行政法T 第12回「行政行為の効力」 大橋p166~170、179〜183の範囲
正木宏長
1 行政行為の効力(塩野p154)
 
・行政行為の効力として次のようなものがある
@規律力  A公定力  B不可争力  C執行力  D不可変更力 E実質的確定力
 
2 規律力(一方性)(塩野p155〜159)
 
「公権力の主体が」「直接国民の権利義務を形成する」(私人の同意不要)
 
「行政事件訴訟特例法1条にいう行政庁の処分とは」、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」。ゴミ焼却場の設置行為は行政庁の処分にはあたらない。(最高裁昭和39年10月29日第1小法廷判決、民集18巻8号1809頁、行政判例百選156事件)
 
・この行政行為の一方性を塩野は「規律力」と呼ぶ
・契約の解除は一方的だが、民事関係では一般的ではない。行政行為は一般的属性として規律力(一方性)をもつ
 
規律力の制度的根拠
・行政行為に規律力(一方性)があることは、具体的な法制度が、行政行為がそのような一方的な効力を持つことを前提として組み立てられていることによる。
 ex. 「収用することができる、Aを命じることができる、B大臣の許可を受けなければならない」
・具体的な法関係を一方的に形成することが、一定の法律関係には必要
ex. 租税債権を確定するのにいちいち相手方との意思の合致を求めていては租税行政が立ち行かない
 
3. 公定力(取消訴訟の排他的管轄)(塩野p159〜171)
3.1 定義 
 
「行政処分はたとえ違法であっても、その違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認むべき場合を除いては、適法に取り消されない限り完全にその効力を有する。」(最高裁昭和30年12月26日第3小法廷判決(民集9巻14号2070頁、行政判例百選71事件)
・行政行為は仮に違法なものであっても、取消し権限のある者によって取り消されるまでは、何人(裁判所、私人、行政庁)もその効果を否定することはできない
 

 
ex.   X → A → Y
 
 民事法では、Yを訴える前に、いちいちXAの取引を取り消す必要はない。
 
ex.    X → 行政庁 → Y
 
 行政庁がXに農地の買収処分をし(処分≒行政行為)、その後Yに対して買収した土地の売渡しをしたというのであれば、行政庁の買収処分が違法であっても、XがYに直接に所有権確認の訴えをしても、請求は認められない。行政庁の処分は適法なものと見なされるからである。まず、Xは行政庁の買収処分を取消訴訟で取消して、その後でYに所有権確認の訴えを起こさなくてはならない

 
3.2 公定力の制度的根拠 
 
・行政事件訴訟法3条2項によると抗告訴訟の一つとして取消訴訟がある
 → 行政行為を直接に攻撃できる訴訟は、「取消訴訟」のみ(取消訴訟の排他的管轄)
※処分の取消しは取消訴訟だけではなく、処分庁や上級庁による職権による取消し、行政上の不服申立による取消しでもなされる
 
3.3 公定力の目的 
 
@紛争処理の合理化・単純化
→ 私人は、不満があれば取消訴訟で、行政行為が違法であることを求めればよいので、救済制度としては明解
A紛争解決結果の合理性担保
→ 取消訴訟をすれば、相手方は行政主体となる。訴訟資料は豊富になるし、行政行為が行政庁の知らないところで取消されることを防ぐことができる
B他の制度的効果との結合
→ 不服申立前置と取消訴訟提起の訴訟要件との結合が容易
 
3.4 公定力の限界 
 
@法的効果を攻撃しない限り、当該行政行為の適法・違法が取消訴訟以外の訴訟で問題になっても、公定力と抵触するものではない
 
・違法な行政活動によって損害を被った者は、行政訴訟を経ることなく国家賠償訴訟を提起し、損害賠償を得ることができる
 
 税を賦課する処分への国家賠償請求が認められるかについて、学説には争いがあったが、最高裁平成22年6月3日第1小法廷判決(民集64巻4号1010頁、行政判例百選241事件)は、固定資産税について「公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは,これによって損害を被った当該納税者は,...取消訴訟等の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。」とした。
 
A違法性の承継
 
ex.  賦課処分(税額の確定) → 滞納処分(税の強制徴収)
→ 滞納処分の取消しを求める訴訟の中で、賦課処分の違法を争うことができるか
→ このような形での違法性の承継が認められなかった裁判例がある(鳥取地裁昭和26年2月28日判決、行集2巻2号216頁)
 
※土地収用法に基づく事業認定と収用裁決について、違法性の承継が認められた裁判例がある(札幌地裁平成9年3月27日判決)
 
・自作農創設特別措置法の農地買収処分の取消しを求める訴訟で、原告が農地買収計画の違法性を主張した事例では、農地買収計画と農地買収処分との違法性の承継が認められた(最高裁昭和25年9月15日第2小法廷判決、民集4巻9号404頁)
 

判例@ 最高裁平成21年12月17日第1小法廷判決(民集63巻10号2631頁、行政判例百選87事件)
 
 AはY(特別区)区長から東京都建築安全条例4条1項に基づく安全認定を受け、Y建築主事から建築基準法6条の建築確認を受けた。Xが建築確認の違法事由として安全認定の違法を主張した。安全認定と建築確認との間で違法性の承継は認められるか?
 
 「建築確認における接道要件充足の有無の判断と,安全認定における安全上の支障の有無の判断は,異なる機関がそれぞれの権限に基づき行うこととされているが,もともとは一体的に行われていたものであ」る。「安全認定があっても,これを申請者以外の者に通知することは予定されておらず,建築確認があるまでは工事が行われることもないから,周辺住民等これを争おうとする者がその存在を速やかに知ることができるとは限らない」。「以上の事情を考慮すると,安全認定が行われた上で建築確認がされている場合,安全認定が取り消されていなくても,建築確認の取消訴訟において,安全認定が違法であるために本件条例4条1項所定の接道義務の違反があると主張することは許されると解するのが相当である。」

 
B法的に見て関係ない場合には、公定力の制度は働かない
 
ex. 自己所有の土地の上に他人が建築確認を得ても、それによって民法上の所有権の所在が左右されることはない(建築確認は建物の行政法上の適法性についてするものだから)
ex. 原子力発電所について原子炉設置許可があったとしても、民事上の訴えで原子炉の設置の差止訴訟ができる
 
C公定力が及ぶのは取消しうべき瑕疵のある行政行為のみで、無効の瑕疵のある行政行為には及ばない
 
D公定力は刑事訴訟に及ぶか?
 
・学説には及ばないとする説も多数ある。問題は犯罪構成要件の解釈(塩野)
・判例は一律解釈はしていない
 

判例A 最高裁昭和53年6月16日第2小法廷判決(刑集32巻4号605頁、行政判例百選72事件)
 
 Yは個室付浴場(いわゆるソープランドのこと)を開業しようとしたが、山形県知事はこれを阻止する目的でソープランドの近くの児童遊園施設の設置の認可を与えた。風俗営業法上、児童遊園施設の200m以内ではソープランドを営むことできないとされる。Yは営業を行ったために起訴されてしまった。
 
「本来、児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操を豊にすることを目的とする施設なのであるから、児童遊園設置の認可申請、同認可処分もその趣旨に添ってなされるべきものであって」、Yの営業の規制を主たる動機・目的とする児童遊園の設置認可申請を容れた本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性がある。

 
4 不可争力(塩野p171〜173)
 
・一定期間経過すると私人の側から行政行為の効力を裁判上争うことができないこと
・行政事件訴訟法14条の出訴期間に関する制限
・期間経過によって、行政行為は裁判で争うことができなくなり、行政行為で形成された法律関係が確定する → 行政行為の特権
・出訴期間は立法政策によるが、極端に短い場合は憲法32条の裁判を受ける権利を奪うものとして、違憲となる余地がある
 
・自作農創設特別措置法の1ヶ月の出訴期間の定めは合憲とされた(最高裁昭和24年5月18日大法廷判決、民集3巻6号199頁)
 
5 執行力(塩野p173〜175)
 
・相手方の意思に反して行政行為の内容を行政権が自力で実現しうる効力のこと
・明治憲法下では、行政行為は「執行力」によって当然に自力執行可能であるという考えがとられていたが、現在このような考えはとられていない
・現在では、行政行為で課せられた義務を行政機関が強制執行するためには、法律の根拠が必要であるとされる ex.  国税徴収法、行政代執行法
・執行力の目的 → 行政目的の早期実現
 
6 不可変更力、実質的確定力(塩野p175〜177)
 
・ 不可変更力 → 処分をした行政機関が自らがした行政行為を取り消しできない
・ 実質的確定力(裁判判決の既判力に相当する)
 → 処分庁だけでなく、上級行政庁や裁判所もなされた行政行為を取消し・変更できない、あるいはこれに反する行為ができな
 
・裁判類似の手続で争訟の裁断として行われた行政行為に不可変更力・実質的確定力の効力が認められることがある。全ての行政行為に認められる効力ではないことに留意せよ
 ex. 「海難審判所は、本案につき既に確定裁決のあつた事件については、審判を行うことはできない。」(海難審判法6条)
 
不可変更力について
 

判例B 最高裁昭和29年1月21日第1小法廷判決(民集8巻1号102頁、行政判例百選73事件)
 
 兵庫県農地委員会は、不服申立てにおいて、一度裁決したにもかかわらず、後で自らの認定が誤りであることを認め、再裁決をして先の裁決を取り消してしまった。
 
「本件裁決のごときは、行政機関であるYが実質的には裁判を行っているのであるが、行政機関がするのであるから行政処分に属するわけである。かかる性質を有する裁決は、他の一般行政処分とは異なり、特別の規定がない限り原判決のいうように裁決庁自らにおいて取り消すことはできないと解するを相当とする。」

 
実質的確定力について
 

判例C 最高裁昭和42年9月26日第3小法廷判決(民集21巻7号1887頁、行政判例百選74事件)
 
 Y地区農地委員会は宅地買収計画をたてたが、異議申立てがあったのでこの買収計画を取り消した。しかし大阪府農地委員会から指示があったので、同じ土地にまた同じ買収計画をたてた
 
「異議の決定、訴願の裁決等は一定の争訟手続きに従い、なかんずく当事者を手続に関与せしめて、争訟の終局的解決を図ることを目的とするものであるから、それが確定すると、当事者がこれを争うことができなくなるのはもとより、行政庁も、特段の規定がない限り、それを取消し又は変更できない拘束を受ける。」

 
申請に対する処分で一事不再理の法理の適用が問題になることがある
 
次回は「行政行為の瑕疵」、「行政行為の効力の発生」、「行政行為の失効」、「行政行為の附款」大橋p183~198