行政法T 第11回 「行政行為の種類」 大橋p170〜179の範囲
正木宏長
1 行政行為の定義(塩野p123〜126)
 
・行政主体と私人との間の権利・義務の確定
→「行政行為」が用いられることがある
 
※「行政行為」とは行政の活動のうち一部のものを学問的にグルーピングしたもの
  → 行政の行う活動の全てが「行政行為」ではない
 ex. 道路用地の任意買収に際しての土地の売買契約は行政行為ではない
 
・行政行為の定義 → 「行政の活動のうち、具体的場合に直接法効果をもってなす行政の権力的行為」
 
(芝池総論p124〜p126の詳しい記述)
「具体的場合」 → 抽象的ではない、抽象的なものは行政立法や行政計画である
「直接法効果」 → 法的効果を発生させるものである。発生しないものは単なる事実行為(行政指導や行政強制など)
「行政の」 → 立法作用や司法作用ではない
「権力的行為」 → 意思の合致ではない(契約ではない)
 
※行政機関の内部行為は行政行為ではない
 → そもそも行政行為論は行政主体と私人との関係を想定している
 
※行政行為の例
 ex. 税務署長の更正や決定(国税通則法24、25条)
 ex. 道路工事の際の警察署長の許可(道路交通法77条)
 

※行政処分と行政行為は同義か?
 
・実定法上、行政行為とほぼ同義の言葉として「行政庁の処分」がある
ex. 行政手続法2条、行政事件訴訟法3条
・「行政庁の処分」は「行政行為」よりも広い概念である
 ex. 国税通則法の滞納処分は「処分」という語を使っているが、更正や決定で確定した租税債権を、行政が自力執行で満足させて行く過程(つまり、事実行為に向かう過程)

 
※行政行為は一方的か
・許可申請の場合は、私人からの許可申請に対して、行政庁から許可が与えられる
→ 許可でも、行政庁の意思によって法律行為が生じる
・結局は許可も意思の合致ではなく、行政の一方的意思表示で法効果を生じさせている
 
※行政行為の用いられる行政領域
・行政行為は権力的であるから規制行政のみに用いられるのか?
→ 給付行政でも行政行為は用いられる ex. 生活保護決定(生活保護法24、25条)
 
2 行政行為と法の拘束(塩野p126〜127)
 
行政行為 → 法律による行政の原理が直接妥当する
 → 侵害留保説の主たる対象(権利義務を制限する行政行為をするには法律の根拠が必要)
 → 不文の法である法の一般原理も適用される(平等原則、比例原則など)
 
3 行政行為の種類(塩野p127〜p136)
3.1 効果による分類 
 
・利益処分と不利益処分
※二重効果的処分
 ex. 建築確認(建築基準法6条)は建物を建てる人には利益処分だが、隣に住む人にとっては日照権が侵害される不利益処分になる
 
3.2 性質・内容による分類(伝統的行政法学による分類、田中上巻p116、p121〜p126)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
法律行為的行政行為 → 「意思表示をその要素とし、行為者が一定の効果を欲するが故にその効果を生ずる行為」
 
命令的行為 → 「人民に特定の義務を命じまたはこれを免ずる行為」
 
下命(及び禁止) → 「作為・不作為・給付・受忍を命ずる行為」
ex. 違法建築物の除却命令(建築基準法9条1項):作為(建築物除却)が命じられる
ex. 歩行者・車両の通行禁止(道路交通法8条1項):不作為(通行禁止されている道路を通行しないことが命じられる)
 
許可 → 「一般的の禁止(不作為義務)を特定の場合に解除し、適法に一定の行為をすることをえしめる行為」
ex. 飲食店営業の許可(食品衛生法51、52条) → 通常は私人には飲食店営業が禁止されているが、許可を受けることで禁止が解除される
 
免除 → 「特定の場合に、作為・給付・受任の義務を解除する行為」
ex. 税の免除(例えば国税通則法63条の、納税猶予の場合の税の免除)
 
※禁止や許可の違反にはしばしば罰則が適用されるが、違反者の行った行為がただちに違法となるわけではない(食品衛生法上の無許可業者が行った食肉販売が私法上有効となった判例を想起せよ)
 
 
形成的行為 → 「権利能力・行為能力・特定の権利の付与又は包括的な法律関係の設定等、法律上の力を発生・変更・消滅せしめる行為」
 
特許(及び剥権行為) → 「直接相手方のために、権利能力・行為能力・特定の権利又は包括的な法律関係を設定する行為」
 ex. 公企業(電気・ガス・水道事業の事業許可、水道なら水道法6条1項の厚生労働大臣の認可)、鉱業許可(鉱業法21条)、かつての特別権力関係内の行為(公務員の罷免、河川法24条の河川区域内の土地の占用許可) 
 
※営業の「許可」と公企業の「特許」はどう違うか?
 
 どちらも何らかの事業経営を私人に許可するという点では同じ。だが、営業の「許可」は基本的には私人の自由の属すること(ex.食肉販売)を警察的観点から制限するものなので、行政庁は許可申請があれば、申請が許可要件を満たしていた場合、原則として許可しなければならない
 これに対し、公企業の「特許」は、公益性が高い業務で本来は国家の役務であるものを特別に私人に許可するとされていた。そこで特許の場合は許可申請があっても許可するかどうかは行政庁の裁量に属すると説明されていた
 
認可 → 「第三者の行為を補充してその法律上の効力を完成せしめる行為」
 ex. 鉄道旅客運賃への国土交通大臣の認可(鉄道事業法16条1項)、農業委員会の農地移転の許可(農地法3条)、地方公共団体が地方債の起債することの許可(総務大臣、都道府県知事が行う、地方財政法5条の4)、銀行合併の認可(銀行法30条)
 
代理 → 第三者がすべき行為を国が代わってして、第三者がしたのと同じ効果を発生させる
 ex. 両議院の同意を得て内閣が日本銀行総裁の任命する(日本銀行法23条1項、内閣の行為の効果が日本銀行に帰属する)
 
 
準法律行為的行政行為 → 「判断・認識・観念など、意思表示以外の精神作用の発現を要素とし、行為者がその効果を欲するが故にではなく、一定の精神作用の発現について、もっぱら法規の定めるところにより法的効果の付せられる行為」
 
確認 → 「特定の事実又は法律関係に関し疑い又は争いがある場合に、公の権威をもってその存否又は真否を確認する行為」
 ex. 恩給の裁定、所得額の更正(国税通則法24条)、当選人の決定
 
公証 → 「特定の事実又は法律関係の存否を公に証明する行為」
 ex. 選挙人名簿その他公簿への記載、各種証明書(住民票、印鑑証明など)の発行
※ 確認は判断の表示であるのに対し、公証は認識の表示
 
通知 → 「特定又は不特定多数の人に対し、特定の事項を知らしめる行為」
 ex. 納税の督促(国税通則法37条)、帰化の告示(国籍法10条)
→ 単なる事実行為のこともあるが法的効果が生じる場合は準法律行為的行政行為となる
 
受理 → 「他人の行為を有効な行為として受領する行為」
 ex. 婚姻届の受理(民法740条)
 → 単なる事実行為である「到達」とは異なり、受動的な意思表示
 
3.3 伝統的行政法学の分類への批判 
 
・そもそも許可等の規制の仕組みについては、法的仕組み論で扱うべき
・許可と特許と認可の区別が不明確
→ 「認可」を得ないでした法律行為は、無効とされていた(「許可」であれば有効であり、その点で「認可」は「許可」と異なる)。
 
 主務大臣の認可を得ていない保険約款に基づいて締結された保険契約も、強行法規や公序良俗に反しない限り、効力を有するとした判例がある(最高裁昭和45年12月24日第1小法廷判決、民集24巻13号2187頁、行政判例百選15事件)。名称は「認可」であるが、許可のように解された事例
 
・法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為の区別は不明確 
ex. 建築確認は「確認」とされるが、「許可」とも言える(芝池総論p132)
 
※判例には「公証」が行政行為ではないとするものがある
 
 最高裁平成11年1月21日第1小法廷判決(判時1675号48頁)は、住民票に「非嫡出子」と記載することは公証行為であるが、「それ自体によって新たな国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定する法的効果を有するものではない」として、住民票に世帯主との続柄を記載することは行政処分には当たらないとしている
 ただし、住民票への氏名の記載は選挙人名簿に登録されるか否かを決定するものであるから法的効果があるともされている(処分性有り)
 

判例@ 最高裁平成21年4月17日第2小法廷判決(民集63巻4号638頁、行政判例百選65事件)
 
 出生届が受理されていない無戸籍者X1の父のX2からの住民票記載の申出に対して、Y(特別区長)は住民票を作成しない旨の応答をした。X2らはYの応答は処分であるとして争った。
 
 X1につき住民票の記載をすることを求めるX2の申出は...,申出に対する応答義務が課されておらず,住民票の記載に係る職権の発動を促す法14条2項所定の申出とみるほかないものである。したがって,本件応答は,法令に根拠のない事実上の応答にすぎず,これによりX1又はX2の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しないと解される」

 
※判例には「通知」に処分性を認めるものがある
 
 最高裁昭和54年12月25日第3小法廷判決(民集33巻7号753頁)は、ヌード写真集を輸入しようとした者に対する禁制品の「通知」は、行政庁の観念の通知であると見るべきだが、「通知によって本件荷物が適法に輸入できなくなるという法律上の効果を及ぼすべきものというべきであるから、行政事件訴訟法3条2項にいう『行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為』に該当するもの、と解するのが相当である」としている
 
3.4 機能の観点からする分類 
 
・塩野は、伝統的行政法学の分類に代わる分類として、次の三分類を提唱している
 
(1) 命令行為
→ 私人に対し、作為、不作為を命じるもの  ex. 建築物除却命令(建築基準法9条)
(2) 形成行為
→ 私人に対し、法的地位を設定するもの ex. 免許、許可、認可、登録など
(3) 確定行為
→ 法律関係を確定させる行為、田中説での確認 ex. 租税の更正処分(国税通則法24条)