個別行政分野の法第10回 「財政」
正木宏長
1 財政の概念(室井編p321〜323)
 
・財政:「財政とは、国又は地方公共団体がその存立に必要な財力を取得し、かつ、これを管理する作用を総称する」(田中下巻p205)
 ex. 租税、専売、会計の経理、国有財産の管理
・「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」(日本国憲法83条)
 → 財政への国会による統制を定めている(財政民主主義
 
・財政活動の三段階 : @財源の取得(租税) A予算 B決算
 
2 予算(室井編p323〜333)
2.1 総説 
 
予算:「国の歳入歳出の予定準則」(田中下巻p221)
 → 予算には法的性格を認めるが、法律とは異なった国法の一形式であると解するのが通説である(法律そのものであると解する少数説がある)
 → 「国の会計年度は、毎年4月1日に始まり、翌年3月31日に終るものとする。」(財政法11条)
 
・「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。」(日本国憲法86条)
 → 予算の作成・提出権は内閣に属する(日本国憲法73条5号)
 → 予算の議決にあたってはさきに衆議院に提出され、衆議院の優越が認められている(日本国憲法60条)
 
・「予算は、予算総則、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為とする。」(財政法16条)
・「予算総則には、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為に関する総括的規定」が設けられる(財政法22条)
 
歳入歳出予算 : 狭義の予算ともいわれる
 → 「歳入歳出予算は、その収入又は支出に関係のある部局等の組織の別に区分し、その部局等内においては、更に歳入にあつては、その性質に従つて部に大別し、且つ、各部中においてはこれを款項に区分し、歳出にあつては、その目的に従つてこれを項に区分しなければならない。」(財政法23条)
 → 部、款、項までを議会で定めなければならない(議定項目)
 
・「予見し難い予算の不足に充てるため、内閣は、予備費として相当と認める金額を、歳入歳出予算に計上することができる。」(財政法24条)
・「継続費は、その支出に関係のある部局等の組織の別に区分し、その部局等内においては、項に区分し、更に各項ごとにその総額及び年割額を示し、且つ、その必要の理由を明らかにしなければならない。」(財政法25条)
 → 「工事、製造その他の事業で、その完成に数年度を要するもの」について、予め国会の議決を経ることで、認められる(財政法14条の2)
・繰越明許費:「歳出予算の経費のうち、その性質上又は予算成立後の事由に基き年度内にその支出を終らない見込のあるもの」。予め国会の議決を経ることで認められる(財政法14条の3)
 → 施設費や事業費に多い
・「国庫債務負担行為は、事項ごとに、その必要の理由を明らかにし、且つ、行為をなす年度及び債務負担の限度額を明らかにし、又、必要に応じて行為に基いて支出をなすべき年度、年限又は年割額を示さなければならない。」 (財政法26条)
 → 特定の事項について国会の議決に基づいて債務負担する場合や、災害復旧その他緊急必要がある場合の予備的備えのため、予め国会の議決を経た金額の範囲内で債務を負担する場合がある
 
2.2 予算の原則(田中下巻p218〜220)
 
@総額予算主義(総計予算主義):歳入と歳出の全てを予算に編入する主義(財政法14条に定めがある
A予算単一主義:国の収支を単一の会計の下に経理するをいう
 → 財政法14条で歳入歳出を「一般会計予算」に編入することが定められていることはこの主義による。「一般会計」に対して、「特別会計」は原則に対する例外である。
 → 経費が不足したとき等に定められる、補正予算(財政法29条)も予算単一主義の例外である
B統一国庫主義:政府に属する一切の収入は、必ず唯一の国庫に納入せしめ、一切の支出は、必ず唯一の国庫より支出するをいう。総額予算主義の会計経理の技術上の表現
C会計年度の区分及び独立の原則:一の年度の経費は、当該年度の歳入を以て支弁せしめるをいう(財政法12条に定めがある)
D会計機関分立の原則:収入支出を命令する機関と、現金の出納を掌る機関の分立(会計法26条に定めがある)
E財政処理における議会中心主義及び民主的統制:国の財政処理は議会の議決に基づいて行使しなければならない(前述、日本国憲法86条)
F健全財政の原則 :「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。」(財政法4条1項)
 → 公債の原則禁止。
 
※赤字公債:1年限りの特例法を制定して、公債を発行する(当初は特例であったが、恒常化した)
※建設公債:財政法4条1項但し書きを根拠に発行される公債
 
2.3 予算の種類 
 
一般会計特別会計(財政法13条)
 → 特別会計は個別法により設置される
本予算補正予算(財政法29条)
 → 予算作成後の追加予算や、修正予算をあわせて補正予算という
確定予算暫定予算(財政法30条)
 → 会計年度が始まるまでに予算が成立しない場合、暫定予算が作成される。予算が成立したとき暫定予算は失効し、暫定予算に基づく支出は当該年度の予算に基づいてなしたものと見なされる
 
 法律で特殊法人の予算・決算について国会の審議と議決を要することとされているものについて、その特殊法人の予算を政府関係機関予算という(ex.国際協力銀行法30条、33条。教科書の例とされている日本政策投資銀行・住宅金融公庫は株式会社化され、予算への国会の議決は不要とされた。国際協力銀行や国民生活金融公庫も株式会社日本政策金融公庫に統合される予定である)
 
2.4 予算策定の手続 
 
@概算要求(財政法17条、8月31日まで)
・各省大臣は、毎会計年度、その所掌に係る歳入、歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の見積に関する書類を作製し、これを財務大臣に送付しなければならない
A概算決定(予算原案の作成、閣議決定は11月末から12月初旬頃になされる)
・「財務大臣は、前条の見積を検討して必要な調整を行い、歳入、歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の概算を作製し、閣議の決定を経なければならない。」(財政法18条)
B予算経費要求書等の作成(財政法20条)
・各省各庁の長は、閣議決定のあつた概算の範囲内で予定経費要求書等を作製し、これを財務大臣に送付しなければならない
C予算の作成(財政法21条、予算案は1月中に国会に提出されることが常例)
財務大臣は、各省各庁の予定経費要求書等に基づいて予算を作成し、閣議の決定を経なければならない。
 
 現実には財政法17条の概算要求書の作成・送付の前に、概算要求基準(経済財政諮問会議の提案を受ける)についての閣議了解(概算要求シーリング)が行われる。また財政法18条の概算閣議が行われるまでの間に、概算要求シーリングに基づいて、経済財政諮問会議による第一段階の査定と、財務省担当官による第二段階の査定及び調整が行われている。経済財政諮問会議の調査審議を経た内閣府による提案に係る各年度の「予算編成の基本方針」も概算閣議前に閣議決定される
 
2.5 予算の執行 
 
・「予算が成立したときは、内閣は、国会の議決したところに従い、各省各庁の長に対し、その執行の責に任ずべき歳入歳出予算、継続費及び国庫債務負担行為を配賦する。」(財政法31条1項)
・「前項の規定により歳入歳出予算及び継続費を配賦する場合においては、項を目に区分しなければならない。 」(財政法31条2項)
・「各省各庁の長は、歳出予算及び継続費については、各項に定める目的の外にこれを使用することができない。」(財政法32条)
 → 目的外利用の禁止
 → 各部局間での移用、各項間での移用、各目間での流用はそれぞれ制限されている(財政法33条)
 
 国の保有する有償資金(NTT株・JT株の配当金や財投債の発行による)を金融的に投資又は融資する資金運用活動である財政投融資計画は、財政投融資計画それ自体は参考資料として国会に提出されるのみで、国会の統制を受けていないことが問題視されている
 平成13年の改革により郵貯・年金の財政投融資への義務預託は廃止された
 
3 財産の管理(室井編p343〜347)
 
・不動産会計の一般法として国有財産法がある
・国有財産法が適用される財産とは、国有となった財産で不動産、船舶、航空機、地上権、地役権、鉱業権、特許権、著作権、株式などをいう(国有財産法2条)
 → 通常の動産は国有財産法ではなく、動産会計の一般法である物品管理法が適用される。債権については、国の債権の管理等に関する法律が適用される
・国有財産は、行政財産普通財産とに分類する。(国有財産法3条1項)
 → 行政財産は公的性格と持つのに対し、普通財産は公的性格を持たない国の私有財産というべき性格のものであるとされる
 

・行政財産は、次のように分類される(国有財産法3条2項)
@公用財産 : 国において国の事務、事業又はその職員の住居の用に供し、又は供するものと決定したもの
A公共用財産 : 国において直接公共の用に供し、又は供するものと決定したもの
B皇室用財産 : 国において皇室の用に供し、又は供するものと決定したもの
C企業用財産 : 国において国の企業又はその企業に従事する職員の住居の用に供し、又は供するものと決定したもの

 
・行政財産の管理は各省庁の長が行い、普通財産の管理・処分は財務大臣が行う。財務大臣は国有財産全体を総括する(国有財産法5条〜7条)
・「各省各庁の長は、その所管に属する国有財産について、良好な状態での維持及び保存、用途又は目的に応じた効率的な運用その他の適正な方法による管理及び処分を行わなければならない。」(国有財産法9条の5)
・行政財産は原則的には、貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、信託し、若しくは出資の目的とし、又は私権を設定することができない。(国有財産法18条1項、例外規定は2項以下)
 → 庁舎の一部を、食堂として使用することを許可するなどが例外であるとされる。このような場合、借地借家法は適用されないことが明記されている(国有財産法18条8項)
・普通財産は、国有財産法の規定によって、貸し付け、管理を委託し、交換し、売り払い、譲与し、信託し、又は私権を設定することができる。(国有財産法20条、貸付期間の制限などの制約はある。国有財産法21条〜31条)
 → 普通財産と行政財産の性格の違いを反映している
 
4 決算(室井編p347〜349)
4.1 決算手続 
 
決算:「一会計年度における歳入歳出の確定的係数を示す行為」(田中下巻p226)
 
@各省庁の長は、毎会計年度、歳入及び歳出の決算報告書並びに国の債務に関する計算書を作成し、財務大臣に送付しなければならない(財政法37条1項、送付は翌年度の7月31日まで)
A財務大臣は、歳入決算報告書に基づいて歳入決算明細書を作成しなければならない(財政法37条2項)
B財務大臣は、歳入決算明細書及び歳出の決算報告書に基づいて、歳入歳出の決算を作成しなければならない(財政法38条)
C内閣は、歳入歳出決算歳入決算明細書、各省庁の歳出決算報告書などを添付して、会計検査院に送付しなければならない(財政法39条、11月30日に期限が法定されている)
D内閣は、会計検査院の検査を経た歳入歳出決算を、翌年度国会に提出することを常例とする(財政法40条1項、日本国憲法90で求められている)
E国会は、両議員の決算委員会で歳入歳出決算を審議した上で、本会議で承認・不承認の決議を行う(ただし、不承認の決議は既に執行した収入・支出の効力を覆すことはできないと解されている)
 
4.2 会計検査院 
 
・決算の検査を行う機関として会計検査院が憲法で定められている(日本国憲法90条)
・会計検査院は内閣に対して独立の地位を持つ(会計検査院法1条)。
・会計検査院は、両議員の同意を得て内閣が任命する3人の検査官から構成される検査官会議と、事務総局をもって組織される(会計検査院法2条)。会計検査院の長は、検査官のうちから互選した者について、内閣が任命する(会計検査院法3条)
・会計検査院は、歳入歳出決算の検査とその確認を行う権限を持つ(会計検査院法21条)
 → この検査についての法的効力に関する規定はないので、内閣の決算が不適法と判断されても、予算執行行為が無効又は取り消されることにはならない
 
・会計検査院には、国の会計全体についての検査権限が与えられている(会計検査院法20条)
 → 会計検査院の検査として、国の毎月の収入支出などになされる必要的検査(会計検査院法22条)と、会計検査院が必要と認めるとき又は内閣の請求があるときに行うことができる任意的検査がある(会計検査院法23条)
・会計検査院による、職員についての本属長官等への懲戒処分の請求や、本属長官等への適宜の処置の要求や、是正改善の処置の制度がある(会計検査院法31、34条)
 
次回は「経済規制」 室井編p276〜318