環境保全法第11回 「森林地域の法」
正木宏長
1 森林・林業基本法(須田p346〜355)
1.1 林業基本法から、森林・林業基本法へ
 
・1950年代からの木材需要の増加
・1964年に「林業基本法」が制定された
 → 産業としての林業を振興するものであった
・円相場が変動相場制となって、国産材は外材に価格面で対抗できなくなった
 → 林業の行き詰まり
・2001年、林業基本法は改正され「森林・林業基本法」となった
 
1・2 森林・林業基本法の内容 
 
・目的(森林・林業基本法1条)
 → 森林・林業施策の基本理念を定めるもの
・森林の有する多面的機能の発揮(森林・林業基本法2条)
 → 国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、公衆の保健、地球温暖化の防止、林産物の供給等の多面にわたる機能が協調されている
・林業の持続的かつ健全な発展(森林・林業基本法3条)
 → 経営基盤の強化、人材の確保など(森林・林業基本法19条〜23条)
・国有林経営の基本理念(森林・林業基本法5条)
・木材産業等の健全な発展、林産物の利用の促進、林産物の輸入に関する措置(森林・林業基本法24条〜26条)
 
1.3 森林・林業基本計画 
 
・政府は、森林及び林業に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、森林・林業基本計画を定めなければならない(森林・林業基本法11条1項)
 
◎森林・林業基本計画で定める事柄(森林・林業基本法11条2項)
 
@森林及び林業に関する施策についての基本的な方針、A森林の有する多面的機能の発揮並びに林産物の供給及び利用に関する目標、B森林及び林業に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策、Cその他、森林及び林業に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
 
・ 森林・林業基本計画は、国の環境基本計画と調和のとれたものではなくてはならない(森林・林業基本法11条4項)
・ 森林・林業基本計画は5年ごとに変更される(森林・林業基本法11条7項)
・ 森林・林業基本計画の内容については須田p354の図参照
 
2 森林法(須田p355〜361、362〜367)
 
・目的(森林法1条)
→ 資源確保を目的とする産業法であるが、環境保全も副次的な目的としている
 
2.1 全国森林計画 
 
・農林水産大臣は、政令で定めるところにより、森林・林業基本法の森林・林業基本計画に即し、かつ、保安施設の整備の状況等を勘案して、全国の森林につき、5年ごとに、15年を一期とする全国森林計画をたてなければならない(森林法4条1項)
 

◎全国森林計画の内容(森林法4条2項)
 
@森林の整備及び保全の目標その他森林の整備及び保全に関する基本的な事項、A森林の立木竹の伐採に関する事項(間伐に関する事項を除く)、B造林に関する事項、C間伐及び保育に関する事項、D公益的機能別施業森林の整備に関する事項、E林道の開設その他林産物の搬出に関する事項、F森林施業の合理化に関する事項、G森林の土地の保全に関する事項、H保安施設に関する事項、Iその他必要な事項

 
・全国森林計画は環境基本計画と調和するものでなければならない(森林法4条4項)
・「農林水産大臣は、全国森林計画をたて、又はこれを変更するには、閣議の決定を経なければならない」(森林法4条8項)
 
2.2 民有林に関する計画と規制 
 
(1)森林整備保全事業計画
 
・農林水産大臣は、全国森林計画に掲げる森林の整備及び保全の目標の計画的かつ着実な達成に資するため、全国森林計画の作成と併せて、5年ごとに「森林整備保全事業計画をたてなければならない(森林法4条5項(森林法4条5項、教科書では「森林整備事業計画」となっているが、「森林整備保全事業計画」が正しい)。
→ 造林、間伐、保育、林道の開設、改良事業
・森林整備保全事業計画を立て、又は変更する場合も閣議決定が必要(森林法4条11項)
 
(2)地域森林計画
 
・都道府県知事は、全国森林計画に即して、森林計画区別に、その森林計画区に係る民有林につき、5年ごとに、地域森林計画をたてなければならない(森林法5条1項)
 → 計画事項は5条2項
 ex.森林の区域、森林の所在、面積、伐採立木材積、造林面積、間伐立木材積、林道の開設、改良に関する計画、樹根、表土の保全、保安林整備
※森林計画区は農林水産大臣が定める(森林法7条)
 
・地域森林計画の対象は、「林班」に分けられ、林班はさらに「小班」に分けられる
→ 森林計画区については、小班ごとに、林種、林齢、樹冠疎密度、樹種の混合割合、樹種別材積等の林況を調査して、「森林簿」を作り、これを基礎に計画が立てられる
・地域森林計画をたてる際の手続は、森林法6条
・森林所有者等は、地域森林計画に従つて施業し、又は森林の土地の使用若しくは収益をすることを旨としなければならない。(森林法8条1項)
 
(3)市町村森林整備計画
 
・市町村は、その区域内にある地域森林計画の対象となつている民有林につき、5年ごとに、10年を1期とする市町村森林整備計画をたてなければならない(森林法10条の5)
 → 計画事項は10条の5第2項
ex. 伐採、造林、保育に関する基本的事項、立木の標準伐期齢、造林樹種、間伐を実施すべき標準的な林齢、間伐及び保育の標準的な方法、林業に従事する者の養成及び確保に関する事項、作業路網の整備に関する事項
・「市町村森林整備計画は、地域森林計画に適合したものでなければならない」(森林法10条の5第3項)
・計画を立てる際の手続は、10条の5第5項〜8項。地域森林計画に準ずる
・森林所有者等は、市町村森林整備計画に従つて施業することを旨としなければならない(森林法10条の7)
 
(4)伐採、施業への規制
 
・森林所有者等は、地域森林計画の対象となつている民有林の立木を伐採するには、あらかじめ、市町村の長に森林の所在場所、伐採面積、伐採方法、伐採齢、伐採後の造林の方法、期間及び樹種等を記載した伐採及び伐採後の造林の届出書を提出しなければならない。(10条の8)
 →市町村の長は、届出書に記載された内容が市町村森林整備計画に適合しないと認めるときは、その伐採及び伐採後の造林の計画を変更すべき旨を命ずることができる。(10条の9)
・市町村の長は、森林所有者等がその森林の施業につき市町村森林整備計画を遵守していないと認める場合において、市町村森林整備計画の達成上必要があるときは、当該森林所有者等に対し、遵守すべき事項を示して、これに従つて施業すべき旨を勧告することができる(10条の10)
※NPO法人や公益法人が土地所有者等に代わって民有林の施業をする協定として施業実施協定の制度がある(10条の11の8)
 
◎森林施業計画
 
・森林所有者等は、5年を一期とする森林施業計画を作成し、これを当該森林施業計画の対象とする森林の所在地の属する市町村の長に提出して、当該森林施業計画が適当であるかどうかにつき認定を求めることができる(森林法11条の2第1項)。
 →森林施業の実施に関する長期の方針、所在場所別の面積、伐採、造林、間伐、保育に関する事項などを定める(森林法11条2項)
※森林施業計画の認定を受ければ、税制や融資の優遇措置が得られるが、森林施業計画の遵守や森林の伐採の届出の義務を負うという拘束も受ける(森林法14条、15条)
 
(5)林地開発許可
 
・地域森林計画の対象となっている民有林において、土地の形質等を変更する行為で、1haを超えるものは都道府県知事の許可を受けなければならない(森林法10条1項、 国又は地方公共団体が行なう場合のように10条1項1項1号〜3号に掲げる例外があり)
 →許可要件は10条の2第2項。土砂流出や災害発生や水害発生等や環境悪化のおそれがない場合は許可しなければならない
 →都道府県知事は、無許可開発等に対しては復旧命令を出すことができる(森林法10条の3)
 
2.3 保安林 
 
・農林水産大臣は森林を保安林として指定することができる。(森林法25条1項)
 → 保安林は次の目的のために指定される
 @水源のかん養、A土砂の流出の防備、B土砂の崩壊の防備、C飛砂の防備、D風害、水害、潮害、干害、雪害又は霧害の防備、Eなだれ又は落石の危険の防止、F火災の防備、G魚つき、H航行の目標の保存、I公衆の保健、J名所又は旧跡の風致の保存、
 → 指定の状況については教科書p363。水害防備のための保安林の指定も行われたので、治水の一つとされていた
 
・農林水産大臣は、保安林の指定をするときにあってはその保安林の所在場所、当該指定の目的及び当該保安林に係る指定施業要件(立木の伐採の方法及び限度並びに立木を伐採した後において当該伐採跡地について行なう必要のある植栽の方法、期間及び樹種のこと)を定めなければならない(森林法34条)
 →指定施業要件で、伐採方法(禁伐、択伐、階伐)などが定められる
 →指定施業要件は、立木伐採許可等の基準となる
 

※階伐:伐採方法の指定無し
 択伐:伐採区域内の立木を均等な割合で伐採する
 禁伐:全ての立木の伐採を禁止する

 
・保安林では、立木の伐採や立木の損傷、家畜の放牧、下草・落葉・落枝の採取等には、都道府県知事の許可を受けなければならない(森林法34条)
 →保安林の立木を伐採したときは、植栽をしなければならない(森林法34条の4)
 →無許可伐採には、復旧等を命じることができる(監督処分、森林法38条)
・保安林に係る指定施業要件に定める立木の伐採の方法に適合し、かつ、当該指定施業要件に定める伐採の限度を超えない範囲内であれば、間伐や択抜は市町村長への届出で行うことができる(34条の2、34条の3)
・保安林に指定されると、森林の伐採が制限されるので、損失補償がなされる(森林法35条)
・保安林の指定が解除された後、リゾート開発等が行われるので、しばしば保安林の解除が訴訟で争われる
 
3 国有林に関する計画(須田p361〜362、367〜370)
 
・国有林は国有財産である
・農林水産大臣は、政令で定めるところにより、5年ごとに、10年を一期とする国有林野の「管理経営基本計画」を定めなければならない(国有林野の管理経営に関する法律4条1項)
 

◎国有林の管理経営基本計画の計画事項。(国有林野の管理経営に関する法律4条2項)
 
@国有林野の管理経営に関する基本方針、A国有林野の維持及び保存に関する基本的な事項、B国有林野の林産物の供給に関する基本的な事項、C国有林野の活用に関する基本的な事項、D国有林野の管理経営の事業の実施体制、長期的な収支の見通しその他事業の運営に関する事項、Eその他国有林野の管理経営に関し必要な事項

 
・森林管理局長は、全国森林計画に即して、森林計画区別につき、5年ごとに、その計画をたてる年の翌年4月1日以降10年を一期とする「森林計画」をたてなければならない(森林法7条の2第1項)
・森林管理局長は、管理経営基本計画に即して、森林法第7条の2第1項 の森林計画区別に、5年ごとに、当該森林計画区に係る森林計画の計画期間の始期をその計画期間の始期とし、5年を一期とする「地域管理経営計画」を定めなければならない(国有林野の管理経営に関する法律6条1項)
 → 機能類型別区分が定められることが重要。@国土保全林、A森林と人の共生林、B資源循環利用林に区分される
 
※農林水産省の訓令である、国有林野管理経営規定12条により5年を一期とする施行実施計画が定められる。レクリエーションの森の選定、標準伐採量、伐採箇所、伐採箇所ごとの伐採量等が定められる
 
次回の講義は「自然環境保全、自然公園」、須田p375〜401