環境法U第9回 「リサイクルと法」
正木宏長
1. 循環型社会形成推進基本法(大塚BASICp230~233、285~289、304〜312) 
1.1 総説 
 
・2000年に、循環型社会形成のための基本法として、循環型社会形成推進基本法が制定された(循環型社会の定義は、循環型社会形成推進基本法2条1項)
 → 環境基本法の下におかれた基本法、廃棄物処理のための基本的枠組み法
 → 大量生産・大量消費・大量廃棄社会から、廃棄物を抑制し、廃棄物を有効活用する、循環社会への転換
 
・目的 :「環境基本法の基本理念にのっとり、循環型社会の形成について、基本原則を定め」ることが目的とされる(循環型社会形成推進基本法1条)
 
・「循環型社会」 : 「製品等が廃棄物等となることが抑制され、並びに製品等が循環資源となった場合においてはこれについて適正に循環的な利用が行われることが促進され、及び循環的な利用が行われない循環資源については適正な処分が確保され、もって天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会」(循環型社会形成推進基本法2条1項)
 
・「廃棄物等」 : @廃棄物、A使用済み物品(ex. 空き缶)、B未使用の収集・廃棄物品(廃品回収に出された未使用の靴)、C人の活動に伴い付随的に得られた物品(ex. 工場で発生した副産物)(循環型社会形成推進基本法2条2項)
 
・「廃棄物等」のうち有用なものを「循環資源」と位置づけている(循環型社会形成推進基本法2条3項)
・「循環的な利用」とは、再使用、再生利用及び熱回収をいう(循環型社会形成推進基本法2条4項)
 
1.2 処理の優先順位 
 
・循環型社会形成推進基本法は、廃棄物等のうち有用なものを循環資源としたうえで、下のような処理の優先順位を設けている
 
@廃棄物等の発生の抑制(循環型社会形成推進基本法5条)
 
A再使用(循環型社会形成推進基本法7条1号)
 → 再使用とは、循環資源を製品としてそのまま使用することや、循環資源の全部又は一部を部品その他製品の一部として使用することをいう(循環型社会形成推進基本法2条5項)
 
B再生利用(循環型社会形成推進基本法7条2号)
 → 「『再生利用』とは、循環資源の全部又は一部を原材料として利用することをいう」(循環型社会形成推進基本法2条6項)
 
C熱回収(循環型社会形成推進基本法7条3号)
 → 「『熱回収』とは循環資源の全部又は一部であって、燃焼の用に供することができるもの又はその可能性のあるものを熱を得ることに利用することをいう」(循環型社会形成推進基本法2条7項)
 
D適正処分(循環型社会形成推進基本法7条4号)
 → どうしても残ったものだけを適正処分するゼロエミッションの考え方
 
1.3 国、地方公共団体、事業者、国民の責務 
 
(1)事業者の責務
 
・廃棄物の発生の抑制のほか、事業者の「排出者責任」が明確化されている(循環型社会形成推進基本法11条)
・事業者が生産する製品等について使用され廃棄物となった後まで責任を負うという「拡大生産者責任」の規定がある(ex. 容器等の引き取り)(循環型社会形成推進基本法11条2、3項)
 → 生産者の責任で製品の設計を工夫し、引き取りやリサイクルを実施する。
ex. 環境配慮設計
 
(2)国
 
・国は、循環型社会の形成に関する基本的かつ総合的な施策を策定し実施する(循環型社会形成推進基本法9条)
・政府は循環型社会形成推進基本計画を定める(循環型社会形成推進基本法15条)
 
(3)地方公共団体、国民
 
・地方公共団体は地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。(循環型社会形成推進基本法10条)
・国民は、廃棄物の適正処理、リサイクルへの協力の責務を負う(循環型社会形成推進基本法12条)。
 
2 資源有効利用促進法(大塚BASICp289〜293) 
2.1 各主体の責務 
 
・正式名称は「資源の有効な利用の促進に関する法律」
・リサイクルの一般法的な存在
・主務大臣は、使用済物品等及び副産物の発生の抑制並びに再生資源及び再生部品の利用による資源の有効な利用を総合的かつ計画的に推進するため、資源の有効な利用の促進に関する基本方針を定め、公表する(資源有効利用促進法3条)
 
・事業者の責務(資源有効利用促進法4条) : @使用済み物品及び副産物の発生抑制のための原材料の使用の合理化、A再生資源・再生部品の利用、B使用済みの物品・副産物の、再生資源・再生物品としての利用の促進
・消費者の責務(資源有効利用促進法5条) : @製品の長期間使用、A再生資源を用いた製品の利用、分別回収への協力など再生資源の利用等の促進、B国・地方公共団体及び事業者の実施する措置への協力
・国の責務(資源有効利用促進法6条〜8条)
 
2.2 規制の仕組み 
 
・主務大臣が、次の業種や製品の事業者に対して「判断の基準となるべき事項」を定め、事業者の自主的努力によってリサイクルを推進することを基本目的としている
・規制の仕組みは、指導・勧告 → 公表 → 措置命令、というもの。行政指導中心。措置命令が発動されたことはない
 
(1)「特定省資源業種」(資源有効利用促進法2条7項)
 ex. 鉄鋼業、自動車製造業、無機化学、有機化学工業、銅第一次精錬、精製業
→ 自動車製造業に金属くずの発生抑制を求める
(2)「特定再利用業種」(資源有効利用促進法2条8項)
 ex. 紙製造業、ガラス容器製造業、建設業、複写機製造業
→ 紙製造業に古紙の再生利用を求める
(3)「指定省資源化製品」(資源有効利用促進法2条9項)
 ex. 自動車、パソコン、大型家具、ガス、石油機器、パチンコ遊技機、家電製品
→ 自動車の使用済み物品の発生抑制のため耐久性の高いゴムの採用を促進する
(4)「指定再利用促進製品」(資源有効利用促進法2条10項)
 ex. 自動車、パソコン、複写機、パチンコ遊技機、浴室ユニット
→ リサイクルしやすい材料を浴室ユニットに用いることを求める
(5)「指定表示製品」(資源有効利用促進法2条11項)
 ex. スチール缶、アルミ缶、ペットボトル、2次電池、プラスチック製容器包装、紙製容器包装、塩化ビニル製建築資材
→ アルミ缶であることの表示を求める
(6)「指定再資源化製品」(資源有効利用促進法2条12項)
 ex. パソコン、2次電池
→ 電池のリサイクル、使用済み製品の回収・再資源化
(7)「指定副産物」(資源有効利用促進法2条13項)
 ex. 電気業から発生する石炭灰、建設業から発生する土砂、コンクリートの塊、アルファルト・コンクリートの塊木材
→ 火力発電から発生する石炭灰をセメント原料として再生利用
 
3 容器包装リサイクル法(大塚BASICp293〜304) 
 
・1995年に容器包装リサイクル法(正式名称:容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律)が制定された
 → 拡大生産者責任を最初に具現化した環境法
 
・目的(容器包装リサイクル法1条)
→ 「発生抑制」ではなく「排出抑制」が目的とされている
 
・「容器包装廃棄物」が規制の対象となる。「容器包装廃棄物」は一般廃棄物であり、産業廃棄物ではない(容器包装リサイクル法2条4項)
・分別収集を市町村が担当する
・市町村は、容器包装廃棄物の分別収集をしようとするときは、「市町村分別収集計画」を定めなければならない(容器包装リサイクル法8条1項)
 → 実際には全国の市町村で分別収集が行われているが、「しようとするときは」という規定なので、分別収集計画の策定は市町村の任意である
 
・「市町村は、市町村分別収集計画を定めたときは、これに従って容器包装廃棄物の分別収集をしなければならない。 」(容器包装リサイクル法10条1項)
 
・収集された容器包装廃棄物は「再商品化」される
→ 「再商品化」の例として、製品の原材料として利用する、製品としてそのまま利用する、燃料として利用する、など
 
・環境省令で分別収集の対象となるが、再商品化義務を免れるものが定められている(容器包装リサイクル法2条6項、容器包装リサイクル法施行規則3条)
 ex. スチール缶、アルミ缶、段ボール、飲料用紙製容器
 → 分別収集さえすれば有価となり、再商品化を義務づけなくても、市場の中でリサイクルされるから
 
・ 「特定分別基準適合物」(容器包装リサイクル法2条7項、容器包装リサイクル法施行規則4条)が再商品化義務の対象
ex. 無色ガラスびん、茶色ガラスびん、紙製容器包装、PETボトル
 
・再商品化義務を課せられているのは「特定容器利用事業者」「特定容器製造事業者」「特定包装利用事業者」(容器包装リサイクル法11条〜13条)
 → 再商品化義務量について詳細な定めが置かれている
 
◎再商品化義務の負担割合に関する規定の合憲性

東京地裁平成20年5月21日判決(判タ1279号122頁、ライフ事件)
 
 X(特定容器利用事業者)が日本容器包装リサイクル協会への委託料について、Y(国)に国家賠償請求をした事案。特定容器利用事業者の再商品化義務の負担割合が特定容器製造等事業者と比べて高いことが差別であるとして、憲法14条違反が主張されていた
 
「容リ法は,特定容器に係る再商品化義務を,特定容器利用事業者のほか特定容器製造等事業者にも課すこととし,両者間で業種ごとの再商品化義務量を案分する際に,本件規定を用いることとしている。両者間でその案分割合をどのように具体的に定めるかは,容リ法の採用する拡大生産者責任の考え方との関連における国会の立法政策に属する事柄であって,その合理的な立法裁量にゆだねられているから,本件規定における案分割合の定め方が著しく不合理であり,立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超える場合に限って憲法14条1項に違反するというべきである。」
(事業者の再商品化量の規定は、憲法14条1項に反しないとされた)

 

◎容器包装廃棄物は、次のいずれかにより再商品化される
 
@市町村に回収された後、事業者から委託を受けた「指定法人(ex. 財団法人日本容器包装リサイクル協会)」が、再商品化する(容器包装リサイクル法22条)
 
A市町村に回収された後、主務大臣の認定を受けて、事業者自身、又は、事業者から委託を受けた「指定法人以外」の者が、再商品化をする(容器包装リサイクル法15条)
 
B事業者は、主務大臣の認定を受ければ、廃棄物の自主回収を行うことができるので、事業者が、自ら又は委託して、回収し再商品化する(容器包装リサイクル法18条、ex. ガラス瓶の自主回収)

 
・再商品化義務を課せられているにもかかわらず、再商品化をしない事業者には、勧告→公表→命令→罰則(容器包装リサイクル法20条、46条)
 
※平成18年改正により、容器包装廃棄物の排出の抑制の制度が設けられた(容器包装リサイクル法7条の2〜7条の7)。容器包装大量利用事業者(レジ袋等を大量に利用する事業者など)の排出抑制が著しく不十分であれば、主務大臣の勧告→公表→命令→罰則(容器包装リサイクル法7条の7、46条の2)
 
次回の範囲「廃棄物処理と法」大塚BASICp233〜285