環境保全法第9回「景観保護」
正木宏長
1 都市景観保護 
1.1 景観法制定まで 
 
・都市計画法での都市景観保護は不十分だった。
 ex. 京都の「町屋」とマンションが並立する(形態規制の不在)
 ex. 建物の色彩までは規制できない
 
・超党派の議員立法として、1966年の「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」(通称、古都法)
・「歴史的風土」とは、わが国の歴史上意義を有する建造物、遺跡等が周囲の自然的環境と一体をなして古都における伝統と文化を具現し、及び形成している土地の状況をいう。」(古都法2条2項)
→ 古都とは鎌倉市・奈良市・京都市ほか(古都法2条1項)
 
※内容
・国土交通大臣の歴史的風土保存計画の策定(古都法5条)
・歴史的風土保存区域での、建物の建築等について知事への届出(古都法7条)
・歴史的風土特別保存地区での建物の建築等の知事の許可制(古都法8条)
・許可を受けられない場合の損失補償(古都法9条)
→ 指定を受けているのは東山・北山周辺など
 
・自治体での景観条例の策定
 → 1968年の倉敷市伝統美観保存条例、1972年の京都市景観条例
 → 多くの条例は地域を指定して、建築を届出制にし、形態や色彩に対して勧告(行政指導)を行うというものだったが、行政指導は拘束力がないので限界があった。
 
・2004年、国の法律として景観法が制定された。
 
 最高裁平成18年3月30日第一小法廷判決(国立マンション事件上告審判決)で、最高裁は、景観法を手がかりに、「良好な景観に近接する地域内に居住し,その恵沢を日常的に享受している者は,良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり,これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(以下「景観利益」という。)は,法律上保護に値するものと解するのが相当である。」と判示した。つまり、地域住民の景観利益が法的保護に値するとしたのである。
 
1.2 景観法 
 
(1)基本理念と景観計画
 
・目的 (景観法1条)
・基本理念(景観法2条)
 
・景観行政団体の概念の採用(景観法7条1項)
 → 政令市、中核市、都道府県と協議して同意を得た市町村、その他の区域では都道府県
 → 政令市、中核市でなくても、熱心な市町村は景観行政団体になることができる
 
・景観行政団体は、景観法8条1項の各号の要件を満たす地域について、景観計画を策定することができる(景観法8条)
・景観計画で定めること(景観法8条2項、3項)
@景観計画区域
A良好な環境の形成に関する方針
B景観の形成のための行為の制限(建築への届出制、建築物の色彩・意匠、高さの制限、壁面位置の制限など)
C景観重要建造物、景観重要樹木の指定の方針
D屋外広告物の表示の制限など
 
 ex. 意匠の制限 → 町屋風のマンションでなくてはならないとか
 
・景観計画の策定手続(景観法9条)
  → 住民への公聴会の開催や、都道府県都市計画審議会の意見聴取など
・景観計画は、都道府県都市計画区域マスタープランや公害防止計画の方針と適合的でなくてはならない(景観法7条4項、5項)
・住民による景観計画の提案制度(景観法11条〜14条)
 
(2)景観計画区域
 
景観計画区域内では、建物・工作物の新築・増築・改築・移転・外観変更・色彩変更には景観行政団体の長への届出が必要(景観法16条1項)
・景観行政団体の長は、届出の内容が景観計画に合致しないときは設計の変更その他の必要な措置をとることの勧告を行う(景観法16条3項)、勧告は届出より30日以内に行う(景観法16条4項)。無届には罰則がある(景観法102条、罰金)
 
・景観行政団体の長は、条例で定めた特定届出対象行為については、設計の変更その他の必要な措置を執ることを命令することができる(景観法17条1項)。命令は届出より30日以内に行う。(景観法17条2項)命令までの期間は延長することができる(景観法17条4項)(景観計画区域では、形態意匠色彩に関する命令しか出せない。高さ制限は不可)。
→ 命令違反には罰金(景観法101条)
・届出をした者は、届出受理より30日以内は届出に係る行為をしてはならない(景観法18条)
 
(3)景観地区
 
・都市計画区域内に市町村は景観地区を設けることができる(都市計画法8条1項6号、景観法61条)
→ 都市計画法の美観地区に代わって設けられた。
→ 景観地区に関する都市計画では、建築物の形態意匠の制限、建築物の高さの最高限度又は最低限度、壁面位置の制限、建築物の敷地面積の最低限度を定める(景観法61条2項)。
 
・景観地区内で建築等をしようとする者は、建物の意匠等について、市町村長の認定を受けなければならない。認定を受けなければ工事はできない(景観法63条)。違反工事には50万円以下の罰金(景観法101条)
 → 景観区域の届出制による規制よりも厳しい。自治体としては、積極的に景観保護を行いたい場合、景観地区を選択することになる。
 
・景観地区内の建築物の形態意匠は、景観地区に関する都市計画に定められた形態意匠の制限に適合するものでなければならない(景観法62条)
→違反建築物に対して、市町村長は、建築等工事主や建築物所有者等に、停止命令や回収・修繕その他必要な措置をとることを命令することができる(景観法64条)
→命令に従わない場合代執行
 
・違反建築物の設計者には、市町村長から国土交通大臣又は都道府県知事への通知がされ、大臣・知事による違反建築の設計者への、業務停止処分その他の措置の手続がある(景観法65条)
 → 専門家責任を定めたもの
 
※ 景観地区内の工作物についても、市町村は、条例で定めることで、景観規制を及ぼすことができる(景観法72条)
 → 工作物 :道路、橋、貯水池、井戸、電柱、電線、広告塔など
 → 工作物を規制するか否かは、地域の実情に即し、自治体が再度判断するという趣旨
 
(4)その他
 
・都市計画区域外・準都市計画区域外の地区でも、準景観地区を市町村は定めることができる(74条・75条)
・景観協定の制度(景観法81〜91条)
・景観行政団体の長は、景観重要建造物・景観重要樹木を指定することができる(景観法19条、28条)。指定されると現状変更(改築・伐採など)が禁止される(景観法22条、31条)
 
2 都市緑地法 
 
・都市緑地の維持・創出のための法律として、「都市緑地法」、「都市公園法」、「生産緑地法」、「首都圏近郊緑地保全法」、「近畿圏の保全区域の整備に関する法律」、等がある。
・景観法制定の際に、「都市緑地保全法」から「都市緑地法」に名称が変更された。
・「緑地保全地域」「特別緑地保全地区」「緑化地域」の指定制度がある。
・市町村は「緑地の保全及び緑化の推進に関する基本計画」を策定する(都市緑地法4条)
 
(1)緑地保全地域
 
・都市計画区域内に緑地保全地域を定めることができる(都市緑地法5条)
・都道府県が定める(都市計画法15条1項4号)
・緑地保全地域に関する都市計画が定められたとき、都道府県は、緑地保全計画を定める(都市緑地法6条)
・緑地保全地域内では、建築物の新築・改築、宅地造成、木材の伐採等に都道府県知事への届出が必要(都市緑地法8条1項)
 →都道府県知事は、届出をした者に対し、緑地の保全に必要があると認めるとき、緑地保全計画に従って、必要な措置をとることを命じることができる(都市緑地法8条2項)
 
(2)特別緑地保全地区
 
・「無秩序な市街地化の防止、公害又は災害の防止等のため必要な遮断地帯、緩衝地帯又は避難地帯として適切な位置、規模及び形態を有する」区域や、「神社、寺院等の建造物、遺跡等と一体となつて、又は伝承若しくは風俗慣習と結びついて当該地域において伝統的又は文化的意義を有する」区域や、「風致又は景観が優れ、又は動植物の生息地又は生育地として適正に保全する必要がある区域で、当該地域の住民の健全な生活環境を確保するため必要な」区域は、都市計画で特別緑地保全地区に指定される(都市緑地法12条)
 
・基本的に、10ha以下は市町村、10ha以上は都道府県が定める(都市計画法施行令9条1項5号)
・特別緑地保全地区内では、建築物の新築・改築、宅地造成、木材の伐採が都道府県知事の許可制となる(都市緑地法14条)
 
(3)緑化地域
 
・都市計画法の地域地区として、「緑化地域」を定めることができる。(都市緑地法34条)
・緑化地域内では建築物の新築、増築に際して、当該建築物の「緑化率」を、緑化地域に関する都市計画で定められた最低限度以上としなければならない(都市緑地法35条)
→ 緑化率規制は平成16年改正で導入された。
・緑化率 : 建築物の緑化施設(ex. 植栽、花壇、樹木、これらに附属する園路、土留)の面積の敷地面積に対する割合(都市緑地法34条2項)
・違反建築には市町村長が必要な措置を執るべき旨を命じることができる(都市緑地法37条)
 
(4)地区計画での緑化率規制・緑地協定
 
・市町村は地区計画等の区域内で、条例により、緑化率の最低限度を定めることができる(都市緑化法39条)
・建築協定と同様に、土地の所有権者が全員の合意により、樹木の種類や、樹木の植栽の場所、垣や柵の構造を定める、緑地協定の制度がある。市町村長の認可により効力を生じる(都市緑地法45〜54条)
 
3 屋外広告物規制 
 
・屋外広告は屋外広告物法によって規制している
・屋外広告物法は、具体的な規制は都道府県の条例で定めるとしているのが特徴である
 
◎屋外広告物法で都道府県が条例を定めることができるとされている事項
 
・第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、景観地区、風致地区、伝統的建造物群保存地区などでの、広告物の表示の禁止(屋外広告物法3条)
・良好な景観を形成し、若しくは風致を維持し、又は公衆に対する危害を防止するため、広告物の表示を、都道府県知事の許可制にすること(屋外広告物法4条)
・条例違反の広告の設置者に必要な措置をとることを命じること。命令違反への代執行、はり紙除却権限の委任(屋外広告物法7条)
・屋外広告業を都道府県知事の登録制にすること(屋外広告物法9条)
 
※広告規制の条例は景観計画に即して定めるものとされる(屋外広告物法6条)
 
次回の講義は「農地と法」須田p293〜343