環境保全法 第5回「地域開発法」
正木宏長
1 地域開発とは(須田p164〜166)
 
・地域開発 → 高速道路や新幹線やゴルフ場やスキー場の建設
 

※開発の手法
・開発地域に指定する
・保護地域指定を解除する
・鉄道や空港やダムといった施設を建設する
・海岸の埋立や森林伐採のように現状に変更を加える

 
・戦後の地域開発は戦後復興(都市の復興や食糧の増産・エネルギー開発)から始まった
・1950年に国土総合開発法が制定された
 → 国家の主導により、各地の水資源等を計画的に開発しようとするもの
 
・戦後になって計画行政が重視されるようになった
 →大きな計画から小さな計画、全国計画から地方計画
 →戦後の「計画花ざかり」
 
・地域開発法の発展
 → 日本では、都市計画法などを除けば、土地利用規制よりも先に地域開発法制が先行した
 → 土地利用計画と地域開発計画は相互依存的である
 
・「持続可能な発展」の観点から、今後は地域開発と環境保全の両者の理念が統合された地域開発でなければならない
 
2 国土形成計画法と開発の歴史(須田p166〜174)
 
※ 教科書は、国土総合開発法時代の記述で、国土形成計画法への改正が反映されていないので注意すること
 
(1)国土形成計画法
 
・地域開発法の頂点にある法律が、「国土形成計画法」である
・国土形成計画法の前身は国土総合開発法
 → 1950年に「国土総合開発法」が制定されたが、2005年、「国土形成計画法」に改正された
 
 国土形成計画法は「開発中心からの転換、国と地方の協働によるビジョンづくり、計画への多様な主体の参画、国土計画体系の簡素化・一体化を概要とする」(国土交通省、http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/gyoumu.html)
 
・目的 → 国土形成計画法1条
 
・国土形成計画法によって、国は国土形成計画を定める(国土形成計画法6条)
 → 全国計画
・国土交通大臣は、全国計画の案を作成し、閣議の決定を求める(国土形成計画法6条4項)
・国土交通大臣は、全国計画の案を作成しようとするときは、あらかじめ、国民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、環境大臣その他関係行政機関の長に協議し、都道府県及び政令指定都市の意見を聴き、並びに国土審議会の調査審議を経なければならない。(国土形成計画法6条5項)
 
※都道府県や政令市は全国計画の案を国土交通大臣に提出できる(計画提案、国土形成計画法8条)
 
・上の全国計画とは別に、国土交通大臣は、首都圏、近畿圏、中部圏の区域ごとの国土形成計画を定める(国土形成計画法9条)
 → 広域地方計画
 
・国土形成計画は、かつての国土総合開発法とは異なり、環境の創出も計画事項に含まれている(国土形成計画法2条1項8号)
・国土形成計画の基本理念 → 国土形成計画法3条
 → 自治体の主体的取り組みの尊重(国土形成計画法3条2項)
 
※現在、まだ国土形成計画法による国土形成計画は策定されていない。そこで現在も、国土総合開発法時代の第五次全国総合開発計画(21世紀のグランドデザイン)が有効な全国計画である
 
(2) 国土総合開発法時代の全国総合開発計画の歴史
 
・国土総合開発法が制定されたのは1950年だったが、実際に(第一次)全国総合開発計画(一全総)が策定されたのは1962年だった
 → 当時から大都市地域には「集積の利益」以上に「過密の弊害」がもたらされており、既存工場地帯以外では生産性が低いという「地域格差」が生じていた
 
・一全総は拠点開発方式を採用して、過密の弊害の除去と地域格差の是正を目指した
 → 1962年の新産業都市建設促進法と1964年の工業整備特別地域整備促進法の制定
 ex. 岡山南や大分の開発
・一全総でも結局太平洋ベルト地帯へのいっそうの集積がもたらされただけだった
 
・1969年に新全国総合開発計画(二全総、新全総)が策定された
・二全総では大規模プロジェクト構想に従って、全国を一日行動圏にするため交通網の新ネットワーク体系の構築が目指された 
 ex. 1970年の全国新幹線整備法による、東北・上越新幹線の建設
 ex. 高速道路の整備
・二全総の結果、交通はより便利になったものの、大都市圏における都市問題は深刻化した
 
・1977年、第三次全国総合開発計画(三全総)が策定された
・人間居住の総合的環境の整備を目指すものであった
・「定住圏構想」 : 大都市の人口集中を抑制し、地方を振興して、過疎過密問題に取り組む
→ 政府の思惑とは反対に東京への一極集中はますます進んだ
 
・1987年、第四次全国総合開発計画(四全総)が策定された
・「多極分散型国土形成」 : 特色のある機能を有する多くの極が成立する、人口や経済機能、行政機能等の過度の集中がない国土の形成
 
ex. 1988年の多極分散型国土形成促進法
 → 国の行政機関等の都区外への移転
 → 業務核都市の整備  千葉、埼玉中部、土浦・つくば・牛久、横浜、八王子、立川、川崎・厚木
ex. 1987年の総合保養地域整備法(リゾート法)による、リゾート地の整備
ex. 1992年の国会等の移転に関する法律
 
→ 太平洋ベルトへの一極一軸の国土構造が進行し、経済のグローバル化によって、低コストの生産性を求めて企業の海外進出が進んで産業の空洞化が生じ、農山村での過疎化、高齢化はいっそう進んだ
 
・1998年、第五次全国総合開発計画(五全総、「21世紀の国土のグランドデザイン」 )が策定された
・「多軸型国土構造形成」 :日本海国土軸、太平洋新国土軸、西日本国土軸、東北国土軸の四つの国土軸を展望する
 
3 地域開発の諸法(須田p174〜184)
 
(1)大都市圏の整備に関する諸法
 
・1950年に東京を首都として整備するための首都建設法が制定された
 → 建設省の外局として首都建設委員会を設置した(首都建設法3条)。
・1956年、首都建設法に代わり、東京都を中心に関係7県にまたがる広域を首都圏として、総合的な整備を図ることを目的にする、首都圏整備法が制定された
 

◎首都圏整備法の内容
 
・首都圏の地域を既成市街地、近郊整備地帯、都市開発区域の三種に区分する
 
既成市街地 : 東京都及びこれと連接する枢要な都市を含む区域のうち、産業及び人口の過度の集中を防止し、かつ、都市の機能の維持及び増進を図る必要がある市街地の区域(首都圏整備法2条3項)
近郊整備地帯 : 既成市街地の近郊で、その無秩序な市街地化を防止するため、計画的に市街地を整備し、あわせて緑地を保全する必要がある区域(首都圏整備法24条)
都市開発区域 : 既成市街地及び近郊整備地帯以外の首都圏の地域のうち、工業都市、住居都市その他の都市として発展させることを適当とする区域(首都圏整備法25条)

 
・国土交通大臣が首都圏整備計画を策定する
・近郊整備地帯と都市開発区域における、都市計画事業としての工業団地造成事業
 → 1958年に制定された、首都圏の近郊整備地帯及び都市開発区域の整備に関する法律
・1966年に制定された首都圏近郊緑地保全法による近郊緑地保全区域の指定、およびそこでの開発行為の制限
 
・近畿圏整備法(1963年)
・中部圏開発整備法(1966年)
 
※1959年の「首都圏の既成市街地における工業等の制限に関する法律」と、1964年の「近畿圏の既成都市区域における工場等の制限に関する法律」は、工場等制限法と呼ばれ、都市部での工場や大学の新増設を制限しているのが特徴であったが、都市再生の流れの中で、工場制限の意義が疑問視されるようになり、2002年に廃止された
 (教科書には反映されていないので注意)
 
※ 国土総合開発法が国土形成計画法に改正された際、地方開発促進計画を定めていた、東北開発促進法、九州地方開発促進法、四国地方開発促進法、北陸地方開発促進法、中国地方開発促進法が、廃止された。ただし、各開発促進計画は現在も有効
 (教科書には反映されていないので注意)
 
※1970年の筑波研究学園都市建設法
 
(2)過疎対策
 
・2000年に過疎地域自立促進特別措置法(通称、過疎法)が制定された
・都道府県知事は過疎地域自立促進方針を定めなければならない(過疎法5条)
・過疎市町村は過疎地域自立促進市町村計画を定めなければならない(過疎法6条)
・過疎法により、国の補助等が行われる
 
(3)工業再配置促進法
 
・1972年の工業再配置促進法は、工場密集地域である「移転促進地域」から、工場の集積が低い「誘導地域」に製造工場を移転しようとするもの
 → 移転には租税上・財政上の優遇措置が与えられる
 
※教科書で紹介されている高度技術工業集積地域開発促進法(テクノポリス法)は、1998年に廃止された
 
(4)総合保養地域整備法(リゾート法)
 
・1987年に総合保養地域整備法(リゾート法)が制定された
・総務大臣、農林水産大臣、経済産業大臣及び国土交通大臣が基本方針を定め(リゾート法4条)、都道府県が基本構想を策定し(リゾート法5条)、民間事業者がリゾート地の開発を行う(「関係民間事業者の能力を活用」が明記されている。リゾート法7条)。
・農地転用の許可や国有林野の活用に配慮がなされる(リゾート法14条、15条)
 
(5)多極分散型国土形成促進法
 
・1987年に多極分散型国土形成促進法が制定された
・国の行政機関等の東京都区部からの移転を定めている(多極分散型国土形成促進法4条)・都道府県は、各都道府県の振興拠点地域基本構想を定める (多極分散型国土形成促進法7条)
 
(6)構造改革特別区域法
 
・2002年に構造改革特別区域法が制定された
・内閣総理大臣は構造改革特別区域基本方針の案を作成し、閣議で決定する(構造改革特別区域法2条)
・地方自治体は構造改革部特別区域計画を作成し、内閣総理大臣へ認定申請する(構造改革特別区域法4条)
・構造改革特別区域に認定されたなら、自治体の実施する特定事業について法律や政令・主務省令の規制の特例措置が適用される(構造改革特別区域法4条10項、11条〜36条)
 ex. 在日米軍の英語資源を活用した三沢市立小学校における英語教育(三沢市英語教育推進特区、小学校学習指導要領の緩和)
 ex. 島根県、「らくらく取得『しまね網・わな猟免許』特区」 (害獣捕獲のため、網又は罠の一方に限定した狩猟免許の取得を容認する。現行の免許基準は、網と罠の双方を習熟を求められているので、その制限を緩和する)
 
   次回は「都市計画(1)」、須田p210〜226