行政法T 第28回 「行政機関個人情報保護」 大橋p364〜368の範囲
正木宏長
 ※ 法律の指定のない条文の引用は「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」から
1 個人情報保護の意義と展開(塩野p377〜380)
 
・行政機関個人情報保護 → 「国・地方公共団体の機関が保有している個人情報につき行政機関における取り扱いを定めて、個人の権利・利益を保護すること」
・個人情報保護についての地方公共団体の条例制定の先行
・1988年 「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報保護に関する法律」
・2003年 個人情報保護関係5法の成立
@「個人情報の保護に関する法律」 A「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」 B「独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律」 C「情報公開・個人情報保護審査会設置法」 D「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」
・ビッグデータの取り扱いに関して、2016年に法改正がされた
 
2  行政機関個人情報保護法(塩野p380〜387)
2.1 目的 
 
「この法律は、行政機関において個人情報の利用が拡大していることに鑑み、行政機関における個人情報の取扱いに関する基本的事項及び行政機関非識別加工情報(行政機関非識別加工情報ファイルを構成するものに限る。)の提供に関する事項を定めることにより、行政の適正かつ円滑な運営を図り、並びに個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。」(1条)
 → 個人の権利利益の保護が目的
 → 2016年改正により、オープンデータの理念に基づいて、行政機関非識別加工情報の活用が、主要な目的の一つとして位置付けられた
 
2.2 対象 
 
(1)個人情報
 
・当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)(2条2項1号)
・個人識別符号が含まれるもの(2条2項2号)
 →個人識別符号については2条3項 ex. 顔認識データ(1号)、個人番号(2号)
 
(2)保有個人情報(2条5項)
 
・「保有個人情報」には、電子処理ファイル、マニュアル処理ファイル、散在情報が含まれる
・「行政文書(情報公開法2条2項)」に限定されているので官報・白書に記載されている情報、特定歴史公文書等、研究所等で特別の管理がされる情報は含まない(情報公開法2条2項1号〜3号)
 

・個人情報ファイル(2条6項) → 電子処理ファイル(2条6項1号)
    → マニュアル処理ファイル(2条6項2号)
・散在情報 → 体系化(ファイル化)されていない保有個人情報

 
・行政機関の長は、当該行政機関が保有している個人情報ファイル簿を作成して公表しなくてはならない(11条)
 → 10条2項の適用除外規定が適用される(11条2項1号)
 
(3)電子処理の個人情報ファイル保有の総務大臣への事前通知
 
・行政機関が電子処理ファイルを保有しようとするとき、当該行政機関の長は総務大臣に通知をしなくてはならない。(10条1項)
 → 通知についての適用除外規定がある(10条2項)
・マニュアル処理ファイルの保有については総務大臣への事前通知は必要とされない(10条2項11号)
・個人情報ファイルの保有をやめたときは遅滞なく総務大臣に通知しなければならない(10条3項)
 
2.3  個人情報の収集・保有への制限 
 
(1)利用目的の特定と目的の範囲内での利用(3条)
 

1項 行政機関は、個人情報を保有するに当たっては、法令の定める所掌事務を遂行するため必要な場合に限り、かつ、その利用の目的をできる限り特定しなければならない。
2項  行政機関は、前項の規定により特定された利用の目的(以下「利用目的」という。)の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を保有してはならない。
3項  行政機関は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。 (3条)

 
・2項  ex. 防衛庁ファイル問題:情報公開の請求者について「反戦自衛官」や「受験者の母」というような、不必要な記載を加えていたことで、社会問題となった
 
(2)利用目的の明示(4条)
 
・個人情報の取得には、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。」 (4条) → 電磁的記録も含む
・「人の生命、身体又は財産の保護のために緊急に必要があるとき」(1号)のような場合は利用目的を明示しなくてもよいという、適用除外規定がある
 ex. 犯罪の嫌疑のある者から捜査目的で個人情報を取得する場合には、利用目的を明示しなくてもよい(2号)
 
2.4 個人情報の管理 
 
(1)正確性・安全性の確保
 
・行政機関の長は、利用目的の達成に必要な範囲内で、保有個人情報が過去又は現在の事実と合致するよう努めなければならない(5条)
 → 行政機関非識別加工情報ファイルを構成する行政機関非識別加工情報および削除情報は、保有個人情報から除かれている
・「行政機関の長は、保有個人情報の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の保有個人情報の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない。」(6条1項)
・「個人情報の取扱いに従事する行政機関の職員若しくは職員であった者又は前条第2項の受託業務に従事している者若しくは従事していた者は、その業務に関して知り得た個人情報の内容をみだりに他人に知らせ、又は不当な目的に利用してはならない。」(7条)
 
 市町村長は、犯罪人名簿に記載されている前科及び犯罪経歴をみだりに漏えいしてはならない(最高裁昭和56年4月14日第3小法廷判決、民集35巻3号620頁、行政判例百選42事件)
 
(2)目的外利用・提供の禁止
 
・「行政機関の長は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない。 」(8条1項)
 

個人情報の目的外利用・提供の禁止の例外(8条2項)
 
・「本人の同意があるとき、又は本人に提供するとき」(1号)。
・「行政機関が法令の定める所掌事務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用する場合であって、当該保有個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき。」(2号)
 ex. 海外で犯罪に巻き込まれた邦人のために外務省旅券課が有する資料を、邦人保護課が利用する
・他の行政機関に提供する場合(3号)
 ex. 郵便局で恩給受給者が恩給を受けるために、総務省恩給局が保有する個人情報を郵政公社に提供する(法律制定時の国会での政府答弁)
・「統計の作成又は学術研究の目的のために保有個人情報を提供する場合(4号)
 → ex. 叙勲の資料にするために、総務省に他省庁が資料を送付する
 
・目的外利用の例外は、「本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない」とされている(8条2項後段)

 
(3)本人の開示・訂正・利用停止請求
 
開示請求(12条1項)
訂正請求(27条1項)
→ 「訂正請求は、保有個人情報の開示を受けた日から90日以内にしなければならない。」 (27条3項)
 
 保険医療機関が診療報酬請求のために、京都府国民健康保険団体連合会を通じて京都市に提出したレセプト(診療報酬請求書に添付される明細書)に記載された内容が実際のものと異なることを理由として、京都市がレセプトを訂正することは、京都市個人情報保護条例の定める訂正請求の制度において予定されておらず、市長が訂正しない旨の処分をしたことは違法ではない(最高裁平成18年3月10日第2小法廷判決、判例時報1932号71頁、行政判例百選40事件)
 
利用停止請求(36条1項)
 →「利用停止請求は、保有個人情報の開示を受けた日から90日以内にしなければならない。」(36条3項)
 
・「何人も」なので外国人も請求可能
・「自己を本人とする」に限られる。
・開示に関する手続は情報公開法の場合とほぼ同じ(12条〜26条)
・行政機関の長は訂正請求に理由があると認める時は訂正をしなければならない(29条)
・行政機関の長は利用停止請求に理由がある時と認めるときは利用停止しなければならない(38条)
 
※38条但書の利用停止の例外
→「当該事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれ」
ex. 違法収集された情報であるが、再取得が事実上不可能であり、利用停止すると犯罪捜査上重大な公益目的遂行への支障を及ぼす場合
 
・ 開示・訂正・利用停止請求はいずれも必要事項を記載した書面で行う(13条、28条、37条)
・ 開示・訂正・利用停止請求に対する不開示、不訂正、利用停止はいずれも行政手続法の「申請に対する処分」である。ゆえに行政庁は審査基準の設定(行政手続法5条)と理由提示(行政手続法8条)をしなくてはならない
・ 開示・訂正・利用停止の審査請求について、行政不服審査法の審理員による審理手続は適用されない。行政機関の長は情報公開・個人情報保護審査会に諮問を行わなければならない(42条)
 
※偽りその他不正の手段で個人情報の開示を受けた者には10万円以下の過料が課せられる(57条)
 
(4)行政機関非識別加工情報の作成・提供(いわゆるビッグデータの活用)
 
・行政機関の長は、行政機関非識別加工情報ファイルを構成する行政機関非識別加工情報を作成し、及び提供することができるとされている(44条の2第1項)
 → 行政機関の長は、利用目的以外の目的のための保有個人情報に該当する行政機関非識別加工情報及び削除情報の利用又は提供をしてはならない(44条の2第2項)
 
・「行政機関の長は、行政機関非識別加工情報を作成するときは、特定の個人を識別することができないように及びその作成に用いる保有個人情報を復元することができないようにするために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に従い、当該保有個人情報を加工しなければならない。」(44条の10第1項)
 
※行政機関非識別加工情報を利用する事業について、事業者からの提案・契約に関する規定がある(44条の4〜44条の9)
 
(5)行政機関の職員の個人情報の不正利用への処罰
 
・行政機関の職員(若しくは職員であった者又は受託業務従事者)が正当な理由無しに、個人の秘密に属する事項が記録された電子処理ファイルの提供した場合は2年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる(53条)
  ex. 前科情報が多数掲載された電子処理ファイルを、業者に横流しする
・行政機関の職員(若しくは職員であった者又は受託業務従事者)が業務に関して知り得た個人情報を自己もしくは第三者の不正な利益を図る目的で提供・盗用した場合、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる(54条)
  ex. 住所録をダイレクトメール業者に売却する
・「行政機関の職員がその職権を濫用して、専らその職務の用以外の用に供する目的で個人の秘密に属する事項が記録された文書、図画又は電磁的記録を収集したときは、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する(55条)
  ex. 公務員が好奇心で芸能人の所得に関する情報を収集する
 
3 番号法(塩野p387〜390) 
 
・2013年に番号法(正式名称:「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)が制定された
・番号法により、住民票に記載された者(外国人も含む)には、「個人番号」が指定される(番号法7条)
・番号法は、個人番号を含む個人情報を「特定個人情報」とし(2条8項)、提供について厳しい制限を設けている(番号法19条)
 
次回は「規制、給付、調達、誘導の法的仕組み」宇賀概説Tp86〜142大橋p175〜178、291~297