行政法T 第19回  「行政計画」 大橋p147〜165、389〜390
正木宏長
1 序説(塩野p234〜236)
 
行政計画 →「行政が一定の公の目的のために目標を設定し、その目標を達成するための手段を総合的に提示するもの」
 ex. 都市計画(都市計画法)、 国土利用計画(国土利用計画法)、 男女共同参画基本計画(男女共同参画社会基本法)
 ex. ある年の公共下水道の普及率を5年間で50%にする
 ex. 男女共同参画基本計画
→内閣の閣議で決定、全府省に女性の登用への取り組みを求めるなど
 ex. 国土形成計画(かつての全国総合開発計画)
 

※ 都市計画法による開発の制限
 
・都市計画区域内では開発行為(建築や土地区画の変更)について、都道府県知事の許可が必要(29条、適用除外はあり。開発許可の基準は33〜34条)
 
 市街化区域 → 既に市街地を形成している区域および概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域(都市計画法7条2項)
 
 市街化調整区域 → 市街化を抑制すべき区域(都市計画法7条3項)
     → 市街化調整区域では許可の要件が厳しい。実務では「原則として開発が認められない」と解釈されている

 
・他の行為形式は行政計画の目的の実現の手段
ex. 都市計画で市街化を抑制するために市街化調整区域に指定し、そして開発行為には開発許可(行政行為)をもとめる
 
2 行政計画の種類 
 
@地域による分類 → 全国計画、ブロック単位(ex. 近畿圏基本整備計画)の計画、都道府県計画、市町村計画 etc. 
A対象行政部門による分類 → 土地利用計画、道路建設計画、福祉計画、河川改修計画、防衛計画など
B期間による分類 → 長期計画(10〜15年程度)、中期計画(3〜7年程度)、短期計画(1〜2年程度)
C法的効果による分類 → 拘束型計画、非拘束型計画(外部効果を持つかどうか)
 
3 行政計画と法(塩野p236〜238)
 
・計画策定に法律の根拠は必要か?
 
・例えば都市計画における市街化区域・市街化調整区域の区別などは法律の根拠が必要
  → 拘束型計画であり、外部に規制効果(財産権の制限)を持つから
・男女共同参画基本計画のような内部的効果しか持たないもの → 法律の根拠不要
・国土開発計画の核をなす、公共事業関連計画、土地利用計画、総合計画には法律の根拠が必要なのではないか?(塩野説)
 
・行政計画の計画策定権者には裁量が認められることがあるが、裁量統制が問題になる
 

判例@ (林試の森事件) 最高裁平成18年9月4日第2小法廷判決(裁判所時報1419号1頁)
 
 建設大臣は,旧都市計画法3条の規定により,東京都市計画公園である目黒公園(「本件公園」)に関する本件都市計画決定をした。本件公園は,旧都市計画法4条5項所定の都市施設であり,農水省の附属機関である林業試験場の跡地を利用して設置されるものである。本件都市計画決定は,林業試験場の南門の位置に本件公園の南門を設けるものとして,南門と区道との接続部分として利用するため,本件民有地を本件公園の区域に含むものと定めていた。
 本件民有地の西隣には,林業試験場の跡地と区道とに挟まれた土地である、国家公務員宿舎の敷地として利用されている本件国有地がある。
 X(本件民有地所有者)らが,建設大臣の事務承継者であるY(関東地方整備局長)に対し,本件事業認可の取消しを求めた事案である。
 
 「樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができる場合には,更に,本件民有地及び本件国有地の利用等の現状及び将来の見通しなどを勘案して,本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めた建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができるかどうかを判断しなければならない」。この判断が合理性を欠けば本件都市計画決定は,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となる。
 原審は「南門の位置を変更することにより林業試験場の樹木に悪影響が生ずるか等について十分に審理」していない。(審理を尽くすため原判決破棄差戻し)

 
4 計画策定手続(塩野p345〜346)
4.1 計画策定手続の例(国土利用計画法) 
 
・計画策定権者には計画裁量が与えられているので、手続的統制が重要になる
 
国土利用計画法の全国計画の策定手続
 
・全国計画案は国土交通大臣が作成し、閣議決定により全国計画が決定される(国土利用計画法5条2項)
・全国計画案作成の際の、国土審議会・都道府県知事の意見聴取の手続(国土利用計画法5条3項)
・全国計画案の作成の際の、国土交通大臣の環境大臣との共同(国土利用計画法5条7項)
・全国計画が閣議決定された際の公表(国土利用計画法5条6項)
 
※ 市町村計画策定の際の、公聴会の開催等の住民の意向を十分に反映させるために必要な措置(国土利用計画法8条3項)
 
4.2 計画間調整 
 
・計画と計画の相互の調整も重要となる
 

◎国土利用計画法の計画
 
 全国計画(5条) → 都道府県計画(7条) → 市町村計画(8条)
 ↓
土地利用基本計画(9条)
 
・「土地利用基本計画は、全国計画(都道府県計画が定められているときは、全国計画及び都道府県計画)を基本とするものとする。」 (国土利用計画法9条9項)

 
 
・都市計画法に従って定められる都市計画と、環境基本法17条に従って定められる公害防止計画のように、異なる計画の間での整合性が必要になる場合がある
 

判例A 最高裁平成11年11月25日第1小法廷判決(判例時報1698号66頁、行政判例百選56事件)
 
 A(東京都知事)は、新たに高速道路を建設するために環状6号線を拡幅する都市計画を定めていたが、事業化することとし、Y(建設大臣)から都市計画法59条2項の都市計画事業の認可を受けた。この認可処分に対してX(住民)が取消訴訟を提起した。
 都市計画法13条1項は、都市計画が公害防止計画を含む「国土計画又は地方計画に関する法律に基づく計画」に適合するように定められなければならないとしている。
 
 都市計画「法13条1項柱書き後段は、前記のとおり、都市計画が公害防止計画の妨げとならないようにすることを規定したものと解される。そして、公害防止計画...で執ることとされている施策を妨げるものであれば、都市計画は当該公害防止計画に適合しないことになるが、法13条1項柱書き後段が右施策と無関係に公害を増大させないことを都市計画の基準として定めていると解することはできない。そして、...、中央環状新宿線建設計画が本件公害防止計画の執ることとしている施策の妨げとなるものでないことは明らかであるから、右建設計画は、本件公害防止計画に適合するというべきであ」る。

 
4.3 環境影響評価と政策評価 
 
(1)環境影響評価と行政計画
 
・環境影響法は事業アセスメントを定めているが(環境影響評価法2条1項)、限界がある
 → 環境影響評価法の環境影響評価は事業評価である(ex. 個々の道路建設や埋め立て工事の環境影響評価)
・事業計画や政策決定の段階で環境影響評価を行う必要性
 → 戦略的環境アセスメント
・環境影響評価法2011年改正により、事業の計画段階で計画段階環境配慮書を作成する計画段階配慮書手続が導入された(環境影響評価法3条の2〜3、日本版戦略的環境アセスメント)
 
(2)政策評価法と行政計画
 
・政策評価法(行政機関が行う政策の評価に関する法律)の政策評価で、政策の必要性、効率性、有効性の検証がなされる
・一定規模以上(事業費10億円以上等)の公共事業への事前評価(政策評価法9条、政策評価法施行令3条)
・公共事業の途中見直しとしての「時のアセス」
 → 政策評価法では、公共事業のうち、政策決定後5年経過しても未着手、10年経過しても未了のものは、政策評価の対象とすることとしている(政策評価法7条、政策評価法施行令2条)
 
5 行政計画への行政救済(塩野p239~242)
 
・取消訴訟の訴訟要件の一つとして、訴訟の対象が「処分」であることがあるが、計画は処分ではないとして取消訴訟で争うことはできないとされる場合がある(都市計画法上の用途地域指定決定について、最高裁昭和57年4月22日第1小法廷判決(民集36巻4号705頁、行政判例百選153事件)
・あらゆる行政計画が取消訴訟の対象とならないわけではない。処分性が認められた事例もある。第2種市街地再開発事業計画は処分性を認められた。(最高裁平成4年11月26日第1小法廷判決、民集46巻8号2658頁)
 
・土地区画整理事業計画の事業計画決定については、処分性を否定した最高裁昭和41年2月23日大法廷判決(青写真判決、民集20巻2号271頁)が有名であったが、最高裁は判例変更し、処分性を認めた
 

判例B 最高裁平成20年9月10日大法廷判決(民集62巻8号2029頁、行政判例百選152事件)
 
Y(浜松市)の土地区画整理事業の事業計画決定の処分性が争われた事例
 
「土地区画整理事業の事業計画については,いったんその決定がされると,特段の事情のない限り,その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ,その後の手続として,施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることになる。前記の建築行為等の制限は,このような事業計画の決定に基づく具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐために法的強制力を伴って設けられているのであり,しかも,施行地区内の宅地所有者等は,換地処分の公告がある日まで,その制限を継続的に課され続けるのである。
 そうすると,施行地区内の宅地所有者等は,...その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり,事業計画の決定に伴う法的効果が一般的,抽象的なものにすぎないということはできない。」
(土地区画整理事業の事業計画決定の処分性が認められた)

 
※かつての行政手続法研究会報告(ジュリスト810号(1984)44頁)では、計画それ自体を訴訟の対象とすることが示されたが、立法化には至っていない
 
◎行政計画を信頼した者への保護
 
・行政計画の変更・中止は計画の生理現象であると言える
・計画の変更自体は認めるとしても、それによって生じるリスクを私人が負うままにしておいてよいかどうかが問題となる
 → ドイツでは「計画担保責任」として議論されている
 

判例C  最高裁昭和56年1月27日第三小法廷判決(民集35巻1号35頁、行政判例百選25事件)
 
 Y(宜野座村)が、X(企業)に協力してXの工場工事を推進し、Xも敷地工事を完了していたが、村長選で工場誘致反対派の村長が当選し、Yがそれ以降の建築確認に協力しなかったたためXは工場建設ができなくなった。そこで、XはYに損害賠償を求めた
 
 「地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたって継続すべき施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動に伴って変更されることがあるのはもとより当然である。」しかし地方公共団体の勧誘に基づいて「密接な交渉を持つに至った当事者間の関係を規律すべき信義公平の原則に照らし、その施策の変更にあたっては係る信頼に対して法的保護が与えられなくてはならない。」
(不法行為責任を生ぜしめる場合があるとして、原審に差し戻す判決を下した)