行政法T 第22回 「行政手続法(2)、行政手続の基本理念」 大橋p140〜142、235〜239、285〜287 正木宏長
※法律の指定のない条文の引用は行政手続法から
1 行政手続法が定める諸手続 (塩野p339〜345)
1.1 行政指導の中止等の求め、処分等の求め 
 
・2014年に行政手続法が改正され、「行政指導の中止等の求め」、「処分等の求め」の手続が設けられた
 
行政指導の中止等の求め : 「法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)の相手方は、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、当該行政指導をした行政機関に対し、その旨を申し出て、当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができる。」(行政手続法36条の2第1項)
 → 行政指導の中止等の求めを受けた行政機関は必要な調査を行い、法律要件に適合しないと認めるときは、行政指導の中止等の措置をとらなければならない(行政手続法36条の2第3項)
 
処分等の求め : 「何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができる。」(行政手続法36条の3第1項)
 → 処分等の求めを受けた行政機関は必要な調査を行い、必要があると認めるときは、当該処分又は行政指導をしなければならない(行政手続法36条の3第3項)
 
1.2 届出の手続 
 
届出 → 「ある事実を行政庁に通知する私人の側の一方的行為」
 ex. 店舗型性風俗特殊営業(ソープランド等)の営業の届出(風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律27条)
 
届出が届出書の記載事項に不備がなく、法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、「当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。」(37条)
 
1.3 意見公募手続 
 
・平成17年行政手続法改正によって、意見公募手続が立法化された
・@法律に基づく命令又は規則、A審査基準、B処分基準、C行政指導指針が、命令等とされ(2条1項8号)、意見公募手続の対象となる
 → 法規命令だけではなく、一部の行政規則も対象
 → 公務員の勤務条件を定める命令、行政組織について定める命令、財産物品管理について定める命令、税・社会保険料等の算定率等について定める命令、金銭給付の算定方法等を定める命令(補助金要綱等)、審議会等の議を経る命令、等は適用除外。(3条2項5号、4条4項1号、4号、39条4項2号、3号、4号)
 
・命令は根拠となる法令の趣旨に適合するものでなければならない。命令等制定機関は、命令を定めた後も、社会情勢の変化に応じて、命令について検討を加えなければならない(38条)
・命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案及びこれに関連する資料をあらかじめ公示し、意見の提出先及び意見の提出のための期間を定めて広く一般の意見を求めなければならない(39条1項)。
 → 意見公募(パブリック・コメント)手続の実施のこと
 → 意見提出期間は30日以上でなければならない(39条3項、ただし40条の例外あり
 → 公益上、緊急に命令を定める必要がある場合、意見公募手続は行わなくてもよい(39条4項1号)
・命令等制定機関は、提出された意見を十分に考慮しなければならない(42条)
・意見公募の結果については、提出された意見や、提出された意見を考慮した結果を公示しなければならない(43条1項、ただし第三者の利益を害するなどの正当な理由があるときは、提出された意見を公示から除くことができる43条3項)
 
2 行政手続のオンライン化 
 
・「行政手続における情報通信の技術の利用に関する法律」(行政手続オンライン化法)により、行政機関は、申請書、処分通知等を書面により行うことが法令で規定されていても、主務省令の定めるところによって、オンラインで電子的方法により行うことができる・オンライン申請は行政機関のコンピュータに記録されたとき到達したとみなされる
 
3 適正手続(塩野p295〜303)
 
・行政手続について法律の定めがない場合も、憲法により一定の手続をふむことが要求される
 
・@告知と聴聞の機会の付与、A文書閲覧、B理由付記、C処分基準の設定・公表
 
3.1 告知と聴聞の機会の付与 
 
・行政庁が行政処分をする前に、処分の相手方に処分の内容と理由を知らせ、処分の相手方の言い分を聞く手続をふむことで、処分の適法性と妥当性を担保し、国民の権利利益を保護する
 
 第三者所有物没収事件(最高裁昭和37年11月28日大法廷判決、刑集16巻11号1593頁)では「第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防御の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは著しく不合理であって、憲法の容認しないところである」と判示された。
 
告知と聴聞の機会の付与の原則と憲法との関係
@憲法31条説(判例、多数説) : 憲法の定める適正手続の保障は刑事手続のみならず、行政手続にも適用される
A憲法13条説 : 国民の権利を尊重するという以上、国民の権利は実体上だけでなく、手続上も尊重すべき
B憲法13条、31条併用説
C手続的法治国説(塩野説) : 法治国の原理の手続法的理解の元に手続的保障が憲法上の要請となる
 

判例@(成田新法事件) 最高裁平成4年7月1日大法廷判決(民集46巻5号437頁、行政判例百選116事件)
 
 運輸大臣は「新東京国際空港の安全確保に関する法律(いわゆる成田新法)」3条1項にもとづき、X所有の通称「横堀要塞」を、暴力主義破壊活動者の集合・使用に供することを禁止する旨の処分を、昭和54年から60年まで毎年Xに下した。Xはこの処分の取り消しを求めた。
 
 「憲法31条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、その全てが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。」
 しかしながら、行政手続は刑事手続と性質において差異があり、また目的に応じて多種多様であるから「行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合衡量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではない。」
 成田新法3条1項が憲法31条の法意に反するものということはできない。

 
3.2 理由付記 
 
・行政処分をするに際して、その理由を処分書に付記して相手方に知らせることをいう
 → 行政の判断の慎重、恣意の抑制、相手方の不服申立の便宜(以上は、下記判例Aで示された)、相手方の説得、決定過程の公開
 → 行政手続の公正性の確保、透明性の向上
 
・青色申告に係る更正処分の理由について「どの程度の記載をなすべきかは処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべき」(最高裁昭和38年5月31日第2小法廷判決、民集17巻4号617頁、行政判例百選119事件)
 
※理由付記の程度について

判例A(旅券発給拒否事件) 最高裁昭和60年1月22日第3小法廷判決(民集39巻1号1頁、行政判例百選121事件)
 
 XはY(外務大臣)に一般旅券の発給を申請したところ、Yは「旅券法13条1項5号に該当する」との理由を付記して申請拒否処分を下した。Xはこの処分を争った
 
「理由付記制度の趣旨にかんがみれば、一般旅券発給拒否通知書に付記すべき理由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して一般旅券の発給が拒否されたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは、それによって当該規定の適用の基礎となった事実関係をも当然知りうるような場合を別として、旅券法の要求する理由付記として充分でないといわなければならない。」

 
 → 根拠法条を示すだけでは理由付記として不十分ということは、情報公開条例の下での開示請求に対する非開示決定が争われた、最高裁平成4年12月10日第1小法廷判決(判例時報1453号116頁)でも判示されている
 
3.3 処分基準の設定・公表 
 
・行政庁が処分をする際よるべき基準を設定し、これを事前に公表しておくこと
 ex. 公務員が殺人をした場合の懲戒は、「免職」と基準を定めておく
 

判例B(個人タクシー事件) 最高裁昭和46年10月28日第1小法廷判決(民集25巻7号1037頁、行政判例百選117事件)
 
 XはY(東京陸運局長)に個人タクシー免許申請をしたが、聴聞を経た後、申請は却下されてしまった。Xは申請却下処分の取消訴訟を提起した
 
 「本件におけるように、多数の者のうちから少数特定の者を、具体的個別的事実関係に基づき選択して免許の許否を決しようとする行政庁としては、事実の認定につき行政庁の独断を疑うことが客観的にもつともと認められるような不公正な手続をとつてはならないものと解せられる。すなわち、右(道路運送法)6条は抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正かつ合理的に適用すべく、とくに、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するようなものである等の場合には、右基準を適用するうえで必要とされる事項について、申請人に対し、その主張と証拠の提出の機会を与えなければならないというべきである。」本件手続は瑕疵あるものであり、却下処分は違法である。

 
4 手続の瑕疵と処分の効力(塩野p346〜350)
 
・行政行為(処分)が手続法違反の場合はどうなるのか?
 ex. 懲戒免職の時、法律で求められている処分事由説明書(国家公務員法89条)の交付をしなかった
 
・実体が正しいと、手続をやり直しても、また同じ処分が行われるので、行政経済に反するという考え方もあり得る
・しかし、行政手続法が制定されたこともあり、手続軽視の風潮を産まないためにも、聴聞や理由付記などが法律上求められているにもかかわらず、全くそれをしなかった、しないに等しかった場合は、原則として違法なものと解するべき
 
・問題は理由付記や聴聞は行われたが、内容に不備があったとき
 

※判例の立場(ただし、行政手続法制定以前のもの)
・理由付記の不備の場合 → 独立の取消し(違法)事由になる(判例A参照)
・聴聞手続の不備の場合 → 聴聞手続の瑕疵が結果に影響を及ぼす可能性がある場合のみ処分が違法になる
  聴聞手続の瑕疵による取消しが認められた事例 → 上記判例B
聴聞手続の瑕疵による取消しが認められなかった事例 → 下記判例C

 

判例C(群馬中央バス事件)最高裁昭和50年5月29日第1小法廷判決(民集29巻5号662頁、行政判例百選118事件)
 
 XはY(運輸大臣)に道路運送法に基づく一般乗合旅客自動車運送事業(つまりバス事業)の免許申請をした。Yは運輸審議会に諮問をおこなった。運輸審議会は公聴会を経た後Xの申請を却下すべきことをYに答申し、YはXの申請を却下した。Xは却下処分の取消しを求めて訴訟を提起した。
 
 「諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、その決定(答申)自体に法が右諮問機関に対する諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、これを経てなされた処分も違法として取消をまぬがれないこととなるものと解するのが相当である。」
 運輸審議会の公聴会の手続は不十分なものであるが、「仮に運輸審議会が、公聴会審理においてより具体的にXの申請計画の問題点を指摘し、この点に関する意見及び資料の提出を促したとしても、Xにおいて、運輸審議会の認定判断を左右するに足る意見及び資料を追加提出しうる可能性があつたとは認め難いのである。」してみると、結局において、運輸審議会の決定(答申)自体に瑕疵があるということはできない

 
次回は「行政上の義務履行確保、即時強制」大橋299〜333の範囲