環境法U第10回 「廃棄物処理と法(1)」
正木宏長
※指定のない条文の引用は廃掃法
1 廃棄物処理の歴史と廃棄物の定義 (大塚BASICp233〜245) 
 
・し尿は肥料として再利用されていたが、衛生上の理由から禁止され、下水道に流されるか、浄水槽で処理されるか、処理場に運搬されていた。
・し尿以外のゴミは旧清掃法により、市町村又は許可を受けた業者によって収集され、焼却埋め立てされてきた。
・1970年に廃掃法(正式名称、廃棄物の処理及び清掃に関する法律)が、清掃法に代えて制定された。
 
・目的:「この法律は、廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする。 」(1条)
 
◎廃棄物とは何か
 
・廃棄物の定義:「この法律において『廃棄物』とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。 」(2条1項)
 

実務解釈の変遷
 
・廃掃法制定時の通達:「廃棄物とは、客観的に汚物又は不要物として観念できるものあって、占有者の意思の有無によって廃棄物となり又は有用物となるものではない。」
 → 客観説
 
1977年の通達:「廃棄物とは、占有者が自ら利用し、又は他人に有償で売却できないために不要になったものをいい、これらに該当するか否かは、占有者の意思、その性状等を総合的に勘案すべき」
 → 総合判断説(占有者の主観的な意思も考慮する)
 → 不要物:「自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になったもの」 
 → 有価で引き取ってもらえるか、もらえないか(逆有償)

 
・占有者の意思を全く要素としない廃棄物の定義は困難であるが、一方で、占有者の主観を重視すると、他人からは廃棄物としか見えないものであっても、占有者が廃棄物ではないと強弁することにより、廃掃法の適用を潜脱されるおそれがある
 ex. 豊島の産業廃棄物不法投棄事件
 
・最高裁は総合判断説を承認している
 
 「『不要物』とは,自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい、これに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である」。豆腐製造業者によって大量に排出されるおからは「産業廃棄物」に当たる(最高裁平成11年3月10日第2小法廷決定、刑集53巻3号339頁)
 
・近時の環境省の通知や裁判例では、占有者の意思をあまり重視せず、客観化が図られている
 
※廃タイヤを会社敷地内に野積みし続けたことに対してなされた撤去命令(19条の5第1項1号)に従わなかったことについて、刑事罰(25条1項5号)が科せられた事例(長崎地裁平成21年1月8日判決、判例集未掲載)
 
2 廃棄物の分類、国内処理の原則(大塚BASICp233〜247)
 
・「産業廃棄物」の定義(2条4項)
   :@事業活動に伴つて生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物
   :A輸入された廃棄物(航行廃棄物(船舶内の日常廃棄物等)、携帯廃棄物は除く)
 → 飲食店の残飯や事務所の紙ゴミは事業系一般廃棄物となる
 
・「一般廃棄物の定義」(2条2項):産業廃棄物以外の廃棄物
 
・国内処理原則が明記されている(2条の2)
 → 一般廃棄物の輸出についての環境大臣の確認の制度(廃掃法10条)、産業廃棄物の輸出についての環境大臣の許可制度(廃掃法15条の4の5)
 
3 一般廃棄物の処理に関する規制(大塚BASICp248〜252) 
 
・市町村は、当該市町村の区域内の「一般廃棄物処理計画」を定めなければならない(6条1項)
・市町村は計画に従って、一般廃棄物を収集し、運搬し、処分しなければならない(6条の2)
 → 一般廃棄物処理の責任は市町村が負う。
 
※市町村は一般廃棄物の処理に関して、条例で定めるところにより、手数料を徴収することができる(地方自治法228条1項)
 → 経済的手法の一種。原因者負担原則の強化
 
・一般廃棄物の処理・委託に関して、それぞれ処理基準・委託基準が定められる
 
・民間業者が一般廃棄物の収集運搬、処分を行うには許可を受けなければならない(7条1項、6項)
 → 市町村長は、当該市町村による一般廃棄物の収集運搬が困難である等の法律上の要件を満たしていなければ、許可してはならない(7条5項、10項)
 
 一般廃棄物処理計画に従って、市長が、既存許可業者に廃棄物の収集運搬を行わせるのが適当と判断し、一般廃棄物収集運搬業の申請への不許可処分をすることは適法である(最高裁平成16年1月15日第1小法廷判決、判例時報1849号30頁)
 
※再生利用を行う者については、環境大臣が認定した者は、一般廃棄物の収集運搬・処分について市町村長の許可を受けることを要しないという再生利用認定制度がある(9条の8)
※広域処理について環境大臣から認定を受ければ、市町村長の一般廃棄物処理業の許可は不要(広域認定制度、9条の9)
 
4 産業廃棄物の処理に関する規制(大塚BASICp257〜267)
 
(1)排出事業者の責任
 
・「事業者は、その産業廃棄物を自ら処理しなければならない。」(11条1項)
 → 自己処理の原則。事業者が処理費用を負担して処理自体を他人に委託することは認められる(12条5項)
 
※実際には他社への委託がされるのが通例であり、事業者の「自ら処理(自社処理)」は不法投棄の温床になっているとの指摘がある
 
・市町村は産業廃棄物の一部(一般廃棄物とあわせて処理することができるもの)を処理することができる(11条2項)
・都道府県は都道府県が処理することが必要であると認める産業廃棄物の処理をすることができる(11条3項)
 
※建設廃棄物については、基本的には、下請業者ではなく元請業者が排出事業者とされる(21条の3)
 
(2)排出事業者の義務
 
・事業者が産業廃棄物を処理するときは、政令で定める「産業廃棄物処理基準」に従わなければならない(12条1項)
 
・産業廃棄物の保管には環境省令で産業廃棄物保管基準が定められている(12条2項)
・事業者が、産業廃棄物を生ずる事業場の外において、産業廃棄物の保管を行おうとするときは、都道府県知事に届け出なければならない(12条3項)
 → 2010年改正で追加された。適正処理を確保するため
 
・事業者は産業廃棄物の処分を、産業廃棄物収集運搬事業者、産業廃棄物処分事業者に委託することができる(12条5項)。委託する場合には委託基準に従わなければならない(12条6項)
 → 事業者が産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、当該産業廃棄物の処理の状況に関する確認を行い、当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずる努力義務を負う(12条7項)
 
 委託契約により産業廃棄物の運搬・処分を行う場合の最終処分までの廃棄物の流れを管理するために、マニフェスト制度(産業廃棄物管理票)がある。排出事業者が、運搬、処分の委託時に管理票を交付し、委託を受けた処分事業者が最終処分し終わったとき、処分事業者が、排出事業者に対して、処分が終わった旨を記載した管理票の写しを送付するというしくみである。中間処理事業者が介在する場合、最終処分事業者から中間処理事業者に管理票が送付された後、その写しを中間処理事業者から排出事業者に送付しなければならないとされている(12条の3)
 これにより排出事業者は処分状況を確認することができる。マニフェスト制度の遵守については、勧告・公表・命令の手法による(12条の6)
 紙の管理票に代えて情報処理センターが情報を一元的に管理する電子マニフェスト制度も導入されている(12条の5)
 
(3) 処理業の規制
 
・産業廃棄物の収集運搬業、処分業を行うには都道府県知事の許可が必要(14条1項、6項)、要件を満たした業者でなければ許可はされない(14条5項、10項)
 → 一般廃棄物処理業の許可と異なり、計画に基づく、需給調整や新規参入規制は行われない。許可の性質については、要件を充たしていれば許可しなければならない警察許可に近いものと考えられている
 
・廃棄物の収集運搬業者、処分業者に対する許可の取消しの規定が置かれている。義務的取消しを定めているのが特徴(14条の3の2)
 → 役員が禁錮以上の刑に処せられたときは欠格要件を充たし、事業者への許可は取り消されるが、刑が確定するまでに役員を解任すれば許可取消しを免れることができる   → 法人が許可取消処分を受けた時に、その法人の役員が他の法人の役員を兼務していた場合の無限連鎖を防ぐため、難解な規定になっている
 
※「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物のみ」の収集・運搬処分を業として行う者については、都道府県知事の許可を要しないとされる(14条1項ただし書き)
 → 業の許可の特例制度 ex. 古紙、くず鉄、あきびんの回収
 
※再生利用を行う者については、環境大臣が認定した者は、産業廃棄物の収集運搬・処分について都道府県知事の許可を受けることを要しないという再生利用認定制度がある(15条の4の2)
※広域処理について環境大臣から認定を受ければ都道府県知事の産業廃棄物処理業の許可は不要(広域認定制度、15条の4の3)
 
5 処理施設の規制(大塚BASICp252〜257、267〜272) 
 

※処分場の種類
 
安定型 :うめるだけ → プラスチックやガラスを投入する
管理型 :漏水シートを敷く → 有機物・有害物を投入する
遮断型 :コンクリートで遮断 → 水銀等の特別に有害な物質を投入する

 
・一般廃棄物処理施設や産業廃棄物処理施設を設置するには都道府県知事の許可を得なければならない(8条1項、15条1項)。市町村が一般廃棄物処理計画に従って、処理するためであれば都道府県知事の届出でたりる(8条1項、9条の3)
・廃棄物処理施設の設置の許可基準は8条の2、15条の2。周辺地域の生活環境の保全等への適正な配慮が要件とされている。
・一般廃棄物処理施設や産業廃棄物処理施設の設置申請に際して、申請者は、当該廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類を添付しなければならない(生活影響審査(ミニアセス)の要求)(8条3項、15条3項)
 
・一般廃棄物処理施設と産業廃棄物処理施設は別々の許可制に服する。
※産業廃棄物処理施設において処理する産業廃棄物と同様の性状を有する一般廃棄物を、産業廃棄物処理施設で処理する場合は、都道府県知事への届出だけでできる(15条の2の5)
 
・一般廃棄物処理施設や産業廃棄物処理施設の設置者は、都道府県知事による定期検査を受けなければならない(8条の2の2、15条の2の2)
 
・一般廃棄物処理施設も産業廃棄物処理施設も、埋立処分終了後の、維持管理のため、維持管理積立金を積み立てなければならない(8条の5、15条の2の4)
・最終処分場跡地は都道府県知事によって「指定区域」に指定され、土地形質変更に都道府県知事への届出義務が課せられる(15条の17、15条の19)
 
・許可に際して、要綱で、周辺住民の同意を求めている自治体もある
・各地の自治体は、水道の水源を保護するために「水道水源保護条例」を制定している。
 
 
次回の講義は「廃棄物処理と法(2)、生物多様性の保全」大塚BASICp274〜282、315〜320、336〜341