行政法T第21回「行政手続法(1)」大橋p115~127、217〜235の範囲
正木宏長
1 行政手続の意義(塩野p292〜p294)
 
・行政手続 → 「ある具体の行政決定に向けられた過程」
 ex. 行政立法手続、処分手続、行政指導手続、行政上の強制執行手続、行政計画手続
・我が国では行政手続に関する一般法として1993年に行政手続法が制定されている
・裁判による事後的救済には限界があるので、行政決定を行う事前の手続の整備が求められる
・裁量を行使させるにも、手続が公正・透明であることが必要
 → アカウンタビリティの原則
 
2 行政手続法(総論)(塩野p307〜313、337〜339)
 
(1)客観的対象
 
・対象は、行政処分、行政指導、届出、命令等(行政手続法1条2項)
・不利益処分のうちから「事実上の行為」は除外されてる(行政手続法2条4号)
 → 強制執行、即時強制、行政調査は行政手続法の適用除外ということになる
・行政上必要な情報収集を直接の目的としてなされる処分及び行政指導も適用除外とされる(行政手続法3条14号) →行政調査は適用除外であるということ
 

※行政手続法の適用除外(主なものについてのみ、行政手続法3条1項)
 
 議会の議決によってされる処分(1号)、裁判の執行としてなされる処分(2号)、刑事法によってなされる司法警察の処分・行政指導(5号)、税法・金融法によってなされる犯則事件に関する処分・行政指導(6号)、特別の規律で律せられる関係が認められる手続(学校、刑務所、公務員)の処分・行政指導(7〜9号)、行政上の不服申立に対する裁決・処分(15号)

 
※地方公共団体の行政活動に行政手続法は適用されるか?(行政手続法3条3項)
・処分、届出については、その根拠が条例または規則である場合、行政手続法は適用されない(根拠が法律であれば適用される)。
・地方公共団体の行政指導・命令等制定には適用されない。
 
(2)目的(行政手続法1条1項)
 
「この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。(略))の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。」
 
(3)性質
 
・行政手続法は行政手続に関する一般法
→ 個別の実定法のなかで、特別法として行政手続法の規定よりも慎重な手続を規定することがある
 ex. 行政手続法では弁明の機会の付与(29〜31条)で足りるところを、口頭の聴聞の機会を与えている風俗営業法4条1項
・行政手続法の適用除外されている分野でも事前手続が規定されていることがある(ex. 都市計画法16条の都市計画決定手続(公聴会))
 
 
3 申請に対する処分の手続(塩野p316〜324)
 
申請 → 「法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。」(2条3号)
ex.銃砲刀剣類所持等取締法4条の猟銃所持への都道府県公安委員会の許可
 
・申請手続の規定が適用されるには、申請者の側に申請権があることが必要
ex. 私を財務省の事務次官に任命せよというような、申請権のない私人の単なる申し出への応答に行政手続法は適用されない
 
審査基準の設定・公表(5条1項)
→ 行政庁は許認可の際の審査基準を設定しなければならない
→ 手続法上の審査基準は裁量基準のみならず、解釈基準も含まれる
→ 法律で具体的な審査基準がある場合は、同じ内容のものを内部的に定める必要はない
ex.銃砲刀剣類所持等取締法5条、5条の2は銃砲刀所持の許可基準を詳細に定めている
・審査基準は具体的なものでなければならない(5条2項)
・行政上特別の支障があるときを除き、行政庁は、審査基準を公にしておかなければならない(5条3項)
 
標準処理期間の設定の努力義務(6条)
「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければなら」ない(7条)
・申請書に不備があるなど、申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに補正を求めるか、申請の却下をしなければならない(7条)
 → 申請書が到達しても、審査をせずに、行政指導をし、従わない場合は不受理にするという実務が行政手続法制定以前にはあったが、そういった行政運営を排除する趣旨
 
・行政庁は、申請者の求めに応じて、当該申請に係る審査の進行状況、当該申請に対する処分の時期の見通し等の情報の提供をする努力義務を負う(9条1項、2項)
・公聴会の開催等により当該申請者以外の者の意見を聴く機会を設ける努力義務(10条)
・複数の行政庁が関与する処分でもことさらに審査を遅延させてはならない(11条)
 
申請拒否処分の理由提示(8条1項)
→ 「許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らか」なときへの例外規定があることには注意
・書面でする処分には書面で理由を提示しなければならない(8条2項)
 
※申請者の手続上の権利
→ 審査基準の設定、理由提示は、行政庁に義務づけられている(努力義務ではない)ので、これらに関する瑕疵は、拒否処分取消訴訟で主張できる。
→ 申請手続について、行政手続法は聴聞、文書閲覧規定をおいてない
 
4 不利益処分の手続(塩野p324〜333)
 
 不利益処分 :「行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分」(2条4号)
→ 相手方不特定な一般処分は含まない
ex. 道路交通法6条4項による火災時の道路通行禁止処分
→ ほかに2条4号イ〜ニが適用除外(ex. 相手方の同意に基づく不利益処分)
 

不利益処分の二つの類型
@弁明手続 → 簡易な弁明の機会の付与の手続
A聴聞手続 → 13条1項1号イ〜ニの事由に該当する場合はより慎重な聴聞手続が行われる
※ただし13条1項1号イ〜ハに該当する場合でも一定の場合については不利益処分手続の適用除外規定が設けられており(13条2項)、この場合、不利益処分手続対象外となる(聴聞手続も弁明手続も不要)

 
4.1 聴聞手続 
 
(1)適用対象(13条1項1号イ〜ニ)
 

@ 許認可を取り消す行政処分(ex. 行政庁の職権取消し・撤回)
A 名宛人の資格又は地位を直接に剥奪する不利益処分(ex. 国籍法16条2項の国籍喪失の宣告処分)
B 法人の役員の解任(ex. 預金保険法29条の預金保険機構の役員の解任処分)
C @〜Bの事由に該当しないときも行政庁が相当と認めるときは聴聞手続がとられる

 
(2)処分基準の設定
 
・行政庁は、不利益処分をするかどうか、又はどのような不利益処分とするかについて、その法令の定めに従って判断するために必要とされる基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない(12条1項)
 ex. 個人タクシー免許の取消しがなされるのはどういう場合か、内部基準を定める
 
(3)聴聞の具体的手続
 
・行政庁は不利益処分の名宛人に、予定される不利益処分の内容等を書面により通知し、聴聞を実施しなければならない(15条1項)
・聴聞は、行政庁が指名する職員その他政令で定める者が主宰する(主宰者とよぶ)。除斥規定もある(19条)
・主宰者は利害関係者を「参加人」として、聴聞手続に参加することを求め、又は、参加することを許可できる(17条)
 
・聴聞期日に、行政庁の職員が処分の内容、根拠法条、原因となる事実を説明する。当事者又は参加人は、意見を述べ、証拠書類を提出し、行政庁の職員に質問する。主宰者も当事者に質問を発し、行政庁の職員に説明を求めることができる(20条)
 → 聴聞手続は主宰者の職権主義である
 
・当事者又は参加人は、聴聞期日への出頭に代えて、主宰者に対し陳述書及び証拠書類を提出することができる(21条)。
・聴聞の期日における審理は、非公開が原則。ただし、行政庁が相当と認める場合には、公開して行うことができる(20条6項)
・主宰者は、聴聞の続行のため新たな期日を定めることが出来る(22条)。当事者不出頭で陳述書・証拠書類の提出もしないときは、聴聞の終結をすることができる(23条)。
・主宰者は、各期日毎に聴聞証書を作成する。聴聞の終結後、主宰者は報告書を作成する。報告書は行政庁に提出されるが、当事者、参加人は閲覧を求めることができる(24条)
 
・「行政庁は、不利益処分の決定をするときは、主宰者の調書の内容及び報告書に記載された主宰者の意見を十分に参酌してこれをしなければならない(26条)。
・当事者は、聴聞手続において主宰者がした処分に行政不服審査法の審査請求をすることができない(27条)
 
(4)聴聞の当事者の権利
 
@文書閲覧権(18条)
 → 行政庁は、第三者の利益を害するおそれがあるとき、その他正当な理由があるときでなければ、その閲覧を拒むことができない(18条1項)。
 → 行政庁は閲覧の日時・場所を指定することができる(18条3項)
A代理人選任権(16条)
 
(5)聴聞手続の特徴
 
・聴聞手続は、行政庁の職員と当事者が、事実について、証拠、反証拠を提出し、聴聞主宰者が事実関係について判定するというものなので、単なる意見の陳述ではない
・行政庁は通常の行政機関であって、職権行使の独立性を保障された行政機関ではなく、聴聞の主宰者は行政庁の指名する職員であるので、聴聞手続は準司法的手続ではない。
・聴聞の結果、免許取消し(聴聞必要)から免許停止(聴聞不要)にすることもできる
 
(6)不利益処分の際の理由提示
 
・「行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。」(14条1項)
 
 最高裁判所平成23年6月7日第3小法廷判決(判例時報2121号38頁行政判例百選120事件)は、行政手続法14条1項の理由提示で、「どの程度の理由を提示すべきかは,上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである。」として、公にされている処分基準の適用関係が示されなかった一級建築士免許取消処分を理由提示の要件を欠き、違法であるとした。
 
・理由提示は、処分が書面の時は、書面で行わなければならない(14条3項)
 
4.2 弁明手続 
 
(1)適用対象
 
弁明手続の適用対象 → 聴聞手続の対象とならない不利益処分
 ex. 免許の停止、施設の改善命令、
・13条2項各号の適用除外規定(ex. 5号 著しく軽微な処分で政令で定めるもの)
対物処分は一律に弁明手続の対象となる。 → 個別立法の手当の必要性
・個別立法の例 : 建築物除却命令の名宛人は意見書の提出に代えて、公開による意見の聴取を行うことを請求できる(建築基準法9条3項)
 
(2)特色
 
処分基準の設定・公表(12条)
不利益処分の理由提示(14条)
・公示送達の規定(15条3項)、代理人の規定(16条1項)は31条により弁明手続にも準用される
不利益処分の内容、根拠法条、処分理由、弁明書の提出先、提出期限が通知される(30条)
弁明手続は処分の名宛人の弁明書の提出が原則である。行政庁は口頭で弁明を行うことを許すことが出来る(29条)