環境保全法第4回「土地基本法、国土利用計画法」
正木宏長
1. 土地基本法(須田p124〜125)
 
(1)性格
 
・1989年に、バブル期の地価高騰を受けて制定された
・土地に関する法制度の基本となる
・土地基本法は、土地利用の理念について宣言的に定めている
 → 「宣言法」であり、具体的権利義務を定めているわけではない
 → 土地基本法に違反した法律が無効になるというものではない
 
「この法律は、土地についての基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の土地についての基本理念に係る責務を明らかにするとともに、土地に関する施策の基本となる事項を定めることにより、適正な土地利用の確保を図りつつ正常な需給関係と適正な地価の形成を図るための土地対策を総合的に推進し、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。 」(土地基本法1条)
 
(2)土地についての公共の福祉優先(土地基本法2条)
 
「土地は、現在及び将来における国民のための限られた貴重な資源であること、国民の諸活動にとって不可欠の基盤であること、その利用が他の土地の利用と密接な関係を有するものであること、その価値が主として人口及び産業の動向、土地利用の動向、社会資本の整備状況その他の社会的経済的条件により変動するものであること等公共の利害に関係する特性を有していることにかんがみ、土地については、公共の福祉を優先させるものとする。 」(土地基本法2条)
 
・「公共の福祉」優先である
・従来までの土地利用規制は「必要最小限の規制」が原則であったが、方向転換された解すべき。全ての土地はその利用に関し総合的な見地からの調整を経た上で利用されるものでなければならない(藤田宙靖、行政法の基礎理論 下巻、p327〜328、p341)
 
(3)適正利用・計画的利用・投機禁止
 
「1項 土地は、その所在する地域の自然的、社会的、経済的及び文化的諸条件に応じて適正に利用されるものとする。
2項  土地は、適正かつ合理的な土地利用を図るため策定された土地利用に関する計画に従って利用されるものとする。」(土地基本法3条)
「土地は、投機的取引の対象とされてはならない。 」(土地基本法4条)
 
(4)価値の増加に伴う適正な負担
 
「土地の価値がその所在する地域における第二条に規定する社会的経済的条件の変化により増加する場合には、その土地に関する権利を有する者に対し、その価値の増加に伴う利益に応じて適切な負担が求められるものとする。 」(土地基本法5条)
 
(5)その他
 
・土地利用計画の策定(11条)
・社会資本の整備に関連する利益に応じた適切な負担(14条)
・公的土地評価の実施と適正化(16条)
 
2 国土利用計画法(須田p125〜138)
2.1 目的、理念 
 
・1972年の田中内閣の「日本列島改造論」と地価上昇を受けて、1974年に制定された
・土地利用計画を定めることと、土地の投機取引への規制を行うことを目的とする(1条)
 
「国土の利用は、国土が現在及び将来における国民のための限られた資源であるとともに、生活及び生産を通ずる諸活動の共通の基盤であることにかんがみ、公共の福祉を優先させ、自然環境の保全を図りつつ、地域の自然的、社会的、経済的及び文化的条件に配意して、健康で文化的な生活環境の確保と国土の均衡ある発展を図ることを基本理念として行うものとする。 」(国土利用計画法2条)
 
 → 国土利用の基本理念として、公共の福祉優先が謳われている
 
2.2 国土利用計画 
 
・国は、国土交通大臣の案を閣議決定することで、全国計画を定める(5条)
 → 全国計画は、他の国の計画、都道府県計画、市町村計画の「基本」となる(6条、7条2項、8条2項)
・都道府県は都道府県計画を定める(7条)
 → 都道府県計画は市町村計画の「基本」となる
・市町村は市町村計画を定める(8条)
 
※教科書p130〜131の図参照
 
・国土利用計画は、国土の利用のビジョンを示すもので、具体的に開発を行ったり抑止しするものではない
 
※全国計画の内容については教科書p128〜129参照
 
2.3 土地利用基本計画 
 
・都道府県が、市町村長の意見を聴取し、国土交通大臣の同意を得て土地利用基本計画を策定する(国土利用計画法10条)
・都道府県の区域について、5地域の区分と、土地利用の調整等に関する事項を定める
・5地域は5万分の1の地図に表示される
 
※現在全ての都道府県で土地利用基本計画が定められている
 
◎5地域の区分
 
@都市地域 → 都市計画法の都市計画区域
A農業地域 → 農振法の農業振興地域 
B森林地域 → 森林法の国有林等
C自然公園地域 → 自然公園法の国立公園等
D自然保全地域 → 自然環境保全法の自然環境保全地域等
 
・都道府県土地利用基本計画に即して、都市計画等が定められる
 
※教科書p134〜136の図を参照
 
2.4 土地取引規制制度 
 
・国土利用計画法以前には地価の高騰や投機的土地取引の抑制が不十分であった
・国土利用計画法は、許可制又は届出制により、投機的土地取引の規制を行っている
 
◎土地取引規制の形態
 
@規制区域 :契約締結前の許可が必要(許可制)
A監視区域 :都道府県知事が規則で定める面積以上の土地取引には、契約締結前の届出が必要(事前届出制)
B注視区域 :国土利用計画法23条2項の定める規模以上の土地取引(ex. 市街化区域では2000平方メートル)には、契約締結前の届出が必要(事前届出制)
Cその他の地域 :国土利用計画法23条2項の定める規模以上の土地取引には、契約締結後の届出が必要(事後届出制)
 
(1)規制区域
 
・都道府県知事は、当該都道府県の区域のうち、土地の投機的取引が相当範囲にわたり集中して行われ、地価が急激に上昇している区域等を、期間を定めて、規制区域として指定する(国土利用計画法12条)
・規制区域に指定されると、区域内での土地売買等(所有権、地上権、賃借権の対価を伴う移転)の契約の締結等には、都道府県知事の許可が必要となる(国土利用計画法14条)
 → 不相当に高額での取引は不許可となる(国土利用計画法16条)
 → 無許可での所有権移転は私法上も無効とされる。罰則もあり(国土利用計画法14条3項、46条)
 
※これまで規制区域が指定された例はない
 
(2)監視区域・注視区域
 
・監視区域はバブル期の地価高騰を受け、1987年に新設された
・地価が急激に上昇していて、適正な土地利用が困難になるおそれがある区域が、都道府県知事により監視区域に指定される(27条の6)
 
・注視区域は局所的な地価高騰に対応するために1998年に新設された
・地価が一定の期間内に相当な程度を超えて上昇し、適正な土地利用に支障が生じるおそれがある区域が、都道府県知事により注視区域に指定される(27条の3)
 
・注視区域・監視区域では、都道府県知事が規則で定める規模以上の土地売買等には、市町村長を経て、都道府県知事への事前の届出が必要(27条の4、27条の7)。無届けでの取引には罰則(47条)
・都道府県知事は、不相当に高額での取引等については、契約締結中止等を勧告することができる(27条の5、8)
  → 勧告に従わなかった場合、都道府県知事は違反者の氏名を公表することができる(26条、27条の5第4項、27条の8第2項)
 
(3)その他の区域
 
・一定規模以上の土地売買等には、都道府県知事への事後の届出が必要(23条)
 → 無届け取引には罰則(47条)
・都道府県知事は、届出られた土地の利用目的が、土地利用基本計画等の計画に合致しないものであれば、土地の利用目的を変更するよう勧告することができる(24条)
→ 勧告に従わなかった場合、都道府県知事は違反者の氏名を公表することができる(26条)
 
※罰則が科せられる無届けでの土地取引も、私法上は有効と解される
 
※他に国土利用計画法には、都道府県知事が都市部での利用されていない遊休地の利用を促進する助言をしたり、買収協議をする制度がある(国土利用計画法28条〜35条)
 
※国土利用計画法の土地取引規制は、政令指定都市においては、政令市の市長が行う(国土利用計画法44条)
 
3 環境保全法(須田p192〜199)
 
保存:あるがままを保つ
保全:人の手を加えて現状を維持する。管理をする
→ 現状を保つために人の手を加えたり、荒廃を復元するために人の手を加えても、それは「破壊」ではない
 
@都市の保全 :都市環境が形成されているところでは、それを保全する
ex. 都市計画によって開発を誘導する。古都保存法により開発を制限する
A農地の保全 :農地を保全する
ex. 農用地の宅地への転用を制限する
B森林の保全 : 国有林を管理したり、民有林を保護する
ex. 森林の伐採を制限する
C河川・湖沼・海辺の保全 :河川や海岸を保全する
ex. 河川での各種行為の制限
D自然保護地域の保全 :原生の自然環境や、景勝地を保全する
ex. 自然公園内での各種行為を制限する
 
次回は「地域開発法」、須田p164〜184