環境保全法第2回 「土地と法」
正木宏長
1 土地概説(須田p15〜p26)
1.1 土地とは 
 
・土地は人類の重要な生産手段であった
・法律的に言えば土地は、地面、地所である
・地所という観点からすると、水圏たる海洋と地圏たる陸地をどこで画するか法律的には問題となる
 → 通説:春秋分時の満潮位線が海と陸との境
 
 ただし、土地法の対象が陸地であるとは限らない。国が公用廃止して、私人の所有に帰属させたような場合、「海」の一区画も、所有の対象となる土地になる(最高裁昭和61年12月26日第3小法廷判決民集40巻7号1236頁)。また、土地の法律関係を考察する上では海や河川も土地法の考察対象に含める必要もあるだろう(田中二郎、土地法p1〜3)
 
・地球表面の71%は海洋であり、陸地は29%。日本の国土は37.79万km2
・我々は国土を人為的に区切って一筆の土地とし取引の対象としている。
 
1.2 日本の国土の利用状況 
 
・標高100m以下の国土は全国土の28%。300m以下の国土は全国土の54%
 → 低地の高度利用
・年度ごとに比較すると、森林面積は変化がないが、農地は減少し続け、宅地は徐々に増えている
 → 1987年の統計(須田p19):森林72%、農地18%、宅地4.7%、道路1.8%、河川2.6%
・三大都市圏に人口が集中している
 
1.3 土地の特徴 
 
@不動性、固定性、非代替性
 → 土地は不動産(民法86条)
A非独立性
 → 小さな島を例外とすれば、土地は土地と隣り合っていて、相互に関連している
B環境との一体化
 →土地は空間という環境と一体化したものである
C有限性
 →土地は水面の埋立以外には作り出せないのであって、有限である
D生活及び生産の基盤
 →国土は「現在及び将来における国民のための限られた資源であるとともに、生活及び生産を通ずる諸活動の共通の基盤である」(国土利用計画法2条)
E土地の公共性
 →「土地については、公共の福祉を優先させるものとする。 」(土地基本法2条)
 
1.4 土地の種類 
 
・不動産登記簿では地目によって区分される(ex. 宅地、田、畑、山林、原野、墓地)
・国土利用計画法では、都市地域、農業地域、森林地域、自然公園地域、自然保全地域の5種類に区分される
 
※民有地、官有地
・民間の所有に係る土地は「民有地」
・国、地方公共団体のような公法人の所有に係る土地は「官有地」
・国の所有する土地は「国有地」と呼ばれる
 
※ 国有地の国有財産法上の区分(国有財産法3条2項、3項)
・官舎の敷地となっているような土地 →「公用財産」
・公園のように国民の利用に供される土地 → 「公共用財産」
・特に用途が決まっていないので、国所有でも私人が所有の土地と同視されるような土地 → 「普通財産」
 
2 土地法の基礎(須田p47〜52)
2.1 土地と憲法 
 
・土地所有権も財産権の一種である
・土地所有権にも憲法29条の保護が及ぶ
 

判例@(森林法共有林事件) 最高裁昭和62年4月22大法廷判決(民集41巻3号408頁、憲法判例百選103事件)
 
 かつて森林法で共有林の2分の1を下回る共有持分者が、分割請求をすることが禁止されていたことが、違憲ではないかと争われた事例
 
 「憲法29条は、1項において「財産権は、これを侵してはならない。」と規定し、2項において「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。」と規定し、私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障するとともに、社会全体の利益を考慮して財産権に対し制約を加える必要性が増大するに至つたため、立法府は公共の福祉に適合する限り財産権について規制を加えることができる、としているのである。」
 (周知の通り、最高裁は、分割請求権の制限は、立法目的との関係において、合理性と必要性のいずれも肯定することはできないとして、違憲であると判決した)

 
憲法29条は「私有財産制度」の制度的保証と、私人の個々の財産権の保証を定めている(判例)
 → 制度的保証とは、生産手段の私有、すなわち資本主義体制を定めているとするのが通説的見解である。
 
・都市計画のような土地の利用規制も財産権の制限である
・財産権の制限には「正当な補償」が必要である(憲法29条3項)
 → 「正当な補償」の補償が何を指すかについて、最高裁は「合理的に算出された相当な額」であり、完全な補償とは異なるとしている(最高裁昭和28年12月23日大法廷判決、民集7巻13号1523頁、憲法判例百選108事件)
 
・補償が必要なのは、財産権の制限が、特別の犠牲と言えるような場合で、私人が受忍しなければならないような制限の場合、補償は不要である
 
 最高裁平成17年11月1日第3小法廷判決は、都市計画法上の建築制限について、「原審の適法に確定した事実関係の下においては、上告人らが受けた上記の損失は、一般的に当然に受忍すべきものとされる制限の範囲を超えて特別の犠牲を課せられたものということがいまだ困難であるから、上告人らは、直接憲法29条3項を根拠として上記の損失につき補償請求をすることはできない」と判決した。
 だが、同判決の藤田宙靖補足意見は、「公共の利益を理由としてそのような制限が損失補償を伴うことなく認められるのは、あくまでも、その制限が都市計画の実現を担保するために必要不可欠であり、かつ、権利者に無補償での制限を受忍させることに合理的な理由があることを前提とした上でのことというべきであるから、そのような前提を欠く事態となった場合には、都市計画制限であることを理由に補償を拒むことは許されないものというべきである」としており、注目される。
 
・土地は、民法上は、不動産であり、取引の客体である
・土地は、高度の公共性を有しているので、人の自由な使用、収益、処分に任せておいて良いかが問題となる
 → 土地利用への公法的規制の必要性
 
2.2 土地と条例 
 
・土地利用規制を条例で行うことができるかどうかは、かつて問題となっていた
 → 憲法29条2項の「法律」に条例は含まれるか
 
・条例で財産権を制限することは可能だと考えられている。
 
 条例で、ため池の堤とうに竹木若しくは農作物を植え、または建物その他の工作物を設置する行為を禁止しても、違憲、違法ではない(最高裁昭和38年3月26日大法廷判決、刑集17巻5号521頁、憲法判例百選104事件)
 
・民法の認めない物権を創出するような、条例を制定することはできないと考えられている
・普通地方公共団体は法令に違反しない範囲で、地方公共団体の事務について、条例を定めることができる(地方自治法14条1項)
・上乗せ条例、横出し条例も、場合によっては許される
 
3 土地法体系(須田p53〜60)
 
※日本の土地政策の問題点
 
@都市への人口集中に伴う乱開発。スプロール化
 ex. 都市近郊の田園の破壊
A過密と過疎の問題。中核都市には人口が集中するが、地方では過疎化が進む
 ex. 東京一極集中
B土地の不適切利用
 ex. 住宅地にふさわしくない建物(ラブホテル等)が建つ。
 ex. 低層住宅地に高層マンションが建つ
 ex. 歴史的景観の破壊
C地価問題
 
◎土地私法と土地公法
・行政法学上の公法私法二分論に関する議論はさておき、俗に言う、公法と私法の区別を知っておくことは重要である
・私法 : 私人間の関係を規律する一群の法律
・公法 : 私人と行政との関係を規律する一群の法律
 
土地私法: 民法、借地借家法、不動産登記法
 → 私人間の取引関係
土地公法: 都市計画法、土地収用法
 → 土地利用への外側の制限、土地利用関係の調整
 
・土地利用規制を全体として見ようとすると、狭い意味での土地法(都市計画法、土地収用法、土地基本法)のみでは足りない
 → 水資源開発促進法、自然環境保全法、道路法、農地法のような、水法や環境法や公物法や農業法に分類される諸法についても考察する必要がある
 ex. ある人が田畑を耕作していたところへ、そこを通る国土縦貫高速自動車道路計画が持ち上がったとすれば、土地の売買交渉が問題となるだろうし、そこで農業振興策が推進中であったら、どうなるかという問題も起こる
 
4 土地法の手法(須田 p138〜160)
 
◎土地公法の権力的手法
@下命・禁止手法 : 命令を下したり、端的に禁止する ex. 保安林での木材の伐採禁止
A許可制 : 何かするために、行政庁の事前の許可を必要とする ex. 都市計画法の開発許可
B届出制 : 何かをするときに、行政庁に事前に届け出なければならない ex. 国土利用計画法の土地取引の届出
C土地収用 : 行政庁が土地を権力的に収用する
D行政調査 : 行政情報の収集 ex. 国土調査法による土地の調査
 → 権力的な調査(強制調査、間接強制調査)もあるので注意すること
E情報提供 : 国民に対して情報を提供する 国土地理院による地図の発行、義務違反者の氏名の公表
F計画手法 : 行政が目標を定め、目標達成のための手段を定める ex. 都市計画
G管理的手法 : 行政による財産管理 ex. 国有林の管理
H事業的手法 : 行政による役務の提供 ex. 公園・緑地の運営
I誘導的手法 : 政策達成のために国民を一定の方向に誘導する ex. 工場の立地を都市部から都市周辺部に誘導する
J行政指導手法 : 何らかの行政目的を達成するために、非権力的な指導を行う ex. 宅地開発指導要綱に基づく指導
K契約的手法 : 契約によって行政目的を達成する ex. 公害防止協定
 
次回の講義は「土地法の歴史」、須田p27~46の範囲