環境法U第12回「自然公園、公害紛争処理制度」
正木宏長
1 自然公園法(大塚BASICp321〜336、339〜341)
1.1 総説 
 
・日本の国立公園は、行政が土地所有権等を持つ「営造物公園」ではなく、所有者と管理者を異にすることを原則とする「地域制公園」である
 
・1931年、国立公園法制定
 → 風景重視、娯楽重視の法律であった
・1957年、国立公園法にかわり、自然公園法が制定された
 
※自然環境保全法は、あるがままの自然を保護しようという発想であるのに対し、自然公園法は保護のみならず利用の側面も強い
 
・自然公園法は「優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与することを目的とする。」(自然公園法1条)
 → 2009年改正の際に「生物の多様性の確保」が目的規定に追加された
 
・自然公園法には開発との調整に留意することを求める規定があり、問題視されている(自然公園法4条)
 
・環境大臣が国立公園国定公園を指定している(自然公園法5条)
 → 指定の基準は自然公園選定要領(国立公園審議会答申)による。指定に際しては「景観」が重要な要素となる。保護すべき「風致景観」の中には、歴史的・文化的景観も含まれる
 
・国立公園は国管理、国定公園は都道府県管理である
 
・自然公園に指定されると、環境大臣により公園計画が定められる(自然公園法7条)
 
1.2 自然公園の土地利用規制 
 
・国立公園・国定公園には、公園計画に基づいて、@特別地域、A海域公園地区、B普通地域が設けられる
 → @特別地域内は、さらに、特別保護地区第1種特別地域、第2種特別地域、第3種特別地域に区分される。特別保護地区が最も規制が厳しく、第3種特別地域の規制は緩やか
 
(1)特別地域
 
特別地域(特別保護地区を除く)は、比較的すぐれた自然景観あるいは特色ある人文景観を有し、公園利用上重要な地域が指定される。
・特別地域(特別保護地区を除く)では、風致維持の必要度に応じて第1種〜第3種の区分がなされ、それに応じて規制がなされている
 
 ex. 第1種地域では、木竹は、原則禁伐、風致維持に支障がない限り10%以内の単木択伐が可能であるが、第3種地域では、施業の制限がない
 
・特別地域では、工作物の新築や木竹の伐採、広告物の設置、水面の埋め立て、鉱物の採掘などに国立公園なら環境大臣(国定公園なら都道府県知事)の許可が必要とされる。木竹の損傷、落葉・落枝の採取、動物の捕獲・殺傷、卵の採取は制限されていない(自然公園法20条3項)
 → 違反に対して環境大臣(都道府県知事)は中止命令や原状回復命令をすることができる(自然公園法34条)。命令違反は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(自然公園法82条)
 
・特別地域内での立入りや車両の使用の規制については、湿原その他これに類する地域の場合は環境大臣が指定する区域内での立入が許可制の対象とされている(「立入規制区域」)。道路、広場、田、畑、牧場及び宅地以外の地域のうち環境大臣が指定する区域内では、車馬、動力船の使用、航空機の着陸が許可制の対象とされている(「乗入規制区域」)(自然公園法20条3項16号、17号)
 
・2009年改正で、生物多様性の確保のため、特別地域内の環境大臣が指定する区域内で当該区域が本来の生息地でない動植物を放つ・植栽することも許可の対象とされた(「植栽規制区域」、「動物放出規制区域」) (自然公園法20条3項12号、14号)
 
※原則として第2種特別地域の中に、ホテルやキャンプ場のような施設を整備する地域として集団施設地区が、国立公園では環境大臣、国定公園では都道府県知事により指定される(自然公園法36条)
 
(2)特別保護地区
 
・特別地域内に指定される特別保護地区は、特に優れた自然景観または原始状態を保存している地域が指定される
 
・特別地域内の特別保護地区では、工作物の新築・改築・増築、広告物の設置、環境大臣が指定する区域内で当該区域が本来の生息地でない動植物を放つ・植栽すること、木材の伐採・損傷・植栽、木竹以外の植物・落葉・落枝の採取のほか、木竹以外の植物の植栽、種子をまくこと、焚き火、家畜の放牧、動物の捕獲・殺傷・卵の採取、道路・広場以外ので車馬の使用などについて、国立公園の場合は環境大臣(国定公園の場合は都道府県知事)の許可が必要とされている(自然公園法21条3項)
 
 → 違反への対応は、特別地域一般の場合と同じ
 
(3)海域公園地区
 
・「環境大臣は国立公園について、都道府県知事は国定公園について、当該公園の海域の景観を維持するため、公園計画に基づいて、その区域の海域内に、海域公園地区を指定することができる」(自然公園法22条1項)
 → 2009年改正で従前の海中公園地区に代わって設けられた。海中と海上を一体的に保全する制度。工作物の新築・改築・増築、鉱物の掘採、土石の採取、広告物の設置、指定区域での熱帯魚・さんご・海そう類の動植物の捕獲・殺傷・採取・損傷、海面の埋立
 
・干拓、海底の形状変更、指定区域で指定期間に動力船を使用することに許可が必要とされる(自然公園法22条3項)
 
(4)普通地域
 
普通地域では、工作物の新築・増築、広告物の設置、水面の埋立て、鉱物の採掘などに、届出制と命令制による規制が行われている(自然公園法33条)
 
1.3 公園計画と公園事業 
・自然公園に指定されると、環境大臣により公園計画が定められる(自然公園法7条)
・公園計画に従って、公園事業が執行される。公園事業は国(国立公園)や都道府県(国定公園)だけでなく、認可を受けた民間事業者も行うことができる。(自然公園法9条〜19条)
 → 公園事業により、道路、案内所、広場、宿舎などの整備がなされる
 
・公園事業の執行として行う行為、認定生態系維持回復事業等として行う行為、風景地保護協定に基づく行為については、上記の開発規制は適用されない(自然公園法20条9項、21条8項、22条8項、33条7項)
 
・公園事業の費用負担について、受益者負担原因者負担の双方が定められている(自然公園法58条、59条)
 
・国立公園又は国定公園の特別地域、海域公園地区又は集団施設地区内においては、迷惑行為(ゴミの放置、悪臭の発散、騒音の発生、展望所、休憩所の占拠、客引きなど)をしてはならない(自然公園法37条)
 
1.4 不許可補償 
 
・土地利用規制により許可を受けられない場合の損失補償の規定がある(自然公園法64条)
 → 実際に補償が認められた例はない。環境庁長官(当時)に損失補償を申請して、補償金額零円とされた例がある。裁判例でも、財産権の内在的制約の範囲内にあり自然公園法による建築不許可処分に対して補償を求めることはできないとしたものがある(東京地判平成2年9月18日判タ742号43頁)
 
1.5 その他の諸制度 
 
(1)公園管理団体制度、風景地保護協定
 
・公園管理団体として指定された一般社団法人・一般財団法人・特定非営利活動法人が国立公園や国定公園の管理の業務を行うことできるようにする、公園管理団体の制度がある(自然公園法49〜54条)
・ 土地・木竹の所有者に代わって、行政機関や公園管理団体が管理を行う協定を締結する風景地保護協定制度が2002年に導入された(自然公園法43〜48条)
 
(2)利用調整地区制度
 
・「環境大臣は国立公園について、都道府県知事は国定公園について、当該公園の風致又は景観の維持とその適正な利用を図るため、特に必要があるときは、公園計画に基づいて、特別地域又は海域公園地区内に利用調整地区を指定することができる。」(自然公園法23条1項)
 → 2009年改正で海域公園地区にも指定できるようになった
 
・自由利用原則からの思想の転換
 
・立入りに認定が必要になる(自然公園法24条)。オーバーユースを防ぐため。立入認定に際して手数料が必要である(自然公園法31条)
 → 立入り認定のために、環境大臣又は都道府県知事は、指定認定機関を指定することができる(自然公園法25条)
 
ex. 一日あたりの総利用者数上限を設ける
 
(3)生態系維持回復事業
 
・2009年改正で導入された。環境大臣等または都道府県知事が定める生態系維持回復事業計画に従って、国、地方公共団体、認定を受けた民間事業者により、生態系の維持回復を促進するための事業が行われる(自然公園法38〜42条)
 ex. シカの食害による生態系被害を防止するために防護柵を設置する
 → 自然の積極的、能動的管理の制度
 
1.6 自然公園と事故 
 
・国立公園内の遊歩道で国有林内のブナ小枝の落下により、後遺症が残る重症を負った原告が損害賠償を求めた事案で、木の占有者たる国には民法717条2項の責任を認め、国の許可を得て木材の伐採を行っていた事実上の管理者たる県には公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったとして、県の国家賠償法2条の責任を認めた事例がある(東京高判平成19年1月17日判タ1246号122頁)
 
2 公害紛争処理制度(大塚BASICp468〜476) 
 
・1970年に公害紛争処理法が制定された
 → 簡易迅速なADR(裁判外紛争処理)の制度。職権主義による調査能力の実質的格差の是正、手続費用の国庫負担による当事者の負担の軽減、手続の緩和による紛争の迅速な処理、専門知識に基づく紛争処理などに意義がある
 
・民事紛争の存在が前提(公害紛争処理法26条、42条の12、42条の27)
 
・国の公害等調整委員会(中央委員会)が、公害紛争について、あっせん、調停、仲裁、裁定を行う(公害紛争処理法3条)
 →公害紛争には航空機騒音紛争や大気汚染に関する紛争等がある
 
・公害等調整委員会は、重大事件(大気汚染、水質汚濁により生ずる著しい被害に関する事件)、広域処理事件(航空機や新幹線の騒音にかかる事件)、県際事件を管轄する(公害紛争処理法24条1項)
 
・公害等調整委員会は、委員長と6人の委員と30人以下の専門委員からなる
 
あっせん → 話し合い、交渉の支援
調停 → 調停委員会が調停案の提示
仲裁 → 仲裁委員会が仲裁判断を示す。仲裁判断は確定判決と同一の効力を有する
裁定 → 公害等調整委員会に設けられる裁定委員会が証拠調べ等の手続を経て、損害賠償請求権の有無等について法律判断を下す。行政審判の一種
    → 裁定には責任裁定原因裁定とがある。責任裁定は損害賠償責任の有無についての判断を示し、原因裁定は因果関係の存否についての判断を示す。裁定に法的効力はないが、責任裁定に対して訴えがなされなければ、損害賠償について責任裁定と同一の合意が成立したとみなされる(公害紛争処理法42条の20)
 
※都道府県は条例により都道府県公害審査会をおくことができる。公害等調整委員会が管轄する紛争以外の公害紛争に関するあっせん、調停、仲裁を管轄する(公害紛争処理法13条、24条2項)
 
     次回の講義は「公害健康被害補償、地球温暖化」大塚BASICp345〜353、358〜373、382〜391