義の訴えの利益(宇賀Up192〜200)
1.1 要件 
 
・狭義の訴えの利益 :当該事件の事実関係を考慮して、本案判決によって訴訟物についての争いが解決されうるかどうかを問題とする
 → 本案判決による紛争の解決可能性
・行政事件訴訟法9条1項の「法律上の利益を有する」とは狭義の訴えの利益を有していることも含む
 
「訴えの利益の存否は、判決言渡時において、処分が取消判決によって除去すべき法的効果を有しているか否か、処分を取り消すことによって回復される法的利益が存在するのか否か、という観点から検討する必要がある。」(司法研修所、実務的研究p115
 
1.2 処分の取消・撤回 
 
・農地買収計画が取り消された場合、当該計画の無効確認を求める利益は失われる。国家賠償を求めるために、処分取消し後もなお無効確認を求める利益は認められない(最高裁昭和36年4月21日第2小法廷判決、民集15巻4号850頁、行政判例百選233事件)
・租税について、増額再更正処分がなされたとき、更正処分は再更正処分に吸収され、最初の更正処分の取消しを求める利益は失われる。減額再更正処分がなされたとき、減額された税額の限度で当初の更正処分の取消を求める利益は失われない(判例)
・裁決取消の訴えは原処分が取り消されれば訴えの利益を失うが、原処分取消訴訟で請求が棄却されても、裁決取消の訴えは訴えの利益を失う(後半について、最高裁昭和37年12月26日第2小法廷判決、民集16巻12号2557頁、行政判例百選144事件)
 
1.3 期間経過後の訴えの利益 
 
・典型例としては皇居前広場事件。昭和27年5月1日に皇居外苑を利用することへの不許可処分の取消しの訴えは同日の経過により訴えの利益を失う(最高裁昭和28年12月23日大法廷判決、民集7巻13号1561頁、行政判例百選63事件)
 

判例@ 最高裁昭和55年11月25日第3小法廷判決(民集34巻6号781頁、行政判例百選179事件)
 
 XはA(県警本部長)から運転免許停止処分を受けたので、取消訴訟を提起した
 
「本件原処分の日から一年を経過した日の翌日以降、Xが本件原処分を理由に道路交通法上不利益を受ける虞がなくなつた...から、...Xは、本件原処分及び本件裁決の取消によつて回復すべき法律上の利益を有しないというべきである。」
 免許停止による名誉権の侵害のおそれは「本件原処分がもたらす事実上の効果にすぎない」。

 

判例A 最高裁昭和43年1月24日第3小法廷判決(民集22巻13号3254頁、行政判例百選178事件)
 
 Xは、Y(郵政大臣)にテレビ放送局開設を意図して免許申請をしたところ、5社の競願となり、Aに予備免許が与えられた。XはAへの免許付与や、Xの異議申し立てへの棄却決定を争った。Aへの予備免許は係争中に期間満了し、再びAに免許が与えられた。
 
 「期間満了後ただちに再免許が与えられ、継続して事業が維持されている場合に、これを前記の免許失効の場合と同視して、訴えの利益を否定することは相当でない。けだし、訴えの利益の有無という観点からすれば、競願者に対する免許処分の取消しを訴求する場合はもちろん、自己に対する拒否処分の取消しを訴求する場合においても、当初の免許期間の満了と再免許は、たんなる形式にすぎず、免許期間の更新とその実質において異なるところはないと認められるからである。」

 
1.4 処分の効果の終了 
 
・代執行の戒告の取消訴訟は、建物が除却されてしまえば取消しの利益がなくなる
・開発許可の取消訴訟の訴えの利益は、開発工事終了後、消滅する(最高裁平成11年10月26日第3小法廷判決、判例時報1695号63頁)
 

判例B 最高裁昭和59年10月26日第2小法廷判決(民集38巻10号1169頁、行政判例百選181事件)
 
 建築物完成後に、建築確認の違法性を争う訴えの利益はあるのか?
 
 「工事が完了した後における建築主事等の検査は、当該建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているかどうかを基準とし、同じく特定行政庁の違反是正命令は、当該建築物及びその敷地が建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合しているかどうかを基準とし、いずれも当該建築物及びその敷地が建築確認に係る計画どおりのものであるかどうかを基準とするものでない上、違反是正命令を発するかどうかは、特定行政庁の裁量にゆだねられているから、建築確認の存在は、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発する上において法的障害となるものではなく、また、たとえ建築確認が違法であるとして判決で取り消されたとしても、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発すべき法的拘束力が生ずるものではない。したがつて、建築確認は、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎないものというべきであるから、当該工事が完了した場合においては、建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるものといわざるを得ない。」

 

判例C 最高裁平成10年4月10日第2小法廷判決(民集52巻3号677頁、行政判例百選183事件)
 
 Xは、我が国で永住することができる地位を得た、いわゆる永住外国人であったが、米国留学のため出入国管理及び難民認定法に基づく再入国許可申請をしたところ、Y(法務大臣)は、Xの指紋押捺拒否を理由に不許可処分を下した。Xは不許可処分を争ったが、再入国の許可を得ないまま米国に出国した。出国により訴えの利益は失われるか?
 
 「本邦に在留する外国人が再入国の許可を受けないまま本邦から出国した場合には、同人がそれまで有していた在留資格は消滅するところ、出入国管理及び難民認定法26条1項に基づく再入国の許可は、本邦に在留する外国人に対し、新たな在留資格を付与するものではなく、同人が有していた在留資格を出国にもかかわらず存続させ、右在留資格のままで本邦に再び入国することを認める処分であると解される。そうすると、再入国の許可申請に対する不許可処分を受けた者が再入国の許可を受けないまま本邦から出国した場合には、同人がそれまで有していた在留資格が消滅することにより、右不許可処分が取り消されても、同人に対して右在留資格のままで再入国することを認める余地はなくなるから、同人は、右不許可処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を失うに至るものと解すべきである。」

 
・情報公開条例による公文書の非公開決定の取消訴訟において、当該公文書が書証として提出されたとしても(原告が当該文書の内容を知るに至っても)、当該公文書の非公開決定の取消しを求める訴えの利益は消滅するものではない(最高裁平成14年2月28日第1小法廷判決、民集56巻2巻467頁)
 
1.5 原状回復不能 
 
・原状回復不能な場合、訴えの利益なしとされることがある
・長沼ナイキ訴訟(最高裁昭和57年9月9日第1小法廷判決、民集36巻9号1679頁、行政判例百選180事件)は、保安林指定解除の取消訴訟の訴えの利益は、「代替施設の設置によつて右の洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは本件保安林の存続の必要性がなくなつたと認められるに至つたとき」失われるとした。これは代替的措置がとられたことを理由とする
 
※事情判決の活用

判例D 最高裁平成4年1月24日第2小法廷判決(民集46巻1号54頁、行政百選182事件)
 
 土地改良事業施行認可処分の訴えの利益は、事業完了後に失われるか?
 
 土地改良「事業において、本件認可処分後に行われる換地処分等の一連の手続及び処分は、本件認可処分が有効に存在することを前提とするものであるから、本件訴訟において本件認可処分が取り消されるとすれば、これにより右換地処分等の法的効力が影響を受けることは明らかである。そして、本件訴訟において、本件認可処分が取り消された場合に、本件事業施行地域を本件事業施行以前の原状に回復することが、本件訴訟係属中に本件事業計画に係る工事及び換地処分がすべて完了したため、社会的、経済的損失の観点からみて、社会通念上、不可能であるとしても、右のような事情は、行政事件訴訟法31条の適用に関して考慮されるべき事柄であって、本件認可処分の取消しを求める上告人の法律上の利益を消滅させるものではないと解するのが相当である。」

 
1.6 9条1項かっこ書き 
 
・行政事件訴訟法9条1項かっこ書きは、法律上の利益を有する者には、「処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。」とする。
・かつて議員が除名処分を受けたなら、在職期間の終了によって訴えの利益がなくなるという議論があったが、現在では9条1項かっこ書きのの規定により、このような者にも訴えの利益が認められる。(最高裁昭和40年4月28日大法廷判決、民集19巻3号721頁)
 

判例E 最高裁平成21年2月27日第2小法廷判決(民集第63巻2号299頁)
 
 道路交通法違反があったとして、運転免許証の有効期間の更新を優良運転者でなく一般運転者に該当するものと扱われて更新処分を受けたXが、違反行為を否認し、優良運転者に当たると主張して、更新処分中のXを一般運転者とする部分の取消しを求めた
 
「道路交通法は,...優良運転者に対し更新手続上の優遇措置を講じているのである。このことに,優良運転者の制度の上記沿革等を併せて考慮すれば,同法は,客観的に優良運転者の要件を満たす者に対しては優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して更新処分を行うということを,単なる事実上の措置にとどめず,その者の法律上の地位として保障するとの立法政策を,交通事故の防止を図るという制度の目的を全うするため,特に採用したものと解するのが相当である。」
「一般運転者として扱われ上記記載のない免許証を交付されて免許証の更新処分を受けた者は,上記の法律上の地位を否定されたことを理由として,これを回復するため,同更新処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきものである。」

 
→ 判例@と比較せよ
 
1.7 一身専属的権利 
 
・権利が一身専属的であれば原告の死亡で、訴えの利益はなくなる(最高裁昭和42年5月24日大法廷判決(朝日訴訟)、民集21巻5号1043頁、行政判例百選17事件)
・公務員の報酬請求権は相続可能なので原告が死亡しても訴えの利益はなくならない(最高裁昭和49年12月10日第3小法廷判決、民集28巻10号1868頁)
 
2 当事者主義と職権主義(宇賀Up201〜208)
2.1 訴訟の開始 
 
・訴訟の開始、取消しを求める処分の特定については、処分権主義により当事者に任せられている。
処分権主義 : 「いかなる権利関係について、いかなる形式の審判を求めるかは、当事者の判断に委ねられている」こと
※取消訴訟での和解も許容されると解されている
 
2.2 訴訟資料の収集 
 
・証拠収集については、修正弁論主義が採用されている
※弁論主義 : 「訴訟物たる権利関係の基礎をなす事実の確定に必要な裁判資料の収集、即ち事実と証拠の収集を当事者の権能と責任に委ねる原則」
 
・職権証拠調べの規定がある(24条)
・裁判所は当事者の主張していない事実を取りあげることはできない(通説)
・職権証拠調べは、裁判所の権限であって、義務ではない(最高裁昭和28年12月24日第1小法廷判決、民集7巻13号1604頁、行政判例百選197事件)
・裁判所は自白(自己に不利な事実を認める陳述)に反する事実認定をすることはできない(民事訴訟法179条)
・訴訟の進行については、裁判所に主導権が認められている(職権進行主義、民事訴訟法93条の期日の指定や民事訴訟法98条の送達など)
 
2.3 釈明処分 
 
・訴訟関係を明瞭にするため釈明処分の規定(23条の2)が平成16年改正で設けられた
・釈明処分 : 行政庁に対し、処分又は裁決の内容、処分又は裁決の根拠となる法令の条項、処分又は裁決の原因となる事実その他処分又は裁決の理由を明らかにする資料であつて当該行政庁が保有するものの全部又は一部の提出を求める
・民事訴訟法151条の釈明処分の特則
 
・特殊法人が処分をしたが、監督官庁が資料を有しているような場合、監督官庁に資料の送付の嘱託(しょくたく)がなされる(23条の2第1項2号)
※ 審査請求の後、行政訴訟が提起された場合、審査庁が審査の記録を秘密文書扱いにして、裁判所に提出を拒むということがあったために、23条の2第2項が設けられた。
 
      次回は「訴訟の審理(2)」「訴訟の終了、仮の救済」宇賀Up208〜280