環境法U第11回「廃棄物処理と法(2)、生物多様性の保全」
正木宏長
※指定のない条文の引用は廃掃法
1 廃掃法(続き)(大塚BASICp274〜282)
1.1 廃棄物の投棄禁止、監督措置 
 
・業者が、廃棄物処理基準に違反した場合は、市町村長、知事は、改善命令を発することができる(19条の3)
・一般廃棄物について処理基準に適合しない収集・運搬・処分が行われた場合、市町村長は、@収集・運搬・処分を行った者、A委託基準に適合しない委託を行った者、に対して、原状回復等の措置命令を下すことができる(19条の4、2010年改正で収集・運搬が追加)
 
・産業廃棄物について基準に適合しない保管・収集・運搬・処分が行われた場合、都道府県知事は以下の者に原状回復等の命令を下すことができる(19条の5、2010年改正で保管・収集・運搬が追加)
@ 保管・収集・運搬・処分を行った者
A 委託基準に適合しない委託を行った者 
B 産業廃棄物管理票(マニフェスト)に係る義務に違反した者
C @〜Bの者が下請業者である場合、元請業者
D @〜Bの違反を要求、依頼等をした者
E 処分者等に資力がなく、かつ排出事業者が処分等に関し適正な対価を負担していないとき、又は、不適正処分等が行われることを知り、若しくは知ることができたとき等の場合には、排出事業者(19条の6)
 → 排出事業者が適法に委託した場合にも、公法上の責任は遮断されない
 
※土地所有者等には、「所有し、又は占有し、若しくは管理する土地において、他の者によつて不適正に処理された廃棄物と認められるものを発見したときは、速やかに、その旨を都道府県知事又は市町村長に通報する」努力義務が課せられている(5条2項)
 
・生活環境保全上の支障が生じ、又は生じるおそれがあり、かつ、事業者が命令に従わないなど、法律の要件を満たすとき、市町村長、都道府県知事は、廃棄物処理の代執行を行うことができる(19条の7、8。行政代執行法よりも手続が簡易)
 ex. 不法投棄があるとき、都道府県知事が自ら処理をする。
 
 都道府県知事が行う支障除去措置を支援する機構として、産業廃棄物適正処理推進センターが設立されている(13条の12、19条の9)。産業界の出損により業務に要する基金を設けて、不法投棄物件の処理の資金提供をする。
 
・「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。」(16条)
 → 無許可の廃棄物処分や、命令違反、不法投棄、不法焼却には刑罰(5年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金またはこの併科)が、科せられる(16条、16条の2、25条)
・従業員の法人の業務に関する(産業廃棄物の)、不法投棄、不法焼却については、両罰規定により、法人に対しても3億円以下の罰金(32条、2010年改正で罰金が引き上げ)
 
1.2 特別管理廃棄物への規制 
 
・一般廃棄物、産業廃棄物のうち有害・有毒のものは「特別管理廃棄物」(「特別管理一般廃棄物」「特別管理産業廃棄物」)として厳しく管理される(2条3項、5項、6条の3第3項、7条9項)
 ex. 特別管理産業廃棄物として、廃油、重金属(水銀、カドミニウム)、病院からの医療廃棄物、石綿(アスベスト)など
 
・特別管理一般廃棄物は、市町村や許可を受けた事業者が収集・運搬・処分する(6条の2第3項、7条13項)
・特別管理産業廃棄物の収集・運搬・処分には、都道府県知事の許可が必要(14条の4)
・特別管理廃棄物の収集・運搬・処分は、それぞれ、「特別管理一般廃棄物処理基準」「特別管理産業廃棄物処理基準」に従わなければならない(6条の2第3項、12条の2第1項、14条の4第12項)
 
※2006年に、特別管理産業廃棄物を除く、石綿が含まれている一般廃棄物・産業廃棄物について高度な技術を用いた無害化処理を行う者についての環境大臣の認定制度が設けられている(9条の10、15条の4の4)
 
2 生物多様性基本法(大塚BASICp315〜320) 
 
(1)歴史
 
・1992年に、リオ会議において、生物の多様性に関する条約(以下、生物多様性条約)が採択された
・1995年、生物多様性条約に従い、わが国で生物多様性国家戦略が策定された
・2008年、生物多様性基本法が制定された
 
(2)内容
 
・「この法律は、環境基本法 (略)の基本理念にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用について、基本原則を定め、並びに国、地方公共団体、事業者、国民及び民間の団体の責務を明らかにするとともに、生物多様性国家戦略の策定その他の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策の基本となる事項を定めることにより、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって豊かな生物の多様性を保全し、その恵沢を将来にわたって享受できる自然と共生する社会の実現を図り、あわせて地球環境の保全に寄与することを目的とする。」(生物多様性基本法1条)
 
 → 生物の多様性の保全及び持続可能な利用について基本原則を定めるもの
 
・生物多様性基本法は、「生物多様性」について定義規定を置いている
 
 → 「この法律において『生物の多様性』とは、様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在することをいう。(生物多様性基本法2条1項)
 

◎生物多様性の保全について基本原則(生物多様性基本法3条)
 
・野生生物の種の保全が図られることと、多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて保全されること(生物多様性基本法3条1項)
・生物多様性の利用は、生物多様性に及ぼす影響が回避されまたは最小となるよう、国土及び自然資源を持続可能な方法で利用すること(生物多様性基本法3条2項)
・科学的に解明されていない事象が多いことと、一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難なことから、生物の多様性を保全する予防的な取組方法と、事業着手後も生物多様性の状況を監視し、これに科学的な評価を加えて事業に反映させる順応的な取組方法により対応すること(生物多様性基本法3条3項)
・長期的な観点からの生態系の保全及び再生に努めること(生物多様性基本法3条4項)
・生物多様性の保全が地球温暖化の防止に資するとの認識のもとに行われなければならないこと(生物多様性基本法3条5項)

 
→ 順応的管理(3条3項) : 当初の予測では想定していなかった事態に陥ることをあらかじめ管理システムに組み込み、目標を設定し、計画がその目標を達成しているかを絶えずモニタリングによって検証しながら、その結果にあわせて、多様な主体との間の合意形成に基づいて柔軟に対応していくこと
 
・国、地方公共団体は、3条の基本原則にのっとり政策を策定し、実施する責務を有する(生物多様性基本法4条、5条)
・事業者は、「生物の多様性に配慮した事業活動を行うこと等により、生物の多様性に及ぼす影響の低減及び持続可能な利用に努める」とされている(生物多様性基本法6条)
 
・政府は生物多様性国家戦略を定める(生物多様性基本法11条)
 →  環境大臣が案を作成し、閣議によって決定される
 
※事業計画の立案段階等での環境影響評価の推進(生物多様性基本法25条)
 → 計画アセスメントであり、戦略的環境影響評価にもつながりうる
 
3 自然環境保全法(大塚BASICp336〜341)
3.1 序 
 
◎目的(自然環境保全法1条)
 
・自然性の高い地域、稀少かつ貴重、再生困難で学術的価値の高い自然物を含む自然地域を保全することを目的とする
 → 2009年改正で「生物の多様性の確保」が目的規定に追加された
 → 自然公園法は「優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図り、もつて国民の保健、休養及び教化に資することを」目的とするのに対して(自然公園法1条)、自然環境保全法は、美観・景観とは異なる観点から自然をとらえている(自然性の高さ、稀少さ、貴重さ、再生困難さ等)
 
◎自然環境保全基本方針
 
・国は自然環境保全基本方針を定めなければならない(自然環境保全法12条1項)。
・環境大臣は、中央環境審議会の諮問を経て、自然環境保全基本方針の案を作成して、閣議の決定を求めることになる。閣議決定により自然環境保全基本方針を決定する(自然環境保全法12条3項、4項)
 
3.2 自然地域の土地利用規制 
 
(1)原生自然環境保全地域
 
・環境大臣は、自然環境が人の活動によつて影響を受けることなく原生の状態を維持しており、国または地方公共団体が所有する地域で、当該自然環境を保全することが特に必要なものを、原生自然環境保全地域に指定することができる(自然環境保全法14条)
 
 → 自然のままで残しておく地域
 → 保安林は人為的な管理が必要だとして、保安林には指定できないとされているが問題である
 
・国有地、公有地に指定されるので、事前に、当該土地を所管する行政機関の長又は地方公共団体の同意を得なければならない。また、指定に際して都道府県知事及び中央環境審議会の意見を聴かなければならない(自然環境保全法14条2項、3項)
 ex. 現在、遠音別岳、十勝源流部、南硫黄島、大井川源流部、屋久島が原生自然環境保全地域に指定されている
 
・原生自然環境保全地域では、建築物その他の工作物の新築・改築・増築、木材の伐採・損傷、木竹以外の植物の採取・損傷、木竹の植栽、木竹以外の植物の植栽、たき火、動物の捕獲・殺傷・卵の採取、動物を放つ、廃棄物を捨てる、屋外において物を集積する、車馬の使用などが環境大臣の許可制とされている(自然環境保全法17条)
 → 違反に対して環境大臣は中止命令等を出すことができる(自然環境保全法18条)。命令違反は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(自然環境保全法53条)
 
・環境大臣は原生自然環境保全地域内に立入制限地区を指定することができる(自然環境保全法19条) ex.  現在は南硫黄島全域が指定されている
 
(2)自然環境保全地域
 
・環境大臣は、原生自然環境保全地域以外の区域で、自然的社会的諸条件からみてその区域における自然環境を保全することが特に必要なものを自然環境保全地域として指定することができる(自然環境保全法22条。詳細な要件は22条1項各号参照)
 
→ 国有地、公有地のほか、私有地を指定することができる(笹ヶ峰は私有地)
ex. 現在、大平山、白神山地、早池峰、和賀岳、大佐飛山、利根川源流部、笹ヶ峰、白髪岳、稲尾岳、崎山湾、が指定されている
 
・指定の手続として、関係地方公共団体の長・中央環境審議会の意見聴取の手続のほか、住民及び利害関係人からの意見書提出の手続がある(原生自然環境保全地域の指定の場合、後者はない。自然環境保全法22条)
 
・自然環境保全地域は、@特別地区A海域特別地区B普通地区に区分され、異なった規制がされている(自然環境保全法25〜28条)
 

 @特別地区では、建物の建築、木材の伐採、環境大臣が指定する区域内での木竹の損傷、環境大臣が指定する区域内で当該区域が本来の生息地でない動植物を放つ・植栽することは許可が必要とされているが、動物の捕獲・殺傷、たき火などは制限されていない(自然環境保全法25条4項)
  → 特別地区内の野生動植物保護地区では、@に加えて、野生動植物や動物の卵の捕獲、殺傷、採取、損傷が制限される(自然環境保全法26条4項)
 A海域特別地区では、工作物の新築・改築、海底の形質変更、鉱物の掘採、土石の採取、海面の埋立・干拓、指定区域での熱帯魚・さんご・海そう類の動植物の捕獲・殺傷・採取・損傷、指定区域で指定期間に動力船を使用することに許可が必要とされる(自然環境保全法27条4項)
 B普通地区では届出制と命令制による規制がなされている(自然環境保全法28条)

 
※2019年改正で沖合海底自然環境保全地域が新設された
 
(3)都道府県自然環境保全地域
 
※都道府県は、条例で定めるところにより、都道府県自然環境保全地域を指定することができる(自然環境保全法45条)
 → 都道府県自然環境保全地域の規制の内容は条例による(自然環境保全法46条)
 
   次回は「自然公園、公害紛争処理」大塚BASICp321〜336、339〜341、468〜476