環境法U 第4回 「環境基本法」
正木宏長
1 環境基本法(大塚BASICp84〜86) 
 
・1967年に、公害対策基本法が制定された
 → 当初は調和条項が存在していた
 
・自然保護の基本法は、かつては1972年に制定された自然環境保全法だった
 
・1993年に、公害対策基本法に代わるものとして、環境基本法が制定された
 → 公害対策基本法と自然環境保全法の政策原則部分を取り入れるものだった
 → 廃棄物の排出量の増大やリサイクル、地球環境問題などの現代の環境問題に対応した環境法の基本理念を明らかにした
 
・環境基本法は、環境の保全に関する基本理念と各主体の責務を規定するとともに、施策の実施規定のうちの基本的な部分を定めている。
 → これらの部分はプログラム規定で政策目標を示すのみで法的拘束力を持たない
 
※環境基本法には、環境基本計画の策定や、環境基準を定める規定のような実体規定もある
 
2 環境基本法の目的・基本理念(大塚BASICp86〜88) 
 
(1)目的
 
・環境基本法の目的 : 「この法律は、環境の保全について、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする。 」(環境基本法1条)
 
 → 「環境の保全」が強調されている
 →  国民は「現在及び将来の国民」
 
・「人類の福祉に貢献する」とするのも従来の立法にみられない特色
 
・「環境」の定義規定は置かれていない → 環境の範囲は社会的ニーズや国民意識によって変わるから
 
(2)現在及び将来の世代の環境の享受
 
・「環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない。 」(環境基本法3条)
 
・世代間の公平の発想に立っている
 
(3)持続可能な発展
 
・「環境の保全は、社会経済活動その他の活動による環境への負荷をできる限り低減することその他の環境の保全に関する行動がすべての者の公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に行われるようになることによって、健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会が構築されることを旨とし、及び科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として、行われなければならない。 」(環境基本法4条)
 
・持続可能な発展の発想に立っている
・「公平な役割分担」は汚染者負担原則、拡大生産者責任につながる
・「未然に防がれる」とあるが、予防原則が排除されるわけではない
・「経済を環境のなかに入れ込む」という発想で、調和条項とは主従が逆転している
 
(4)国際的協調
 
・「地球環境保全は、我が国の能力を生かして、及び国際社会において我が国の占める地位に応じて、国際的協調の下に積極的に推進されなければならない 」とされる(環境基本法5条)
 
 → 地球環境問題や国際環境問題の解決のための国際的協調の必要性
ex. 途上国への先進国の援助
 
・「発展途上国、特に最も開発が進んでおらず最も環境的にぜい弱な国々の特別の状況と必要性には、特段の優先順位が与えられるべきである。環境、開発の分野での国際的な行動は、すべての国の利益と必要性に向けて取られるべきである。」(リオ宣言第6原則)
・「各国は地球の生態系の健全性および完全性を保全、保護、復元するために全地球的に協力する精神で協力しなければならない。地球環境の悪化への関与はそれぞれ異なることから、各国は普遍的だが異なった責任を持つ。先進諸国は、彼らの社会が地球環境にかけている圧力および支配している技術財源の観点から、持続可能な開発を国際的に追求する上で有している責任を認識する。」(リオ宣言第7原則)
 
(5)定義
 
・環境基本法2条は、「環境への負荷」と「地球環境保全」と「公害」を定義している

「この法律において「環境への負荷」とは、人の活動により環境に加えられる影響であって、環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものをいう。
2項  この法律において「地球環境保全」とは、人の活動による地球全体の温暖化又はオゾン層の破壊の進行、海洋の汚染、野生生物の種の減少その他の地球の全体又はその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全であって、人類の福祉に貢献するとともに国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するものをいう。(環境基本法2条)

 
・ここから、環境基本法でいう環境の保全の対象となる環境は、公害の他に、自然環境や生物の多様性、地球環境にわたる、広範な「環境」であるということになる
 

この法律において「公害」とは、環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(略)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(略)及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(略)に係る被害が生ずることをいう。」 (環境基本法2条3項)

 → 典型7公害
 
3 各主体の役割(大塚BASICp57〜59、95) 
 
(1) 国
 
・「国は、前3条に定める環境の保全についての基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、環境の保全に関する基本的かつ総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。」(環境基本法6条)
・現在では、環境省が環境保全行政を担当している
 
(2) 地方公共団体
 
「地方公共団体は、基本理念にのっとり、環境の保全に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。 」(環境基本法7条)
・地方公共団体は「環境の保全のために必要な施策を、これらの総合的かつ計画的な推進を図りつつ実施する」(環境基本法36条)
・現在、多くの政令市が環境基本計画や環境総合計画を制定している
・自治体は、地域の自然環境を維持していくため、自治体独自の政策を打ち出してきた。
ex. 滋賀県環境基本条例
 
(3) 事業者
 
・「事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、これに伴って生ずるばい煙、汚水、廃棄物等の処理その他の公害を防止し、又は自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務を有する。 」(環境基本法8条1項)
・「事業者は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、物の製造、加工又は販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が廃棄物となった場合にその適正な処理が図られることとなるように必要な措置を講ずる責務を有する。 」(環境基本法8条2項)
・事業に伴う環境負荷の低減の努力義務(環境基本法8条3項)
 
(4) 国民
 
・「国民は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、その日常生活に伴う環境への負荷の低減に努めなければならない。 」(環境基本法9条1項)
・「前項に定めるもののほか、国民は、基本理念にのっとり、環境の保全に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する。」(環境基本法9条2項)
 
4 環境保全のための施策(大塚BASICp89〜92、96、144〜149) 
 
※かつて放射性物質による大気汚染等について適用除外にしていた環境基本法13条は、2012年に削除された
 → 放射性物質とそれ以外を分ける必要はないという考え
・環境基本計画の策定 (環境基本法15条)
→ 政策横断的な全国計画
→ 閣議決定により策定される
 
・環境基準の策定(環境基本法16条1項)
 → 環境基準は「法的効力」を有する規制基準ではない(東京高裁昭和62年12月24日判決、行集38巻12号1807頁)
 
 
・政府は、公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより、環境基準が確保されるように努めなければならない(環境基本法16条4項)
 → 環境基本法の環境基準は基本的には「維持されることが望ましい基準」という施策目標基準であり、努力目標である。だが総量規制の導入の基準(措置導入基準)として機能したり、ダイオキシン類規制については、許可の際の基準(行為規制基準、この場合法的拘束力を考えることできる)として用いられている
 
・都道府県による公害防止計画の作成(環境基本法17条)
 → 指定地域の範囲・汚染状況や、公害防止に関する施策、監視測定体制などが定められている
・公害防止計画は、地域指定がされる地域実施計画である。補助割合のかさ上げなど財政上の特別措置がある
 
・「国は、環境に影響を及ぼすと認められる施策を策定し、及び実施するに当たっては、環境の保全について配慮しなければならない」(環境配慮義務、環境基本法19条)
 → 根拠法令に具体的規定がなくても、環境への影響を全く考慮せずになされた行政処分は違法と解される
 
5 環境保全のための誘導(大塚BASICp93〜96) 
 
(1)経済的手法の活用(環境基本法22条)
 
・国は環境問題に対処するための助成措置を講ずることに努める(環境基本法22条1項)
・市場メカニズムを活用して環境への負荷を低減させる措置の調査研究(環境基本法22条2項)
 ex. 賦課金・税、排出枠取引
 
(2)環境保全活動の推進
 
・環境基本法24条〜26条は、国による、環境への負荷の低減に資する製品等の利用の促進、環境の保全に関する教育・学習等の振興、民間団体等の自発的な緑化やリサイクルの活動の促進を定めている
 
(3)地球環境保全等に関する国際協力等の推進
 
・「開発途上地域の環境の保全等に関する国際協力を推進するために必要な措置を講ずる」ことが特に定められている(環境基本法32条1項)
・ODA(政府開発援助)のような国際協力の実施についても環境配慮が求められる(環境基本法35条)
 
(4)原因者負担原則、受益者負担原則
 
・汚染を生じさせた原因を作り出した事業者に浄化費用の費用負担を課すとする、原因者負担原則が、環境基本法37条で定められている
 
・環境基本法は受益者負担の原則も定めている。自然環境の保全のための事業によって利益を受ける者がいる場合は、利益を受ける者に費用を負担させる(環境基本法38条)
ex. 国が公園内の道路を整備する際、利益を受ける宿泊施設に費用を一部負担させる(自然公園法58条の例)
 
       次回は「環境影響評価」大塚BASICp102〜137