環境保全法第13回「自然環境保全、自然公園」
正木宏長
1 序(須田p375〜376)
 
・自然環境を保全する代表的な手法は、ある自然地域を対象として、自然環境に影響を与える開発や行為を禁止することである
・地域指定と行為規制によって自然環境を保護する代表的な法律としては、「自然環境保全法」、「自然公園法」、「鳥獣保護法」、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」がある
・国土利用計画法では、自然公園法による「自然公園地域」と、自然環境保全法による「自然保全地域」の区分を設けている
 → 地種としては、保全の対象は、海浜、河川・湖沼、森林、原野、湿地、草原、農地と様々
 
・自然環境保全法は、あるがままの自然を保護しようという発想であるのに対し、自然公園法は保護のみならず利用の側面も強い
・自然環境保全法にも自然公園法にも開発との調整に留意するようにする規定があり、問題視されている(自然環境保全法3条、自然公園法4条)
 
2 自然環境保全法(須田p378〜384)
2.1 序 
 
◎目的(自然環境保全法1条)
 
・自然性の高い地域、稀少かつ貴重、再生困難で学術的価値の高い自然物を含む自然地域を保全することを目的とする
→ 自然公園法は「優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図り、もつて国民の保健、休養及び教化に資することを」目的とするのに対して(自然公園法1条)、自然環境保全法は、美観・景観とは異なる観点から自然をとらえている(自然性の高さ、稀少さ、貴重さ、再生困難さ等)。
 
◎自然環境保全基本方針
 
・国は自然環境保全基本方針を定めなければならない(自然環境保全法12条1項)。
 
・自然環境保全基本方針には、@自然環境の保全に関する基本構想、A原生自然環境保全地域及び自然環境保全地域の指定その他これらの地域に係る自然環境の保全に関する施策に関する基本的な事項、B都道府県自然環境保全地域の指定の基準その他その地域に係る自然環境の保全に関する施策の基準に関する基本的な事項、等を定める(自然環境保全法12条2項)
 
・環境大臣は、中央環境審議会の諮問を経て、自然環境保全基本方針の案を作成して、閣議の決定を求めることになる。閣議決定により自然環境保全基本方針を決定する(自然環境保全法12条3項、4項)
 
2.2 自然地域の保全制度 
 
自然環境保全法は、自然地域の保全制度として、@原生自然環境保全地域、A自然環境保全地域、B都道府県自然環境保全地域、を定めている
 
(1)原生自然環境保全地域
 
・環境大臣は、以下の要件を満たす地域で、当該自然環境を保全することが特に必要なものを、原生自然環境保全地域に指定することができる(自然環境保全法14条)
 
@その区域における自然環境が人の活動によつて影響を受けることなく原生の状態を維持しており
A政令で定める面積以上の面積を有する土地の区域であつて、国又は地方公共団体が所有するもの(保安林の区域を除く)
B当該自然環境を保全することが特に必要なもの
 
 → 自然のままで残しておく地域
 → 保安林は人為的な管理が必要として、保安林には指定できないとされているが問題である
 
・国有地、公有地に指定されるので、事前に、土地を所管する行政機関の長又は地方公共団体の同意を得なければならない。また、指定に際して都道府県知事及び中央環境審議会の意見を聞かなければならない(自然環境保全法14条2項、3項)
 
※現在、遠音別岳、十勝源流部、南硫黄島、大井川源流部、屋久島、が原生自然環境保全地域に指定されている
 
・原生自然環境保全地域では、木材の伐採・損傷、植物・落葉・落枝の採取の他、植物の植栽、種子をまくこと、焚き火、キャンプ、家畜の放牧、動物の捕獲・殺生・卵の採取、車馬の使用などが許可制とされている(自然環境保全法17条)
→ 違反に対して環境大臣は中止命令等を出すことができる(自然環境保全法18条)命令違反は1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(自然環境保全法53条)
 
・環境大臣は原生自然環境保全地域内に立入制限区を指定することができる(自然環境保全法19条)
→  現在は南硫黄島全域が指定されている。
 
(2)自然環境保全地域
 
・環境大臣は、原生自然環境保全地域以外の区域で、下の要件のいずれかに該当するもののうち、自然的社会的諸条件からみてその区域における自然環境を保全することが特に必要なものを自然環境保全地域として指定することができる(自然環境保全法22条)
 
@高山性植生又は亜高山性植生が相当部分を占める森林又は草原の区域でその面積が政令で定める面積以上のもの
Aすぐれた天然林が相当部分を占める森林の区域でその面積が政令で定める面積以上のもの
B地形若しくは地質が特異であり、又は特異な自然の現象が生じている土地の区域及びこれと一体となつて自然環境を形成している土地の区域でその面積が政令で定める面積以上のもの
Cその区域内に生存する動植物を含む自然環境がすぐれた状態を維持している海岸、湖沼、湿原又は河川の区域でその面積が政令で定める面積以上のもの
Dその海域内に生存する熱帯魚、さんご、海そうその他これらに類する動植物を含む自然環境がすぐれた状態を維持している海域でその面積が政令で定める面積以上のもの
E植物の自生地、野生動物の生息地その他の政令で定める土地の区域でその区域における自然環境が前各号に掲げる区域における自然環境に相当する程度を維持しているもののうち、その面積が政令で定める面積以上のもの
 
→ 国有地、公有地のほか、私有地を指定することができる(笹ヶ峰は私有地)
→ 現在、大平山、白神山地、早池峰、和賀岳、大佐飛山、利根川源流部、笹ヶ峰、白髪岳、稲尾岳、崎山湾、が指定されている
 
・指定の手続として、関係地方公共団体の長・中央環境審議会の意見聴取の手続きのほか、住民及び利害関係人からの意見書提出の手続きがある(原生自然環境保全地域の指定の場合、後者はない。自然環境保全法22条)
 
※原生自然環境保全地域や自然環境保全地域は都市計画区域の市街化区域には指定されない
 → 都市部の自然保護は都市緑地法によって行われる
 
※自然公園区域は自然環境保全地域の区域に含まれない(自然公園法58条、自然環境保全法22条2項)
 
・自然環境保全地域は、@特別地区A野生動植物保護地区B海中特別地区C普通地区、に分けられ、異なった規制がされている。おおむね環境大臣の許可を求める許可制による規制である(自然環境保全法25〜28条)
 @特別地区では、木材の伐採は禁止されるが、木竹の損傷、落葉・落枝の採取、毒物の捕獲・損傷、卵の捕獲は禁止されていない(自然環境保全法25条4項)
 A特別地区内の野生動物保護地区では、@に加えて、野生動植物や動物の卵を捕獲、殺傷、採取、損傷してはならない(自然環境保全法26条4項)
 B海中特別地区海では、海底の形質変更、鉱物の掘採、土石の採取、海面の埋立・干拓、熱帯魚、さんご、海そう類の動植物の捕獲、殺傷、採取、損傷が禁止される(自然環境保全法27条4項)
 C普通地区では届出制と命令制による規制が為されている(自然環境保全法28条)
・許可を受けられない場合の損失補償の規定がある(自然環境保全法33条1項)
 
(3)都道府県自然環境保全地域
 
・都道府県は、条例で定めるところにより、都道府県自然環境保全地域として指定することができる(自然環境保全法45条)
・都道府県自然環境保全地域の規制の内容は条例による(自然環境保全法46条)。
 → 特別地区(野生動植物保護地区を含む)を設けることができる(自然環境保全法47条)
・比較的小規模な地域も指定できるため、2003年時点で524地域指定されている。
 
3  自然公園法(須田p384〜390)
 
(1)歴史
 
・1931年、国立公園法制定
 → 風景重視、娯楽重視の法律であった
・1934年、瀬戸内海、雲仙、霧島が日本最初の国立公園に指定された
・1957年、国立公園法にかわり、自然公園法が制定された
・1970年、自然公園法の一部改正により、海中公園の制度が導入された
・2002年、特別地域内に利用調整地区を設ける改正が為された
 
・自然公園法は優れた自然の風景地の保護を目的とする(自然公園法1条)
・環境大臣が国立公園国定公園を指定している(自然公園法5条)
・国立公園は国管理、国定公園は都道府県管理である
・自然公園に指定されると、公園計画が立てられ、公園事業が執行される(自然公園法7条〜10条)
 
(2)自然公園の保全制度
 
・国立公園・国定公園の中では、@特別保護地区A特別地域B海中公園地区C普通地域が設けられる
 → @特別保護地区、A特別地域、B海中公園地区は、それぞれ自然環境保全法の、原生自然環境保全地域、特別地区、海中特別地区の規制に照応する。許可制による厳格な行為規制が行われている(13、14条、24条、詳細は須田p388)
 
※A特別地域内では、さらに、第1種特別地域、第2種特別地域、第3種特別地域に区分される。第1種特別地域が最も規制が厳しく、第3種特別地域の規制は緩やか
 ex. 第1種特別地域では、木材は、原則禁伐、風致維持に支障がない限り10%以内の択伐が可能であるが、第3種地域では、施業の制限がない
 
・C普通地域では届出制と命令制による規制が行われている(自然公園法26条)
 
※利用調整地区制度
・「環境大臣は国立公園について、都道府県知事は国定公園について、当該公園の風致又は景観の維持とその適正な利用を図るため、特に必要があるときは、公園計画に基づいて、特別地域内に利用調整地区を指定することができる」(自然公園法15条)
 → 立ち入りに認定が必要になる(自然公園法16条)。オーバーユースを防ぐため
 → 立ち入り認定のために、環境大臣又は都道府県知事は、指定認定機関を指定することができる(自然公園法17条)。立入認定に際して手数料が必要である(自然公園法23条)
 
・自然公園内では、ホテルやキャンプ場のような集団施設地区が、国立公園では環境大臣、国定公園では都道府県知事により指定される(自然公園法29条)
・国立公園又は国定公園の特別地域、海中公園地区又は集団施設地区内においては、迷惑行為(ゴミの放置、悪臭の発散、騒音の発生、展望所、休憩所の占拠、客引きなど)をしてはならない(自然公園法30条)
 
※風景地保護協定制度
土地・木竹の所有者に代わって、公園管理団体(NPO法人など)が管理を行う協定を締結し、環境大臣又は都道府県知事が認定する、風致保護協定制度が2002年に導入された(自然公園法31〜42条)
 
4 その他の制度(須田p390〜398)
 
鳥獣保護法では、銃猟禁止区域や狩猟期間を設定できることや、狩猟免許制度を規定めている。また、鳥獣保護のための鳥獣保護区の設定がなされている。原則、鳥獣の捕獲は禁止され、狩猟可能区域でのみ、狩猟は可能とされる。また、鳥獣保護区内では、建物の新築、改築、増築、木材の伐採などが許可制となる
 
種の保全法では、国内希少動植物の保全のため、生息地・生息地保護区が指定される。生息地・生育地保護区のうち管理地区では、建物の新築・改築・増築、木材の伐採、焚き火などに許可が必要になる(参照、須田p397)
 
文化財保護法の名勝や、天然記念物に指定されると、保存が原則となり現状変更には許可が必要になる。また、文化庁長官は天然記念物の保存のために一定の行為を制限し、禁止し、必要な措置を命じることができる
 
                次回の講義は「河川・湖沼、海浜の法」、須田p403〜442