個別行政分野の法 第2回 「国の行政組織」
正木宏長
1 行政組織法の基本概念(室井編p3〜10)
 
(1)行政主体の種別
 
・行政主体(行政組織) : 国、地方公共団体、
・特別行政主体(特別行政組織):独立行政法人、国立大学法人、特殊法人
※行政主体を行政体と呼ぶ説もある(参照、室井編p4注1)
 
(2)組織規範法定主義(行政組織法定主義)
 
・大日本帝国憲法では官制(官僚制度)は天皇が勅令(法律にあらず)で定められていた・現在は、官制大権・任官大権の理論は採用されていない
 → 行政組織についても法律で定められる
・行政組織の法定は、侵害留保説からは直ちに導けない
・憲法の定める国会中心主義(民主主義的統治構造)から、行政組織編成権は、日本国憲法下では、立法部にあると解するべき
 
(3)国の行政組織の基本原理
 
◎分担管理原則
→ 国家が担当する事務を複数の組織に分配すること
「各省の長は、それぞれ各省大臣とし、内閣法 にいう主任の大臣として、それぞれ行政事務を分担管理する。」(国家行政組織法5条)
 
◎明確性の確保、一体性の確保
「国家行政組織は、内閣の統轄の下に、内閣府の組織とともに、任務及びこれを達成するため必要となる明確な範囲の所掌事務を有する行政機関の全体によつて、系統的に構成されなければならない。」(国家行政組織法2条1項)
「国の行政機関は、内閣の統轄の下に、その政策について、自ら評価し、企画及び立案を行い、並びに国の行政機関相互の調整を図るとともに、その相互の連絡を図り、すべて、一体として、行政機能を発揮するようにしなければならない。内閣府との政策についての調整及び連絡についても、同様とする。 」(国家行政組織法2条2項)
 → 分担管理だからといって、縦割り行政で無責任になったり、各省庁でバラバラに行動してはならない。
 
2 内閣(室井編p10〜18)
2.1 内閣の組織 
 
・「行政権は、内閣に属する。」(日本国憲法65条)
・「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。」(日本国憲法66条3項)
 → 議院内閣制:内閣は国会の信任の下に成立し、その職務を遂行する
 
・「内閣は、国会の指名に基づいて任命された首長たる内閣総理大臣及び内閣総理大臣により任命された国務大臣をもつて、これを組織する。」(内閣法2条1項)
・「前項の国務大臣の数は、14人以内とする。ただし、特別に必要がある場合においては、3人を限度にその数を増加し、17人以内とすることができる。」 (内閣法2条2項)
・内閣の権限は、法律の執行、国務の総理、外交の処理、条約の締結、官吏に関する事務の掌理、予算の提出、政令の制定、恩赦(日本国憲法73条)
 
2.2 内閣総理大臣の権限 
 
@日本国憲法
 
・大臣の任命(68条)
・内閣を代表して、議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係については国会に報告し、行政各部を指揮監督する(72条)
・法律及び政令への国務大臣の署名、内閣総理大臣の連署(74条)
・国務大臣の訴追への同意(75条)
 
A内閣法
 
・閣議を主宰する(4条)
・内閣の法律案や予算案を内閣を代表して国会に提出する(5条)
・閣議で決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督する(6条)
・主任の大臣間の権限についての疑義の裁定(7条)
・行政各部の命令や処分を中止することができる(8条)
 
・内閣の意思は閣議を通じて全員一致で決定することが慣習
・内閣に、内閣府が置かれる(内閣府設置法2条)
・内閣府の長は、内閣総理大臣とする(内閣府設置法6条)
  → 内閣法4条2項で「内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議することができる。」ことが規定されるなど、内閣総理大臣の指導力の強化が進んでいる
 
2.3 国務大臣 
 
・内閣総理大臣とともに合議体としての内閣を構成する(内閣法2条1項)
 → 財務大臣のような各省大臣以外の構成員として、内閣官房長官、国家公安委員会委員長、特命担当大臣(内閣府設置法9条)、沖縄及び北方対策担当大臣(内閣府設置法10条)、金融担当大臣(内閣府設置法11条)
 
※行政事務を分担管理しない「無任所大臣」を国務大臣としておくことができる
 
・「内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。」(日本国憲法63条)
・「各大臣は、案件の如何を問わず、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めることができる。」(内閣法4条3項)
・「各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令の制定、改正又は廃止を必要と認めるときは、案をそなえて、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めなければならない。」(国家行政組織法11条)
 
2.4 内閣の補助部局 
 
(1)内閣官房
 
閣議事項の整理その他内閣の庶務、内閣の重要政策に関する基本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務、等を行う(内閣法12条)
 → 内閣官房には内閣官房長官が置かれる(内閣法13条)
 
(2)内閣府
 
・内閣府は、内閣の重要政策に関して内閣の事務と内閣官房を助けることを任務とする。(内閣府設置法1条)
・内閣総理大臣は、内閣府に、内閣総理大臣を助け、事務を執行するために特命担当大臣を置くことができる(内閣府設置法9条)
・内閣府には重要政策に関する会議として、経済財政諮問会議、総合科学技術会議、中央防災会議、男女共同参画会議が法定されている(内閣府設置法18条)
 → 諮問機関であるが、内閣そのものの機能を強化することを意図している
 
・内閣府に、副大臣、大臣政務官がそれぞれ3人置かれる(内閣府設置法13条、14条)
・宮内庁が「内閣総理大臣の管理に属する機関」(宮内庁法1条1項)として、内閣府に置かれる(内閣府設置法48条1項)
・内閣府に外局として委員会および庁を置くことができる(内閣府設置法49条1項)
 → 公正取引員会、国家公安委員会、金融庁
 
(3)その他の内閣に置かれる機関
 
・内閣法制局は、内閣に置かれ、閣議に附される法律案、政令案及び条約案を審査し、これに意見を附し、及び所要の修正を加えて、内閣に上申することを任務とする。(内閣法制局設置法1条、3条)
・安全保障会議は、内閣に置かれる国防に関する重要事項及び重大緊急事態への対処に関する重要事項を審議する機関である(安全保障会議設置法1条)
 
※人事院は内閣の「所轄の下」に置かれる(国家公務員法3条)
 → 人事院が独立行政機関であることを示したもの
 → 人事院は国家行政組織法の適用を受けない
 
3 内閣の統括の下の行政組織(室井編p18〜22)
3.1 省 
 
・内閣府以外の、内閣の統括の下に置かれる行政組織については国家行政組織法が組織基準を定めている
・「行政組織のため置かれる国の行政機関は、省、委員会及び庁とし、その設置及び廃止は、別に法律の定めるところによる。」(国家行政組織法3条2項)
・各省庁の長は各省大臣であり、内閣法の主任の大臣(国家行政組織法5条)。
・省庁については、国家行政組織法別表第一に列挙されている。
 → 総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
・所掌事務等は各省設置法で規定される。官房、部、局の内部部局については、政令で定められる
・各省の長は、法律案の提出、省令の制定、告示・訓令・通達の発出の権限を有する(国家行政組織法11条〜14条)
・各省には、副大臣、大臣政務官、事務次官が置かれる(国家行政組織法16条〜18条)
 
3.2 外局 
 
・内閣府及び省の外局として、庁と委員会が置かれる(内閣府設置法64条、国家行政組織法3条3項)
 
@ → 専門的な事務を本省から独立して独自の名と責任で所掌事務を遂行する
ex. 金融庁、消防庁、公安調査庁、国税庁、文化庁、社会保険庁、気象庁など
   → 大臣を長とする庁は現在では廃止された(かつては防衛庁や環境庁があった)
A委員会 → 通常の行政機関は独任制だが、委員会は合議制
ex. 公正取引委員会、中央労働委員会、公害等調整委員会、船員労働委員会
 
・中央省庁等改革基本法では、政策の企画立案機能は省の内部部局が、実施権能は外局が担うべきことが定められた
 
※委員会には、行政機関と位置づけられる国家行政組織法3条の委員会(ex.公正取引委員会)と、審議会等と位置づけられる国家行政組織法8条の委員会(ex.社会保障審議会)とがあるのに注意。省の外局としての委員会は、3条の委員会のこと。8条の委員会は省庁の附属機関になる
 
※ 公正取引委員会のように、独立行政委員会の性質を持つものは、主任の大臣や内閣から独立して職務を行う。
 → 「公正取引委員会の委員長及び委員は独立してその職務を行う」(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律[独禁法]28条)
 → 人事で内閣総理大臣の統制が及ぶので、完全に独立ではない(独占禁止法29、30、32条)
 
3.3 附属機関 
 
審議会等(国家行政組織法8条)
 → 調査審議や不服審査を行う
 ex. 社会保障審議会、証券取引等監視委員会、食品安全委員会、電波監理審議会
施設等機関(国家行政組織法8条の2)
 → 国家行政組織法は、省庁に試験研究機関、検査検定機関、文教研修施設、医療更生施設、矯正収容施設及び作業施設を置くことができるとしている。
 ex. 法務省の刑務所、農水省の動物検疫所
特別の機関(国家行政組織法8条の3)
 → 審議会等や施設等機関にあてはまらないものは、特別の機関として設置される
 ex. 国家公安委員会所管の警察庁、法務省所管の検察庁、防衛省所管の自衛隊の部隊
 
3.4 地方支分部局 
 
・「国の行政機関には、その所掌事務を分掌させる必要がある場合においては、法律の定めるところにより、地方支分部局を置くことができる。」(国家行政組織法9条)
 ex. 近畿財務局、大阪国税局、岸和田税務署
→ 自治体への事務や権限の委譲を妨げる要因として批判されてきた
 
4 会計検査院(室井編p22〜23)
 
・国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院が検査する(日本国憲法90条)
・「会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する。」(会計検査院法1条)
・「会計検査院は、3人の検査官を以て構成する検査官会議と事務総局を以てこれを組織する。」(会計検査院法2条)
・「会計検査院の長は、検査官のうちから互選した者について、内閣においてこれを命ずる。」(会計検査院法3条)
 
・「会計検査院は、常時会計検査を行い、会計経理を監督し、その適正を期し、且つ、是正を図る。」(会見検査院法20条2項)
・「会計検査院は、正確性、合規性、経済性、効率性及び有効性の観点その他会計検査上必要な観点から検査を行うものとする。」(会見検査院法20条3項)
 
次回の講義は「地方自治」室井編p24〜46