環境保全法第10回「農地と法」
正木宏長
1 農業法制の展開(須田293〜298)
 
・1945年、連邦軍最高司令官は日本政府に「農地改革についての覚書」を交付した
 → 日本の民主化のために寄生地主制を廃することが重要であると考えた。
・1946年、自作農創設特別措置法制定
・1961年 農業基本法制定
 
◎農業基本法の内容
 
@構造改善 : 農業経営規模の拡大、農地の集団化、農業の機械化
A農業の生産性の向上と農家の生活の向上 : 肉牛や乳製品の生産、果樹園の増大に力を入れ、米作には政策の力点を置かなかった
B農作物価格、流通の安定 :食糧管理制度
 
2 食料・農業・農村基本法(須田298〜303)
 
・1999年、「食料・農業・農村基本法」制定
 
・食料の安定供給の確保(食料・農業・農村基本法2条)
・「国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等農村で農業生産活動が行われることにより生ずる食料その他の農産物の供給の機能以外の多面にわたる機能」(多面的機能)の発揮(食料・農業・農村基本法3条)
・農業の持続的な発展(食料・農業・農村基本法4条)
・農村の振興(食料・農業・農村基本法5条)
 
・政府は食料・農業・農村基本計画 を定める(食料・農業・農村基本法15条)
 → 食料、農業及び農村に関する施策についての基本的な方針、食料自給率の目標、食料、農業及び農村に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策を定める
・女性参画の促進(食料・農業・農村基本法26条)、高齢者農業者の活動の促進 (食料・農業・農村基本法27条)
・「国は、農業の自然循環機能の維持増進を図るため、農薬及び肥料の適正な使用の確保、家畜排せつ物等の有効利用による地力の増進その他必要な施策を講ずるものとする。 」(食料・農業・農村基本法32条)→ 自然循環機能の維持
 
3 農業振興地域の整備に関する法律(須田p303〜317)
3.1 総説 
 
・1969年、「農業振興地域の整備に関する法律」(通称、農振法)制定
 → 都市計画法は「都市地域」の法、農振法は「農業地域」の法
・都道府県知事は、「農業振興地域整備方針」を定める(農振法4条)
 →方針で定める事項は須田p305
・都道府県知事が農業振興地域を指定する(農振法6条1項)
 →指定の要件は須田p306。市街化区域には指定されないなど
 
・都道府県知事が農振地域を指定すると、農振地域を区域内に持つ市町村は「農業振興地域整備計画」を定めなくてはならない(農振法8条)
 → 広域の見地から定めることが相当な場合は都道府県知事が定めることができる(農振法9条)
 → 農業振興地域整備計画に定める事項については、 農用地等として利用すべき土地の区域及びその区域内にある土地の農業上の用途区分や、排水施設のような農用地の保全に関する事項、農業近代化のための施設整備に関する事項などがある。詳しくは須田p307
・農業振興地域整備計画の中でも、農振法8条2項1号の「農用地等として利用すべき土地の区域(「農用地区域」)及びその区域内にある土地の農業上の用途区分に係る計画は「農用地利用計画」とされる。8条2項2号〜6号までの事柄はマスタープランと位置づけられる
 → 農用地区域に指定されるのは20ha以上の農用地など(農振法10条3項、農振法施行令5条)
 
・農業振興地域整備計画の内容と他の計画の内容との調整については10条
・市町村が農業振興地域整備計画を策定する際の手続は、農振法8条4項、11条〜13条
 → 都道府県との協議(農振法8条4項)。政令では、農業協同組合、土地改良区、森林組合からの意見聴取が義務づけられている(農振法施行令3条)。農用地利用計画については、土地に権利を有する者の異議申し立て、審査請求の手続がある。
 
※市町村は、優良な農用地を確保するため、農業上の利用を高めようとする土地と、それ以外の用途に供される見通しの土地とを、農用地区域外を含めて交換分合を行うことができる。換地処分等を用いて行われる(農振法13条の2ー5)
 
3.2 農用地利用計画 
 
・農業振興地域整備計画の中の、農用地利用計画は、マスタープランではなく、具体的な土地利用計画であり、各種規制措置が設けられている
 
◎土地利用に関する措置
 
・市町村長は、農用地区域内にある土地が農用地利用計画において指定した用途に供されていない場合、所有権者等に対し、その土地を当該農用地利用計画において指定した用途に供すべき旨を勧告することができる(農振法14条1項)
 → 市町村長は勧告に従わない者には、計画に従って土地を利用しようとする者で指定を受けた者との権利移転の協議をするよう勧告することができる(農振法14条2項)。この協議が成立しないとき、権利を取得しようとする者は都道府県知事に調停を求めることができる(農振法15条)
 → 拘束力を持たない行政指導による規制
 
◎特定利用権の設定(教科書の記述は2005年の法改正前のものなので注意)
 
・遊休農地について、所有者に代わり、耕作意欲を持つ者が耕作をするようにする仕組みとして、「特定利用権」の制度がある。強制的に土地利用権を設定する仕組みである
・2005年の法改正により、農業経営基盤強化促進法の制度と一本化され、農業経営基盤強化促進法によって特定利用権が設定されることになった(農振法の特定利用権の規定は廃止された)
 

※農業経営基盤強化促進法の特定利用権の仕組み
 
・農業委員会が、農地所有権者に要活用農地の農業上の利用の増進を図るため必要な指導する(27条の1)耕作が行われないときは、市町村長に通知を要請する
・市町村長が特定遊休農地であることを農地所有者に通知する。農地所有者は特定遊休農地の農業上の利用に関する計画を市町村の長に届け出る(27条の2)
・届出内容が、基本構想の達成に支障が生ずるおそれがあると認めるときは、特定遊休農地の農業上の利用の増進を図るために必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。 (27条の3第1項)
・勧告に従わない場合、市町村長が、農地保有合理化法人、市町村又は特定農業法人(三つを総称して、「農地保有合理化法人等」)を指定し、指定された者が権利者と利用権の設定について協議をする。農地所有者は協議を拒んではならない。(農業経営基盤強化促進法27条の3第2項)
・協議がまとめらなかったときは、農地保有合理化法人等は、都道府県知事に調停を申請することができる(農業経営基盤強化促進法27条の4)。
・調停も不成立の場合、農地保有合理化法人等は、都道府県知事に裁定を申請することができる、裁定を下されれば、強制的に特定利用権が設定される(農業経営基盤強化促進法27条の5〜8)

 
 
◎開発行為の制限
 
・農用地区域内において開発行為(宅地の造成、土石の採取その他の土地の形質の変更又は建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築)をしようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない(農振法15条の2)
 → 国又は地方公共団体が行う行為、土地改良事業の施行、非常災害のために必要な応急措置として行う行為 には許可不要(農振法15条の2第1号〜7号)
 → 都道府県知事は、「農用地等として利用することが困難となるため、農業振興地域整備計画の達成に支障を及ぼすおそれがある」場合などは、許可してはならない(農振法15条の2第4項、須田p315参照)
 
・農業振興地域の区域のうち農用地区域以外の区域での開発行為には、都道府県知事は必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。勧告に従わない場合は公表(農振法15条の4、詳細は須田p315〜316)
 →拘束力がないので、時には、乱開発がされ問題となる
 
◎農地等の権利所得斡旋、協定の締結
 
・農業委員会は、農用地区域内の土地の、農業のための土地所有権の移転等の斡旋をする(農振法18条)
・建築基準法の建築協定と同種の制度として、「施設配置協定」や「施設維持協定」がある。施設(ex.農産物出荷施設、農業廃棄物処理施設)の用に供する・供しないという協定での合意が、区域内の土地所有者全員に及ぶ。協定の締結は土地所有者全員の合意と市町村長の認可によって行われる(18条の2〜18条の13)
 
4 農地法(須田320〜328) 
 
・寄生地主制の復活を防ぎ、耕作者の権利を擁護するために、1952年に農地法が制定
された
 
(1)権利移動制限
 
・農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない(農地法3条1項。個人が住所を有する市町村の区域外の農地の権利を取得する場合は、都道府県知事が許可する)
 → 登記簿上の地目ではなく、現況によって農地かどうかは判断される。現況が農地でなければ適用されないし、登記簿上、山林、原野であっても現況が農地であれば本条が適用される
 → 許可申請をするのは当事者であるから、例えば、所有権移転を場合は譲渡人と譲受人の共同申請になる
・許可の性質は、行政法での講学上の「認可」。許可を得なければ、所有権移転等の私法上の効力も生じない
・権利を取得しようとする者又はその世帯員がその取得後において耕作又は養畜の事業に供すべき農地及び採草放牧地のすべてについて耕作又は養畜の事業を行うと認められない場合等は許可されない(農地法3条2項)
 
(2)転用制限
 
・農地を非農地に転用するためには、都道府県知事の許可を受けなければならない(農地法4条1項。4ha以上の土地は農林水産大臣)
  → 市街化区域内の農地には、農業委員会に届け出れば、転用には許可不要(農地法4条1項5号
・農振法の農用地区域内の農地や、「申請に係る農地に代えて周辺の他の土地を供することにより当該申請に係る事業の目的を達成することができると認められるとき」などは許可されない(農地法4条2項)
 
・農地を非農地にするために所有権を移転するような場合についても、都道府県知事の許可が必要(農地法5条1項。4ha以上の土地は農林水産大臣)
 → 許可条件は農地転用の場合と同様
・農地を許可なくして取り潰して宅地にした(無許可転用)者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金(農地法92条)原状回復命令の制度もある(農地法83条の2)
 
※他に小作地の所有には制限が設けられている(北海道4ha、その他の都府県0.6〜1.5ha、農地法6条1項)。超過部分については国が買収し(農地法9条)、小作人に売り渡しをする(農地法36条)
 
※農地賃貸の対抗力(引き渡しで対抗できる、農地法18条)や、賃貸借の解約には都道府県知事の許可が必要になる(農地法20条)といった利用関係の調整については省略
 
5 土地改良法(須田328〜343)
 
・農業生産の基盤の整備を図り、もって、農業生産性を向上することなどを目的とする法律として、1949年に「土地改良法」が制定された
 → 前身は1899年の耕地整理法、家畜による耕作から、蒸気による機械化農業へ転換するため、区画を改め、耕地の形状を整形するものであった
・土地改良法により、農業用排水路や農業用道路の保全、農地利用上必要な移設の新設、区画整理、農用地の造成、埋立・干拓、農用地の災害復旧などが行われる
・土地改良事業は、土地改良区、国、都道府県、市町村、農業協同組合、農用地所有者、小作者等によって行われる
 → 土地改良区が、土地改良事業計画への認可を得て、事業を実施するという流れで行われる。区画整理は換地計画を定めて換地をすることによって行われる(参照、須田p333)
 → 国、都道府県が自ら行う土地改良事業には認可は不要(農地所有者等(3条資格者)の3分の2の同意は必要、土地改良法85条2項、87条の2第3項) 
 
                    次回は「森林地域の法」須田p347〜374