環境法U第5回 「環境影響評価」
正木宏長
1 意義と歴史(大塚BASICp102〜104) 
 
・定義 : 環境影響評価(環境アセスメント)制度は、@開発計画を決定する前に、環境影響を事前に調査・予測し、A代替案(複数案)を検討し、Bその選択過程の情報を公表し、公衆の意見表明の機会を与え、Cこれらの結果を踏まえて最終的な意思決定に反映させるプロセスである
・Environmental Impact Assessmentの訳
 
・アメリカの国家環境政策法(National Environmental Policy Act、NEPA)によって導入され、その後急速に世界に普及した
・1972年「各種公共事業に係る環境保全対策について」と題する内閣の閣議了解
 → 一部の個別法に環境影響調査の規定が盛り込まれた
・1976年に川崎市が環境影響評価条例を制定したのを皮切りに、各地の自治体で環境影響評価条例が制定されている
 → 現在では全ての都道府県・政令市で環境影響評価条例が制定されている
 
・国レベルでは、まず、1984年に閣議決定によって定められた要綱で、一部の大規模事業について事業者に行政指導で環境影響評価が求められた
 → 知事や市町村長や住民の意見を聞く手続が不備であるなど問題があった
 
・1997年、環境影響評価法が制定された
・2010年、環境影響評価法の改正案が国会に提出され、2011年に成立した
 
2 環境影響評価法の目的・対象事業(大塚BASICp102〜110、133〜137)
 
(1)目的
 
・目的(環境影響評価法1条)
 → 事業者の自主的配慮が基本であるが、事業に関する行政決定に配慮結果を反映させることにより実効性を確保しようとしている
 
・「この法律において『環境影響評価』とは、事業(略)の実施が環境に及ぼす影響(略)について環境の構成要素に係る項目ごとに調査、予測及び評価を行うとともに、これらを行う過程においてその事業に係る環境の保全のための措置を検討し、この措置が講じられた場合における環境影響を総合的に評価することをいう。 」(環境影響評価法2条1項)
 
 → 環境影響評価法の環境影響評価は基本的には事業アセスメント
 → アセスの実施主体は事業者、自ら事業を実施する主体が事業の内容を最もよく理解できるのであり、事業の環境適合性を高めることもできるという考え方(セルフコントロール)に立つ(実際には委託が行われることが多い)
 
※環境影響評価法は40条以下で、都市計画と港湾計画について、計画権者(地方公共団体の長など)によるアセスの実施を定めている。これは実施主体=事業者の例外である
 
(2)対象事業
 
・道路、河川工事(ダムを含む)、鉄道、飛行場、発電所、産廃処分場、埋立て(干拓を含む)、土地区画整理事業、新住宅市街地開発事業、工業団地造成事業、新都市基盤整備事業、流通業務団地造成事業、宅地造成事業の13事業が対象(環境影響評価法2条)
 
・規模に応じて、必ず環境影響評価がされる第1種事業と、事業毎に環境影響評価をするかどうかを決定する第2種事業がある
 ex. 埋立ての場合、50haを超えるものであれば第1種事業、40ha以上〜50ha以下であれば第2種事業(環境影響評価法施行令1条、6条、別表1)
 
・第2種事業を実施しようとする事業者は、主任の大臣等の関係行政庁(ex. 埋立なら都道府県知事)に届出をしなければならない(環境影響評価法4条1項)
・第2種事業については、関係行政庁が、環境影響評価を実施するかどうかを、都道府県知事の意見を聞いて、60日以内に、判断する(環境影響評価法4条3項)
 → いわゆるスクリーニング手続
 
 ※ 小規模の開発や環境影響評価法の対象外の開発(下水処理施設、土砂採取、高層建築)でも自治体の環境影響評価条例で規制されていることがある。上乗せ条例の適法性については環境影響評価法61条
 ex. 京都府環境影響評価条例2条3号は(京都府環境影響評価条例施行規則3条、別表により)、30〜40haの埋立も、環境影響評価の対象となる場合があるとしている
 
3 手続(大塚BASICp110〜118、130)
 
(1)環境影響評価書の作成までの手続
 
・事業者は環境影響評価方法書を作成する(環境影響評価法5条、環境影響評価の実施案のこと)。作成された環境影響評価方法書は都道府県知事・市町村に送付される。都道府県知事・市町村長の意見、環境保全の見地から意見を有する者の意見聴取の手続を経て、事業者は環境影響評価の実施方法を決定する(環境影響評価法5条〜11条)
 → いわゆるスコーピング手続
 → 調査・予測・評価の手法については主務大臣が「指針」を定めている(環境影響評価法11条3項)
 → 事業者は方法書についての説明会を開催しなければならない(環境影響評価法7条の2)。
 
・事業者は環境影響評価を実施する(環境影響評価法12条)
 
・事業者は、環境影響評価の結果等を記載した準備書(環境影響評価準備書)を作成し、都道府県知事・市町村に送付する(環境影響評価法14条、15条)
 
・事業者は、準備書を公告及び1ヶ月間縦覧しなければならない。準備書に意見を有する者は、事業者に意見書を提出して意見を述べることができる。事業者は準備書を周知徹底するための説明会を開催しなければならない。都道府県知事の意見の手続もある(環境影響評価法16条〜20条)
→ 公告は官報や県の広報への掲載で行われる。縦覧場所は、事業者の事務所や関係県の庁舎、施設である
 
・事業者は意見を勘案して、環境影響評価書を作成する(環境影響評価法21条)
 
・事業者の作成した環境影響評価書に対して、第三者機関としての環境大臣の意見の手続や、免許等を行う者(ex. 公衆水面埋立なら都道府県知事)の意見の手続がある。意見が述べられたとき、事業者は評価書の記載事項に検討を加えて、修正等の措置をとらなければならない(環境影響評価法23〜25条)
 → 大幅な修正が必要なときは方法書作成手続からやり直し
 
・環境影響評価書の公告及び縦覧が行われる(環境影響評価法27条)
 
(2)評価対象項目
 
・通常は典型7公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭)と自然環境項目(地形、地質、植物、動物、自然景観、生物多様性)についてなされる
・最近では、条例で、身近な自然、水象、電波障害、日照、廃棄物、文化財、地域社会、野外レクリエーション、安全、地球環境、等に対する影響も評価項目として掲げる自治体が増えてきている
 
(3)環境影響評価書の記載内容
 
・環境影響評価書(準備書)には、開発事業の目的・内容、事業予定地域の概要、環境の現状、環境に及ぼす影響の予測と評価、環境保全対策が記載される
 → 「影響は小さい」「現状通り維持される」「動植物について着目すべき種はいない」などと記載される例がほとんど。悪影響が予想される場合も、「保全に努める」「必要な措置を講じる」「極力防止する」等の措置によって「環境保全目標は満足される」と紋切り型に記載される
 
※ 日本の環境影響評価法では、準備書・評価書の作成にあたって、複数案の検討は法的に義務づけられていない
 
(4)環境影響評価と住民参加
 
◎環境影響評価に際しての住民参加
・配慮書に対する意見聴取の努力義務(環境影響評価法3条の7)
・方法書についての説明会の開催(環境影響評価法7条の2)
・方法書に対する意見書提出(環境影響評価法8条1項)
・準備書を作成した後の説明会の開催(環境影響評価法17条1項)
・準備書に対する意見書提出(環境影響評価法18条1項)
 
・環境影響評価を行う際には、法定手続のなかで提出される多様な意見・情報を反映することと、事業の実施による環境への賦課をできる限り回避、低減する取り組みを行うことが求められる
 
・公衆参加については、法律制定時の答申は、合理的意思決定のための情報の形成への参加という位置づけをしている
 
4 横断条項(大塚BASICp118〜120)
 
・対象事業に係る免許等を行う者は、当該免許等の審査に際し、評価書の記載等に基づいて、当該対象事業につき、環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならない(環境影響評価法33条1項)
 ex. 鉄道事業法による、鉄道事業者の鉄道線路の工事への認可に際して、環境への配慮は、鉄道事業法では求められていないが(鉄道事業法8条)、環境影響評価法により認可の要件として求められることになる
 
・許認可権者は、環境への配慮がされたかどうかによって、免許に条件を付したり、免許を拒否することができる(環境影響評価法33条2項)
 → 許可基準を横出し的に追加する効果を持つ。評価書の効力が法律横断的に各種許認可法に及ぶので、「横断条項」と呼ばれる
 
※公有水面埋立法のように免許の要件として環境への配慮が定められている場合は、33条3項が適用される。評価書は免許権者に対して情報提供機能を持つ
 
※横断条項の存在は抗告訴訟の原告適格の判断に影響を与える
 
5 環境保全措置結果の報告と公表(大塚BASICp120〜121)
 
・事業実施後、事業者は事業実施において講じた環境保全措置に係る報告書を作成しなければならない(環境影響評価法38条の2)
・事業者は報告書を環境影響評価書の送付先に送付するとともに、公表しなければならない(環境影響評価法38条の3)
 
 → 事業者が評価書に記載された環境保全措置を実施しているかどうかの実態を行政や市民が把握することが、困難であったので、2011年改正で導入された
 
6 計画段階環境配慮書(大塚BASICp114〜115、123〜128、132〜133)
 
・第1種事業を実施しようとする者は、計画の立案の段階において、当該事業が実施されるべき区域と事業の種類ごとに主務省令で定める事項を決定するに当たって、事業実施想定区域における当該事業に係る環境の保全のために配慮すべき事項(「計画段階配慮事項」)についての検討を行わなければならない(環境影響評価法3条の2)
 → 検討を行った結果について、計画段階環境配慮書(「配慮書」)を作成しなければならない(環境影響評価法3条の3)。配慮書は公表される(環境影響評価法3条の4)
 → 日本版戦略的環境アセスメントを導入するもの
 
※配慮書の段階での検討が方法書での検討にどう受け継がれたかについては、方法書に記載される(再度の検討を省略し、段階ごとに固有の検討に集中する、ティアリングの例)
 
・道路を例にすると、事業には、@実施決定、A場所の決定、B建設方法の決定の三段階がある
・2011年改正前の環境影響評価は、基本的には、B建設方法の決定の段階で環境影響評価を行う事業アセスメントであった
 → 基本構想や基本計画が固まって、用地選定や事前調査を経て、事業が円滑に推進できると判断された時点でアセスメントを行う
 
・事業アセスメントでは、環境影響評価の結果や住民の意見書、公聴会などでの意見をふまえて、計画の手直しをするのが困難
・政策決定・基本構想・基本計画の段階で環境影響評価を行う、戦略的環境アセスメント(SEA)の制度が注目されている
 
・計画段階環境配慮書の作成の手続が2011年改正で導入されたが、これは個別事業についてA場所の決定の段階で環境影響評価を行うもの
 → 戦略的環境アセスメントではない?(p125、北村環境法p311以下も参照)
 
・日本では自治体の条例で戦略的環境アセスメントが行われている例がある
ex. 東京都環境影響評価条例では、都が作成する広域複合開発計画及び個別計画について、計画立案段階からの評価し、複数の計画を作成する計画アセスメントを規定している。
 
次回の講義は「大気汚染防止」大塚BASICp138〜169