環境保全法第14回 「河川、湖沼、海浜の法」
正木宏長
1 河川・湖沼の法(須田p405〜419)
1.1 序 
 
・ 河川・湖沼については河川法が規律している
・ 河川・湖沼は行政法学で言うところの公物にあたる。自然公物である
 →公用物・公共用物の区分に着目すれば、河川・湖沼は公共用物(河川法2条1項)
※河川の流水は私権の目的とならない(河川法2条2項)
 

◎河川の区分
一級河川(河川法4条、9条):国土交通大臣が指定、管理。一部の事務を都道府県知事が行うことができる
二級河川(河川法5条、10条):都道府県知事が指定、管理
準用河川(河川法100条、二級河川の規定が準用される):市町村長が指定、管理
普通河川(河川法に規定無し、条例による)

・河川の区域(「河川区域」)については河川法6条
・河川と湖沼は、常識的には区別されるが、河川と湖沼を一体的に管理する必要から、自然の川・湖沼は全て、河川法4条1項の「公共の水面」とされている。
 → 湖沼も一級河川、二級河川、準用河川に指定されて河川法の適用を受ける
ex. 一級河川西印旛沼
 → 指定されなかった場合、普通河川となり、自治体の条例で規制される
 
◎河川法の目的
「この法律は、河川について、洪水、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用され、流水の正常な機能が維持され、及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理することにより、国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進することを目的とする。」(河川法1条)
 → 「洪水、高潮等による災害の発生が防止」:治水
 → 「河川が適正に利用され」:利水
 → 「流水の正常な機能が維持」:水質汚濁防止、塩害防止、水位の保持
 → 「河川環境の整備と保全」:生態系の保存、周辺住民のアメニティの確保
 
1.2 河川の管理 
 
・一級河川の管理は国土交通大臣(一部は都道府県知事に行わせることができる)が、二級河川の管理は都道府県知事が、準用河川の管理は市町村長が行う(河川法9条、10条、100条)
・河川の管理 → 堤防の建築、砂利採取、河川敷の管理etc.
・河川管理者は、河川整備基本方針を定めておかなければならない(河川法16条1項)
・河川管理者は、河川整備基本方針に沿って、河川整備計画を定める(河川法16条の2)
 → 河川整備計画の策定には、公聴会の開催等の住民からの意見聴取の手続がある(河川法16条の2第4項)
・河川整備計画に従って河川工事を行う(河川工事については、河川法8条)
 
※国土交通省は、水資源開発の指針として、全国総合水資源計画を定めている
※水資源開発法により、水系ごとに水資源開発基本計画が定められている(参照、須田p414〜415)
(各計画の関係については須田p410)
・河川管理者は、その管理する河川の台帳を調製し、保管しなければならない(河川法12条1項)
 → 河川の台帳は、河川現況台帳及び水利台帳とする(河川法12条2項)
 
1.3 河川の利用 
 
(1)河川敷の利用
 
・河川区域の土地(ex.河川敷)の占用には、河川管理者の許可が必要(河川法24条)
 ex. 河川敷をゴルフ場や運動場として使用する
・河川区域での土石採取には河川管理者の許可が必要(河川法25条)
※砂利採取には、砂利採取法が適用される。砂利採取業者は都道府県知事の登録を受けなければならない
 
・河川区域での工作物の新築、改築には河川管理者の許可が必要(河川法26条)
 ex.ダム建設(ダムの管理については河川法44条〜51条)
・河川区域内での土地の掘削、盛土、切土その他土地の形状を変更する行為には河川管理者の許可が必要(河川法27条)
 → 高規格堤防特別区域内の土地や、樹林帯区域内の土地に関しては許可不要(河川法27条2項、3項、高規格堤防、樹林帯区域については河川法6条2項、3項)
・許可条件への違反や、無許可開発には、中止命令や現状回復命令(河川法75条)
 
(2)流水の使用
 
・流水の占用には、水利権が必要
 

慣習水利権 : 河川法施行以前から慣行として存在していた水利権
ex. 農業水利権
許可水利権 : 河川管理者の許可を条件に与えられる水利権(河川法23条)
ex. 水道用水や水力発電に河川の水を用いる

 
・水利権申請や、水利使用に関する26条の工作物許可申請があったとき、河川管理者は、既存の水利権者に通知する(河川法38条)
 → 既存水利権者は河川管理者に意見の申し出をすることができる(河川法39条)
・新たな水利権の設定や、水利使用に関する26条の工作物許可には、既存河川水利権者全員の同意が必要(河川法40条、40条1項1号、2号の例外がある)
 → 新たな水利権により損失を受ける場合、既存水利権者は損失補償を求めることができる(河川法41条)
   → 現実には補償なしで合意が得られている
・渇水時の水利権者の協議については河川法53条。農業水利権を水道水のために譲るなどして、解決がなされる(河川法53条の2)
 
・「河川における竹木の流送又は舟若しくはいかだの通航については、一級河川にあつては政令で、二級河川にあつては都道府県の条例で、河川管理上必要な範囲内において、これを禁止し、若しくは制限し、又は河川管理者の許可を受けさせることができる。」(河川法28条)
・河川の流水の方向、清潔、流量、幅員又は深浅等について、河川管理上支障を及ぼすおそれのある行為については、政令で、これを禁止し、若しくは制限し、又は河川管理者の許可を受けさせることができる(河川法29条1項、2級河川では条例による、29条2項)
 
※水質保全については、水質汚濁防止法による、湖沼には湖沼水質保全特別措置法が適用される場合がある
 
2 海浜の法(須田p420〜432)
2.1 海岸法 
 
※海は、国の直接の公的管理に服し、そのままの状態では所有権の客体たる土地にあたらないが、例外的に私人の土地所有権が認められることがある(判例)
 
・海岸の管理について海岸法の定めがある
・海岸法の目的:「この法律は、津波、高潮、波浪その他海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護するとともに、海岸環境の整備と保全及び公衆の海岸の適正な利用を図り、もつて国土の保全に資することを目的とする。 」(海岸法1条)
・海岸は公共用物であり、自然公物である
 → 海岸法の適用されない海岸は法定外公共用物となる
 
※海岸の分類:大分類「沿岸」、中分類「海岸」、小分類「地区海岸」、少々分類「地先海岸」
 
・主務大臣が海岸保全基本方針を定める(海岸法2条の2)
 → 主務大臣は農林水産大臣、国土交通大臣
・都道府県知事は海岸保全基本計画を定める(海岸法2条の3)
 → 海岸の現況及び保全の方向、海岸の防護、海岸環境の整備及び保全、海岸における公衆の適正な利用に関する事項や海岸保全施設を整備しようとする区域、海岸保全施設の種類、規模及び配置等、海岸保全施設による受益の地域及びその状況が、計画の中で定められる(海岸法施行例1条の2)
 → 海岸保全基本計画の作成については、公聴会の開催等の住民の意見聴取の手続がある(海岸法2条5項)
 
・都道府県知事は、特に必要のある海岸区域を、海岸保全区域に指定をする(海岸法3条)
→ 海岸保全区域の指定は、陸地においては満潮時の水際線から、水面においては干潮時の水際線からそれぞれ50メートルをこえてしてはならない。ただし、地形、地質、潮位、潮流等の状況により必要やむを得ないと認められるときは、それぞれ50メートルをこえて指定することができる(海岸法3条3項)
・海岸保全区域以外の区域は、一般公共海岸区域とされる(海岸法2条2項、教科書p425の図も参照)
・海岸保全区域も一般公共海岸区域も都道府県知事が管理する(海岸法5条、37条の3)
 → 海岸保全区域の管理は法定受託事務、一般公共海岸区域の管理は自治事務とされる
 
※都道府県知事との協議により、市町村長も海岸管理を行うことができる(海岸法5条6項、37条の3第3項)
 
・海岸の占用には海岸管理者の許可が必要(海岸法7条、37条の4)
 →海岸管理者が占用料を徴収することも可能(海岸法11条) ex.海水浴場の休憩所
 
・海岸での、土石の採取、施設等の新設・改築、土地の掘削、盛土、切土には海岸管理者の許可が必要(海岸法8条、37条の5)
・海岸で、海岸保全施設等を損傷・汚損したり、油等で海岸を汚損したり、自動車・船舶を入れ又は放置したりしてはならない(海岸法8条の2、37条の6)
・無許可開発や、違反には、改善命令や、原状回復命令(海岸法12条、37条の8)
 
※海岸への埋立に対して、市民が海水浴や潮干狩りをする「入浜権」を主張されているが、裁判所は権利性を認めなかった(松山地裁昭和53年5月29日判決、判例時報889号3頁)
 
2.2 港湾法 
 
・港湾は、公共用物であり、人工公物である。
 

◎港湾の種類(港湾法2条2項)
 
「重要港湾」 : 国際海上輸送網又は国内海上輸送網の拠点となる港湾その他の国の利害に重大な関係を有する港湾で政令で定めるもの
「特定重要港湾」 : 重要港湾のうち国際海上輸送網の拠点として特に重要な港湾で政令で定めるもの
「地方港湾」 : 重要港湾以外の港湾

 
・港湾管理者 : 港務局、地方自治体、一部事務組合(港湾法2条1項)
→ 港務局は地方自治体が、単独又は共同で設立する公法上の法人である(港湾法4条、5条)
・国土交通大臣は、港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針を定めなければならない(港湾法3条の2第1項)
・重要港湾の管理者は港湾計画を定めなければならない(港湾法3条の3)
→ 地方港湾の管理者も港湾計画を定める(港湾法3条の3第11項)
→ 計画で定める事項は3条の3第2項(須田p430参照)
 
・港湾管理者は港湾整備事業を行う(港湾法12条1項、34条)
 →港湾整備事業としては、@港湾区域、港湾施設を良好な状態に維持すること、A水域施設の使用の規制、B係留場所の指定や使用に関する規制、C入港船・出港船から入港届・出港届を受理する、D油の防除に必要なオイルフェンスや薬剤を備える、E船舶に給水等の役務を提供する、F利用料金表を作成する、等
 
※港湾施設
ex.防波堤、防砂堤、船舶の入出港のための信号施設、照明施設、旅客施設、手荷物取扱所、待合所及び宿泊所、倉庫(港湾法2条5項)
 
・港湾の範囲を定める港湾区域は、都道府県が港務局の設立に加わっているときは、国土交通大臣が、そうでないときは都道府県知事が定める(港湾法2条2項、4条4項、33条2項)
・港湾管理者は、港湾区域に隣接する区域を港湾隣接地域に指定することができる(港湾法37条の2)
・都市計画区域内に港湾がある場合は、都市計画の中で臨港地区が指定される(港湾法2条5項)。港湾管理者は都市計画区域外で臨港地区を定めることができる(港湾法38条)
 →臨港地区内で、港湾管理者は、@荷物や旅客を扱う商港区、A石灰、鉱石などの物資を扱う特殊物資区、B工場を設置させる工業港区、C鉄道連絡港区、D漁港区、E燃料の貯蔵・補給のためのバンカー港区、F危険物を扱う保安港区、Gレクリエーション等のために用いられるヨットが係留されるマリーナ港区、H景観を整備するための、修景厚生港区が指定される(港湾法39条)
 → 各分区の目的を著しく阻害する建築物の建築は禁止されている(港湾法40条) 
 
・港湾管理者は港湾の役務の利用に料金を徴収することができる(港湾法44条)。港湾に入港する船舶からは、入港料を徴収することができる(港湾法44条の2)
 → 港務局は、施設の利用について不平等取り扱いをしてはならない(港湾法13条2項)
・港を利用する者は、港湾区域でみだりに船舶や物を投棄又は放置してはならない(港湾法37条の3)