行政法T 第10回 「行政立法(2)」 大橋p36、p130〜138、143〜147の範囲
 
1 法規命令(塩野p104~110) 
 
・行政主体と私人との権利・義務に関する一般的規律。「法律の法規創造力」を想起せよ
 
1.1 法規命令の種類 



1.2 委任命令と執行命令
 
委任命令(委任立法) : 私人の権利義務の内容自体を定めるもの(国家公務員法102条1項による人事院規則14−7)
    → 私人の権利義務に関する定めなので法律の委任を要する
執行命令 : 権利利益の内容自体を定めるものではなく、内容のための手続を定めるもの ex. 届出制での届出の様式を定めるもの
 
・通説 → 委任命令は権利・義務の内容を定めるので、個別の法律の根拠(委任)が必要だが、執行命令は権利義務の内容を新たに定めるものではないので、個別の法律の根拠(委任)は不要(塩野)。国家行政組織法12条1項のような一般的委任で足りる
 
※大日本帝国憲法下では、「委任命令」と「執行命令」に並んで、「独立命令」(ex. 勅令)の存在が語られたが、現在は独立命令の存在は否定されている
 
2 委任の限界 
2.1 白紙委任の禁止 
 
・法律の基準なき広範な委任条項は「違憲」となる
→この場合は立法機関、すなわち議会のあやまち
 
・法律には委任の目的・内容・程度の明確化が要求される(大橋p36)
 
 最判昭和33年5月1日第1小法廷判決(刑集12巻7号1272頁)では、国家公務員法102条1項の、公務員は人事院規則で定める政治行為をしてはならないという規定は、刑罰で禁止される行為の範囲が、人事院規則(人事院の法規命令)へ、基準なしに広範に委任されているのではないかと争われた。最高裁は「国家公務員法102条が憲法14条又は28条に違反するものではないことは当裁判所の判例とするところ」との判決を下した
 最高裁平成27年12月24日第1小法廷判決(民集69巻8号2348頁)は、公共企業体(「旧三公社」)の共済組合の組合員が受給した退職一時金について、返還制度の対象となる退職一時金利子加算額の利率を政令に委任した国家公務員共済組合法附則12条の12は、同一の組合員期間に対する退職一時金と退職共済年金等との重複支給を避けるための調整措置を定めた規定であり、同項の規定が利率の定めを包括的に政令に委任したものとはいえないとした。
 
2.2 法律で委任された内容を超える委任命令の禁止 
 
・法律の委任条項は有効(合憲)であっても、行政機関が委任された以上のことを定める委任命令を制定すれば、その委任命令は違法なものとなる
→この場合、行政機関のあやまち(この場合法律が「違憲」になるのではなく、行政機関の政令なり省令なり規則なりが「違法」となる)
 
◎委任の範囲を超えたことが認められた事例
 
 自作農創設特別措置法に基づいて買収した土地の旧地主への売払いを制限した旧農地法施行令16条が農地法80条の委任の範囲を越えたとされた事例がある(最高裁昭和46年1月20日大法廷判決、民集25巻1号1頁、行政判例百選51事件)
 

判例@ 最高裁平成3年7月9日第3小法廷判決(民集45巻6号1049頁、行政判例百選52事件)
 
 旧監獄法50条は「接見の立会、信書の検閲其他接見及ひ信書に関する制限は命令を以て之を定む」としていた。旧監獄法施行規則120条はこれをうけて「14歳未満の者には在監者と接見を為すことを許さす」と規定した。拘置所に拘留されていたXは、文通をしていた10歳の者との面会を求めたが、この規則により拘置所長は不許可処分を下した。
 
 「これらの規定(旧監獄法施行規則120条)は...、法律によらないで、被勾留者の接見の自由を著しく制限するものであって、法50条の委任の範囲を超えるものといわなければならない。」
 
 公職選挙法89条1項本文を議員の解職請求代表者の資格について準用し、地方公務員が地方議会議員の解職請求の代表者となることを禁止した地方自治法施行令の各規定が、地方自治法85条1項に基づく政令の定めとして許される範囲を超えたとされた事例(最高裁平成21年11月18日大法廷判決、行政判例百選53事件)。地方自治法85条1項は解職の投票に準用する旨定めているのであるから、その準用がされるのも、請求手続とは区分された投票手続についてであるというのが理由であった。
 最高裁平成25年1月11日第2小法廷判決(医薬品ネット販売訴訟、民集67巻1号1頁)は、一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について郵便等販売を規制していた薬事法施行規則について、「郵便等販売をしてはならない(142条,15条の4第1項1号)ものとした各規定は,いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において,新薬事法の趣旨に適合するものではなく,新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。」とした。

 
◎委任の範囲を超えていないとされた事例
 
 美術的価値のある刀剣は、銃砲刀剣類所持等取締法による所持禁止の除外対象となる。東京都教育委員会が登録事務を行っており、「銃砲刀剣類登録規則」(文部省令としての効力を有する)に従って、刀剣とは日本刀であるとしていた、「規則においていかなる鑑定の基準を定めるかについては、法の委任の趣旨を逸脱しない範囲内において、所管行政庁に専門技術的な観点からの一定の裁量権が認められて」おり、刀剣類を「美術品として文化財的価値を有する日本刀に限る旨を定め...たことは、法14条1項の趣旨に沿う合理性を有する鑑定基準を定めたもの」であるとされた。(最高裁平成2年2月1日第1小法廷判決、民集44巻2号369頁)
 
再委任について
・およそ一般的に再委任が認められないと言うことはできない。再委任が白紙委任的であれば無効
 
2.3 「告示」(国家行政組織法14条1項)の性質 
 
・「告示」については法規命令というべきもの(国民の権利義務に影響するもの)と、
行政規則というべきもの(行政機関の内部規則)とが混在している
ex. 町・字の変更の告示(地方自治法260条2項) → 内部的
・だが、伝習館事件(最高裁平成2年1月18日第1小法廷判決、民集44巻1号1頁、行政判例百選54事件)では「文部省告示」の形式によって定めらている学習指導要領に法的拘束力が認められた格好になった → 権利義務に影響
 

判例A 最高裁平成24年2月28日第3小法廷判決(民集66巻3号1240頁)
 
 生活保護法においては、法律の委任を受けて定められる旧厚生省告示により「生活保護法による保護の基準」(保護基準)が定められている。Xは老齢加算を廃止する保護基準の改定を争った。
 
 「老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定は,〔1〕当該改定の時点において70歳以上の高齢者には老齢加算に見合う特別な需要が認められず,高齢者に係る当該改定後の生活扶助基準の内容が高齢者の健康で文化的な生活水準を維持するに足りるものであるとした厚生労働大臣の判断に,最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤,欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合,あるいは,〔2〕老齢加算の廃止に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に,被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に,生活保護法3条,8条2項の規定に違反し,違法となるものというべきである。」
 「本件改定については,...裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできない。」

 
3  行政規則(塩野p111〜122) 
3.1 定義 
 
行政規則: 行政機関の定立する定めであるが、国民の権利・義務に直接関係しないもの
→権利に影響しないので法律の根拠無しに行政機関が自由に制定できる
 
・行政規則は訓令通達要綱といった形で発布される(告示にも行政規則といえるものがある)
政令省令であっても、財務省組織規則(財務省令)のような組織に関する定めは、国民の権利・義務に影響しないので、行政規則である
 
訓令 → 口頭・書面・官報による公告(国家行政組織法14条2項)
通達 → 文書によるもの(国家行政組織法14条2項)
要綱 → 国や自治体が定めている基準
 ex.  事業者がマンション開発をするには周辺住民と協議をしなければならないとか、市に負担金を納めなくてはならないと要綱で定める(指導要綱)
 ex. 自治体が条例や法律が適用されない災害の被災者に対して、災害見舞金を与える基準を、小災害見舞金支給要綱で定める(補助要綱)
 
@組織に関する定め → 各省庁の事務配分規定
A行政と特別の(権力)関係をもつものに関する定め → 公務員、国立学校の学生・生徒に関する定め ex. 国立学校の学則
B行政機関の行動基準を定めるもの → ex. 個人タクシー事業の免許基準
C補助金交付規則や補助金交付要綱 → ex. 自治体が優良マンション建設に対して補助金を与える基準(敷地面積が300平方メートル以上など)を共同住宅供給事業補助要綱で定める
D行政指導の基準を示すもの →ex. 業者がマンションを建てる時には周辺住民との協議するように自治体が指導するといったふうに行政指導する時の基準を要綱で定める 
 
3.2 行政規則の外部化現象 
 
・国立学校の学生が退学処分をうけたとき、退学処分は司法審査の対象となる
 → 行政規則といえども司法審査の対象とならないわけではない(外部効果を持つ)
 
◎行政機関の解釈基準の外部化
 
「パチンコ球遊器が物品税法上の『遊戯具』のうちに含まれないと解することは困難であ」る。「本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであつても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基く」。(最高裁昭和33年3月28日第2小法廷判決、民集12巻4号624頁、行政判例百選56事件)
 
◎通達は取消訴訟の対象となるのか?

判例B 最高裁昭和43年12月2日第3小法廷判決(民集22巻13号3147頁、行政判例百選57事件)
 
 他の宗教団体の信徒であることを理由として、墓地への埋葬を拒むことは、墓埋法の定める「正当の理由」にあたらないとした厚生省の通達が、争われた事例
 
 「通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく」、「行政組織内部における命令にすぎない」。「一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、このことは、通達の内容が、法令の解釈や取扱いに関するもので、国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものである場合においても別段異なるところはない。」「裁判所は、法令の解釈適用にあたつては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ」る。行政訴訟で取消しを求めることができるのは国民の権利義務に直接に影響を及ぼすような処分のみなので、通達の取消を求める本件訴えは許されない

 
3.3 裁量基準 
 
・いかなる処分をするかが行政の裁量に委ねられている場合があるが、その際、予め裁量の基準が設定されることがある。また適正手続の観点から公表されることが望ましい
 ex. 営業免許停止の処分基準
・行政が裁量基準から離れることは自由であるが、基準と異なる処分をするには合理的な理由が必要
 ex. 通常より重い違反行為だから厳罰を加える
 
 次回は「行政行為の種類」「行政行為の効力」大橋p166〜183の範囲