環境保全法第8回「都市計画(3) −都市計画事業−」
正木宏長
1 都市施設、市街地開発事業、都市計画事業 (須田p255〜256)
 

都市施設の整備に関する事業
ex. 道路、空港、ごみ焼却場、公園、緑地、上下水道
市街地開発事業
ex.  新住宅市街地開発事業、土地区画整理事業、市街地再開発事業

 
◎都市施設の配置(都市計画法13条1項11号)
 
・都市計画区域については、少なくとも道路、公園及び下水道を定める
・第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、第1種中高層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域、第1種住居地域、第2種住居地域及び準住居地域については、義務教育施設をも定める
 
◎市街地開発事業の実施
 
・「市街地開発事業は、市街化区域又は区域区分が定められていない都市計画区域内において、一体的に開発し、又は整備する必要がある土地の区域について定めること。 」(都市計画法13条1項12号)
 
都市計画事業
 
行政機関の認可又は承認を受けて行なわれる都市計画施設の整備に関する事業及び市街地開発事業(都市計画法4条15号)
・都市計画とは、マスタープランのように基本戦略を定めるものや、用途地域指定のような自己完結的な計画のほか、都市計画に定めてそれを事業化するものもある
 → 都市計画事業(一部の都市施設の整備と、市街地開発事業について行われる)
・都市計画事業については、土地収用法3条に規定する事業に該当するものとされ、土地収用法による事業認定が不要になる(都市計画法69条、70条)
 
2 都市施設(須田p256〜259)
 
・都市計画法の定める都市施設には、道路、公園、水道、学校、病院、市場、一団地の住宅施設、一団地の官公庁施設、などがある(都市計画法11条、詳しくは、須田p258)
・都市施設については、都市施設の種類、名称、位置及び区域その他政令で定める事項を都市計画に定めるものとする(都市計画法11条2項)
・都市計画事項については、教科書p258参照。
 ex.道路の車線の数や、構造、種別(ex.自動車専用道路、幹線道路)を定める、
 ex.公園の種別(児童公園、近隣公園、総合公園、運動公園)、面積を定めるなど
 
・都市施設は、特に必要がある場合は都市計画区域外においても設けることができる(都市計画法11条1項)
 ex. ゴミ焼却場を都市計画区域外に設ける
・卸売市場、火葬場、と畜場、汚物処理場、ゴミ焼却場などは、都市計画において、位置が定められなければ、原則として、新築、増築をしてはならない(建築基準法51条)
 → 他の施設であれば、都市計画で定めがなくても新築ができる
 
3 市街地開発事業(須田p259〜262)
 
・都市施設(ex. 公園、道路):特定の目的を持った単体としての整備
 市街地開発事業:面的に一体として整備する
 

◎市街地開発事業の種類(都市計画法12条1項)
 
@土地区画整理事業 A新住宅市街地開発事業 B工業団地造成事業 C市街地再開発事業(都市再開発法)D新都市基盤整備事業 E住宅街区整備事業 F防災街区整備事業(密集市街地整備法による)

 
・都市施設は、都市計画事業として施行されるものとそうでないものがあるのに対し、市街地開発事業は、都市計画事業として施行される
・市街地開発事業の都市計画事項は、事業の種類、名称、施行区域、面積である(都市計画法12条2項)。土地区画整理についてはさらに、道路、公園、下水道のような公共施設の配置及び宅地の整備に関する事項も定める、都市計画法12条3項)
 
◎市街地開発事業等予定区域
 
・市街地開発事業が予定されている区域や、大規模開発がされる都市施設の区域については、「市街地開発事業等予定区域」を定めることができる(都市計画法12条の2)
 
4 都市計画制限(須田p262〜263)
 
・都市計画施設又は市街地開発事業の施行区域で、建物の新築をするには都道府県知事の許可が必要(都市計画法53条、木造二階建て建築物の改築のような軽易な行為には必要なし)
  → 都市計画施設の整備に支障がない場合や、地下階のない2階建て以下の容易に移転・除去可能な建築物であれば、都道府県知事は許可しなければならない(都市計画法54条)
 → 上の規定にかかわらず、都道府県知事は許可をしないこともできるが、その場合、土地所有者から買い取り請求があれば、土地を時価で買い取らなければならない。買い取らない場合は許可しなければならない(都市計画法55〜56条)
・都市計画区域内の土地所有者が、土地を有償譲渡するときは、都道府県知事は「先買い」をすることができる(都市計画法57条)。土地取引には都道府県知事への届出が必要になる
・都市計画が変更された場合についての損失補償の規定がある(都市計画法52条の5、57条の6)
 
先買い → 土地取引がなされようとするとき、当事者(買い手)に変わって、都道府県知事が土地を買い取る制度。土地取引を届け出を求め、場合によっては、都道府県知事が土地を買い取るということが行われる
 
※施行予定者が定められている都市計画事業については、市街地開発事業予定区域内の都市計画制限が適用される。市街地開発事業予定区域についての規定については、都市計画法52条の2〜5。施行予定者が土地の先買いや買い取りを行う
 
5 都市計画事業(須田p263〜284)
5.1 都市計画事業の認可
 
・都市計画事業は、市町村が、都道府県知事(第一号法定受託事務として施行する場合にあつては、国土交通大臣)の認可を受けて施行する。(都市計画法59条、市町村が行うことが困難な場合は都道府県知事が国土交通大臣の認可を受けて施行する)
(1号法定受託事務は、国が本来果たす事務を、自治体が処理するものとされるもの、地方自治法2条9項1号)
 
・国土交通大臣又は都道府県知事は、申請手続が法令に違反せず、都市計画に適合していて、施行期間も適切であり、必要な行政機関の免許等を取得することが確実であれば、事業の認可、承認をすることが出来る(都市計画法61条)
 
・都市計画事業の認可がされると、事業地内で、土地の形質変更、建築物の建築をするには、都道府県知事の許可が必要になる(都市計画法65条。事業認可後はこちらの条項が適用される、都市計画法53条3項。53条の許可よりも要件が厳しい)
・都市計画事業の認可は、土地収用法の事業認定に代えられる。つまり、都市計画事業の認可を得れば、土地収用が可能になる(都市計画法69条〜73条)
 ex. 高速道路(都市施設)建設の都市計画事業の認可を得れば、道路予定地の土地収用が可能になる
 
5.2 都市計画事業の実施 
 
・都市施設に関する都市計画事業の施行(都市施設の建設)は、土地を任意買収又は強制収用して、建設を行うというものである
・市街地開発事業等予定区域は、「地域指定」のみである(実際の事業は、本体の市街地開発事業なり都市施設事業が行う)
・市街地開発事業は、例えば、「新住宅市街地再開発事業」を見てみると、施行区域内の用地を全面買収して、新住宅地を開発造成し、宅地の分譲を行うという形で行われる(須田p284〜285)
 
※講義では市街地開発事業の例として、「土地区画整理事業」と「市街地再開発事業」を簡単に見てみる
 
5.3 土地区画整理事業 
 
・「土地区画整理事業」:「都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、この法律で定めるところに従つて行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業をいう。 」(土地区画整理法2条1項)
・土地の収用をするのではなく、土地の交換分合を通じて土地の区画を整えようとする事業(須田p150の図参照)。土地の「減歩」「換地」で事業を行う(須田p150の図参照)
 
・土地区画整理の施行者として次の者が予定されている(土地区画整理法3条〜3条の4)
@個人 A土地区画整理組合 B区画整理会社 C市町村、都道府県(自治体)D国土交通大臣 E独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社(教科書の紹介する、都市基盤整備公団と地域振興整備公団は、2004年、独立行政法人都市再生機構となっているので注意)
 
・土地区画整理事業が、都市計画において事業の施行区域として定められた区域で施行される場合、都市計画事業として実施される(土地区画整理法2条8項、3条の4第1項、都市計画法12条3項)
 
◎土地区画整理事業の流れ(詳しくは須田p269の図参照)
 
(「土地区画整理組合の設立」)→「事業計画」→「換地計画」→「仮換地の指定」→「建物除去・工事施行」→「換地処分」→「登記」
 
・土地区画整理組合の設立には都道府県知事の認可が必要(土地区画整理法14条)
・事業計画には、国施行の場合には認可不要、都道府県施行の場合は国土交通大臣の、それ以外の施行者の場合都道府県児知事の認可が必要(土地区画整理法4条、14条3項、51条の2、52条、66条)
・都道府県、国土交通大臣以外の者が施行者である場合、「換地計画」の段階で都道府県知事の認可が必要になる(土地区画整理法86条)
・換地の際には、従前の土地と照応するように換地を定めなければならない(換地照応の原則、土地区画整理法89条1項)
・換地の際には、過小宅地にならないよう適正規模にしなければならない(地積の適正化、土地区画整理法91条)
・換地の際、公平に換地できない場合、清算金で精算する(土地区画整理法87条)
 
※最高裁が、土地区画整理「事業計画」の「処分性」を否定した有名な判決として、最高裁昭和41年2月23日大法廷判決(民集20巻2号271頁)がある。事業計画は青写真であって、仮換地の指定の段階で争えばよいとされた
 土地区画整理組合の「設立」の認可については処分性が認められている(最高裁昭和60年12月17日第3小法廷判決、民集39巻8号1821頁)
 
5.4 市街地再開発事業 
 
・駅前市街地のように、密集していて区画整理で換地をしても、宅地が狭小になりすぎるような場所で、土地の高度利用化を計る場合、「都市再開発」が行われる
・密集市街地をクリアランスして、中高層建物を建て、できた中高層建物の権利を、従前地の所有者に割り当てる手法
・市街地再開発事業には、「権利変換」手続を行う「第1種市街地再開発事業」と、施行者がいったん施行区域の土地を買収・収用する「管理処分」手続を行う「第2種市街地再開発事業」がある(第1種事業については、須田p281の図参照)
 
「権利変換」:旧土地所有者には、新ビルの敷地の共有持ち分が、旧建物所有者には新ビルの一部(権利床)が与えられるという風に、権利が変換される。権利変換の際には、再開発の前後で、資産に著しい差が出ないようにしなければならない。
 
・市街地再開発事業は「高度利用地区」「都市再生特別地区」「特定地区計画」「市街地再開発促進区域」内でしか行えない(都市再開発法3条)
 
◎第1種市街地再開発事業の手続
 
※都道府県施行の場合
市街地再開発事業の事業計画→権利変換計画→権利変換→土地の明け渡し→施行建築物の建築→施行建築物の登記
 
・都道府県施行の場合、市街地再開発事業計画への国土交通大臣の認可は、都市計画法60条の事業施行認可と見なされる(都市再開発法51条2項、他の事業主体の場合について類似規定あり)
・施行者は計画に従った工事を行うために、物権の占有者に明け渡しを求めることができる(都市再開発法96条)
・権利変換を希望しない立退き者や権利床が与えられない者には、補償金が支払われる(都市再開発法91条)
 
・第2種市街地再開発事業も第1種市街地再開発事業と、おおむね同様の手続で行われる。土地建物を収用し、希望者には新ビルの権利床が、その他の者は立退き者になり、補償金が与えられるという点で、第1種事業と原則が逆なのが特徴
 
※判例では、第2種市街地再開発事業の事業計画には、「処分性」が認められている。土地収用の効果があるため(最高裁平成4年11月26日第1小法廷判決、民衆46巻8号2658頁、)
 
次回は「都市景観保護」、教科書の範囲外