行政法U 第7回「公物(1)」
正木宏長
1 公物の要件・類型(宇賀Vp384〜402)
1.1 公物の要件 
 
公物 :行政主体が直接に公の用に供する有体物
 
@行政主体による供用 : 私人が自己所有の空き地を一般に開放して公園として自由に使用させるように、私人が公の目的に供しても公物ではない
 → 指定管理者、PFIによって私人が公物を管理していても、公物ととらえられる
A直接公の目的に供する : 行政主体が所有している有体物であっても、直接公の目的に供されていないものは公物ではない
 ex. 納税のために物納されたので行政主体が一時所有している土地は公物ではない
 → 直接公の目的に供されていれば、行政主体の所有物でなくてもよい。私人の所有する財産であっても地上権のような権限を行政主体が取得して直接に公の目的に供している物は公物である。
 ex. 地上権に基づく道路の供用
B有体物 : 空気や電波は公物に含まれない
C公の目的 : 公の目的は変化しうる。河川管理は治水と利水が目的だったが、「河川環境の整備と保全」が目的に追加された
 
※将来公物とすることが決定されたものを予定公物という
 
1.2 公物の類型 
 
(1)公用物と公共用物
 

公用物 :行政目的を遂行するための手段として行政主体自身が利用するもの
ex. 庁舎
公共用物 :公衆の使用に供することが行政目的であり、直接に公衆により使用される
ex. 道路、河川、公園

 
※国有財産法では、上の区別に対応して「公用財産」と「公共用財産」の区別がなされている
・公用物と公共用物の区別には疑問もある。公文書は公用物だが、情報公開を通じて公共用物になりうる
 
(2)その他の類型
 
国有公物公有公物私有公物 :所有権の所在による分類
自有公物他有公物 : 所有権者と管理者が一致しているか否か
 ex. 大阪城公園は国が所有する土地を貸し付け、地方公共団体(大阪市)が公園として供用している。これは大阪市から見れば他有公物
人工公物自然公物 : 人工的に設けられたか自然に形成されたか
 
(3)法定公物と法定外公物
 
・実務上、法定外公共物(法定外公共用物)と呼ばれていたものが問題となったことがあった。
 → 里道、水路のような個別法が適用されない法定外公共物は国有財産だが、管理は地方公共団体が行うとされていたため、地方公共団体の負担となっていた。里道、水路については1999年の地方分権改革の際に市町村への譲与手続が設けられた
 → 一部の海岸は法定外公共物であったが、1999年の法改正で海岸については法定外公共物は存在しなくなった。
 
 皇居外苑のように、公共の用に供していながら個別制定法の適用を受けないものがある。皇居外苑について、最高裁(最高裁昭和28年12月23日大法廷判決、民集7巻13号1561頁、行政判例百選63事件)は、国有財産の管理権は、国有財産法5条により各省各庁の長に属せしめられているとするが、明確な法律の委任のない省令によって利用許可制度が定められていることが問題視されている
 
(4)国有財産法での分類(国有財産法3条)
 

行政財産:行政目的に供されている国有財産
@公用財産 : 国において国の事務、事業又はその職員の住居の用に供し、又は供するものと決定したもの ex. 庁舎、公務員宿舎
A公共用財産 : 国において直接公共の用に供し、又は供するものと決定したもの
ex. 国道、河川、国立公園
B皇室用財産 : 国において皇室の用に供し、又は供するものと決定したもの
ex. 皇居
C企業用財産 : 国において国の企業又はその企業に従事する職員の住居の用に供し、又は供するものと決定したもの
ex. 国有林
 
普通財産:行政財産以外(行政目的に供されていない国有財産)
ex. 相続税として物納された土地

 
※国有財産は国有となった不動産などのことである(国有財産法2条1項)。動産には物品管理法が適用されるので注意
 
2 公物法の基礎理論(宇賀V405〜424)
2.1 公物に関する法制 
 
・国の場合、公共用物については、個別法(道路法、都市公園法、河川法など)による規律の対象となるが、庁舎のような公用物については公物管理法は制定されていない(前掲の皇居外苑使用不許可処分事件を参照)。
 
 公用物にも財産管理法(公物管理法とは異なるとされる)として国有財産法が適用される可能性はある。もっとも最高裁昭和57年10月7日第1小法廷判決(民集36巻10号2091頁)は、旧郵政省庁舎管理規程6条に基づく庁舎内の広告物の掲示の許可制を国有財産法18条3項にいう行政財産の目的外使用の許可ではなく、庁舎管理権に基づく許可制であるとしている。
 
・地方公共団体の公共施設が地方自治法の「公の施設」に該当する場合、地方自治法が適用される。公の施設の設置管理に関する事項は条例で定めなければならない(地方自治法244条の2第1項)。地方自治体の庁舎についての公物管理法は存在しない
 
2.2 公物と民事法 
 
・戦前は、公法私法二分論によって、公物に関して民事法の適用を排除する傾向があった。しかし戦後になり、戦前の理論は修正された
→ 海は公共用物であり、そのままの状態では所有権の対象となる土地にあたらない(最高裁昭和61年12月16日、民集40巻7号1236頁)
 
・私有公物について、以前は強制執行は不可能であると解されていたが、現在は所有権の移転は認められるが、公物としての法的地位は失われないと解されている。
 
・公物に時効取得が認められるかには争いがある。戦前は認められないとされていた。だが、最高裁は、長期間、公の目的に供用されることがなかった水路として表示される国有地について、黙示的に公用が廃止されたものとして、私人の取得時効の成立を認めた(最高裁昭和51年11月24日第2小法廷判決、民集30巻11号1104頁、行政判例百選36事件)
・公物にも民法の相隣関係の規定は適用される
・公物が土地収用法の対象となるかについて、土地収用法は特別の必要があれば公用廃止無しに公物の公用収用が可能であるとしている(土地収用法4条)
 
2.3 公物の成立と消滅 
 
・公物を成立させることを公用開始という
 ex. 道路管理者は、道路の供用を開始し、又は廃止しようとする場合においては、国土交通省令で定めるところにより、その旨を公示し、かつ、これを表示した図面を道路管理者の事務所において一般の縦覧に供しなければならない(道路法18条1項)
 →道路のような人工公物のうち公共用物は供用に公用開始行為が必要だが(批判もあるが公用物には不要)、海や河川のような自然公物は公用開始行為なしに公物となる
 → 公用開始行為は、事実上の行為ではなく、法的行為(行政行為)であるとされる(塩野Vp330)
 
・公用開始行為をするには、当該物について行政主体が権限を持っていなければならない
 → 公用開始行為それ自体は土地の帰属に何ら効果を持たない。道路として使用開始した後、土地について登記を怠った結果二重譲渡になって、第三者に対抗できない場合、第三者は道路法所定の制限が加わった状態の土地所有権を取得することになる(参照、最高裁昭和44年12月4日第1小法廷判決、民集23巻12号2407頁、行政判例百選61事件)
 
・公物の廃止に関しても、公用廃止行為が求められることがある(ex. 道路法18条2項、道路の公用廃止に公示を必要とする)
 
2.4 公物管理権 
 
・公物管理権の内容として以下のようなものがある
 →@公物の範囲の決定、A公物の新設・改築又は改良、B公物の維持・修繕又は災害復旧、C公物に対する行為規制、D公物隣接区域に対する規制、E他人の土地への立入、その一時使用、F使用関係の規制
 
・公物管理権の根拠について、戦前は公所有権説と私所有権説の対立があったが、戦後になって、実定法又は慣行により行政主体に与えられた特殊な包括的権能であるとの説が現れた。現在は、所有権のような物に対する権限が公物管理権の根拠であり、道路法のような公物管理法が制定されている限りにおいて、管理権の根拠がこれに吸収されるとする説が有力になっている
 
・公物管理権の主体が誰であるかは実定法による。実定法が存在しない場合、権限の帰属主体が公物管理者となる
・公物管理権は、公物管理上必要な範囲で公物の敷地の上下の空間に及ぶ
 
2.5 公物管理と公物警察 
 
・伝統的行政法学では、公物の管理者に、公物についての公共と安全と秩序を維持するための警察権が与えられているとされていた。「公物警察」の概念がそれである
 ex. 道路交通法の危険を防止するための交通規制は、警察作用であるとされる(公物警察)。それに対して、道路や橋の修繕のように当該者の本来の効用の維持・増進に係る作用が(公物)管理作用であるとされる。(塩野Vp339)
 ex. 河川におけるモーターボートの規制は公物警察権の作用
 
・具体的な警察権限や管理権限の程度は、法律の定めるところによる。
 
3 公物の使用関係(宇賀Vp426〜435)
3.1 公共用物の使用関係 
 
@一般使用(自由使用):何らの意思表示を要せず、公物を利用することが公衆に認められている
 ex. 市民による河川や道路の自由使用
 
※自由使用が第三者に妨害された場合、民事訴訟をなしうる。村道使用の妨害に対して、最高裁は、村民の道路を使用する自由権を妨害されたときは民法上不法行為の問題の生ずるのは当然であり、この妨害が継続するときは、これの排除を求める権利を有するとした。(最高裁昭和39年1月16日第1小法廷判決、民集18巻1号1頁)
 
 公物が廃止されたとき、公物を自由使用していた公衆に公物廃止を争う原告適格が与えられるかどうかについては、反射的利益に止まるとされてきたが、京都地裁昭和61年5月8日判決(行集37巻4=5号667頁)は、「道路を利用する利益は、国民一般の利益であつて、これが道路の路線廃止、供用廃止処分を争う原告適格を直接に基礎づけるものではない。しかしながら、住居又は所有地がその道路に近接しているなどにより、その道路の利用が生活上不可欠である者に限つては、例外的に、その道路を廃止する処分を争う原告適格を有すると解すべきである。」としている。
 
A許可使用:あらかじめ行為禁止を定め、申請に基づく許可によって、禁止の解除をする
 → 公物管理権に基づいて許可をするものと、警察権に基づいて警察許可をするものの二種類があるが、明確な区別はつきがたいとされる
 ex. 道路工事の許可(道路交通法77条)
 
B特許使用:公物管理者から、特別の使用権を設定されて、公物を使用する
 ex. 電柱設置のための道路の占用許可、河川の流水の占用(河川法23条)
 
 既存の水利権者が、水利権は私法上の排他的独占使用権としての性質を有するとして、県知事がした第三者への発電水利使用の許可処分の取消しを求めた事例で、最高裁は、「公水使用権は、それが慣習によるものであると行政庁の許可によるものであるとを問わず、公共用物たる公水の上に存する権利であることにかんがみ、河川の全水量を独占排他的に利用しうる絶対不可侵の権利ではなく、使用目的を充たすに必要な限度の流水を使用しうるに過ぎないものと解するのを相当とする」とした(最高裁昭和37年4月10日第3小法廷判決、民集16巻4号699頁、行政判例百選20事件)
 
※許可使用と特許使用の区別には疑問が提起されている
 
3.2 公用物の使用関係 
 
・国有財産法18条1項は、「行政財産は、貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、信託し、若しくは出資の目的とし、又は私権を設定することができない。」とする
 → ただし、国有財産法18条2項では、「貸し付け、又は私権を設定することができる」場合を定め、国有財産法18条6項で、「用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる。」としている。
 ex. 庁舎における食堂の使用許可