個別行政分野の法第7回「公共施設」
正木宏長
 
1 公物、営造物、公共施設(室井編p150〜152)
 
・伝統的行政法学においては、公共施設について次の二つの概念があった(参照、田中中巻p305、p325)
 

@公物:国又は地方公共団体等の行政主体により、直接、公の目的に供用される個々の有体物をいう。
 ex. 道路、河川、公園
 
A営造物:(伝統的行政法においても用語法は一定していなかったが)人的物的施設の総合体
 ex. 国公立学校、図書館、博物館、病院、保健所

 
※営造物の事業活動に関する側面が「公企業」と把握されることもあった(参照、田中中巻p303〜304。このあたりの用語法は伝統的行政法学でも定まっていなかった)。
 
・このような区分論に対して、公共施設に関する法を総合統一的にとらえて、行政主体が公共の福祉を維持増進するという目的のために、人民の利用に供するために設ける施設を「公共施設」とし、これに関する法を「公共施設法」として、把握する試みが、戦後見られるようになった(参照、遠藤博也、行政法各論、p226〜227、原龍之助、公物営造物法p361〜362)
 
→ 公共施設法として統一的に把握することへの批判もある。自由利用を中心とした公物利用関係を営造物利用関係とともにとらえることは、その特色を見失うことになるというものである(塩野、行政法Vp357)
 
※室井編の教科書では、かつての定義での公物、営造物、さらには公企業として論じられたような事柄が一括して「公共施設」の章で論じられているようである
 
・実定法上の概念として、地方自治法244条の「公の施設」の概念がある。条文上は、「住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設」と定義されている。
 ex. 水道、下水道、図書館、博物館、病院、公園
 
 → 営造物の語を用いると、混乱を来すおそれがあるので、「公の施設」という語が用いられたというのが立法経緯。もっとも住民による施設の利用関係に着目して立てられた概念であるので、学問上の営造物とは必ずしも一致しない。例えば住民の利用に供されない試験研究所は「営造物」ではあるが、「公の施設」ではない(参照田中中巻p325〜326)
 
2 公共施設の種類(室井編p152〜153)
 
・ 公物・営造物の観点からの分類は既に見たが、他にも様々な方法で公共施設を分類することができる
 
@対価の有無による区別
・利用に際して使用料を徴収しないもの : 道路、河川
・利用に際して使用料を徴収するもの : 上下水道、福祉施設
 
※水道事業のように地域での独占事業体となることもある
 
◎目的の観点からの分類
室井編p153は次のような分類を示している
@民生施設:児童福祉施設、老人福祉施設、母子福祉施設
A国民の教育を受ける権利に関連性を持つ施設:学校、公民館、市民会館、体育館、文化会館
B日常生活の手段の供給に関連する施設:電気、水道、ガス
C交通運輸通信 − 社会的間接資本に属する施設:道路、鉄道、軌道、バス、空港、港湾、郵便
D警察行政の手段としての施設:汚物処理場、じんかい処理場、火葬場、墓地
E医療保健施設:病院、保健所、療養所
 
※Dの汚物処理場やじんかい処理場は衛生行政や環境行政の手段としても位置づけられるだろう
 
※室井編p153は、私人が特許を得て事業を行う「特許企業」(電気、ガス、水道)や私立学校などを、私人による公共施設と位置づけている。(私見であるが、このような整理は一般的なものではないと思われる。参照、原龍之助、公物営造物法p362〜363)
 
3 公共施設の設置・管理・廃止(室井編p154〜160)
3.1 公共施設の設置 
 
◎国が設置・管理する公共施設
・高速自動車国道の新設・管理は法文上、国土交通大臣がするとされている(高速自動車国道法6条)
 → 実際の高速道路の新設や管理は、道路整備特別措置法により、旧道路4公団が民営化した、東日本高速道路株式会社・中日本高速道路株式会社・西日本高速道路株式会社、首都高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社、本州四国連絡高速道路株式会社が行っている(各株式会社の設置法として高速道路株式会社法がある)
 
・国立がんセンターは厚生労働省所管の施設等機関であり、国の直営ということになる
 
※国有財産に関しては国有財産法が適用される
※郵政事業は民営化された
 
◎地方公共団体が設置・管理する公共施設
・「普通地方公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。」(地方自治法244条の2)
 
・小中学校のように、法律によって設置が義務づけられるものもある(学校教育法29条、40条)
 
◎特殊法人、独立行政法人が設置・管理する公共施設
 
・JR、NTTは株式会社であるが、電話事業、鉄道事業を行っている
 
※日本道路公団の民営化は既に述べた
 
・行政改革によって多くの行政機関が独立行政法人となった(法律として独立行政法人通則法がある)
 ex. 貨幣の鋳造は、独立行政法人造幣局が行っている
 
・地方独立行政法人の設置・管理に関しては、地方独立行政法人法がある
・国立大学の運営は、国立大学法人によって行われることになった
 
※公共施設の建設・維持・管理にPFI手法が導入されている
 
3.2 公共施設の設置・管理・廃止 
 
・公共施設の開設に際して、事実上の建設工事の完成に加えて、特に一般の利用に供する開設行為が必要である場合がある。これを「公用開始行為」という
 
 ex. 「道路管理者は、道路の供用を開始し、又は廃止しようとする場合においては、国土交通省令で定めるところにより、その旨を公示し、かつ、これを表示した図面を道路管理者の事務所において一般の縦覧に供しなければならない。」(道路法18条)
 
 → 公用開始行為は、事実上の行為ではなく、法的行為であるとされる(塩野Vp330)
 → 伝統的行政法学での公物法の分野の理論であるが、海岸や河川や湖沼のような自然公物に関しては開設行為は存在しないともされていた。(田中中巻p314、遠藤各論p244)
 
・公用開始行為をするには、当該物について行政主体が権限を持っていなければならない
 
・公共施設の管理者が誰であるかは、法令による。地方公共団体の公共施設の管理者は原則として長である(地方自治法149条7号)
・管理とは、維持・修繕や、一時利用や、使用関係の規制などである
 
※2003年の地方自治法改正で「公の施設」の管理を、法人その他の団体であつて(民間事業者も含む)当該普通地方公共団体が指定するものに行わさせることができる、指定管理者制度が導入された
 
・公物管理権については、私法上の所有権とは異なる公法上の所有権に基づく作用であるとする説もあるが、管理作用の根拠は法律や、行政主体の持つ所有権その他の利用権に求められるだろう(塩野Vp332〜335)
 
※伝統的行政法学では、公共施設の管理者に、公共施設についての公共と安全と秩序を維持するための警察権が与えられているとされていた。「公物警察」「営造物警察」の概念がそれである
 ex. 道路交通法の危険を防止するための交通規制は、警察作用であるとされる(公物警察)。それに対して、道路や橋の修繕のように当該者の本来の公用の維持・増進に係る作用が(公物)管理作用であるとされる。(塩野Vp339)
 → 公物管理権との競合はかつてからの論点であった。
 
・具体的な警察権限や管理権限の程度は、法律の定めるところによる。
 
・公共施設の廃止に関しても、公用廃止行為が求められることがある(ex. 道路法18条2項、道路の公用廃止に公示を必要とする)
 
 公物に時効取得が認められるかには争いがある。戦前は認められないとされていた。だが、最高裁は、長期間、公の目的に供用されることがなかった水路として表示される、国有地について、黙示的に公用が廃止されたものとして、私人の取得時効の成立を認めた(最高裁昭和51年11月24日第2小法廷判決、民集30巻11号1104頁、行政判例百選36事件)
 
4 公共施設の利用関係(室井編p160〜167)
 
@一般使用(自由使用):何らの意思表示を要せず、公物を利用することが公衆に認められている
 ex. 市民による河川や道路の自由使用
 
※自由使用が第三者に妨害された場合、民事訴訟をなしうる。村道使用の妨害に対して、最高裁は、村民の道路を使用する自由権を妨害されたときは民法上不法行為の問題の生ずるのは当然であり、この妨害が継続するときは、これの排除を求める権利を有するとした。(最高裁昭和39年1月16日第1小法廷判決、民集18巻1号1頁)
 
A許可使用:あらかじめ行為禁止を定め、申請に基づく許可によって、禁止の解除をする
 → 公物管理権に基づいて許可をするものと、警察権に基づいて警察許可を下すもののの二種類があるが、明確な区別はつきがたいとされる
 ex. 道路工事の許可(道路交通法77条)
 
B特許使用:公物管理者から、特別の使用権を設定されて、公物を使用する
 ex. 河川の流水の占用(河川法23条)
 
C契約による使用:公共施設については、契約の締結によって使用関係が設定されるものものもある
 ex. 水道、病院の利用関係
 
→ 事業によっては契約締結の強制がされている
ex.「水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需用者から給水契約の申込みを受けた時は、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。」(水道法15条1項)
 
※公共施設の利用については、伝統的行政法学は、営造物の利用関係は、公法上の特別権力関係であるとしていたが、現在は特別の定めのない限り私法関係であると解されている。もっとも大学の内部関係などは特殊な部分社会とされている
 
次回は「都市計画、土地収用」室井編p168〜190