個別行政分野の法 第8回   「土地収用、都市計画」
正木宏長
1 総論(室井編p168〜p173)
 
・快適な都市空間を実現するために地域整備のための法制が、重要となっている
・都市のアメニティ → 都市空間の生活快適性
・都市は放置しておくと無秩序に発展する → スプロール
 

・国土利用計画法に基づいて都道府県が定める土地利用基本計画は、国土を以下の5地域に区分している
 
@都市地域 → 都市計画法の都市計画区域
A農業地域 → 農振法の農業振興地域 
B森林地域 → 森林法の国有林等
C自然公園地域 → 自然公園法の国立公園等
D自然保全地域 → 自然環境保全法の自然環境保全地域等

 
2 都市計画法(室井編p173〜176)
2.1 総論 
 
・都市計画法は法的に裏付けのある都市計画を制定するもの
・都市計画法の目的 (都市計画法1条)
・都市計画の基本理念(都市計画法2条)
 
2.2 都市計画区域 
 
・都市計画法は都市計画法が適用される区域として都市計画区域を定めている(都市計画法5条)
 → 既成中心市街地と新規開発の都市計画の二通りを想定している
 
※都市計画区域の整備、開発及び保全の方針(都市計画区域マスタープラン、都市計画法6条の2)
 → 都市計画区域について、各区域の整備、開発及び保全の方針を定めるもの。都市計画の目標や都市計画決定の方針などが定められる
 
2.3 都市計画で定めること 
 
「都市計画区域」内では、都市計画が定められる
 
(1)市街化区域・市街化調整区域(都市計画法7条)
 

@市街化区域:すでに市街地を形成している区域及びおおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域
A市街化調整区域:市街化を抑制する区域

 →市街化調整区域は、開発許可の基準が厳しい。原則不許可
・この区分をすることは線引きと呼ばれる
 
(2)地域地区(都市計画法8条)
 
・都市計画区域内では地域地区が定められる
・地域の方がやや広域的にわたり、地区の方が比較的小規模
 → 用途地域指定は色塗りと呼ばれる
ex. 用途地域  : 第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域、工業専用地域
 
(3)都市施設(都市計画法11条)
 
・都市にとって必要な施設を定め、事業を実施する
ex. 道路、公園、緑地、広場、墓園、水道、電気供給施設、ガス供給施設、下水道、汚物処理場、ごみ焼却場、河川、運河、学校、図書館、病院、保育所、市場、と畜場又は火葬場
 
(4)市街地開発事業(都市計画法12条)
 
・都市施設が機能的に特定されたものであるのに対して、市街地開発事業は広範囲にわたって一定の区域を総合的に整備・開発しようとするもの
→ @土地区画整理事業、A新住宅市街地開発事業、B工業団地造成事業、C市街地再開発事業 、D新都市基盤整備事業 、E住宅街区整備事業 、F防災街区整備事業
 
(5)地区計画
 
・規制だけでもなく、完全な事業でもない
・地区の土地利用規制と地区施設の整備事業を含む。地区単位のきめ細かい規制・誘導を目的としている
 
2.4 都市計画の決定手続 
 
・市街化区域・市街化調整区域の区域区分などについての都市計画は都道府県が、用途地域の指定のようなことについては市町村が都市計画を決定する(都市計画法15条)
・都道府県や市町村が都市計画案を作成する際には、必要があると認めるときは、公聴会等の必要な措置を講ずる(都市計画法16条)
・都市計画案は2週間公告縦覧に供し、住民の意見書の提出を求める(都市計画法17条)
・「都道府県は、関係市町村の意見を聴き、かつ、都道府県都市計画審議会の議を経て、都市計画を決定するものとする」(都市計画法18条、市町村の場合は19条)
 
・都市計画への住民の提案の制度がある(都市計画法21条の2〜5)。土地所有者やNPO法人が都市計画の案を提出することができる
 → 区域内の土地所有者等の3分の2以上の同意が必要
 
3 公用収用(室井編p176〜186)
3.1 総説 
 
・公用収用 → 任意買収によらず、強制的に土地を取得する仕組み
・土地収用法が公用収用の手続を定めている
・土地を収用することが出来る事業 → 土地収用法3条に列挙
 ex. 道路、ダム、飛行場、図書館、官公署の建設 etc.
・土地収用には土地を収用する「公益上の必要がある」ことが必要(土地収用法20条)
 
・「起業者」が土地を収用する(土地収用法8条)
・道路や官公署の建設のような場合には、国や地方公共団体が起業者となる
・私人も起業者になることが出来る
 ex. 許可を受けてガス事業を営むガス業者は、ガス工作物に関する事業のために土地を収用することが出来る(土地収用法3条17号の2)
 
3.2 土地収用の手続 
 

事業認定(土地収用法16条) →→ 土地物件調書の作成(土地収用法36条) →→ 収用裁決の申請(土地収用法39条)→→ 収用裁決(土地収用法47条の2)→→ 損失補償(土地収用法68条)

 
・事業認定は国土交通大臣又は都道府県知事が行う(土地収用法17条)
・事業認定をうけることで、起業者は収用裁決の申請を出来るようになる(土地収用法39条)
 
・収用裁決は収用委員会が第三者としての地位で行う(47条の2)
・収用裁決には、権利取得裁決と明渡裁決がある。権利取得裁決によって、取得する土地の区域や権利取得時期決定がなされ(土地収用法48条)、明渡裁決によって、所有権への損失補償額や物件の移転の期限が裁決される(土地収用法49条)。
 
3.3 損失補償の内容 
 
・権利取得裁決の後、起業者は明渡裁決で定められた補償金を、土地所有者であった者に支払わなければならない
・損失補償の原則として、@個別払の原則(土地収用法69条)、A金銭補償の原則(土地収用法70条)、B前払いの原則(土地収用法95条)
 
3.4 損失補償の種類 
 
(1)権利対価補償
・「補償金の額は、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とする。 」(土地収用法71条)
 →ここで言う「相当な価格」とは「完全な補償」を指すものである。上に紹介した最高裁昭和48年10月18日第1小法廷判決参照
 
(2)残地補償(土地収用法74条1項)
ex. 残地が三角形になって地価が低下した
ex. 将来別荘地としても使用できる雑木林が、高圧送電線によって分断され地価が低下した
 
(3)みぞかき補償(土地収用法75条)
ex. 2戸連結した建物のうち1戸だけ収用した際の屋根の修復費用
ex. 庭の一部を収用した際の庭の修復費用
 
(4)移転料補償(土地収用法77条)
ex. 建物・立木の移転費用(実際には除却新築や伐採除却が行われる場合が多い)
 
(5)通常受ける損失の補償(土地収用法88条)
ex. 営業休止・廃止の補償、移転雑費、動産移転料
 
精神的損失への補償
・先祖伝来の土地を離れることによる精神的損失についての補償等は、損失補償基準要綱の施行に伴う閣議了解では行わないとしている。学説からは批判がある
 
文化財的価値の補償
・最高裁昭和63年1月21日第1小法廷判決(判例時報1270号67頁)は、文化財的価値は土地収用法88条の「通常受ける損失」にあたらないとした
 
生活再建補償
・少数残存者補償(ex. 村の大半がダムに沈んだとき、残された者が集落から得ていた生活上の便益への補償、損失補償基準要綱45条)
・離職者補償(ex. 農地を提供して、都市労働者になる者への補償。職業訓練を行うなど。損失補償基準要綱46条)
・裁判例では生活権補償が通常生ずべき損害であるとはされていない。
・土地収用法139条の2、水源地域対策特別措置法8条、都市計画法74条などが、生活再建措置についての努力義務を定めている。
 
4 土地区画整理事業(室井編p186〜188)
 
・「土地区画整理事業」:「都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、この法律で定めるところに従つて行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業をいう。 」(土地区画整理法2条1項)
・土地の収用をするのではなく、土地の交換分合を通じて土地の区画を整えようとする事業。土地の「減歩」「換地」で事業を行う
 
・土地区画整理の施行者として次の者が予定されている(土地区画整理法3条〜3条の4)
@個人 A土地区画整理組合 B区画整理会社 C市町村、都道府県(自治体)D国土交通大臣 E独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社
 

土地区画整理事業の流れ
 
(「土地区画整理組合の設立」)→「事業計画」→「換地計画」→「仮換地の指定」→「建物除去・工事施行」→「換地処分」→「登記」

 
・換地の際には、従前の土地と照応するように換地を定めなければならない(換地照応の原則、土地区画整理法89条1項)
・換地の際には、過小宅地にならないよう適正規模にしなければならない(地積の適正化、土地区画整理法91条)
・換地の際、公平に換地できない場合、清算金で精算する(土地区画整理法87条)
 
5 市街地再開発事業(室井編p188〜190)
 
・駅前市街地のように、密集していて区画整理で換地をしても、宅地が狭小になりすぎるような場所で、土地の高度利用化を計る場合、「都市再開発」が行われる
・密集市街地をクリアランスして、中高層建物を建て、できた中高層建物の権利を、従前地の所有者に割り当てる手法
・市街地再開発事業には、「権利変換」手続を行う「第1種市街地再開発事業」と、施行者がいったん施行区域の土地を買収・収用する「管理処分」手続を行う「第2種市街地再開発事業」がある
 
「権利変換」:旧土地所有者には、新ビルの敷地の共有持ち分が、旧建物所有者には新ビルの一部(権利床)が与えられるという風に、権利が変換される。権利変換の際には、再開発の前後で、資産に著しい差が出ないようにしなければならない。
 
次回は「教育」室井編p230〜251