環境保全法第7回 「都市計画(2) − 地区計画、公用制限 −」
正木宏長
1 地区計画(須田p226〜231) 
 
・都市計画区域内では地区計画を定めることができる(都市計画法12条の4、12条の5)
 
※都市計画法12条の4では、地区計画等として地区計画防災街区整備地区計画沿道地区計画集落地区計画を定めている。ここでは地区計画を中心に取りあげる
 
・「地区計画は、一定の地区レベルで、道路・公園などの地区施設や建築物、土地利用についての計画を地区住民の意向を反映しつつ総合的かつ一体的に定め、その地区の特性にふさわしい良好な市街地の整備や保全を図るため定めるものです。」(船橋市HPより、http://www.city.funabashi.chiba.jp/toshikeikaku/hp/21sada.htm)
 → 町内会、小学校区団地単位で、公園・緑地・広場といった地区施設の配置や規模を定めたり、建築物に関する制限を行う
 
・地区計画は市町村が定める(都市計画法15条)
・地区計画の中で地区整備計画を定めることができる。これにより容積率や高さ制限、地区施設の配置・規模などを定める(都市計画法12条の5第6項)
 → 用途地域指定の規制の範囲内でしか規制できない(ex. 商業地域を第1種低層住居専用地域に変えたり、容積率規制を緩和することはできない)。既存の都市計画の上乗せ規制であることが限界。
 ex. 駅周辺の商業街区で店舗型性風俗特殊営業に関わる建物の建築禁止、建物面積最低70平方メートル以上とするなど(江戸川区、船堀駅周辺地区地区計画の事例、http://www.machidukuri.city.edogawa.tokyo.jp/04_rule/tikukei/naiyou/funabo1/ )
 
・地区計画区内において、土地の区画形質の変更、建築物の建築等を行おうとする者は、当該行為に着手する日の30日前までに、行為の種類、場所、設計又は施行方法、着手予定日等を市町村長に届け出なければならない(都市計画法58条の2)
→ 届出制なのは、地区計画が地区内での計画の上乗せであるから。違反には勧告(行政指導)等がなされている
・地区計画に即した設計でなければ開発許可はなされない(都市計画法33条1項5号)
・建築条例(ex. 金沢市地区計画等の区域内における建築物等の制限に関する条例)で定めれば、地区整備計画の内容を建築基準法上の制限として、建築確認をしないことができる
 
※地区計画で再開発促進区や開発整備促進区(2006年改正で追加)を定めることができる(都市計画法12条の5第3項〜6項) → 再開発による土地の高度利用の増進や、大規模集客施設の立地を認めるために設けられる

※地区計画のヴァリエーションとして、2002年の都市計画法改正で次の地区計画が設けられた。
 誘導容積型地区計画(都市計画法12条の6)、容積適正配分型地区計画(都市計画法12条の7)、高度利用地区型都市計画(都市計画法12条の8)、用途別容積型地区計画(都市計画法12条の9)、町なみ誘導型地区計画(都市計画法12条の10)、立体道路地区計画(都市計画法12条の11)(詳細は、須田p228〜230)


※「地区計画等」としては、他に次のようなものがある(都市計画法12条の12)
 防災街区整備地区計画 : 防災目的のための公共施設の整備と耐火建築物を誘導するための制度(都市計画法13条1項15号)
 沿道地区計画:交通騒音の防止と合理的な土地利用の促進を図るもの。沿道地区整備計画で、建物を防音効果のあるものにすること等が定められる(都市計画法13条1項6号、詳細は幹線道路整備法)
 集落地区計画:都市地域と農業地域が交錯する地域で、無秩序開発を防ぎ、良好な居住関係と適正な土地利用を確保するため定められる。集落地区に計画が定められると、市街化調整区域でも開発行為が許される(都市計画法13条1項17号、詳細は集落地域整備法)

 
2 開発許可制度(須田p231〜242)
 
・都市計画を実現する手段の一つに都市計画制限がある
→ 土地所有権者の権利を制限する
・都市計画区域内の開発行為には都道府県知事の開発許可が必要。

  市街化区域    :1000平方メートル以上の開発に開発許可が必要
  市街化調整区域  :全ての開発に開発許可が必要
  白地区域 :3000平方メートル以上の開発に開発許可が必要
(都市計画法施行令19条1項、市街化区域も白地区域も300平方メートル以上までなら都道府県が裾切り条例を制定することができる)。

 
首都圏整備法による既成市街地と近郊整備地帯、近畿圏整備法による既成都市区域と近郊整備区域 、中部圏開発整備法による都市整備区域では500平方メートル以上の開発に開発許可必要(都市計画法施行令19条2項)
 
・都市計画区域では、開発許可は原則必要で、法律で必要でない場合を示すという形をとっている(都市計画法29条)
 ex. 駅舎や公民館のような公益上必要な建築物の建設には、開発許可は不要。なお、従来は、学校の建設や、国、都道府県が行う開発行為について開発許可が不要であったが、2006年改正により必要となった)
(他の要件については古くなっているが、須田p232〜233参照)
 
開発行為とは、主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更をいう (都市計画法4条12項)
・特定工作物については都市計画法4条11項参照。コンクリートプラントやゴルフコースなど
 
・開発許可を受けようとする者は、開発区域や、建物の用途、開発行為の設計を記載した申請書を都道府県知事に提出しなければならない(都市計画法30条)
・市街化区域での開発許可の要件は都市計画法33条(詳細は、須田p236〜237)。
 ex. 水道の施設についての設計や申請者の資力・信用など
・市街化調整区域では、開発許可申請は法律の定める要件に該当しなければ、不許可とされる(都市計画法34条、詳細は須田p237〜239)。
 
※開発許可を与えるかどうかには行政庁の裁量の余地があると考えられる
 
3  建築確認制度(須田p243〜247)
 
・建物を建築しようとする場合、都市計画法の開発許可だけではなく、建築基準法の建築確認が必要。建築基準法上、都市計画区域・準都市計画区域内の建築物の建築には建築確認が求められる(建築基準法6条)
・建築確認はかつては建築主事(建築基準法4条)が与えていたが、1998年の法改正で、民間の指定確認検査機関が建築確認を行うこともできるようになった(建築基準法6条の2第1項)
 
・建築基準法は建築物の敷地、構造、設備、用途に関する最低限の基準を定めている
・都市計画で定められた用途地域に従い、建築物の用途は規制される(建築基準法48条)(詳細は、須田p244〜255)
 ex. 工業専用地域では、住宅は建てられない。第一種低層住居専用地域では工場は建てられない
・都市計画で各用途地域ごとに建ぺい率容積率が指定される
 → 防火、衛生等の見地から、建築物の規模を規制し、敷地の中に空き地を保有させる
 

 容積率(建築基準法52条) → 建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合
ex. 第一種低層住居専用地域では50%〜200%
 建ぺい率(建築基準法53条)→ 建物の建築面積の敷地面積に対する割合

(詳細については建築基準法53条、須田p250の図は参考にはなるが、現状の規制とは異なるので注意)
ex. 第一種・第二種低層住居専用地域では、10m又は12mの高さ制限や、1m又は1.5mの外壁後退距離や、200m以下の最低敷地面積を定めることができる
 
・他に、建築基準法上の規制として各用途地域ごとに、斜線制限と日影規制による高さ制限がなされている(参照、須田p251の図)
 
総合設計許可制度(建築基準法59条の2)
 → 敷地に一定規模の空き地があり、市街地の環境整備の改善に資する建物に、容積率や高さ規制を緩和する ex. 京都ホテルオークラ
※建ぺい率・容積率の規制は特定行政庁が定めることで、白地地域でも行うことができる。(都市計画法52条1項6号、53条1項7号)
 
4 その他の都市計画制限(須田p248〜255、少々記述が古いので注意)
 
・都市計画法8条1項の定めている用途地域以外の地域地区は以下の通り
 
@特別用途地区(建築基準法49条) : 条例で建築物の建築の制限、禁止、緩和を定める
 → かつては「中高層階住居専用地区」「商業専用地区」「特別工業地区」「文教地区」のような指定できる地区のメニューを法律が示していたが、1998年の法改正で条例で自由に定められるようになった
A特別用途制限地域(建築基準法49条の2): 白地区域での建築物等の用途規制を行うもの。詳細は条例で定める
B特例容積率適用地区(建築基準法57条の2):既成市街地での土地の高度利用の促進のため、容積率規制が緩和される
C高層住居誘導地区(建築基準法57条の5):高層住居の建設を誘導するために、容積率が緩和される
D高度地区(建築基準法58条):建築物への高さ規制を加える。最低を定める場合と最高を定める場合がある
E高度利用地区(建築機銃法59条): 土地の高度利用のために、容積率、建ぺい率、建築物の建築面積が定められる。高度利用地区の制限は、用途地域における制限に代わって適用される。
F特定街区(建築基準法60条):建築物の高さや容積率が定められる。街区単位で高さや容積率の制限を緩和するという発想 ex. 京都駅ビル
G都市再生特別区(建築基準法60条の2):都市再生特別措置法の都市再生緊急整備地域に指定された地域について、建築物の高さや容積率の制限を緩和するもの
H防火地域準防火地域(建築基準法61、62条):建築物を耐火又は準耐火としなければならない
I特定防災街区整備地区 (密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律
第31条):防災のため、建築物の最低敷地面積や、最高容積率が定められる
J景観地区(景観法61条):景観保護のため、建築物の意匠規制等がなされる
K風致地区(都市計画法58条):建築物の建築、宅地の造成、木竹の伐採等が条例により制限される
L駐車場整備地区(駐車場法3条):自動車交通が輻輳する地区で、路上駐車場の整備を促進する
M臨港地区(港湾法38条):臨港地区内で、さらに、商港区、漁港区、マリーナ港区などに分区され、建築規制がされる
N歴史的風土特別保存地区(古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法6条):京都、奈良、鎌倉、のような古都の歴史的な地区での建築等に制限が課せられる
O第1種歴史的風土保存地区又は第2種歴史的風土保存地区(明日香村における歴史的風土の保存及び生活環境の整備等に関する特別措置法3条):明日香村での歴史的風土規制
P特別緑地保全地区(都市緑地法12条):都市の緑地の保全のため、建築や、木材の伐採等が制限される
Q流通業務地区(流通業務市街地の整備に関する法律4条):トラック・ターミナル、卸売市場、倉庫等の流通業務関連施設以外の設備を設けてはならない
R生産緑地地区(生産緑地法3条):市街地にある農地等を保護する。建築規制や、農業者への減税や営農義務が課せられる
S伝統的建造物保存地区(文化財保護法5条):伝統的な町並みを保護するため建築規制等が課せられる
21 航空機騒音障害防止地区航空機騒音障害防止特別地区(特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法第4条) :建築物に防音構造を義務づける
 
5 建築協定 
 
・市町村は建築協定を締結することができる旨を条例で定めることができる(建築基準法69条)
・土地所有者等が全員の合意によって締結し、特定行政庁の認可を求める(建築基準法70条)。
 → 建築への基準や有効期間を定める
ex. 芦屋浜塩見町第一地区建築協定では、建物の用途は一区画一戸建て個人専用住宅、階数は2階建て以下と定めている。(芦屋市のhp、http://www.city.ashiya.hyogo.jp/machidukuri/jyuminsanka4.html)。
 
・いったん土地所有者間で建築協定が締結されたら、建築協定公告後土地の所有者等になった者にも効力が及ぶ(建築基準法75条)
・土地所有者等の過半数の合意や(建築基準法76条)、建築協定で定められた期間の経過で建築協定は効力を失う。
・建築協定は私法上の契約と理解されているので、違反者には民事上の訴訟で工事停止措置を求めることになる(違反者への対応も協定で定める)。協定違反は建築確認の対象とならない
ex. 神戸市では、協定参加者の代表によって建築協定運営委員会(任意組織)を設け、建築協定の運営にあたっていくことを勧めている。(神戸市のhp、http://www.kobe-toshi-seibi.or.jp/matisen/1jouhou/seidosyokai/tiiki/jc2k02.htm)
 活動の具体例としては、ア 事前協議の受理・審査(協定に適合しているかどうかの審査等)、 イ 建築工事中及び建築完了後のチェック、 ウ 協定違反に対する措置、工 協定の更新・変更手続き オ 協定者等への啓発活動など
                               次回の講義は「都市計画(3) −都市計画事業− 」、須田p255〜284