行政法T 第25回 「情報公開(総論)」大橋p336~357
正木宏長
※指定のない条文の引用は情報公開法から
1 情報公開の理念(塩野p351〜354)
 
・「情報公開」 : 「国であれ地方公共団体であれ、その行政機関が管理している情報を、私人の請求により開示することおよび行政機関の側で積極的に情報を提供すること」
・行政手続にも行政過程の公開の要素はある
・行政手続と情報公開とはその理念、制度に異なったものがある
 
2 情報公開法の制度化の流れ(塩野p354〜356)
 
・1980年代から、地方公共団体で情報公開条例が制定され始めた
・1999年に国の「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(情報公開法)が制定された
・2001年、「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律」(独立行政法人等情報公開法)が制定された
・2011年、情報公開法の改正案が国会に提出されたが成立しなかった
 
3 情報公開法(塩野p356〜369)
3.1 目的 
 
「この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。 」(1条)
 
※「知る権利」は内容が抽象的なので目的規定に取り入れられなかった
 
3.2 対象機関
 
・情報公開法の対象は国の行政機関である(2条1項1号〜6号)
 → 国会、裁判所は対象機関に含まれていない
 → 地方公共団体は含まれない
 → 独立行政法人については独立行政法人等情報公開法が適用される
 
※文書が国の行政機関にある場合は、国会、裁判所、地方公共団体の作成した文書でも開示対象となる
  
3.3 対象文書
 
・情報公開の対象は行政文書
・「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう(2条2項)
 → 行政機関の、未決裁文書や組織共用文書(内部資料)も公開対象となる
 → 職員の個人段階のメモは対象外、組織的に用いられるメモが適用対象
 
・官報その他販売目的のものや、、特定歴史公文書等、歴史的文化的資料として特別の管理がされているものは適用除外(2条2項1号〜3号)
 
3.4 文書開示
 
(1)開示の主体
 
・何人も、行政機関の長に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる(3条)
・「何人も」とあるから開示を請求できるのは日本人に限られない
 → 外国に居住している外国人も、情報公開を求めることができる
 → 人だけではなく、法人や、法人ではない社団や財団で管理人の定めがあるものも開示請求が可能
 
 本人の個人情報について、行政機関保有個人情報保護法と情報公開法のどちらで開示を求めるべきか?実務は、行政機関保有個人情報保護法の手続によって開示を求めるべきだとの立場を取っている
 最高裁は、自己の個人情報であることを理由に情報公開条例で特別扱いを受けるわけではないが、個人情報保護制度が定められていない自治体においては、本人の権利利益を侵害しない限り情報公開条例によって本人開示を求めることが出来るとしている(最高裁平成13年12月18日第3小法廷判決、民集55巻7号1603頁、行政判例百選38事件)
 
(2)開示の手続
 
・開示請求は、次に掲げる事項を記載した書面を行政機関の長に提出してしなければならない(4条1項)
 @「開示請求をする者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっては代表者の氏名」(4条1項1号)
 A「行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」(4条1項2号)
 
・2号の「行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」については、請求を受けた行政機関の専門職員が合理的努力で特定しうる程度の記載があれば2号の記載として十分
 →逆に「独禁法関係資料」というだけでは一般的にいって、行政文書の特定として充分とはいえない
 
・「行政機関の長は、開示請求書に形式上の不備があると認めるときは、開示請求をした者に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。この場合において、行政機関の長は、開示請求者に対し、補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない。」(4条2項)
 
・開示請求をするものは政令で定める手数料を支払わなければならない。手数料は、できる限り利用しやすい額とするよう配慮しなければならない。行政機関の長は経済的困難その他特別の理由があるときは、手数料を減額・免除できる(16条)
 
(3)開示の決定
 
・行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に不開示情報が記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。 (5条)
→開示決定、不開示決定は行政処分である(取消訴訟の対象となる)
 

※不開示事由(5条各号、詳しくは26回の講義で)
@個人情報(1号)、A行政機関非識別加工情報等(1号の2)B法人に関する情報(2号)、 C国の安全等に関する情報(3号)、D公共の安全等に関する情報(4号)、E行政機関内部や相互の審議・検討情報(5号)、F事務・事業情報(6号)

 
→ 不開示事由が「〜おそれがある」の場合、行政機関に要件裁量はない。裁判所の完全な審査が及ぶ
※5条3号、4号の不開示事由については「行政機関の長が認めることにつき相当の理由」という表現で行政庁の裁量が条文上尊重されているので、行政裁量が認められる
 
・不開示決定について、あらかじめ行政機関の長は、審査基準を設定公表しておかなければならない。情報公開法の不開示処分は行政手続法5条の申請に対する処分だから
 
(4)開示の実施
 
・不開示部分と開示部分が混在している場合は部分開示となる
 
「行政機関の長は、開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において、不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない。 」(6条1項)
 
 最高裁平成19年4月17日第3小法廷判決(判例時報1971号109頁、行政判例百選37事件)は、愛知県公文書公開条例に基づく、食糧費支出に関する予算執行書等の一部不開示が争われた事案だが、最高裁は、「非公開情報に該当しない公務員の懇談会出席に関する情報とこれに該当する公務員以外の者の懇談会出席に関する情報とに共通する記載部分がある場合,それ自体非公開情報に該当すると認められる記載部分を除く記載部分は,公開すべき公務員の本件各懇談会出席に関する情報としてこれを公開すべき」と判決した
 
・「氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるとき」には、個人情報部分を除いた部分開示となる(6条2項)
 
・不開示情報であっても、行政機関の長は裁量開示することが出来る(7条)
 
・「開示請求に対し、当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、行政機関の長は、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる。」(8条)
 ex. 国立がんセンターのカルテなどは、存在しているかどうかが分かるだけでも、個人情報が害される(5条1号)。ほかにも、外国からの文書の存在自体を明らかにしないという条件で得た国の安全に関する情報であるなど(5条3号)
 
・「開示請求に係る行政文書に国、独立行政法人等、地方公共団体、地方独立行政法人及び開示請求者以外の者(第三者)に関する情報が記録されているときは、行政機関の長は、開示決定等をするに当たって、当該情報に係る第三者に対し、開示請求に係る行政文書の表示その他政令で定める事項を通知して、意見書を提出する機会を与えることができる。 」(13条1項、裁量的な意見聴取の規定)
 
 ただし、個人情報のうち「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」(5条1号ロ)を公開する場合と、7条により不開示情報を行政機関の長が裁量的に開示する場合は意見書提出の機会を与えなければならない(義務的)(13条2項)
 
・意見書の提出があった場合、開示決定から開示実施まで少なくとも2週間をおかなければならない(13条3項)
・開示・不開示の通知は書面で行う(9条1、2項)。不開示には理由を提示しなければならない(行政手続法8条1項)
 
・開示決定は開示請求から30日以内にしなければならない(10条1項)。「事務処理上の困難その他正当な理由」があるときは、30日以内に限り延長することができる」(10条2項)
 → 開示請求に係る行政文書が著しく大量である場合の例外規定がある(11条)
 
・行政機関の長は、開示請求に係る行政文書が他の行政機関により作成されたものであるときその他の行政機関の長において開示決定等をすることにつき正当な理由があるときは、当該他の行政機関の長と協議の上、当該他の行政機関の長に対し、事案を移送することができる(12条)
 
4 開示・不開示決定への救済制度(塩野p369〜373)
4,1 審査請求等
 
・私人にとって不本意な開示・不開示決定等があったとき、行政庁に審査請求をして、処分の取消しを求めることができる(行政不服審査法)
・情報公開法は行政不服審査法の審査請求について特別の定めをしている
・審理員に関する規定は適用除外されている(18条)
・審査請求があったとき、裁決又は決定をすべき行政機関の長は、審査請求が不適法であり却下するとき、又は審査請求に係る開示決定を取消し若しくは変更し全部開示するときを除いては、情報公開・個人情報保護審査会に諮問をしなければならない(19条)
 → 情報公開・個人情報保護審査会は総務省に置かれる。その答申に法的拘束力はないが、答申の内容は公表される(情報公開・個人情報保護審査会設置法2条、16条)
 
※会計検査院長の開示・不開示決定については会計検査院情報公開・個人情報保護審査会に諮問される(会計検査院法19条の2第1項)
 
※審査請求人が審査庁・処分庁に意見陳述(行政不服審査法25条)を求めた場合は、これを認めなければならない
 
・情報公開・個人情報保護審査会は不開示となった文書について、諮問庁に開示請求対象の文書の提示を求めることが出来る。この請求があった場合、諮問庁はこれを拒否することは出来ない(情報公開・個人情報保護審査会設置法9条)
 → 非公開のうえで、不開示文書を実際に審理するインカメラ審査である
 
・審査会は審査請求人から申立があったとき、必要がないと認める場合を除いては、審査請求人に口頭で意見を与える機会を与えなければならない(情報公開・個人情報保護審査会設置法10条)、審査請求人は意見書又は資料を提出することも出来る(情報公開・個人情報保護審査会設置法11条)
 
4.2 行政訴訟
 
・開示・不開示決定に対して取消訴訟をすることができる
・不服申立前置主義は採用されていない
・裁判所はインカメラ審理を行わず、法廷における陳述や証拠に基づいて文書の内容を推認する方法を行っている
 
 最高裁平成21年1月15日第1小法廷決定(民集63巻1号46頁、行政判例百選39事件)は、「訴訟で用いられる証拠は当事者の吟味,弾劾の機会を経たものに限られるということは,民事訴訟の基本原則であるところ」、「情報公開訴訟において証拠調べとしてのインカメラ審理を行うことは,民事訴訟の基本原則に反するから,明文の規定がない限り,許されないものといわざるを得ない。」とした