行政法T第26回「情報公開(各論)、公文書管理」大橋339〜340、343〜349、361〜364 正木宏長
1 情報公開法の不開示事由(塩野p363〜365)
 
(1)個人情報(5条1号)
 
 ex. 就学児童名簿、基礎年金番号・年金コード(答申)
 
・死者についても生者と同じく個人情報は保護される
 
※「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別できるもの」
 → モザイク・アプローチ 
 ex. 分譲マンションの平面図は、それ自体では個人は特定されなくても、表札や郵便受けの情報と照合することで、所有者を特定することが可能であり、私生活の本拠の情報が明らかになる(東京高裁平成3年5月31日判決、高民集44巻3号81頁)
 
※特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの
 → カルテ・反省文のように、氏名が除かれていても個人の人格と密接に関連する情報
 
 最高裁平成6年1月27日第1小法廷判決(民集48巻1号53頁、行政判例百選34事件)は、知事交際費について「知事の交際の相手方となった私人としては、懇談の場合であると、慶弔等の場合であるとを問わず、その具体的な費用、金額等までは一般に他人に知られたくないと望むものであり、そのことは正当であると認められる。そうすると、このような交際に関する情報は、その交際の性質、内容等からして交際内容等が一般に公表、披露されることがもともと予定されているものを除いては」、条例の定める非開示事由に該当するというべきであるとして、経費支出伺書、支出命令書、債権者の請求書、領収書等を不開示とした
 
 最高裁平成15年11月11日第3小法廷判決(民集57巻10号1387頁、行政判例百選35事件)によると、食料費関係文書について、個人にかかわりのある情報であれば原則として「個人に関する情報」に当たるとして、法人の従業員が職務として行った行為に関する情報も「個人に関する情報」であるとした。だが、法人等を代表する者が職務として行う行為は、「個人に関する情報」としての非公開情報に当たらないとしている。また、公務員の職務の遂行に関する情報は、公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き、「個人に関する情報」としての非公開情報に当たるとはいえないとしている
 
個人情報の例外的開示事由
 
@公領域情報(5条1号但書 イ)
 
・法令の規定により公にされている情報
 ex. 商業登記簿に登記されている法人の役員に関する情報
・慣行により公にされている情報
 ex. 叙勲者名簿、中央省庁の職員録
 
A公益上の義務開示(5条1号但書 ロ)
 ex. 医薬品副作用症例・感染症症例の票に記載されている「年齢」「主な既往歴、患者の体質等」などは個人情報にあたるが開示される。「患者の略名」は非開示(答申)
 
B公務員情報(5条1号但書 ハ) :  当該個人が公務員である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分
 
・課長級については、5条1号イの慣習的な公開から、「職」にくわえて「名」も公開され、それより低い職の公務員については「職」のみを公開するという発想に立っている
 
 実際には出席していない会合について、公務員が氏名を冒用された事案で、氏名を不正に冒用されたという事実そのものは、冒用された者にとって公表を望まない情報であると一般的に推認出来るとして、個人情報該当性を否定できないとされた裁判例がある(東京地裁平成9年9月25日判決、判例時報1630号44頁)
 
(2)行政機関非識別加工情報等(5条1号の2)
 
 行政機関個人情報法2条9項に規定する行政機関非識別加工情報(行政機関個人情報法2条10項に規定する行政機関非識別加工情報ファイルを構成するものに限る)と、行政機関非識別加工情報の作成に用いた保有個人情報から削除した記述等及び個人識別符号とは、不開示情報とされている
 → 2016年改正による追加。ビッグデータの取扱いに関わる。独立行政法人等非識別加工情報も同様に不開示情報とされている
 
(3)法人情報(5条2号)
 
→営利法人から学校法人、宗教法人、非営利法人まで含まれる(独立行政法人は含まない)
 
@権利、競争上の地位、正当な利益に関する情報 (5条2号 イ)
・企業秘密や、著作権、製品製造上のノウハウなど
 ex. 顧客名簿(答申)、法人代表者の印影(答申)、口座番号
・宗教法人の信教の自由や、学校法人の学問の自由のような非財産的権利を含む
 
A非公開約束情報(5条2号 ロ)
・「行政機関の要請を受けて」とあるので、法人が任意に行政機関に持ち込んだ情報は保護されない
・非公開の約束のもと行政機関に任意に提示された情報を行政機関が公開することで、契約違反、信義則により行政が損害賠償責任を負うこともあり得る
 → 非公開約束が公序良俗に反して無効と言えるような場合、約束を破って情報公開することも許される。この場合、行政は賠償責任を負わない
 
※ @権利、競争上の地位、正当な利益に関する情報にせよ、A非公開約束情報にせよ「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。」(5条2号但書)
ex. C型肝炎を発生させる特定製剤を投与した医療機関の名称の開示は許される(答申)
 
(4)国の安全に関する情報(5条3号)
 
 ex. 通貨の安定のために為替相場に介入するが、国家間の相互合意については非公開にすると約束している場合など。日豪外相会談記録(答申)
 
・「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」は不開示ということなので、条文上、行政機関の長の裁量が認められる
 
(5)公共の安全に関する情報(5条4号)
 
・いわゆる司法警察(刑法上の罪の取り締まり)を念頭に置いたものであり、行政警察(建築規制や食品安全規制)は6号の問題となる
・3号の場合と同じく、「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」は不開示ということなので、条文上、行政機関の長の裁量が認められる
 
(6)審議、検討、または協議に関する情報(5条5号)
 
 ex. 審議会の審議過程でのやりとりなど
 
 最高裁平成6年3月25日第2小法廷判決(判例時報1512号22頁、行政判例百選36事件)は、鴨川改修協議会に提出されたダムサイト候補地点選定位置図は、京都府情報公開条例5条6号(意思形成過程の非開示規定)が定める不開示事由に該当するとした原審の判断を支持した
 
(7)事務又は事業に関する情報(行政執行情報)(5条6号)
 
@監査、検査、取締りに関する情報 : 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ (5条6号 イ)
 ex. 抜き打ち検査の日時など
 
A争訟に関する情報 :  契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、又は地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ(5条6号 ロ)
 
 ex. 全国の未登記土地に関する国と所有名義人との間における民事上の紛争の処理の仕方、手法についての供述や、国の民事訴訟解決の手の内も示されている防衛施設局施設管理課職員からの事情聴取書(最高裁平成11年11月19日第1小法廷判決、民集53巻8号1862頁、行政判例百選189事件(ただし処分理由の差替えの観点から掲載))
 
B調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ (5条6号 ハ)
 → 国土交通政策研究所など施設等機関としての研究所を念頭に置いた規定
 ex. 動物実験に係るニホンザル戸籍簿の識別用個別写真(答申)
 
C人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ (5条6号 ニ)
 ex. 懲戒処分についての担当者の検討内容、処理方針(答申)
 
D独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ (5条6号 ホ)
 ex. 地方公共団体が経営する企業、独立行政法人等又は地方独立行政法人がほかの企業と競争関係に立つ場合で、公開により競争上の正当な利益を害するおそれがあるとき
 
2 情報提供(塩野p373〜374)
 
・情報公開法は、私人から請求があった場合の情報公開の制度の他に、22条で行政文書の特定に資する情報の提供や総合的な案内所の設置、24条で情報の提供に関する施策の充実を規定している
・政府は従来から、テレビ・ラジオの定時番組やスポット、新聞・ 雑誌の広告、出版物などの各種広報活動を行っている
 
※ 政府の「行政情報の電子的提供に関する基本的考え方」
 → 重要な政府情報をインターネット等を活用して提供していくこととしている
 
3 独立行政法人等情報公開法(塩野p374)
 
・正式名称は「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律」
 → 国立大学法人にも適用される
・内容は情報公開法に準じたものである
・情報公開だけではなく、情報提供も目的の一つとしている(独立行政法人等情報公開法1条)
・独立行政法人等情報公開法の情報提供の規定(独立行政法人等情報公開法22条)
→ 当該独立行政法人等の組織、業務及び財務に関する基礎的な情報や評価・監査に関する情報の提供をするものとされている
 
4 文書管理(塩野p374〜377)
 
・文書の管理が適正に行われれば、個人情報保護も情報公開も容易になる
・国立公文書館について「国立公文書館法」が制定されている
・2009年に公文書管理の一般法として公文書管理法(正式名称:公文書等の管理に関する法律)が制定された
 

公文書管理法の規律対象となる「公文書等」(公文書管理法2条8項)
・行政文書 : 情報公開法でいう行政文書(国の行政機関の文書)
・法人文書 : 独立行政法人等情報公開法でいう法人文書(独立行政法人の文書)
・特定歴史公文書等 : 歴史資料として重要なもの(歴史公文書等)のうち、国立公文書館等に移管・寄贈・委託されたもの

 
・国民主権の理念にのっとり、説明責任が全うされることが目的(公文書管理法1条)
・行政機関の職員は、法令の制定の経緯など4条各号で列挙された事項について、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、文書を作成しなければならない(公文書管理法4条)
・行政機関の長は、行政文書について分類し、名称を付するとともに、保存期間及び保存期間の満了する日を設定しなければならない。そのうえで行政機関の長は行政文書を「行政文書ファイル」にまとめなければならない(公文書管理法5条)
・行政機関の長は、行政文書ファイル等(行政文書ファイルと個別管理文書)を保存期間満了日まで、適切な記録媒体により、保存しなければならない(公文書管理法6条)
・行政機関の長は行政文書ファイル等の分類・名称・保存期間などを行政文書ファイル管理簿に記載し、一般の閲覧に供するとともに情報通信技術を使用して公表しなければならない(公文書管理法7条)
 
・行政機関の長は、保存期間が満了した行政文書ファイル等について、国立公文書館等に移管し、又は廃棄しなければならない。行政文書のファイル等の廃棄をしようとするときは事前に内閣総理大臣に協議し、同意を得なければならない(公文書管理法8条)
・行政機関の長は、行政文書管理規則を設け、公表しなければならない(公文書管理法10条)
 
・法人文書については、行政文書と同様の規律がなされる(公文書管理法11条)
 
・国立公文書館等の長は、特定歴史公文書等について、公文書管理法25条の規定により廃棄されるに至る場合(歴史的資料として重要でなくなったと認める場合)を除き、永久に保存しなければならない(公文書管理法15条1項)。
・国立公文書館等で保存される特定歴史公文書等については、情報公開法の適用がなく(情報公開法2条2項2号)、公文書管理法で、利用請求権と非開示事由についての規定が置かれている(公文書管理法16条)
 
次回は「行政調査」「行政機関個人情報保護」、大橋p364〜379